2009年3月某日。都内某駅の改札口に到着した取材陣を迎えてくれた一人の女性。深めにかぶったハンチング帽に、小柄だが存在感のある佇まい。この美女こそ、DJ大塚広子本人だ。”自宅取材をしたい”―――女性にとって無理難題に違いない申し入れを「面白い!」の一言で快諾した彼女は、ウワサ通りタダものではないのか?本人の気が変わらないうちに、早速その秘密の住処に案内してもらうことにした。
大塚広子: 今の家は、ブラザーって名前が気に入ってて。この辺、いい街でしょ?もうずっとここに住んでるから、他の街は考えられないかな。まあ欲を言えば、もうちょっと広い部屋に引っ越したいけど…え?もちろん吟味しますよ!部屋に呼ぶ人は(笑)。
案内されるがままに大塚邸に到着。いつの間にか吟味されていたらしい我々だが、無事中へ通された。ホッ。中に入るとまず目に入るのは、玄関のロードバイク。そしてその横にはブラックムーヴィー「Savage!」のポスター。奥の部屋にはターンテーブルとオーディオシステムがコックピットのように組み込まれ、それを囲むように壁際にレコード棚、向かいにパソコンデスクがセッティングされている。これがあの大塚広子の部屋・・・。取材前に抱いていた我々のヨコシマな妄想は、棍棒で殴られたかの如く打ち砕かれた。Savage!

レコードを触る時の広子嬢はとても嬉しそうである。
大塚広子: レコードは、あんまりガンガン買うって感じじゃない。持ってるものは全部自分のものにしたくて、吟味して買う。あと、とにかく安く買う!(笑)。だからネットオークションとかに時間かけるよりも、やっぱりお店。お店は自分とのせめぎあいだから。最後の方まで棚箱あさって、やっぱないかな?ないかな・・・って。で、やっぱりなかったりもするんだけど(笑)。お店の方との話や、お客さんの試聴してる盤がすっごいよくって、「なんですか?これ?」って発見できたりする、それが楽しいですよね。
雑然と並べられた(ように見える)大量のレコード。数々のMIXがここから紡ぎだされている訳だが、それにしても…ゆっくりと柔らかに話す大塚広子と、無造作に並べられた(ように見える)レコードの間には不思議なギャップを感じざるを得ない。この違和感の中に、「DJ大塚広子」の内面を紐解くPIECEがあるのだろうか。

オリジナル盤こそが広子嬢のアイデンティティ。
大塚広子: レコードはやっぱりオリジナル盤。オリジナルはプライド!再発とは違うから。それは音もさることながら、もう世の中に出ない、これしかないっていう存在感かな。だから、今は基本的に現場でも旧譜はオリジナルしかかけたくない。だって私がDJやってるのは、そんな存在感ある音源を知ってもらいたいからで…。もし再発しか持ってなかったら、絶対DJやってない!(笑)。それはCHAMP(※1)も同じで、「うちは冷凍食品は扱わないよ」みたいな(笑)。本当にオリジナルスタンスのパーティ。
(※1) CHAMP :
渋谷The Roomにて毎月第4金曜日に行われているイベント
info:CHAMP Blog
レコードを手に取っては置き、手に取っては置き・・・。なるほど、大塚広子の「アナログレコード」に対する愛情は、本当に人並み外れている。ところで彼女は、自分自身のMixについてはどんな愛着を持っているのだろう。
大塚広子: 一番最初の「A New Peace」は「A New Peace 1」(※2)の内容にUNKLEとかERIC BとかのHip Hopを組み込んだりして、もう初期衝動で作れた部分が大きかったから。私的にはそこをなかなか超えられなかった。それで次、次って感じにはどうしてもなれなくて、気づくと3年経ってた(笑)。でも昨年末ぐらいから、現場PLAYの集大成って感じでまとめ始めたら、意外とあっさり完成しちゃって。今回は珍しくすっきりした気分(笑)。飾らずできたし、いいかなって。自分を客観的に見られるようになったかな。

(※2) A New Peace :
大塚広子の2004年に発表された初作を、新たに再構築しRe-Selectし、生音にこだわったJazzを中心とした心地よいMixした再リリース盤。Jazzの緊張感や力強さ、繊細さ、ダンスミュージックとしての心地よさを含んだグルーヴ感で、飽きることなく楽しめる一枚。
とはいえ、これまでの「A NEW PEACE」シリーズに、彼女のそんな「くすぶり」が感じられたかといえば、NOだ。そこでは、数々のRare Groove/Jazz 音源を1つのストーリーに紡ぐDJ・大塚広子のコアがきちんと表現され、そして現場PLAYに裏打ちされたグルーヴが確実に渦巻いている。それでも、今作「NEW PEACE 3」を「現場の集大成」と言い切るのは、一体どういうことだろう。
大塚広子: 現場でやっているプレイをそのまま引っ張ってきたのが今回のMIXなので。それはいつものCHAMPのある日のセットだったり、地方に呼ばれてDJした時の・・・あの時の2セット目!(笑)だったりとか。「NEW PEACE 3」は、3年分の現場がなかったら完成してないから、「現場の集大成」。
私、いつもDJ終わるごとに、毎回セットリストを書いて残してて。その場その場のお客さんの反応とか、つなぎとか、忘れないようにしたいから。事前にガチガチに仕込んでいくタイプではないので…。それに曲自体の良さも現場で発見することって多い。現場で何度もPLAYして愛着が湧くというか・・・その曲自体の良さを分かるまでには、やっぱり時間がかかると思う。
現場と違って苦労したところは・・・うーん、こういう風に音源にするときって、やっぱり導入部分を迷うかな。現場だと前のDJがいて、自分のプレイ前にもう流れがあるからそれに合わせてつなげるけど、音源は何もないところからつなぎ始めなきゃだから。
聴きどころは・・・全部(笑)。いや、個人的には中盤前のFlying LotusからRoy Brooks(※3)までの一連は、時代を遡りながらも違和感なく聴いてもらえる流れになっていると思います。

(※3) ROY BROOKS and THE ARTISTIC TRUT / ETHNIC EXPRESSIONS('73 Im-Hotep Records) :
JAZZMAN ジェラルドも、書籍「JAZZ SUPREME」で取り上げ、黒ジャス最高峰とでもいうマイナーレーベルIm-Hotepからの一枚。海外オークションでの高騰ぶりや7インチの存在も話題になったオリジナル盤。存在感も面子も圧倒的な奇跡の一枚でいまだ再発、CD化されていない。
今作のコピーにもなっている、「いいMIXには時間がかかる」という言葉。ジャンルや時代を自由にまたぐ大胆なアプローチは、経験からブレイクダウンされてはじめて形になるということなのだろう。経験とは、時間そのものなのだから。この3年で経験した全国各地の「現場」は、彼女にとってどんなものだったのだろう。
大塚広子: まず、なんか私って「でっかい人」ってイメージみたいで(笑)。地方に行くと、ちっちゃいんですね・・・ってよく言われる。あと怖い人ってイメージとか(笑)。でも、色んなイベントに呼ばれるのは、本当に嬉しい。場所とかシーンによって盛り上がる曲が違うのも面白くて。でもそんな色んな土地柄があるのって醍醐味だし、DJで全国各地を旅ができるって素敵だなぁって。帰りの新幹線で切なくなってまた撮った写真を眺めて、くぅっ(涙)みたいな(笑)。
DJで失敗したこと?・・・は、ない!もちろん自己反省レベルのことはいろいろあるけど。でも、実際やってるのは自分しかできないことだから。あまりガクッと落ち込まない。
全国各地での、幅広く質の高いPLAYは、全国各地のファンやDJからの評判から窺い知ることができる。インターネットで「大塚広子」で検索をすれば、さまざまなサイトやブログで賞賛の声がヒットする。では彼女自身、全国各地でのイベント出演を通じ、今、これは!と思うライバルの存在はあるのだろうか?

唯一無二のPLAYが、全国のリスペクトを集めるのである。
大塚広子: ライバルはいない!本当に自分と同じことをやっている人はいないと思ってるけど。でも3年間色々なところに行って、すごいなあとか、リスペクトするDJは沢山いる。だから、いろんな土地柄の個性を全国的に集めて、イベントなり音源なりを作ってみたいと思ってて。で、まず手始めに名古屋で自分企画イベントをやる予定です。いずれ、それをもっとダイナミックにやってみたい。次の世代にもいろんなことをやっている人がいるから、もっと活性化させたいんです。
…と、ここまで話を聞いたところで外がだんだんと薄暗くなってきた。ハッ!お宅訪問なのに普通に取材をしてしまった!ここで取材陣は、大塚広子の私生活に話題を移そうと試みた。女性・大塚広子の知られざる素顔と私生活をなんとしてでも掘らなければ…。妙な責任感にかられる。ところで、最近はどんなことに興味がありますか?
大塚広子: 最近、生音以外のデトロイトテクノなんかのMIXをよく聴いてて、実は今回の「NEW PEACE 3」の制作は、結構これに触発された部分もあるかな。今まではやっぱり好きな生音中心を聴いてたんだけど、それが違うジャンルの中に入ることでより引き立つっていうか。視点を変えて外から見ることで生音の存在意義を確認する作業、かな。カットインとかだけじゃなく全部のMIXで聞かせるというDJの勉強にもなるし。ほかにもいろんな人のMixを聴いてますね。
あと音楽じゃないんだけど、最近感動したのは、川村記念美術館のロスコの部屋。マーク・ロスコの絵画だけが展示されてる部屋があるんだけど…もう、素晴らしくって一日中いられる!
あとは・・・やっぱりカレーになっちゃうかな(笑)。あ~またカレー、食べたくなってきた~(笑)
ここからは怒涛のカレー話…(割愛:一部おまけ掲載)。やはり大塚広子といえばカレーである。彼女のカレー好きは有名で、BLOGでもそれは垣間見ることができる。おっと、全国各地のレトルトカレーコレクションを引っ張り出して、紹介し始めてしまった…。時間がなくなってきたので、最後に一言頂いて帰ることにした。
大塚広子: 是非CHAMPに遊びに来てください。みんなに、いい音楽を聴いて、踊って、飲んで、楽しんでほしい。そしたら私も楽しい。おもてなし、おもてなし。
それで、もしいいなと思ったら是非「New Peace 3」をお願いします。CD化という意味でも、MIX視点でも「New Peace 3」でしか聴けない曲がいっぱいあるので。あと・・・なんかあるかな・・・(笑)。あと今後は、面白い音源シリーズをつくりたいと思ってます。

待望の第3弾、『New Peace3』4月3日発売!!
詳しくはこちら
面白い音源シリーズとは何なのか非常に気になるが、大塚広子の仕事なら間違いはなさそうだ。とにかく気が変わらないうちに、是非とも制作に入っていただきたいものである。
その後、取材陣は、1週間後のCHAMP@渋谷The Roomで、スタッフに飲まされてうずくまるDJ大塚広子の姿を発見した。実は取材を敢行した3月は、彼女の誕生月だったとのこと。
大塚広子様、この度は「New Peace 3」リリース、そしてバースデーおめでとうございました!次の作品のときは、またお邪魔しますよ!
(というわけで つづく)
(取材/KEY OF LIFE + MZO)
おまけ:大塚広子にとってカレーとは。
大塚広子: 「出会い」です。ご飯とルーの出会い方が重要(笑)。カレーは、その境目がこの・・・なんというか出会いです。ルーのなかでもいろんなスパイス的なものが出会ってるし。見た目で言うと、ご飯が砂浜みたいですよね。カレーは海。ちょうど海水と砂浜というか・・・私海好きだし(笑)。
PROFILE : DJ 大塚広子
2004年に初MIXCD "A New Peace"をリリース。2007年、音楽プロダクションkey of life+を立ち上げ"A NewハPeace 2"を発表。DJとして提示する踊る楽しさと、オリジナルな音源追求が呼び起こす繊細かつ大胆なプレイには誰もが感動を覚え、その徹底した掘りと「黒いJAZZのグルーヴ」は全国的に高い評価を得ている。
現在は渋谷、桜ヶ丘にあるThe Roomにて第四金曜日不動の人気イベント「CHAMP」のレギュラーDJを務め、都内各所、盛岡、仙台、福島、郡山、名古屋、京都、神戸、岡山、広島等日本中の様々なパーティーに出演、精力的に活動中。
4月3日には待望の第3弾、自信のMIX-CD『New Peace3』を発売!!