それにしても頃合いがよかった。ユニオン吉祥寺店の階段を昇りかけた時のことである。「ユー・アー・マイ・スリル」の旋律が上から聴こえてきた。オッ、これはいける。とっさにそう思った。ジャズっていうのは、とっさなのである。このとっさの判断というのは実に自分に忠実な感覚で、CDをくまなく精査してあれこれ考えた末に購入して失敗するケースというのが私の場合はけっこうたくさんあったりする。
とっさの収穫盤が(1)のスチュワート・エルスター・トリオであった。ピアノに特に特徴があるわけではない。だから特徴を求める人には推薦しないがピアノに熱く接し、曲にあたたかくアプローチするピアニストがお好きな方はさぁどうぞ。無欲なピアノ・トリオ・ファンに幸せをもたらすというそういう一枚だ。棚の横にはもう一枚同じピアニストの盤が並んでいた。(2)がそれで見るとCDにざっくばらんな感じが横溢している。しかし「アローン・トゥゲザー」をやっていた。これで決まりだ。実にありのままの「アローン・トゥゲザー」でピアニストは曲と同等、時には曲以上に美しく弾いている。分かったことは、それが出来ないピアニストが曲をくずしたりばらけさせたりするっていうことだ。名旋律はそのまま弾けば名演奏になるのである。現代の三大トロンボニストがワイクリフ・ゴードン、デルフィーヨ・マルサリス、スティーブ・ディヴィスということになる。前二者の作品が発表された。ナゲルヘイヤーのワイクリフ盤はオムニバスで『もっぱらスタンダード』のタイトルが付いている。あちらさんのスタンダードというのが日本と違っていて面白い。「セント・ルイス・ブルース」「チェロキー」「ムード・インディゴ」「ジョージア」などがアメリカのスタンダードなのだ。これまでのワイクリフのベストと聴いた。最も分かり易いワイクリフであり、これを聴いて彼のそしてトロンボーンのファンになっていただけたら幸いだ。「スターダスト」や「チェロキー」など実によく歌っている。歌うトロンボーンなど現代にあるのかとお思いだろうが、いやその気持ちはよく分かるけれど、ここにきちんと存在していたのである。デルフィーヨのTROUBADOUR盤はブランフォードが共演しておりその意味で少し知性と緊張が入った。タイトル曲など肩をもんで上げたいくらい。本来のデルフィーヨはマルサリス兄弟の中で寛いだ旋律を大事にし好旋律を頻出させる人。そういう本質がよく出た「スクィーズ・ミー」や「ウィーバー・オブ・ドリームズ」を好んで聴くのがこの盤の正しい聴き方である。ブランフォードもこうした曲では無意識のソロをとっていて、いい。エルビン・ジョーンズ(ds)の参加が華となった。2002年の録音。エルビンは2004年に亡くなっている。
(1)STUART ELSTER / GET IT RIGHT! (PRIMROSE LANE)
(2)STUART ELSTER / IN WONDERLAND (STUART ELSTER)
(3)WYCLIFFE GORDON / STANDARD ONLY (NAGEL HEYER)
(4)DELFEAYO MARSALIS / MINIONS DOMINION (TROUBADOUR JASS) |