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2008/04/21
寺島靖国の赤道直下 2008.APR


(1)のマイルス・ブラック。なんたって名前がいいやね。ジャズメンにこれ以上の名が望めるか。これに比べればマイルス・デイヴィスなぞ平凡なものよ。マイルス・ブラック、非凡なピアノを弾く。内にこもるタイプだ。冬眠中の小動物を想像させる。その呼吸はひっそりと大きい。多用するのはシングル・トーンだ。タイトル曲やバーンスタインの「サムウエア」といったスローがいい。単音でゆっくりとまくし立てる。そんな風情がいい。「ムーングロー」の古風に聴こえる弾き方が新しい。いや、マイルス・ブラックに古いも新しいもない。そこがいい。新しいか古いかなんて弾き方、疲れて仕方ないものだ。音楽そのものに没頭する。それが一番嬉しい弾き方だ。マイルス・ブラックは音楽そのものに没入させてくれるのだ。録音の音は小さく、いささかいじけている。そこがまた、音楽と合っているんだな。ブルーと黒のジャケットもいいじゃないか。(2)Mike Melvoin Trio。いろいろ考えたが出てこない。味わい深いとしか言いようがない。それでいいじゃないか。昨今の稀有な要素だ。王道派にお薦め。スタンダードと自作の散らし方がうまい。M-4の自作ブルースが最高。人生経験を重ねる。それによってしか得られないジャズ演奏というのがありそうだ。味わい深さはそこから出るのか。ふとそれを考えた。(3)の木のジャケット。この手の作品は折れ曲がった木のごとく、屈折したものが多い。避けていたが薦められるままに購入してみると、これがいい。冷んやりとあたたかい。タイトル曲の「NORR」が気に入った。今どき屈折のないジャズならラテン系だ。(4)の『La Luna Negra』。ミシェル・カミロの「オン・ファイア」もなつかしいが『La Luna Negra』は先のMike Melvoinの作品と知って世間は狭いな、と。10数枚購入した中から4枚選んだ。あとBeegie Adairの『Dream Dancing』も普通のよさが光った。

(1)MILES BLACK / SOME ENCHANTED EVENING (CELLAR LIVE / CL80307 / \2,195-税込)
(2)MIKE MELVOIN / YOU KNOW (CITY LIGHT / 607325001127 / \2,405-税込)
(3)TINGVALL TRIO / NORR (SKIP RECORDS / SKP90772 / \2,195-税込)
(4)JOE CARTWRIGHT / LA LUNA NEGRA (MUSIC LAFAYE / LMCD 1229 / \2,195-税込)
(5)BEEGIE ADAIR / DREAM DANCING (GREEN HILL MUSIC / GHD5227 / \2,510-税込)


2008/03/20
寺島靖国の赤道直下 2008.MAR


夕刊をながめていたらクラシックの有名なオーボエ奏者がこしゃくなことを言っている。日本人の聴衆は総じて保守的でよく知っている曲を気持ちよく演奏してくれればいい。対して欧州の聴衆は癒しより刺激を求める。常に新しいものを提供していかなければ満足してもらえない。新たな表現との出会いも音楽を文化として育て根付かせるきっかけになる。このオーボエ奏者の言うことはジャズに当てはめても同じ。我々日本人は保守的でジャズを癒しとして聴く人が多い。たまには刺激もいいが私など大抵、癒しで聴く。音楽とはそういうものだろう。それはそれでいいじゃないか。保守的な日本人の温和でやさしい特性がそういう聴かせ方をさせるのだ。昔、バイキングで外へ攻めていって女をかっさらっってきた野蛮人とは違うのだ。それかあらぬか、最近の欧米ピアノ・トリオ。新たな表現とやらの美名のもと、わけの分からぬ、曲の態をなさない、一人よがりが多く出始めた。よくない。大変よくない。ピアノ・トリオは80%の保守的癒し系のファンで成り立っている。そういう人たちが買わなくなってしまったらどうするのだ。新しいものがいいのではない。新しくていいものがいいのだ。ピアノ・トリオは今、取捨選択がとても大事になった。今月の、保守的癒し系。そういう特質にゴツンと鋭いグルーブ感を加えた秀作を3枚推薦しよう。ニュージーランド盤の(1)。女性ピアニスト。メロディアス、グルーブ感ばっちり。間のとり方最高。音色豊かにして大胆なタッチ。久しぶりの力演に出会ってホクホク状態なり。ジャズ・ファンは体裁の見せ方に違和感を憶える人もいるだろう(2)の寺村容子盤。音楽内容は外見と違って、いや外見がこれだけに一層仰天するはず。曲よし、リズムよし、やさしいグルーブ感よしの三拍子そろった傑作。寺村容子のピアノには心があってそれが最高なのだ。淡い心。(3)。ジャズは古いものが新しい。それがよく分かるピアノ・トリオ。こうした保守的なトリオで心が弾んでくる。それが刺激というものだ。

(1)CHARMAINE FORD / LIVE AT SANDWICHES (FORD MOTION RECORDS / FMR9003 / \2,195-税込)
(2)十五夜 / うさぎの大冒険 (月見レコード / TKM071 / \2,500-税込)
(3)JULIEN-FRANCOIS ZBINDEN TRIO / IT'S THE TALK OF THE TOWN (TCB / 27992 / \2,930-税込)


2008/02/20
寺島靖国の赤道直下 2008.FEB


相変わらずハンを押したように毎日ピアノ・トリオを聴いている。いつ飽きるかと恐れているがその気配はさらさらない。トリオのサウンドを楽しんでいるのと3つの楽器を各々独自に聴き分けて喜んでいるからだろう。今月のベストはミシャの1997年吹込み2008年発売盤の(1)。ミシャがミシャになる前のミシャがここで聴けるという寸法だ。ピアノに未だ人が入り込んでピアノ以上になっている要素が少ない。しかしミシャの萌芽はやはりそこかしこに表れていて、暗い心情、抗しがたい焦燥感、執拗に繰り返される同一フレーズなどはすでに立派にミシャを感じさせるものだ。あぶない世界に入る一歩手前というところがいい。「WHERE IS THE SUN」が最高だった2007年盤が評判をとったので1997年盤が再発されたのだろう。圧倒的な推薦曲は2曲目のオリジナル「THE ARABIC THANG」。この人はスタンダードよりオリジナルがいい。そういう聴き方をするとこのミュージシャンが見えてくる。特異な存在として。エリントンやモンク、ミンガス、エバンス等に通ずるミュージシャンだ。もっともらしいことを言ったが、なぜ私が彼を好きなのかを言えば、要するにソロが私の好きな具合にメロディアスなのよ。そこを外さないところが凄いのよ。(2)のギル・コギンズも一筋縄ではゆかない。剛情者である。リスナーなどいてもいなくてもいい。自分のために弾いているんだという塩梅で、あくまで自己満足の世界。限りなく屈折感の発達しているのがいい、ミンガスの「SMOOCH」という曲のよさをここで発見した。それとニール・ヘフティの「REPETITION」。両曲とも耳が縮むほど渋い。いがらっぽい。(3)は音楽政策がよくない。ソニー・クリスの曲をクリス風に吹いても白けるだけ。音色の粘着質、ねっとり感がこの人、ナゲル・へイヤー盤で以前サンタナの「ヨーロッパ」を吹いた。それがよかった。ねっとりで生きる曲を集めて1枚作るべし。

(1)MISHA PIATIGORSKY / PURE IMAGINATION (MISHAMUSIC / MM3012 / \2,195-税込)
(2)GIL COGGINS / BETTER LATE THAN NEVER (SMALLS RECORDS / SRCD0028 / \2,510-税込)
(3)DYLAN CRAMER / REMEMBERING SONNY CRISS (CASA / CASA1313 / \1880-税込)


2008/01/18
寺島靖国の赤道直下 2008.JAN


私がこのページで推めるものはすべて歌の心を持った人たちが演奏するジャズである。ピアノ・トリオをメインに聴くがヨーロッパやアメリカ産のCDではどうしてもそういうものが少ない。私小説的な心象風景を画いたり、新機軸を求めたりして成功に至らず空中分解するものが大部分だ。まず人の心に通ずる歌をうたう。ピアニストなどミュージシャンはそこから音楽を出発させて欲しい。作曲したら自分で歌ってみる。文章を音読するのと同じである。この人は自ら歌っているかどうか。聴き手は最初にそこのところに注目してみるのも一つの手である。自衛手段というか。(1)のKURT RIBAK TRIO。WITH A SONG IN THERE HEARTだ。ベース・リーダーだけにあっけにとられるほどスイングしながらきっちりと歌の心を忘れていない。あれもこれも旋律にすぐれた良曲ばかりでKURT RIBAK TRIOなんでもいいから聴きたくてたまらない。なぜか2003年、2005年吹込みが今頃出版されているがまだありそうだ。加州のバークレーまで確かめに行きたくなった。(2)のオムニバスも歌の心に溢れている。歌い方が若干ずれていてそこが完全に気持ちいい。ピアノに限らずなんでもずれて気持ちいいのがジャズでは最高なのである。マクリーンとか。前作に比べずいぶん聴き易い。真正直すぎない。ずれ過ぎない。その中間の塩梅がむずかしいのがジャズだが成功すればほれこの通りのオムニバス。気分のいい傾斜感が最高だ。少しまともだが(3)のアレックス・リール。「アイダホ」ばかり聴いている。アレックス・リールのドラム・ソロが長い。嫌ではない。昨今すっかり影をひそめた形のドラム・ソロだがたまにはこのように派手にいって悪くない。しかし「アイダホ」がこんなにいい曲だったとは。ドラム・ソロと合うのが「アイダホ」という曲想だ。『エストニア・ウィンド』のトヌー・ナイソージョー・ギルマンのスティービー・ワンダー集VOL.2、1月発売のルティーン・ジャズ・クインテットが各々よかった。

(1)KURT RIBAK / MORE / RODIA RECORDS / 2047 / \2,090-税込)
(2)エルンスト・グレールム / オムニバス・トゥ / DISK UNION JAZZ / DUJ020 / \2,500-税込)
(3)ALEX RIEL / HIGH AND THE MIGHTY / COWBELL MUSICC / 35 / \2,090-税込)


2007/12/20
寺島靖国の赤道直下 2007.DEC


これほど音楽がジャケットに具現化された作品も珍しい。冷気が背すじを行ったり来たりするキヨシ・キタガワの(1)。一瞬、ある種拒否されたような気分になる。日本で出来たジャズではない。アメリカにいて初めて可能な音楽だ。「パリのアメリカ人」ではないけれど「ニューヨークの日本人」のジャズ。山中千尋にも少しそんなところがある。前作では「タイム・トゥ・ゴー」が私のベストだったが今回は(6)の「イノセント・ミステイク」。例によってブライアンのドラムがビシバシ弾けてこの人のタイムは現在世界最高だ。ブライアン無くしてこの作品なし。もう一曲(3)「CIAO,CIAO」。平安時代にジャズがあったらこんな曲想が大受けしたはず。日本美を表していてさすが「ニューヨークの日本人」だ。全体3回目くらいから体に馴染んでくる。いったん馴染んだらそう簡単には離れられないそういうタイプのジャズ。日本人に生まれて良かった。ほとんど日本人にしかよさの分からないジャズ。それが(2)のシャフラノフ・トリオ。逐一わかり易く、ビギナーによし、そして、マニアにもよし。ジャズの険しい山を一山、二山越え、晩年はこういうジャズを微笑みつつ聴き過す。そういう達意のジャズ・ファンになりたい。ジャズ・ファンには個性を突出させたピアニストを好む人とそうではない人がいる。私は後者だ。それは演奏上の個性より曲の持つ美をしっかり表してくれるからだ。シャフラノフにしろ、(3)のボブ・ハミルトンにしろ、曲でファンを裏切らない。作曲された主題旋律よりさらに美しく表現しようとしたボブ・ハミルトンの「ラブ・レターズ」は私のここのところの連続聴取曲になっている。ビーズ・ワックス盤フランクリン~クローバー~シールズの『サマー・セレナーデ』、同じくビーズ・ワックス盤ロジャー・ハリス・トリオ『ライヴ・フロム・シカゴ』、XENOPHONEレコード、ロブ・ハント・トリオ『クローズ・ユア・アイズ』、『コン・アルマ』なども楽しくぽつりぽつりと聴いている。

(1)KIYOSHI KITAGAWA / I'M STILL HERE (ALTELIER SAWANO / AS071 / \2,500-税込)
(2)VLADIMIR SHAFRANOV / EASY TO LOVE (ALTELIER SAWANO / AS070 / \2,500-税込)
(3)BOB HAMILTON / WIXWAX (CAPRI RECORDS / 740832 / \2,090-税込)


2007/11/19
寺島靖国の赤道直下 2007.NOV


多少でも評論と名前の付くものは単純な紹介ではなく独自の好みや意見を出してこその評論ではないか。端的な例として「テラシマ曲」というのを私が示したとしよう。これほど分かりやすい「評論」はないだろう。嫌いな人は嫌いだし好きな人は好きだ。評論が一拠に分かり易くなるのである。この言葉どうも昔から好きになれなかった。妙な、ありもしない意味合いを含んでいてかしこまった気持ちにさせられてしまう。さて、「テラシマ曲」であるがこれの集合体が毎年12月に発売される『JAZZ BAR』シリーズである。ことしも飛びきり上等のテラシマ曲を集めての発売となる。そして、ここに早くも来年の収録予定曲が出てきてしまったのだから、やれ、嬉しじゃないか。それが(1)の「Seawas Koal」という一曲。このトリオのベーシストの好旋律オリジナル「Accelerando」や有名な「ネイチャー・ボーイ」のナイス・アレンジ、そして同曲の「Cジャム・ブルース」で始まるスリリングなソロの進行を聴かされると買ってよかったな、の思いがひしひし。ピアノの弾き方はオーソドックスが光る弾き方だ。1974吹込みのウルグアイ産ピアノ・トリオ(2)で「Alfonsina El Mar」なるテラシマ曲を発見、ゆえにがぜん本ページの推薦曲となった。「サマー・タイム」やエリントンの「スウィングしなけりゃ」がウルグアイ風味のラテン調で演奏されており、どこぞの一風変わったジャズはないかと探すうの目鷹の目ファンに推薦したい。変り種と言ってもプレイのツボはしっかりと押さえているので単なるゲテ物とは違う。曲目をざっと見渡しこれだと見当をつけトレイに収め曲が始まるやいなややったと心の中で叫ぶ。テラシマ曲発見の瞬間である。それが(3)の「リトル・ミス・ローリー」やはりいい曲は曲名もいい。曲名にすでに才能がある。一曲目の「フットプリンツ」でもないのに「フットプリンツ」の出だしで始まる「ドント・ギヴ・アップ」には一瞬がっかりしたがこの「リトル・ミス・ローリー」で救われた。

(1)ROBERT SCHONHERR / SATURDAY FEELING (JIVE JUSIC / JM2051 \2,405-税込)
(2)JULIO FRADE / MUSICA EN SERIO (SONDOR / JF01 / \1,990-税込)
(3)HENRY FRANKLIN / SUMMER SERENADE (BEEZWAX / BW3274A / \2,300-税込)


2007/10/19
寺島靖国の赤道直下 2007.OCT


ジャズの悪しき教育によって若い頃は当時の新鋭ビル・エバンスやキースが新しいが故に善であり、オスカー・ピーターソンは古いがために悪であるという勧善懲悪の思想に染まっていた。おお、恥ずかしい。しかし翻って今のジャズ・ピアノ界を見るとそれに気付かぬミュージシャンも多く、相変わらず世の中はエバンス系の流れ者ばかりでウンザリだ。ピーターソン流現れよ。現れた。(1)のマイク・ロンゴがその人である。これがジャズ・ピアノの本道であり、原型質なのよ。エバンスやキースは枝葉であり発展型なのよ。聴けばわかる。聴かなければ分からない。ジャズは御託じゃないの。実践なの。実際のヒアリングなの。実際にヒアリングする人のためにマイク・ロンゴは存在するのだ。どこがピーターソン風なのか。そこに聴き耳を立てる必要はなし。そんな聴き方が一番つまらない。まずはオリジン曲の「ディミニシド・リターンズ」。ゆっくりだ。静かだ。暗がりの中からかすかに太陽が昇ってくるあの風情だ。唯ひとつデメリットとしてピーターソンにまとわりつく喧騒感はここにはない。ピーターソンの大きなスイングという根本思想にとり入れているだけでマイク・ロングはマイク・ロンゴその人だ。ピラニアのようにヒタヒタとマイク・ロンゴの肌にくい込んでゆく不気味なまでのシンバル・レガート。現在の複雑な奏法に対するアンチ・テーゼ・シンバル。聴いてくれ。(2)ジャズ・ピアノの本質はブルースにあり。ジャック・ヴァン・ポールの新作を聴くとたちまちそんな大言壮語したくなってくる。根っからのオランダのブルース弾きだ。一曲目がいい。一曲目がベストだ。ファッツ・ワーラーの「ブラック・アンド・ブルー」。最初のワン・フレーズでぐさっときて、頭の中にいついてしまって気が付くといつの間にか「タラララ」とやっている。当分「ブラック・アンド・ブルー」。最初のワン・フレーズでぐさっときて、頭の中にいついて気が付くといつの間にか「タラララ」とやっている。当分「ブラック・アンド・ブルー」漬けになりそうだ。曲もいいが、なんといっても曲をモチーフにした「雰囲気作り」がいい。いま、10回目を聴いたがゆったり寛いでいたのにまたまたコーヨーした。寛いだ目が我ながら眼光鋭いまなざしに変わっている。見かけは優しいが人を大きく刺激して発奮させるのがすぐれたバラード&ブルースだと思う。歳をとるごとに若くなってゆく。これが私の理想人生だが、(3)の自由なドン・フリードマンはまるで20才台のようなジャズへの向かい方。リーダーのドラマーの意向が旨くフリードマンの保守主義に反映したようだ。これまでにない新風の吹く異色作。

(1)MIKE LONGO / FLOAT LIKE A BUTTERFLY (CONSOLIDATED ARTISTS PRODUCTIONS / CAP1006 / \2,195-税込)
(2)JACK VAN POLL / BLUES AND BALLADS (ATELIER SAWANO / AS069 / \2,500-税込)
(3)REUBEN HOCH / ON RECENT TIME (NAIM / NAIMCD088 / \2,300-税込)


2007/09/21
寺島靖国の赤道直下 2007.SEP


(1)「セントルイス・ブルース」「君去りし後」「ビル・ベイリー」。こういう古いニューオリンズの曲をモダン・ジャズのピアノ・トリオで聴かせる。ここに絶大な主張があり、その主張の強さが演奏の強さにつながっている。よし、この命題でゆこうという3人の意思の結束力が聴きどころだ。「インディアナ」など現代の新しい衣服をまとっておりまるで新曲のようで改めて惚れ直した。「セントルイス・ブルース」はいつ、誰の演奏でもジンとくるがこの演奏は骨格形成がシンプルなだけにかえって大きく気持ちをかき乱された。これはもう断じてオレの「セントルイス・ブルース」だ。オハイオ州にあるマイナー・レーベル。以前も別なベースとドラムでトリオ作品を発表している。今回がベスト。まさにオールド・ボトル・ニュー・ワインを地でいった入り易く深い一作。これをさらに聴き易くしたのが(2)のグレゴリー・ファイン・トリオ。聴き流しで楽しいがいつの間にか嬉しく耳を奪われている。ひけらかしゼロのロシア・トラッド・トリオ。ビギナーに最適ながらこれだけ純粋にあっけらかんとしているとかえってマニア向けかも。時々思い出して無性に聴きたくなるに違いない1枚。代って異色盤の登場(3)。ジャズではないがジャズの気持で聴けばジャズになる。オランダのスカというんだろうか。人なつっこいリズムで私にはいささかの違和感もなかった。まして曲が「セント・ジェイムス病院」ときてこれをザラリとした砂気を帯びたトロンボーンで切なげに演られた日にはもうたまらない。もう一曲の「風のささやき」もスカというもののジャズ。このところ好調CDの続いている澤野。パチンスキー盤。2曲目の「Exercice Pour Florence」が私向きの好旋律。ピアノ・タッチは静かに情熱的。おっとしまった。忘れていた。3本指ジャケットのKurt Ribak Trio。律動、旋律ともに最高。買うべし。

(1)MIKE PETRONE / BLUE (GOBLIN BEE RECORDS / GB6666 / \2,405-税込)
(2)GREGORY FINE / THE HITS OF JAZZ (GREGORY FINE / HITSOFJAZZ / \2,405-税込)
(3)KINGSTON KITCHEN / TODAY'S SPECIAL (SW / SIW178 / \2,415-税込)
(4)GEORGES PACZYNSKI / LEVIN' SONG (ATELIER SAWANO / AS068 / \2,500-税込)
(5)KURT RIBAK / TRIO (RODIA RECORDS / 1917 / \2,090-税込)

2007/08/20
寺島靖国の赤道直下 2007.AUG


例によって新譜コーナーでジャケットの塩梅のいいのから手に取り曲目などを眺めているとそばを店員さんが通りかかったので胸の中の熱いものが沸き起こるような、グルーブとスィングで体が揺れるような、さらには一度聴いたら2~3ヶ月は忘れないようないい曲の入ったCDはありませんかねと訊いたら、「そういうのはなかなかないですね」という返事であった。ということは、そうではないCDが新譜売場に溢れているということなのだろう。なぜ、私の希望するようなCDが出てこないのか。いろいろ難しく音楽の構成を考えるよりとても簡単なことではないか。上記の三大要素を満たすCDが出てくれば、CDはどんどん売れてゆくだろうに。そんな分かり切ったことが出来ない今の海外のミュージシャンはなにかどこか考え違いをしているのだ。50~60年代のジャズには胸が熱くなるものが多かった。たとえば(1)の私の一番好きな曲、トーツ・シールマンスの「Blue And Yellow」など、ドーンといこうと思えばいくらでもいけるんだけどそこを抑えて、抑えの美を発揮して、しかし時々tpやtsをギラつかせる。でもそのギラつきが穏やかで全面開放ではないく点描的でそこで私は胸を熱くするのである。静かなギラつきの美学というのを私はここで知ったのであった。(2)の「Melancholy Serenade」にはまいった。50~60年代にジャッキー・グリースンが書いたこの曲を演奏したピアニストが何人いたか。こういう曲、そして演奏に出会うから私は新譜を次々求めるのをやめられないのだ。ピアノはやはり静かに沈み込む方角の人で、しかし時折、ギラリをそれと見せないようにやる人。そういえば「テンプテイション」などという曲の選択はそれだけでギラリ、ではないか。(3)はもう相当歳の人のようである。BILL HEID。いやだからこそ、ピアノの行間からじわじわと中年の色気がぬめりを帯びた軟体動物のように染み出してくる。若い人にはなかなかこうしたピアノの色気は出しにくい。14才の少年になどとても無理。私思うに女以上に色気がジャズ・ピアノにいちばん大事なのだ。曲はすべてオリジナルで、そこで買い手は全面的に躊躇するが、大丈夫。きちんと旋律を意識しており、「こういう曲」というのが分かる曲だから安心安全だ。お推めは自ら歌う「Wondering Blues」。ジャズは過去も現在も未来もブルースが基本とわかってくる。

(1)JAZZ QUINTET 60' / JAZZ QUINTET 60'(澤野商会 / MCD15124 / \2,500-税込)
(2)CLIFF MONEAR / IT'S ABPUT TIME (CLIFF MONEARE / 000001 / \2,195-税込)
(3)BILL HEID / AIR MOBILE (DOODIN RECORDS / 066449502224 / \2,090-税込)

2007/07/20
寺島靖国の赤道直下 2007.JULY


「ジャズ批評」誌の最近号で「超初心者に推めるこの一枚」みたいな特集をやっている。驚くべきことに何十人もの推選者の大部分が『カインド・オブ・ブルー』や『ワルツ・フォー・デビー』『ウィ・ゲット・リクエスト』といった名盤を推めているのだ。大名演であり、大名曲はわかっている。しかし現代に生き、現代を呼吸している人間なら同世代のミュージシャンを半分、いやせめて1/3くらい紹介してもいいんじゃないか。マイルスやエバンス、ピーターソン等はジャズのいい時代を生きてきた人たちだ。それなりにいい思いもしている。しかし今の人はそれを知らない。頑張ってもCDの売れない時代に生きている。少しは光をあててやろうじゃないか。大名盤は黙っていても売れてゆくんだ。新人は紹介がないとリスナーの手が延びない。なにより後続部隊が出てこなくなるのを私は恐れる。ジャズの未来が危ないんだよ。というわけで私は新盤紹介に徹してゆく。(1)は一曲目の「ソノーラ」で私は高まった。出来たてのほやほやのこんな御馳走を目の前に出されたら超初心者はすぐさまジャズを好きになるだろう。とにかくこの一曲。ソノーラに価値がある。冒頭のワン・フレーズから聴き手の心臓をワシ掴みだ。あっと言う間に終わってまたもう一度聴きたくなる。0:29秒からのブリッジの部分の旋律などとろけるような美旋律。100回聴いてもあきない。初心者とマニア、両方の気持を等しくとらえてしまうところに澤野商会のスキルがある。ジャケットもなんともほのぼのとすばらしい。ゆっくりと弾かれてゆく「スカイラーク」をゆっくりとした気分で聴いてゆく。そんなところにジャズ・ファンの幸せがあるんではないか。「スカイラーク」はそういう幸せをジャズ・ファンに与えるために作曲されたのではないか。唐突にふとそんなことを思わせるのが(2)。曲には聴いた瞬間素早くぐっと来るのとじわじわとその素質が伝わるのと二種類あるが、その後のほうの曲を一杯並べた(3)が今月のじわじわ盤のトップになった。地味ながら時々鋭い微光を発するこのグループ、出たら買いだ。裏切られたこと、無し。

(1)ARNOLD KLOS / BEAUTIFUL LOVE(澤野商会 / AS067 / \2,500-税込)
(2)TIM LAPTHORN / SEVENTH SENSE (BASHO / SRCD192 / \2,300-税込)
(3)STEVENS,SIEGEL AND FERGUSON TRIO / GET OUT OF TOWN (IMAGINARY / IMX016 / \2,405-税込)

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