やはり、急いでいる時というのはCD選びをしてはいけない。ジャケットがいいのでつい店頭での精査をおこたりロジャー・ケラウエィの『ヒーローズ』とARBOSレコードのダリル・シャーマン(p,vo)『Guess Who's In Town』を買ったのだが、なんだ、これは。ドラムが入っていないではないか。ピアノ・トリオを7枚購入してその内2枚がドラムレスとは私としたことがなんという失策、とりかえしのつかないエラーをやらかした。ドラムレスのトリオは私にとって気の抜けたビールどころか、ジンを入れ忘れたジントニック、そのものだ。しかしそんな最悪の事態でも救いはあるもので、ケラウエィ盤の「自由への賛歌」はグッと来る。ドラムがあろうが無かろうが、いつどんな場合でもいい曲というものはあるもので、それがこれだが、いやピーターソンが作曲したこの曲、名曲というのはジャズ最大の楽しみだなあと改めて認識した次第。本日の名収穫NO1、それがその名前からして格好いいジェイムス・ピアソンなる英人の『ザ・ベスト・シングス・イン・ライフ』だった。もちろん私の推めるものだから仰々しいピアノ・トリオではない。棚の片隅に隠れてひっそり息をしているそんな愛しい奴よ。だからこそのピアノ・トリオなのだ。ホーン物に対抗しようとか超えてやろうとかそんな蛮勇がゼロであってこそのピアノ・トリオ。私はここでハンコックの「ア・トリビュート・トゥ・サムワン」なる名曲を初めて知った。あのハンコックかい?別のハンコックに聴こえるがな。もう一つ、ディズニー映画の中の「夢は自分の心の作る願い」。また一曲、好きなのを増やしてしまったではないか。やれ、嬉しや、である。スロバキア人の作った『Soul Station』(2)。正しい原始的なスイングは最早、北米、北欧、日本にはない。東欧あたりにしか発見できない。ジャズ発展途上国が作ったここ数年の最高のピアノ・トリオと聴いた。原始的とはいってもそれは彼らのジャズに対する気持ちの持ち方であり、プレイは原始的に洗練されたものだ。洗練の度が過ぎる現代の大抵のピアノ・トリオへの強力ないましめがここにはあった。どう時代が変わろうと高度の洗練はジャズには危険だ。レナート・セラーニ(3)。この中の「ダニューブ川のさざなみ」が私に今新たな幸福をもたらしている。チャノ・ドミンゲスの(4)。これまでの最もジャズ寄りの作りの一枚ではないか。ショーターの「アナ・マリア」がこんないい曲だったとは。
(1)JAMES PEARSON TRIO / THE BEST THINGS IN LIFE (DIVING DUCK)
(2)NOTHING BUT SWING (KLAUDIUS KOVAC) / SOUL STATION (ALLEGRO)
(3)RENATO SELLANI / UN PIANOFORTE PER DUE INNAMORATI (REARWARD)
(4)CHANO DOMINGUEZ / ACERCATE MAS (NUBA) |