デビュー作以来、一貫してアルゼンチンを中心とする南米各地のフォルクローレを独自の路線で再構築してきた鬼才作曲家/ピアニスト、ノラ・サルモリア。自身名義での作品と共に近年彼女が力を入れているのが、この「ORQUESTA DE MUSICA SUDAMERICANA (南米音楽楽団)」でのプロジェクトである。
サンポーニャのアンサンブルで幕を開けノラのスキャットと豪勢なオーケストレーションがサウンドトラックのごとき映像的な空間を作り上げる冒頭曲に始まり、穏やかさの中に潜む彼女のフリーキーな面を垣間見える"Enamorada del muro"。ノラの盟友ともいえるマルコス・カベサス作曲編曲の"Los chanchos correrán por las praderas"はワルツをベースにしたどこか陽気なトラック。マリアノ・カンテーロやマリオ・グッソにも通ずる空間的なパーカッション・ワークが印象的であるが、やはり壮大な世界を描く活き活きとしたオーケストレーションが素晴らしい。
コンテンポラリー・フォルクローレ・シーンきっての歌手にまで成長したマルセラ・パサドーレが作曲した"Trepar por las paredes"では本人も参加し瑞々しいヴォーカルを聴かせてくれる。そしてこの楽団の優れた音楽性を象徴するのがリリアナ・エレーロを迎えた"Canto labriego"であろう。元来持つ圧倒的な「声」の存在感はそのままにストリングスとホーン、バンドネオンの長閑なアンサンブルでリリアナのコミカルな面までも引き出している。近年のリリアナにとってベスト・テイクともいえるこの曲に、総合音楽家ノラ・サルモリアの才覚を見て取ることができるであろう。