2009/08/20
寺島靖国の赤道直下 2009.AUG
松尾明クィンテットの先月新譜に対する村井康司さんのディスク・レビュー。文章の前半の好意には感謝だが、ラスト・フレーズの「もっとソロを長く聴きたかったな」は制作意図とは違う聴き方だ。ソロを圧縮、濃厚化してファンを急速にアクメに至らしめる。この3分間芸術こそテラシマ・レコードが最もやりたいことなのだ。本作のような一瞬一瞬に託した熱いソロに短いも長いもない。生煮え、牛のヨダレ的長広舌ソロを私は一番嫌う。60~70年代の悪弊をもうやめにしたいのだ。これから入ってくる新しいジャズ・ファンのためにも短いからこそ美しく燃えるソロを提供したいと思う。さて今月は
(1)タイトル曲の「HIGH WALL」ゆえに推薦したい。ブラニスロウ・ケイパーズの作曲でこの人は「グリーン・ドルフィン・ストリート」で有名だがもう一曲「WHILE MY LADY SLEEPS」がよく、さらにこの「HIGH WALL」で三部作感性という塩梅だ。三姉妹のようによく似ていて「グリーン・ドルフィン~」が美人姉とすると「HIGH WALL」は目立たないが愛らしい妹といった風情。ピアノ・プレイは勿論曲を引き立たせる式のオーソドックス・スィンギー形式。同じピアノ・トリオでも異空間に入りたい時に絶好の
(2)。といっても奇をてらうでもなく極めての東欧的自然体気風が日本人受けする。いい曲を書く。そのいい曲がベストに映えるようにピアノを弾く。だからそれが分かる人に聴いてもらいたいという意思がプレイの間から透けて見え、そこに勢一杯の共感を覚えるのだ。旋律を重んじるこういう人を大事にしたい。最高曲はタイトル曲の「17 ROOMS」。ARI HOENINGのドラミングは鮮烈にして弾け切っている。次作が早くも待ちどうしい。ポール・デスモンドの作曲した「LATE LAMENT」をピアノ・トリオ化して聴かせる
(3)。それだけで買いを決めたい一枚だ。オリジナルの「DANCE OF THE GYPSIES」も鈍色の光沢を放つ。怪しい炎が立ち昇っている。ピアノ奏法は心情情緒を高めてゆくやり方だが保守的テリトリーを崩さずフリーキーな常套手段をとらない。そこがいい。気合の入ったこうした3枚を聴くと少しの疲労感を憶える。そこでリラキシン・ムードたっぷりのギター演奏を。
(4)がそれだ。ジャズ界は昔からいろいろデフォルメしたギターが盛んだが、こうした純粋清浄ギターを耳にするとギターはやはり原始回帰のギターが一番との強い信念にかられるのだ。
2009/07/21
寺島靖国の赤道直下 2009.JULY
私はいま旧譜より新譜を多く聴いている。新譜の中に「俺のこの一曲」を発見したいからだ。発見した時の喜びは俺これまでジャズ聴いてきてよかったなぁという悦びと一緒。よし、もっとそんどん聴いてゆくぞという未来を自分のものにした気分が身体中に湧いてきて思わずジャズ万歳と叫んだりする。ホント、ジャズのいい曲には普通の社会人には分からない特効薬があるのだ。
(1)の中にそれがあった。すぐに分かった。最初のピアノのワン・フレーズを聴いてたちまち、来た、来たという感じだ。それが2曲目の「MARIA GENNEM TORNE GAR」。この曲名を見て何かありそうだと思うリスナーの方も多いと思う。作曲者のところがtradになっている。これで決まり。「懐かしのストックホルム」ではないがtradに悪いものなし。その土地の香りがジャズというアメリカの文化とブレンドして何とも形容し難い別文化を作り出している。この場合は森林文化。黒い森からけぶった樹木の香りが強烈な勢いでしみ出して日本人の低い鼻を刺す。たまらないぜ。マスクをして聴けよ。
(2)は8曲目の「ラ・パロマ・アズール」だ。デイブ・ブルーベックの曲で彼の作品ではコロンビアの『ブラボー・ブルーベック』に入っていた。まるでつまらなかったが今回生き返った。気持ちよく外したジャズのリズム。本来のラテン色はなくなっているがこのずれたジャズ・ビートが最高。音も絶妙。オーディオ・ファンにも捧げたい。
(3)は1曲目だ「メディテイション」。これ完璧に「俺の一曲」。こういうのを日々聴いていれば俺は幸せなのよ。ここでもリズムの「ずれ」が麗しい。ドラムのスネアのオカズ。コンと入るオカズの位置が微妙に外れているようにも聴こえそれが私の快感に接続する。好旋律とずれを交互に聴く喜び。
(4)は「枯葉」だ。「枯葉」のソロフレーズ。さるジャズ・クラブでかけたらそこにピアノを習っているご婦人がいて「私、このフレーズいただきます」、と。そういう絶好フレーズが幾つも出てきて喜び勇む彼女を見て私は感激した。
(1)CARSTEN DAHL / IN OUR OWN SWEET WAY (STORYVILLE / 2,405円-税込)
(2)LIAM NOBLE / BRUBECK (BASHO RECORDS / 2,300円-税込)
(3)SEBASTIAN GAHLER / MEDITATION (DOUBLE MOON / 2,195円-税込)
(4)BJARNE ROSTVOLD / JAZZ JOURNEY (HIT / 2,500円-税込)
2009/06/19
寺島靖国の赤道直下 2009.JUNE
最近ジャズを聴くようになった30代の青年と話をした。もちろん彼にとってジャズはワン・オブ・ゼムである。いろんな欧米の軽音楽をメインに聴いていてジャズはその一つに過ぎない。そういう人のジャズの聴き方どういうのかと言うと、要するに「いい曲」がCDの中にあるか、どうかでその作品のよしあしを決めてゆく。簡単である。いい曲は彼にとってのいい曲であり、つまり個人的普遍性をベストに尊重したもので、他人の意向は気にしない。そういう聴き方でいろいろなジャンルの音楽を聴いてきた、と。そうだろうな、そうじゃなくちゃ多種の音楽は聴けないだろうな、と私は思った。いちいち演奏家の演奏スタイルなどを気にかけていたら曲探し、曲聴きがお留守になってしまう。そうしたらなんのために音楽を聴いているのかわからないのだ、彼にとっては。こういう人が一杯いるんだろうなと思った。ちゃんとしたジャズ・ファンとして遇しなくてはいけないな、と思った。そういう彼に次の3枚のピアノ・トリオの中から「いい曲」を選んでやろう。こんなの駄目だといわれても仕方がない。私の好みだから。
(1)の「Adult Jazz」は10曲目の「Joanna」がよかった。女の名前だろう。女性の名のついた曲に古来駄曲少なし。これジャズの鉄則だ。もう一曲というなら3曲目の「Langebro」。おや、同じ人の作曲だ。Gasolinという人。ピアノの弾き方はおだやかに気分を出してゆくスタイル。スタイルも徐々に気にしていってくれ。スタイルで曲がよくなったりそうでなくなったりするんだ。男性ボーカルが2~3曲入るがこれがひどい。かんべんしてくれ。すっ飛ばしてくれ。
(2)は5曲目の「Praise」がいい。これ静かにきみの気持ちの中に入ってゆく。じわりとしたものがやがてどすんとなり、終わる頃には爆風が起って可愛そうにきみは散りじり粉々だ。
(3)のPhilology盤は3曲目の「テ・キエロ・デヒステ」がいい。古いラテンの曲で懐しさが一流だ。懐しいがリズムが現代風だから今の懐しさだ。それがジャズというものだ。分かったか。
(1)JOAKIM PEDERSEN / ADULT JAZZ (CALIBRATED / 2,510円-税込)
(2)CHRISTIAN VON DER GOLTZ / COMPLICATED STORIES (KONNEX / 2,405円-税込)
(3)MARCOS JIMENEZ / DIFFERENT (PHILOLOGY / 2,825円-税込)
2009/05/19
寺島靖国の赤道直下 2009.MAY
なんだかんだと言いながら相変わらずピアノ・トリオを聴く日々が続いている。いいんだよ、やっぱり。このままピアノ・トリオはあと20年くらいジャズの中でいい地位を築きながらファンに愛されてゆくのではなかろうか。考えてみると優しい、そして小体なジャズを好む日本人の感性にぴったりなのだ。ピアノ・トリオを愛する国民性。なにもジャズの楽器の王様はトランペットだ、テナーだと青筋たてて居丈高にならなくてもいいじゃないか。ピアノが好きならピアノを聴いてゆく。一つ筋道を立てた、そういうピアノ・トリオ人生を送ってゆくのもそれはそれで一つの立派なあり方ではないかと思う。というわけで本日もピアノ・トリオの美味しいところを何枚か。基本的には
(1)のような王道をゆくものを私は好んでいる。王道7割、ちょっと風変わりなもの3割、というのが私の選択方法だ。スタンダードに4ビートの王道盤ばかりでは確実にあきる。あきるのは恐い。それで風変わり盤を王道盤の中にまぜる。努力しているのよ、けっこう。
(2)は風変わりの典型でポール・モチアンがdsで入るとどんな盤も間違いなく危くなるが「アローン・トゥゲザー」などこれが本当に「アローン・トゥゲザー」かというくらいなものでこういう屈折した同曲を聴いて他の清く正しく美しい「アローン・トゥゲザー」を耳にするとまたこの曲のよさが私の中でがぜん勢いよく復活するという塩梅だ。でもこの盤、マーク・マーフィーの渋い歌も聴けるし、このピアニストの他の盤に比べればずいぶん普通で生活感があり、私好みだ。「KATHY'S WALTZ」や「THEME FOR MARGARET」など曲名を見ただけで即よさが伝わってくるオリジナルを散りばめた
(3)。騒々しいジャズ界をよそに小さい世界でひっそり生きてますという風情がいい。長くジャズ・ファンをやっている人ほどこのよさが分かる。ここへ到達したら後は恐いものなし。人がなにを言おうと平気の平座というものだ。何か確実に一つの人生を経てピアノを弾いているのが分かる
(4)の「あなたは恋を知らない」。これを聴くといくら王道、オーソドックスとはいえ、何か一つ静かにギクリとさせるものがないと駄目なのがピアノ・トリオだ。
(1)FRANCESCO MARZIANI / IN MY OWN SWEET WAY (PHILOLOGY / 2,825円-税込)
(2)GUILLAUME DE CHASSY/DANIEL YVINEC / SONGS FROM THE LAST CENTURY (BEE JAZZ / 2,615円-税込)
(3)GEOFF LAPP / STAINED GLASS (ELEPHANT RECORDS / 2,195円-税込)
(4)NAJPONK TRIO / BALLADS BLUES & MORE (CUBE METIER / 2,300円-税込)
2009/04/18
寺島靖国の赤道直下 2009.APR
とにかく聴き手の心をわし掴みにするジャズを聴きたい。自分たちのジャズを聴いてくれと迫ってきて羽交い絞めにするような熱いジャズが欲しい。ところがそんな聴き手の懇願などどこ吹く風、自分の欲望のみに熱心なミュージシャンのCDが少なくない。遂に新譜漁りをやめてしまった私の知り合いがいる。数少ない新譜ファンが一人減った。残念だ。そのやめてしまったきみ、頼むから次の数枚、もう一度聴き直してみてくれ。そして元の古巣へ戻ってくれ。レコード店でCDを選ぶきみの真剣な顔。あれは美しかった。まず
(1)はイタリアだ。イタリア男は今も昔もパショネートだ。音楽を伝えようとするのか情熱を伝えようとするのか、とにかく両方なのがJAZZ HIP TRIO。聴いてくれ。熱い。きみの喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。
(2)は旋律美で迫ってくる。8曲、全曲、美に染まっている。どの曲も他のCDに入ればベストに輝く。そんな曲揃いとくれば美曲好きのきみのために作られたようなCDじゃなくて何なのだ。といってヤワじゃないぞ。
(3)はドビュッシーの「レヴェリー」とイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」の2曲で買いだ。drのロイ・キングが3人のピアニストを招き選曲のよさと「普通の」ピアノの非凡さを競わせたもの。
(4)は音のよさで迫ってくる。「ジャズ批評」誌2009年の録音名盤に抜擢されること間違いなし。「
松尾明トリオ」と同スタジオ、同エンジニアの作品だから私は複雑な心境だ。ピアノ、ベース、ドラムス。3つとも音楽も音質もこんなに美しくていいのか。本当にいいのか。ええ、おい!答えてくれ、といった塩梅の一枚。「ニアネス・オブ・ユー」に酔った。
(5)は「男っぽさ」で迫ってくる。ラストの曲「LATINA LA CAP」に酩酊した。男っぽさの中にひそむラテン的含羞に悪酔した。
(1)JAZZ HIP TRIO / DOUCES PLUIES (NOCTURNE / 2,615円-税込)
(2)CRAIG SCHNEIDER / TRIO// (CEEJAY'S MUSIC / 2,195円-税込)
(3)ROY KING / TRIOS (ROY KING DRUM / 1,985円-税込)
(4)高田ひろ子 / FOR A NEW DAY (D-MUSICA / 2,500円-税込)
(5)BRUNO HUBERT / LIVE@THE CELLAR (CELLAR LIVE / 2,195円-税込)
2009/03/18
寺島靖国の赤道直下 2009.MAR
ジャズ・ファンはまず大抵、人付き合いが苦手である。私なんかもけっこう無理して付き合ってるところがあるから会合などに出た後は疲れ果てて死体のようになる。しかし、諸君。表には出るものですぞ。そして一人でも多くのジャズ・ファンと知り合いになるべきですぞ。理由を書こう。ご利益があるのである。つい先日ある方があるジャズの会で1枚のCDをかけた。ハービー・ハンコックの1978年物『ザ・ピアノ』。ソロであり、私などは触わるのもけがらわしいくらいのものである。ところがその方が選曲したオリジナルの「ソンリサ」、これがすばらしかった。あっけにとられた。気が遠くなった。私の宝になったのである。次、メグの会である方がマイケル・ムーア(sax)とフレッド・ハーシュのパメルモット盤デュオを教えてくれた。普段ならこういうのに寄り付く私ではない。飛んで逃げる。これが見事だった。1曲目の古いラテン曲。クラリネットとピアノで夢の世界へ誘ってくれたのだ。感謝である。よくぞ知らせてくれました。すっかり人頼み症になり、今日はディスクユニオンへ行くなり大野さんに何かいいのないと訊いてみると待ってましたとばかり教えてくれたのが
(1)、ジャケもひどいし普通ならこれは私の手からこぼれてゆく典型的な1枚だ。よかった。沈んでゆくピアノの好きな人、寄ってらっしゃいだ。1曲目など最初のワン・フレーズでしてやったり。クラシックのオリジンでそれがしゃくなのだが。
(2)は2曲目から聴いてみてくれ。通常4ビートでよくぞこれだけの哀感を出せたものだ。感服する。4曲目のジューイッシュ風旋律も泣かせやがる。私の痛いところを突いてくる。弱みにつけこんできたんだ。天晴れなドイツ野郎どもだ。
エリック・リードの(3)は最近のリードのベストと聴いた。いつもよりワン・テンション高い。押し出しがいい。流体力学が効いている。全曲オリジナルだが名旋律揃いだ。8曲目が最良曲。
ヴォーカルの(4)は、ひっそり感がいい。原地語の2曲目はすがれたトランペットで始まる。よく聴くとこれが「アイル・ビー・シーイング・ユー」。いや、最高。鈍色のトランペットにヴォーカルとくれば悪かろうはずがない。リー・ワイリーの『ナイト・イン・マンハッタン』を思い出すではないか。
(5)は岩浪洋三さんがべたぼめ。私もかたわらで拍手です。
(1)CARY BROWN / THE CARY BWON TRIO (SERIOUS CLEO MUSIC / 2,930円-税込)
(2)DOHELMANN/SCHANTZ/FONFARA / SONNENFINSTERNIS (BELLA MUSIC / 2,720円-税込)
(3)ERIC REED / STAND! (WJ3 / 2,300円-税込)
(4)CARIN LUNDIN / SMULLOR OCH PARAFRASER (PROPHONE / 2,510円-税込)
(5)NIKOLETTA SZOKE / A SONG FOR YOU (ATELIER SAWANO / 2,500円-税込)
2009/02/19
寺島靖国の赤道直下 2009.FEB
CDが売れないという。いいものを出さないレコード会社も悪いがもっと悪いのはマスコミだ。TVや新聞だ。不景気風をあおる。ニュースの材料がたっぷり豊富で自分らはニンマリだが、おまえらが社会に不安をまき散らしているのが分からないか。そんなの気にしないでどんどん買おうじゃないか。買えば景気ははね上がるんだ。景気と不景気は交互にやってくることになってるんだ。戦争と平和と同んなじだ。というわけで
1枚目はミシャ・ピアティゴルスキー。レコード店挨拶まわりをしている時HMVの店で可愛い女性店員さんが今この人に注目しています、目をかけています、と言った。分る人には分るんだねぇ。通常ならざる通常が。「クローズ・ユア・アイズ」などという普通曲を演ってソロが普通ではない。寄らば切るぞの殺気フレーズを頻出させてあきさせない。1997年の旧録の2009年再発でこの頃のミシャはミシャになる前のミシャでこんなことをやっていたんだ。フーン、成る程ねという気分で聴いてくれ。さて次。音も分厚く、気分も分厚く、音楽も分厚い。いま時は特にこういう分厚さ3段飛びのピアノ・トリオが必要なんだ、というのが出た。
(2)のUROS MARKOVICの『ゴスペル・ジャズ・トリオ』。ゴスペルというと一寸引き気味になるが普段のピアノ・トリオとして平気で聴けるものだ。ピアノがエリック・ルイス、ベースがレジナルド・ビールとくれば幸せなリズム・グルーブは約束されたようなもの。クラシカルなヨーロピアン・ピアノを少し脇にどけて純正アメリカ産に耳を傾けてみてくれ。ヨーロピアン風に少し飽きた俺だったがこういうのが出てくるとまたぞろピアノ・トリオ・フリークの熱が一気にどっと誘発されて嬉しい悲鳴となった。アメリカ、特に黒人ミュージシャンたちがんばれと言いたい。あんたたちの黒い特権を思い切って生かしてくれ。白人がやりたくても出来ないことをやるのがあんたたちの役割じゃないか。アメリカの地方からいいのが出てくる。
『ジャズ主唱者』と題された(3)はテキサスはオースチン製でしねてオリジナルとくれば我々ファンおぞけをふるうがさすがにテキサスあたりはNYと違って無茶はしない。リーズナブルなオリジナルばかりを全10曲、さああなたはどの曲がお好きですかと問いたくなるものばかり。私はM3とM6。ピアノはシングルを多用し、主題からソロを平和友好的に発展させてゆくオーソドックスなスタイル。と思うと時々、銃声が鳴り響いたりする油断のならないピアノでそこが気に入った。
(1)MISHA PIATIGORSKY / THE HAPPENIN'(MISHAMUSIC / MM8022 / 2,300円-税込)
(2)UROS MARKOVIC / JESUS SAVES(CTA RECORDS / CTA007 / 2,405円-税込)
(3)JAZZ PROTAGONISTS / BLIZZ BLAZZ(JAZZ PROTAGONISTS / PRO2003112 / 2,300円-税込)
2009/01/19
寺島靖国の赤道直下 2009.NOV
ジャズの「大作」に目をそむけ、ひたすら小じんまりした作品を愛してきた。オレという人間が小さくできているんだからぴったりの関係じゃないかと分かって笑ってしまった。今月も「小体」な作品でゆく。小体をこたいと読んで何度こていだよと言っても分からない男が私の友人にいるがそれはともかく
(1)のロニー・リン・パターソン。これが俺好みの絶好のピアノ・トリオで紹介するのが惜しいくらい。『
JAZZ BAR』行きは間違いないがオリジナルがすべてよく「マンダラ」というキースの作品が旋律的にとりとめがなくて一番つまらない。小さいサイズでメロディアスにまとまった本人のオリジナルにただもううっとりといった塩梅式。小柄に静かに生きてます式のピアノを弾くパターソン、打力とかタッチではなく、旋律力で男を上げている。
(2)のウィルトン・ゲイナーは以前テンポ盤の「ウィルトンズ・ムード」でしびれた。しびれっ放しで、
今月テラシマ・レコードから発売される高橋康廣カルテットで高橋さんにこの曲を吹いてもらった。ウィルトンとは一味違う紫色のムードでこれは選曲的に大成功。今回の『アフリカ・コーリング』、一曲目の「キングストン・バイパス」が「ウィルトンズ・ムード」的ムードでこれ一曲聴けばゲイナーというひとが分かる。「セント・トーマス」を聴くとロリンズが分かるのと一緒だ。キングストン生まれでやはり生まれは争えない。土地柄の感触、風合いはどうしても出てしまう。そう、当然それがいいんだけどね。だからこそゲイナーが好きなんだからな。といばってみてもしょうがないが。ちょっと音がよくないのが玉に傷。テリー・シャノンのピアノに哀愁がにじんでいる。いい。
(3)のロジャー・ティルトン・トリオこれもリトルでいい。こじつけるわけではないがベースのヘンリー・フランクリンの書いた「リトル・ミス・ロウリー」という曲。ジャズの小さい世界でスタンダード化しそうな匂いがする。いやしなくてはいけない好旋律持つ曲。
ビーズワックス盤、フランクリン~クローバー~シーリズ『サマー・セレナーデ』でもやっていて俺にごつんと一発好印象を残したものだ。ソロながら
澤野のロバート・ラカトスも柔らかにがつんと来た。アビー・リンカーンの現代スタンダード「スロー・イット・アウェイ」が聴きもの。私が監修役をつとめた『バード・ゴールドブラット写真集』発売中です。春日出版発。
(1)RONNIE LYNN PATTERSON / FREEDOM FIGHTERS (ZIG ZAG TERRITOIRES / ZZ080802 / 2,720円-税込)
(2)WILTON 'BOGEY' GAYNAIR / AFRICA CALLING (CANDID / CCD79552 / 1,985円-税込)
(3)ROGER TILTON / JAZZ TONES (SKIPPER PRODUCTIONS / SP1006 / 1,985円-税込)
(4)ROBERT LAKATOS / MARMOSETS (ATELIER SAWANO / AS078 / 2,500円-税込)
2008/12/19
寺島靖国の赤道直下 2008.DEC
『
JAZZ BAR 2008』が発売になった。SJ誌の評価を見ると非常に低い点がついている、ああこの筆者ならしょうがないなと思った。真面目なだけが取り柄でコルトレーンの再発物なんかが出ると最高点を付ける人である。少しは時代というものを考えてもらわなければ困る。リスナーのことも考慮に入れてもらいたい。オムニバス盤が時代に受け入れられているのだ。昔と違ってマイルスだのコルトレーンだののミュージシャン単位で聴く人が減少している。変わって曲とか乗りで聴く人が増えている。だからこそ、そういう時代に目を向けてオムニバスを一段下に見る従来のジャズ観を改めてゆく必要がある。評論家は時代の先端をゆかなければいけない存在だろう。リスナーを引っ張ってゆく役割を担っているのだ。頼みますよ、本当に。『JAZZ BAR 2008』。今年が最高です。新しいというだけで最高です。今これを書きながら聴いているが曲は4曲にさしかかって
ミーシャ・ピアティゴルスキ。自作の「ジ・アラビック・サング」が美曲ながら血涌き肉踊る演奏の展開でいやぁいいなぁ、たまらないなぁ。一人ではしゃいでいる午前2時50分である。乗りと曲でジャズを聴けるいい時代になってきた。
(1)のクィンテット、1曲目「HOT ROD」重箱の隅的ピアノ・トリオの後などに聴くと乗りと曲の潔さにここまでジャズはさばけていいのか。聴き手の私が反省してしまうのである。まだ古いんだなぁ、俺。どうやらクラブとかそっちのほうの人たちの好みそうな曲だが、乗りの良さを愛するのは彼らだけじゃない。もともとジャズ・ファンの特権的占有物だったのだ。ジャズが「偉く」なっていつの間にか持っていかれてしまっただけの話。また取り返そうじゃないか。古い楽器バンジョーなんかも取り返していい。
(2)の女性バンジョー奏者。「黒い瞳」や「エル・チョクロ」「ハーフ・アズ・マッチ」など曲一発乗り一発の演奏。難解さ一切なし。それでいて後を引く。深いのだ。バンジョー恐るべし。
ドナルド・ベガの初CD(3)。チャーリー・ヘイデンの良曲「OUR SPANISH LOVE SONG」をやる人と知れば後は察しがつく。旋律を大事にする人だ。まかせていい。
(1)FIVE CORNERS QUINTET / HOT CORNER (RICKI-TICK / RTCD09 / 2,405円-税込)
(2)シンシア・セイヤー (ガッツプロダクション / GFVS016 / 2,300円-税込)
(3)DONALD VEGA / TOMORROWS (IMAGERY / 63447960934 / 2,615円-税込)
(4)V.A.(JAZZ BAR) / JAZZ BAR 2008 (寺島レコード / TYR1010 / 2,940円-税込)
(5)V.A.(JAZZ BAR) / JAZZ BAR 2008<<初回プレス限定生産アナログ盤>> (寺島レコード / TYLP1010 / 5,250円-税込)
2008/11/19
寺島靖国の赤道直下 2008.NOV
昔と言っても30~40年前、ジャズ・ファンはオリジナル曲をむやみに有難がったものだ。ジャズ、イコール、オリジナルと思われていたフシがあった。今はそんな風潮はない。個人的趣味に淫したろくでもないオリジナルが溢れているからだ。そういう全曲オリジナルCD、撤退せよ。やはり、スタンダードの中にちらほら見え隠れするオリジナルに聴きものが多い。精根こめるからだ。最近はそうした珠玉の一曲探しに奔走している。今月もあった、あった。大ありだ。まずは
(1)のフィル・ライト作るところの「MONSIEUR PHILLIPPE」。泣かせやがる。オレを涙の洪水でおぼれさせようっていうのか。たいがいにしてくれ。まだ死にたくないんだ。そして
(2)の「WISH YOU WERE HERE」。これもその手。ピアニスト本人のものではない。いいのである。こういう曲想は誰の作曲であろうと採り上げたこと自体が素晴らしいのだからもう本人のものなのだ。
(3)の「MAMBO JAMBO」。以上3曲通して聴いてみて一つの事実に気がついた。いずれも4ビート的規格リズムではないのである。ラテンやら何やらリズムのチャランポランなのである。これがよくてこの野放図性に美曲誕生の秘密があるのではないかと推察した。3枚ともいわゆる革新的なピアノ・トリオではない。すかしてもいなければいい恰好もしていない。肩をそびやかしてもいない。そういうタイプのピアノではない。いわゆるスタイルやくせ、個性で聴かせる人たちではなく「曲で聴かせる」ピアニストたちだ。個性で聴かせる。それはいい。悪くない。しかし、それはそれ、これはこれだ。そういう人たちがいたっていいじゃないか。否、いなければ困る。私のような曲愛好者には是非とも必要だ。
(4)の澤野盤はちょっぴりクラシカルな風味を感じさせてそこに魅力点を持たせた人。クラシカルがジャズ的に発情したとでも言おうか。美しさが散らばってゆくようなタイトル曲がベスト。
(1)PHIL WRIGHT / 3 BOP (SKIPPER PRODUCTIONS / SP0004 / 1,985円-税込)
(2)JOHN NAZARENKO / JOHN NAZARENKO TRIO WITH REUBEN ROGERS & ERIC HARLAND (JOHN NAZARENKO / 61989291812 / 3,035円-税込)
(3)JOF LEE / LIVE AT SALTY'S (SAPHU / SCD0028 / 2,510円-税込)
(4)PAOLO DI SABATINO / ATELIER OF MELODY / ATLIER SAWANO / AS081 / 2,500円-税込)
2008/10/20
寺島靖国の赤道直下 2008.OCT
テナー以上のことはしない。テナーの範囲内でフル・レンジでテナーという楽器を吹き鳴らす。デンマークのハンス・アーリックがその人である。私、前から気にいっている。運に恵まれればの話だが、テラシマ・レコードでわたし流に1枚作りたいものである。冒頭の一行に戻るとテナー以上のことをしようとしたのがコルトレーンであり、そしてその一派だが、そうなると普通のリスナーは聴くのが苦痛になる、聴き手に苦痛を与えるような音楽は音楽とは言えない。ハンス・アーリックはそのあたりをきっちりとわきまえていてだから私は嬉しく彼を聴こうとするのだ。音色はケン・ペプロウスキーに似て太く暖かいがスタイルは完璧にモダンでそこにほんの一振りの味の素。まさに0.5ミリグラムぐらいの不良性、さらにはアウト感覚の存在に気付く。それを大っぴらにひけらかさいのがアーリックの頭のよさ。リスナーは、オレって新しいの聴いているなぁ、という自慢にならない程度の満足感が得られるという寸法だ。それが
(1)の『Believe In Spring』。(
2)はまずジャケットに惹かれる。これ、フィアットか。レコード会社名がナンバー・プレートになっているアイデアをほんの少しほめて上げよう。ピアノは王道をゆくタッチ。曲は2~3回聴いてじんわりよさが伝わってくるタイプのオリジナル曲集で、手放そうと思ってもついつい手許に置くことになるそういうタイプのピアノ・トリオだ。
次も「別れられない女」みたいなピアノ・トリオの典型でジャケットが見るからに不吉な1枚。こういうジャケットの趣味はよく分らないが内容はきっぱりとした正統派。ベースが確実に太く弾力的に音楽の座を支えていてついうっとりと聴きいってしまう。ごつい。
(4)は以上の3枚に比べると少し現代風にすかしている。がしがしドラムがジョー・チェンバース。エシートのベースとともにざっくりとしたモダンなリズムを形成してこりゃなかなかなものだ。何曲か「これは!」という曲があるのもめっけ物。
(1)HANS ULRIK TRIO / BELIEVE IN SPRING (STUNT RECORDS / STUCD07182 / 2,510円-税込)
(2)IGOR PROCHAZKA TRIO / EASY ROUTE (JAZZMADRID / JM0001CD / 2,510円-税込)
(3)NAJ PONK / BIRDS IN BLACK (GALLUP MUSIC / GALLUP017/ 2,825円-税込)
(4)FRANCESCO MACCIANTI / CRYSTALS (ALMAR RECORDS / 0080103 / 2,615円-税込)
2008/09/19
寺島靖国の赤道直下 2008.SEP
ジャズというのはある種「隠す」のが魅力の音楽だ。ポップスなんかのように旋律にしても決して大また開きはしない。リスナーもそのへんは分っていてあんまり隠し過ぎてむづかしいのには剣突をくわすけれど隠されるのをけっこう楽しみ、喜んでいる風がある。ところがここに
完全なる大また開き盤が現われたのだから諸君、驚いてくれ。アダムもイブも葉っぱの1、2枚は着けているというのにこの盤ときた日にはベストに無防備。アタマのてっぺんから足の先端まですべて音楽が分ってしまう。こういうのをビギナーに聴かせたら「わたしってジャズの天才かしら」てなもんで日本中ビギナーだらけになるだろう。演っている曲が「イン・ザ・ムード」「真珠の首飾り」「センチメンタル・ジャーニー」とくればグレン・ミラー曲集だがこれからピアノ・トリオでスィングするところがすばらしい。特に「イン・ザ・ムード」などモノホンのミラー楽団とこのピアノ・トリオとどちらがいいか、2、3分考えて答えが出ず頭をかきむる人が続出する。惜しいのはブラッシュを多用してシンバルが少ないこと。そのためリズムがやや重目になっていること。それが却ってピアノ・トリオの重厚感を出していていいって言えばいいんだが。
(2)のビンセント・ガードナー盤は久々のワン・ホーンtbの快作だ。ギター先導の7曲目「Just one of those things」をさるジャズ・クラブでかけたらいやこれが受けたのなんの。当方のひとりよがりと非難されると思ったら絶賛の嵐、また嵐、自分が吹いたようにいい気分になった。tbの音もいいけどこのジャケットがいいやね。この角度で見るtbはどのほかの楽器より恰好よし。着ているシャツがまた、えぐいや。ビンセント・ガードナー、ひいきにしてくれ。
(3)の澤野盤、ピアノの音が相変わらず深海の宝石を思わせてそこが凡百のピアニストとまったく違う。1曲目の「Frank Mills」。これトヌー・ナイソーの「マイ・バック・ページ」。ほら、例のキースがVortex盤で全ジャズ・ファンの耳に一撃を加えた1曲。
(1)BEE GIE ADAIR / SENTIMENTAL JOURNEY (VILLAGESQUARE / VSD3055 / 2,720円-税込)
(2)VINCENT GARDNER / VIN-SLIDIN' (STEEPLE CHASE / SCCD31645 / 2,510円-税込)
(3)TONU NAISSOO / FOR NOW AND FOREVER (ATLIER SAWANO / AS082 / 2,500円-税込)
2008/08/19
寺島靖国の赤道直下 2008.AUG
なんとかして人と違うことをやりたいのがジャズメンの本性だが人と違うことというのはリスナーからケンツクをくわされる率が高い。大抵のフリージャズなんていうのはそういう代物だが、そのあたりのサジ加減の旨いのが
ヘルゲ・リエン。現代ジャズ界のペテン師とは言わないが策士である。これ以上ムチャ演るとリスナーが寄ってこない。愛想をつかされる。その加減が分かっていてギリギリのところで自分と妥協しリスナーにエサをまく。そのエサに現代ピアノ・ジャズを愛する一部のファンが飛びつくのである。イヤらしい言い方をしたがヘルゲのそのへんの呼吸を見破るとおお可愛いものよ。では聴いてやろうじゃないか。そういうヘルゲの上をゆく気分に到達。リスナー上位の聴き方が出来るというわけだ。そんな上等な気分で聴く
今作(1)はオール自作ながら仲々のものだ。
1曲目など私、大好きである。先ほどエサといったがこの人のマキ餌は旋律。好旋律。普遍的旋律。人のやらない変形リズムパターンの中だからそいつが生きるという側面がある。おぬし、やるものだのう。ソロの断片的フレーズの中にも旋律の才能が瞬間的にほとばしる。これだけ旋律の力があればスタンダードをやりたくない気持も分からないじゃない。スタンダードにあきたリスナーにぴったり。私は全面的に賛成しないけどね。特にスノッブ精神とズの高さにね。そう簡単にスタンダードはやらないぞという男をもう一人。
(2)のアビシャイ・コーエン。スタンダードをやらないならそれに替わる立派な自作曲をもってこいよな。その声に答えての全
11曲。ギラリと光る曲想ではないが、言ってみれば微光を放つ曲群。それだけに簡単にあきが訪れずロングヒアリングに耐える。シャイ・マエストロというピアノが名前の通りシャイなピアノを弾く。ヘルゲの反対側にいる人。正しく、飾り気がなく、小学校の校長先生の弾くピアノを思わせる。毒を喰らわば皿まで、ではないが次も
オール自作曲の(3)。このところ「森ジャケ」、「木ジャケ」はひねくれたジャズの象徴になっているがこのトリオは極めてまとも。ピアノはクラシカルでジャズっ気は少ない。聞き流すにはもってこいだ。ハイ・レベル・ファン向きの高級イージーリスニング・トリオだ。
2008/07/20
寺島靖国の赤道直下 2008.JULY
(1)は見るからにいい面構えのジャケットでこれはやってくれそうだと思ったら案の定で4曲目の「ムーン・リバー」が特上物だった。大体からして私は「ムーン・リバー」が嫌いである。曲名も曲想もめめしい。大の男が聴く曲かよ、と思う。ところがジョナサンのピアノにかかると「ムーン・リバー」が「ムーン・リバー」じゃなくなるのだ。別の「ムーン・リバー」に変貌するのだ。タイムの取り方1つで衆知の曲が別曲に変わってゆくのをこのように鮮やかに目の当たりにするとこれだからジャズはやめられないなと思う。ところがそのうちテンポが段々早くなる。するとタイム感覚が普通になって、ああなんたることだ、当たり前のつまらない「ムーン・リバー」に戻ってしまった。だから私はテンポがスローの間だけ聴く。基本的には自分のオリジナルとモンクの曲でCD1枚が構成されている硬派盤である。私は普通のスタンダード曲集に飽きた時に聴く。一寸ピリッとした気分になりたい時に聴く。ジャズの高尚な部分をとり入れたい時。(2)のジャケットも悪くない。美女ジャケに食傷した時こいつをじっと眺めてハイグレードな気分に浸ったりする。いかにもボール紙的なボール紙で出来ていて簡素な作りが逆に豪華なイメージを作っている。やるものである。ドラムではなくパーカッションというのも一くせあるピアノ・トリオになっている要因だ。カーラ・ブレイの名品「アイダ・ルピノ」をパーカッション入りでやる人を君は知っているか。こういう暴挙?を敢えてやって全然上品に仕上がっているのがこのピアノ・トリオの聴きどころだ。しかし絶対の聴き物曲は4曲目のセルジオ・アルバという人の書いた「EL CUATRO DE TULA」。近頃こういうエスニック調の曲名に惹かれて聴くことが多いが結構当たったりして、もう一度言うがジャズはこれだからやめられない。ボーカルの(3)。1曲目のタイトル曲、サイコー。ジャズは雰囲気で聴くもの。大手を振ってそう定義したくなってきた。
(1)JONATHAN BATISTE / LIVE IN NEW YORK : AT THE RUBIN MUSEUM OF ART / PRIVATE PRESS / 01529 / \2,300-税込)
(2)NEW POWER TRIO / THE NEW POWER TRIO / PRIVATE PRESS / 72815 / \2,195-税込)
(3)MELODY GARDOT / WORRISOME HEART / UCJ MUSIC / \1,355-税込)
2008/06/25
寺島靖国の赤道直下 2008.JUNE
ジャズ・ファンの吹き溜まりがレコード店だ。必らず何人かの知り合いと顔を合わす。昨日は大工の棟梁と出合った。以前はオリジナル廃盤にしか目のゆかなかった人だがこの頃はCDのピアノ・トリオを聴いているという。嬉しくなった。何かいいのを推選してくれというので5~6枚手渡したが気に入ってくれたかどうか。こういうページでの推挙とは違って直接の手渡しは100倍ほどはね上がる。今ごろ、このやろうなどと湯気を立ててなければよいが。その1枚が
(1)の『トリオ・トーク』で決め手はやはり曲の大部分がスタンダードないしはジャズメン・オリジナルで占められていること。そしてそれらの中にたった1曲、「ブルース・オン・ジ・エッジ」なる自身の作品が据えられている。これだ!と目星をつけた。ドラムがウィナード・ハーパーときて曲名が「崖っぷちのブルース」なら間違いなしと踏んだがその通りでウィナードのピシピシとムチを叩くような彼特有のシンバル・ワークが小気味のいいことおびただしい。次はドラマーに生まれ変わって22世紀はこんなふうに小気味よく生きてみたいものだと思った。勿論ピアノは難解に陥らず、重箱の隅に逃避せず、気っぷうがいいから頭領にぴったりだろう。
(2)Tbのワイクリフ・ゴードンの私的最高作が出た。おお、珍しや、ドラムがケニー・ワシントン。王道の王者だ。そのせいかどうか、ワイクリフは頭ではなくハートで吹いており、さらに2トロンボーンの編成をとり1曲づつバラードを唸るという念の入れようだ。やっぱりなんでもジャズは王道でいかなけりゃ駄目なのよ。王道の中で個人的趣味を生かして勝負をかける。その姿が結局美しくそして成功率が高いのだ。王道を探求追跡しつつ、しかし決して質を落さない
澤野工房の(3)。澤野の音楽ほど御託の要らない音楽はない。
(1)LAFAYETTE HARRIS JR. / TRIO TALK (AIRMEN RECORDS / AR-009 / \2,405-税込)
(2)WYCLIFFE GORDON / BOSS BONES (CRISS CROSS / CRISS1302CD / \2,825-税込)
(3)THOMAS FINK / TIME TO SMILE (ATLIER SAWANO / AS075 / \2,500-税込)
2008/05/20
寺島靖国の赤道直下 2008.MAY
せっかくトロンボーンという楽器をはじめたのでその魅力をおすそ分けしたい。私一人でこんなに幸せにひたっていては申し訳ないという気分だ。これまではトローンボーンというと主としてスタイルで聴いてきた。だからJ・J・ジョンソンとC・フラーぐらいしか浮上しなかった。音色で聴いてごらん。まったく新しい別の道が開けるから。アービー・グリーンが浮かび上がってくる。目の前に大きく佇立する。音色で聴かなければ彼の魅力は分からないのだ。音で聴かれなかったから彼は人気下位の方で甘んじていたのだ。もうこれで上位間違いなしという何枚かがほとんど一挙に発売された。時ならぬアービー・グリーン・ブームである。大ファンの私としてはただただもうひたすらに嬉しいのである。ベストは(1)。オリジナルはたしかコマンドだ。Persuasiveシリーズの2枚が入っていてグリーンとしては比較的珍しい。全24曲、どれをとっても美女のすべすべの肌をなでるような美音が満面の笑みを浮かべている。しかしやるせない音も彼の得意技で「ラブ・レターズ」のようなやるせない曲で彼のやるせなさはもう最高。この音色(ネイロと読んでくれ)が分かってあなたのジャズ・ファン度は一歩前進だ。恐いのはC・フラーやB・グリーンなどのガラガラ声が聴きたくなってしまうこと。(2)『Blues and Other Shade of Green』はABCとバンガードの2本が一本化されたもの。(1)と違ってコンボの編成でジャズっぽいがジャズぽくない(1)の方がアービー・グリーンらしくていいというのが私の意見だ。主としてバラードを拾って聴く。すると(1)の味わいがやっぱりあるんだな。美音強いんだから凄いんだ。弱々しい美音ではないのだ。100の力を10にふり絞って吹くから凄いのだ。90のガサツな音を捨てて10だけ抽出したこの美音を聴いてくれ。
(1)URBIE GREEN BIG BAND & SEXTET / THE COMPLETE PERSUASIVE TROMBONE (LONEHILL JAZZ / LHJ10308 / \2,195-税込)
(2)URBIE GREEN / BLUES & OTHER SHADE OF GREEN (JAZZ BEAT / 504/ \2,300-税込)
(3)URBIE GREEN BIG BAND / COMPLETE 1956-1959 RECORDINGS (LONEHILL JAZZ / LHJ1030 9/(2CD) \3,140円-税込)
2008/04/21
寺島靖国の赤道直下 2008.APR
(1)のマイルス・ブラック。なんたって名前がいいやね。ジャズメンにこれ以上の名が望めるか。これに比べればマイルス・デイヴィスなぞ平凡なものよ。マイルス・ブラック、非凡なピアノを弾く。内にこもるタイプだ。冬眠中の小動物を想像させる。その呼吸はひっそりと大きい。多用するのはシングル・トーンだ。タイトル曲やバーンスタインの「サムウエア」といったスローがいい。単音でゆっくりとまくし立てる。そんな風情がいい。「ムーングロー」の古風に聴こえる弾き方が新しい。いや、マイルス・ブラックに古いも新しいもない。そこがいい。新しいか古いかなんて弾き方、疲れて仕方ないものだ。音楽そのものに没頭する。それが一番嬉しい弾き方だ。マイルス・ブラックは音楽そのものに没入させてくれるのだ。録音の音は小さく、いささかいじけている。そこがまた、音楽と合っているんだな。ブルーと黒のジャケットもいいじゃないか。(2)Mike Melvoin Trio。いろいろ考えたが出てこない。味わい深いとしか言いようがない。それでいいじゃないか。昨今の稀有な要素だ。王道派にお薦め。スタンダードと自作の散らし方がうまい。M-4の自作ブルースが最高。人生経験を重ねる。それによってしか得られないジャズ演奏というのがありそうだ。味わい深さはそこから出るのか。ふとそれを考えた。(3)の木のジャケット。この手の作品は折れ曲がった木のごとく、屈折したものが多い。避けていたが薦められるままに購入してみると、これがいい。冷んやりとあたたかい。タイトル曲の「NORR」が気に入った。今どき屈折のないジャズならラテン系だ。(4)の『La Luna Negra』。ミシェル・カミロの「オン・ファイア」もなつかしいが『La Luna Negra』は先のMike Melvoinの作品と知って世間は狭いな、と。10数枚購入した中から4枚選んだ。あとBeegie Adairの『Dream Dancing』も普通のよさが光った。
(1)MILES BLACK / SOME ENCHANTED EVENING (CELLAR LIVE / CL80307 / \2,195-税込)
(2)MIKE MELVOIN / YOU KNOW (CITY LIGHT / 607325001127 / \2,405-税込)
(3)TINGVALL TRIO / NORR (SKIP RECORDS / SKP90772 / \2,195-税込)
(4)JOE CARTWRIGHT / LA LUNA NEGRA (MUSIC LAFAYE / LMCD 1229 / \2,195-税込)
(5)BEEGIE ADAIR / DREAM DANCING (GREEN HILL MUSIC / GHD5227 / \2,510-税込)
2008/03/20
寺島靖国の赤道直下 2008.MAR
夕刊をながめていたらクラシックの有名なオーボエ奏者がこしゃくなことを言っている。日本人の聴衆は総じて保守的でよく知っている曲を気持ちよく演奏してくれればいい。対して欧州の聴衆は癒しより刺激を求める。常に新しいものを提供していかなければ満足してもらえない。新たな表現との出会いも音楽を文化として育て根付かせるきっかけになる。このオーボエ奏者の言うことはジャズに当てはめても同じ。我々日本人は保守的でジャズを癒しとして聴く人が多い。たまには刺激もいいが私など大抵、癒しで聴く。音楽とはそういうものだろう。それはそれでいいじゃないか。保守的な日本人の温和でやさしい特性がそういう聴かせ方をさせるのだ。昔、バイキングで外へ攻めていって女をかっさらっってきた野蛮人とは違うのだ。それかあらぬか、最近の欧米ピアノ・トリオ。新たな表現とやらの美名のもと、わけの分からぬ、曲の態をなさない、一人よがりが多く出始めた。よくない。大変よくない。ピアノ・トリオは80%の保守的癒し系のファンで成り立っている。そういう人たちが買わなくなってしまったらどうするのだ。新しいものがいいのではない。新しくていいものがいいのだ。ピアノ・トリオは今、取捨選択がとても大事になった。今月の、保守的癒し系。そういう特質にゴツンと鋭いグルーブ感を加えた秀作を3枚推薦しよう。ニュージーランド盤の(1)。女性ピアニスト。メロディアス、グルーブ感ばっちり。間のとり方最高。音色豊かにして大胆なタッチ。久しぶりの力演に出会ってホクホク状態なり。ジャズ・ファンは体裁の見せ方に違和感を憶える人もいるだろう(2)の寺村容子盤。音楽内容は外見と違って、いや外見がこれだけに一層仰天するはず。曲よし、リズムよし、やさしいグルーブ感よしの三拍子そろった傑作。寺村容子のピアノには心があってそれが最高なのだ。淡い心。(3)。ジャズは古いものが新しい。それがよく分かるピアノ・トリオ。こうした保守的なトリオで心が弾んでくる。それが刺激というものだ。
(1)CHARMAINE FORD / LIVE AT SANDWICHES (FORD MOTION RECORDS / FMR9003 / \2,195-税込)
(2)十五夜 / うさぎの大冒険 (月見レコード / TKM071 / \2,500-税込)
(3)JULIEN-FRANCOIS ZBINDEN TRIO / IT'S THE TALK OF THE TOWN (TCB / 27992 / \2,930-税込)
2008/02/20
寺島靖国の赤道直下 2008.FEB
相変わらずハンを押したように毎日ピアノ・トリオを聴いている。いつ飽きるかと恐れているがその気配はさらさらない。トリオのサウンドを楽しんでいるのと3つの楽器を各々独自に聴き分けて喜んでいるからだろう。今月のベストはミシャの1997年吹込み2008年発売盤の(1)。ミシャがミシャになる前のミシャがここで聴けるという寸法だ。ピアノに未だ人が入り込んでピアノ以上になっている要素が少ない。しかしミシャの萌芽はやはりそこかしこに表れていて、暗い心情、抗しがたい焦燥感、執拗に繰り返される同一フレーズなどはすでに立派にミシャを感じさせるものだ。あぶない世界に入る一歩手前というところがいい。「WHERE IS THE SUN」が最高だった2007年盤が評判をとったので1997年盤が再発されたのだろう。圧倒的な推薦曲は2曲目のオリジナル「THE ARABIC THANG」。この人はスタンダードよりオリジナルがいい。そういう聴き方をするとこのミュージシャンが見えてくる。特異な存在として。エリントンやモンク、ミンガス、エバンス等に通ずるミュージシャンだ。もっともらしいことを言ったが、なぜ私が彼を好きなのかを言えば、要するにソロが私の好きな具合にメロディアスなのよ。そこを外さないところが凄いのよ。(2)のギル・コギンズも一筋縄ではゆかない。剛情者である。リスナーなどいてもいなくてもいい。自分のために弾いているんだという塩梅で、あくまで自己満足の世界。限りなく屈折感の発達しているのがいい、ミンガスの「SMOOCH」という曲のよさをここで発見した。それとニール・ヘフティの「REPETITION」。両曲とも耳が縮むほど渋い。いがらっぽい。(3)は音楽政策がよくない。ソニー・クリスの曲をクリス風に吹いても白けるだけ。音色の粘着質、ねっとり感がこの人、ナゲル・へイヤー盤で以前サンタナの「ヨーロッパ」を吹いた。それがよかった。ねっとりで生きる曲を集めて1枚作るべし。
(1)MISHA PIATIGORSKY / PURE IMAGINATION (MISHAMUSIC / MM3012 / \2,195-税込)
(2)GIL COGGINS / BETTER LATE THAN NEVER (SMALLS RECORDS / SRCD0028 / \2,510-税込)
(3)DYLAN CRAMER / REMEMBERING SONNY CRISS (CASA / CASA1313 / \1880-税込)
2008/01/18
寺島靖国の赤道直下 2008.JAN
私がこのページで推めるものはすべて歌の心を持った人たちが演奏するジャズである。ピアノ・トリオをメインに聴くがヨーロッパやアメリカ産のCDではどうしてもそういうものが少ない。私小説的な心象風景を画いたり、新機軸を求めたりして成功に至らず空中分解するものが大部分だ。まず人の心に通ずる歌をうたう。ピアニストなどミュージシャンはそこから音楽を出発させて欲しい。作曲したら自分で歌ってみる。文章を音読するのと同じである。この人は自ら歌っているかどうか。聴き手は最初にそこのところに注目してみるのも一つの手である。自衛手段というか。(1)のKURT RIBAK TRIO。WITH A SONG IN THERE HEARTだ。ベース・リーダーだけにあっけにとられるほどスイングしながらきっちりと歌の心を忘れていない。あれもこれも旋律にすぐれた良曲ばかりでKURT RIBAK TRIOなんでもいいから聴きたくてたまらない。なぜか2003年、2005年吹込みが今頃出版されているがまだありそうだ。加州のバークレーまで確かめに行きたくなった。(2)のオムニバスも歌の心に溢れている。歌い方が若干ずれていてそこが完全に気持ちいい。ピアノに限らずなんでもずれて気持ちいいのがジャズでは最高なのである。マクリーンとか。前作に比べずいぶん聴き易い。真正直すぎない。ずれ過ぎない。その中間の塩梅がむずかしいのがジャズだが成功すればほれこの通りのオムニバス。気分のいい傾斜感が最高だ。少しまともだが(3)のアレックス・リール。「アイダホ」ばかり聴いている。アレックス・リールのドラム・ソロが長い。嫌ではない。昨今すっかり影をひそめた形のドラム・ソロだがたまにはこのように派手にいって悪くない。しかし「アイダホ」がこんなにいい曲だったとは。ドラム・ソロと合うのが「アイダホ」という曲想だ。『エストニア・ウィンド』のトヌー・ナイソー、ジョー・ギルマンのスティービー・ワンダー集VOL.2、1月発売のルティーン・ジャズ・クインテットが各々よかった。
(1)KURT RIBAK / MORE / RODIA RECORDS / 2047 / \2,090-税込)
(2)エルンスト・グレールム / オムニバス・トゥ / DISK UNION JAZZ / DUJ020 / \2,500-税込)
(3)ALEX RIEL / HIGH AND THE MIGHTY / COWBELL MUSICC / 35 / \2,090-税込)