「本と人との暮らし研究所」
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vol:1 本棚は「本籍」
前回は第0回ということで「なぜ、読書生活か」ということについて主に書かせていただきました。連載1回目の今回は、まずは本棚です。本棚は、ぼくたちがこれから考えていく「読書生活」というテーマの中心となる道具であると同時に、本たちにとっては「本籍」でもあります。
本屋で働いている、あるいは働いた経験のある方であれば、「本には本籍と現住所がある」という考え方をご存知の方も多いでしょう。たとえば新潮文庫の本は、通常は文庫棚にあります。これがこの本の「本籍」です。しかし、仮にその文庫が現代の若者の生態についてよくわかる物語であるならば、「現代の若者」をテーマにしたフェアを行うときにはぜひ置きたいですし、ひょっとしたら「現代社会」などのコーナーにも棚差ししたほうがいいかもしれません。このとき、この本の「現住所」はそのフェア台や、棚になります。出たばかりの話題の新刊など、特に力を入れて売りたいためにいろんなコーナーに置かれる本は、複数の「現住所」をもつこともあります。一般的にはこのことで在庫管理が複雑になりますが、かといってそうしたフェアや横断的な棚作りをしないと魅力的な売り場にはならないので、多くの本屋さんが日々試行錯誤しながら取り組んでいます。
自分の部屋の中で本屋さんのようなフェアを行う人はあまりいないでしょうが(いたらぜひ取材したいです)、自分の持っている本が「本籍」たる本棚から離れるということは、「本のある生活」の中ではよくあることです。読むために机やソファに持ち出すのはもちろん、机の上に読みかけのものがしばらく置かれていたり、トイレやお風呂で読むために持ち出してそのままだったりする場合もあるでしょう。かばんの中にあったり、人に貸していたり、どこかに置き忘れたまま見つからなくなっていたり。あるいはスキャンして電子化するために、裁断機の横に積んである本がある人もいるかもしれません。「本のある生活」においては、自分が本を持ち出すそうしたすべての場所が「現住所」になり得ます。
その視点でいうと、ブックエンドやブックスタンドは、ふつう「本籍」たる本棚で使うための道具です。一方、ブックカバーやしおりに始まり、お風呂で本を読むための台のようなものまで、本の「現住所」で使うための道具もたくさんあります。
さて、私事で恐縮ですが最近、ぼくは自宅を引越しました。恥ずかしながら引っ越す前のぼくは、こんな仕事をしておきながら到底、自分の望むような「本のある生活」は送れていませんでした。IKEAで買った大きな本棚2本に2重にも3重にも本が詰まっていて、部屋の至る所に本が堆く積まれ、オフィスにも押入れにも本があり、どの本がどこにあるかさっぱりわからない。まずは自分で自分の理想に近い「本のある生活」を送らなければ、ブランドをプロデュースしたりすることができるわけがないと思い、思い切って引越し先の部屋にあわせて、友人である建築家の田中裕之さんに依頼し、本棚をフルオーダーしました。もともとベッドと本しかないような部屋に住んでいるので、本棚のある空間と寝床とを完全に分け、いわば自宅(寝床)兼スタジオ(本棚)というような位置づけで、取材や商品の撮影に使ったりできるようにと考えたのです。
デザイン的なこだわりとしてはまず、本が載る横の板に対して、構造を支える縦の板が短く、奥まって取り付けられています。この構造によって、縦の板に寄りかからせるように本を面陳(表紙を見せる)することができます。また、その縦の板を木ではなく薄い鉄板にすることで、構造的な強度は確保しつつも、縦の板を意識することなく本が横にずらっと並んでいる感じを演出。段のサイズは文庫から単行本までを違和感なく一列で並べるために考え抜いたぴったりのサイズと、雑誌から大判の写真集までほぼ大抵のものを入れられるゆったりしたサイズの2種類に固定しました。一方、横の板には古材(以前どこかで使われていた木材を再利用したもの)を使用。ぼくも今回はじめて知ったのですが、古材にも専門店や専門卸があり、「主に防風フェンスとして使われていたもの」「主に納屋の外壁財として使われていたもの」など分類されてカタログになって販売されています。市販の本棚には現状、安くて機能性(「コミック何冊収納」といったような)の高いものと、高くてデザイン性の高いものが多く、いい素材を使っていてシンプルなデザインながら風合いがあり、かつ機能的に考え抜かれたものというのがあまりないと感じていました。今回の本棚はそうしたものをつくり、いずれ製品化する際のプロトタイプになればとも考えていたので、「一点モノ」である古材がある程度安定供給されているということは大きなポイントでした(BIBLIOPHILIC&bookunion SHINJUKUの本棚も、ほぼこれと同じものです。近々この本棚のオーダーメイドの受付も、店頭ではじめる予定です)。
その本棚に、仕事で売り場やライブラリをつくるときのように、分類や文脈作りをきちんとやって並べてみました。他人の棚ではさんざんやってきたのに、自分の棚では今まで、まるでやってこなかったのです。自分がなぜその本に興味を持ったかを考えながら並べていくと、自分でも気がつかなかったテーマをあらためて発見できます。ぼくであれば「パリとかの異邦人もの」とか「遺伝子と身体とパフォーマンス」とかでひとコーナーできてしまったことが自分でも意外で、あらためて「気になる本はそのときに買うべき」と再確認しました。読みきれなくても買って棚に並べておけば、自然と自分のテーマがみつかってくるからです。自分の本棚は、自分の脳内。ぜひテーマ整理をやってみてください、とお勧めしつつ、今回は最後に「本棚本」を3冊紹介して終わりにしたいと思います。
【「本棚本」3冊】
ヘンリー・ペトロスキー『本棚の歴史』(白水社)
著者のヘンリー・ペトロスキーは『鉛筆と人間』や『フォークの歯はなぜ四本になったか』などの著作で有名な工学者。本棚の歴史はいわば読書生活の歴史といってもよく、これからのヒント満載です。
今泉正光『出版人に聞く1 「今泉棚」とリブロの時代』(論創社)
こちらは本屋の本棚。「ニューアカ」をつくったといっても過言ではない、池袋リブロの「今泉棚」の秘密をご本人が語っています。書店員必読。
クラフト・エヴィング商曾『おかしな本棚』(朝日新聞出版)
素敵な本がたくさん紹介されているのと同時に、自分の本を「○○な本棚」と分類して並べる参考にもなるかと思います。



