柳樂光隆氏 監修レーベル 『Jazz The New Chapter Records』 ニューアムステルダムレーベル作品5タイトルをリリース

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2017.03.29

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Jazz The New Chapterレーベルが紹介するのは、マリア・シュナイダー以降の現代ジャズの
ラージ・アンサンブルやインディーロック、エレクトロとも隣接する場所でうごめいている今、
最も刺激的なムーブメント《インディー・クラシック》を発信するレーベルとしてのニューアムステルダムだ



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New Amsterdamというレーベルの存在を知ったのはダーシー・ジェームス・アーギューの『infernal Machines』というアルバムだった。手に取ったのは、マリア・シュナイダーのオーケストラにも参加しているNYジャズの敏腕たちがクレジットされているビッグバンドだったからだったと思う。実際にこのアルバムからマリア・シュナイダーからの影響は大いに感じられたし、そういった21世紀のジャズシーンにおける新たなジャズ・アンサンブルの可能性の先端にあるものだと思う。しかし、僕はそのサウンドに宿る更なる新しさにこそ驚いた。深いディレイがかかったような音響的なドラムソロをアルバム冒頭のイントロに配したそのサウンドは、ジャズの枠だけでは捉えられないものだということがすぐにわかるものだったし、このアルバムがエレクトロニックミュージックやインディーロックなどを通過した先にあるジャズ・アンサンブルだということは明らかだった。そして、そこにはクラシックや現代音楽の要素がかなり入り込んでいるのも容易に聴きとれた。複雑かつ挑戦的にもかかわらず実に柔らかく豊かで時に肌を刺激するような多彩な感触をもった気持ちのいいハーモニーにすぐに虜になった。しかも、それらの様々な要素は混然一体となっているさまに、新たなジャンルが鳴っているような感覚さえ感じた。僕は今まで、こんなジャズは聴いたことがなかったし、こんな音楽にも出会ったことがなかった。

そこからダーシーやこのニュー・アムステルダムというレーベルを調べていくと、どうやら今、クラシックを学んだ音楽家たちがBandcampやSoundcloudなどを駆使したり、インディーロックやヒップホップ、現代ジャズやビートミュージックなどとのクロスジャンル的なイベントを仕掛けたりと、これまでのクラシックの世界とは別の枠組みを新たに作り出そうとしている動きが静かに広がっていることを知る。そこにはインディーロックバンドのナショナルのギタリストのブライス・デスナーや、エレクトロニックミュージックのシーンを席巻する気鋭のプロデューサーのワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの周辺の音楽家、更にはビョークなどとのコラボレーションでも知られるニコ・ミューリーなどが関係があり、Bedroom Communityと共振していることなどを知った。そういった動きを丹念に追っていくと、スフィアン・スティーブンスやベッカ・スティーブンスの名前を見ることができたり、ベン・フォールズやダーティー・プロジェクターズがそういった流れに関心を持っていることも見えてきたし、現代のジャズシーンとも交通があることを知った。そして、このダーシー・ジェームス・アーギューはそんな流れの中でも捉えることができる気鋭のジャズ作曲家だということが分かったし、NYでのその発信地の一つがニューアムステルダムというレーベルだということが分かった。そして、僕はその動きの一端を、2015年にリリースした『Jazz The New Chapter 3』の中の《TODAY'S LARGE ENSEMBLE》《AROUND INDIE CLASSICAL》という二つの特集で紹介した。

ここでJazz The New Chapterレーベルが紹介するのはそんなジャズとも隣接する場所でうごめいている今最も刺激的なムーブメント《インディー・クラシック》のレーベルとしてのニューアムステルダムだ。今、僕が最も注視しているレーベルでもある。
-柳樂光隆(Jazz The New Chapter)-


▼▼Jazz The New Chapterレーベルリリースタイトル▼▼

「DARCY JAMES ARGUE Infernal Machines」の画像検索結果

ダーシー・ジェームス・アーギューのデビュー作『infernal Machines』は、デビュー作にもかかわらず、グラミー賞のベスト・ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバムにノミネートされた。この作品はマリア・シュナイダー以降のジャズ・アンサンブルの最高傑作のひとつと言えるだろう。クラシカルなホーンアレンジや浮遊感、飛翔感など、マリアの影響も色濃いが、幾何学的ともいえるサウンドの配置やミニマル・ミュージック的なクールな質感はオーガニックで自然を想起させるマリアのサウンドと対極のもの。その精緻なアンサンブルにより、まるでプログラミングやエフェクトを用いたような効果や質感を生み出すダーシーの人工的な音楽は、むしろエレクトロニックミュージックやインディーロックのリスナーのために開かれているように思う。
■解説:挾間美帆
■監修:柳樂光隆(Jazz The New Chapter)



DARCY JAMES ARGUE / ダーシー・ジェームス・アーギュー / Brooklyn Babylon / ブルックリン・バビロン

ダーシー・ジェームス・アーギューの2作目『Brooklyn Babylon』は、前作に続き、グラミー賞のベスト・ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバムにノミネートされた傑作だ。ヴィジュアル・アーティストのDanijel Zezeljとのコラボレーションでもある本作は、クロアチア出身でもあるダニジェルの存在がサウンドに大きく影響している。マリア・シュナイダー以降のクラシカルなジャズ・アンサンブル要素を核にもちつつ、ミニマルミュージック的な要素やエフェクティブなサウンドを効果的に使いながら、そこに全く質感の違うクロアチア=バルカン半島のジプシー・ブラス的なサウンドを取り入れ、オリエンタルでグルーヴィーに仕上げた実験作でもある。トライバルでファットで祝祭的な要素とクールで人工的な要素がマッシュアップされる本作からは、チャールス・ミンガスやレスター・ボウイ、ドン・エリスといったジャズ史の異端だけでなく、ティグラン・ハマシアンやアヴィシャイ・コーエンといった現代の異端たちとも共通するもの立ち上ぼる。21世紀ジャズラージアンサンブルの名盤。
■解説:小室敬幸
■監修:柳樂光隆(Jazz The New Chapter)



DARCY JAMES ARGUE / ダーシー・ジェームス・アーギュー / Real Enemies / リアル・エネミーズ

ダーシー・ジェームス・アーギューの3作目『Real Enemies』は脚本家Isaac Butlerと映画監督Peter Nigriniとのコラボレーションが契機になっている。キャスリン・オルムステッドが2009年に出版した「Real Enemies:陰謀論とアメリカ民主主義、第一次世界大戦から9/11まで」からインスパイアされた本作は1910年代から現代までの100年を音によって描いたものであるのかもしれない。クラシックはいうまでもなく、トラディショナルなスウィングジャズから、サド・ジョーンズ=メル・ルイスやボブ・ブルックマイヤー的なビッグバンドから、サン・ラを思わせるスペイシーなフリージャズアンサンブル、更にヒップホップのサンプリングネタ的な80年代のジャズファンク、更にジャズロック、ラテンジャズまでをもマッシュアップしながらストーリーを編んでいく手法は、前作以上に自由で完成されている。それが古臭い絵巻ではなく、現代的なサウンドストーリーになっているのはダーシー特有のエフェクティブなアンサンブルと、ヴィンテージのシンセやくすんだトーンのギターなどによる徹底的なテクスチャーと音響感覚へのこだわりだろう。ビッグバンドという楽器の可能性を示した重要作だ。
■解説:八木皓平
■監修:柳樂光隆(Jazz The New Chapter)



FINNEGAN SHANAHAN / フィネガン・シャナハン / The Two Halves / トゥー・ハーヴス

スフィアン・スティーブンスmeetsオーウェン・パレットと評することさえできる夢のようなチェンバー・ミュージックを作り上げた、若干22歳のマルチ・インストゥルメンタリスト、フィネガン・シャナハンのデビュー作が本作だ。トラディショナルなアメリカ音楽とクラシック~現代音楽をこともなげに接続させながら、インディー・ロック的なコンテクストとも矛盾しない越境的なサウンドを演奏するのは、彼が創立メンバーでもあるアンサンブル、コンテンポラネオスだ。管弦楽アンサンブルとエレクトロニクスを駆使したサウンドは、クラシカルでありながらポップでカラフル。そんなサウンドの上にフィネガン本人による切なさをはらんだ不思議な魅力のボーカルが乗る。インディー・クラシックの最先端にして大本命。そして、インディーロックやポストクラシカルのリスナーも必聴の傑作。



DANIEL WOHL / ダニエル・ウォール / Holographic / ホログラフィック

エドガー・ヴァレーズとアルカを一直線に繋げるダニエル・ウォールのサウンドは、20世紀の現代音楽とテン年代のデジタル・ミュージックにおける血縁関係を教えてくれる。色鮮やかであると同時に無機質なパーカッションが、繊細に構築された電子音響と融合することで達成されたエクスペリメンタル・ミュージックは唯一無二だ。最先端の無調音楽だけが持つ、ポスト・ヒューマン的なロマンティシズムがここにはある。NYのミニマルミュージックグループ、バング・オン・ア・カンなどがフィーチャーされ、生演奏とサンプリングとエレクトロニクスが入り混じる「Holographic」では、現代音楽とエレクトロニックミュージックのミニマリズムがクールネスが折り重なりながらも、一方で教会音楽的な響きが挟まれる瞬間もあり、時にエモーショナルでもある。共同プロデュースにBedroom Communityからのリリースで知られ、ベン・フロストやワンオートリックス・ポイント・ネヴァーやベンフロストとの仕事でも知られるポール・コーリー。
■解説:松林弘樹
■監修:柳樂光隆(Jazz The New Chapter)