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2006/12/19
寺島靖国の赤道直下 2006.DEC


ジャズという音楽は一瞬先が闇。次がどういう展開になるか皆目わからない。それが素晴らしいジャズであり、ジャズたるゆえんはそういうところにあるのだという説が昔からある。ジャズの定義の一つになっており、格好よく響く。そう言い放った後の爽快さといったらないだろう。しかし私などは毎回それでは疲れてしかたがない。やっぱり「次はこう来る。ああやっぱり来てよかった」というジャズが8割。あとの2割がそうした暗闇ジャズ。そういう配分がいい。デビッド・ニュートンの(1)はまさにそれで買って安心、聴いて安泰の典型的ピアノ・トリオ。時々ライブで演奏が白熱し、3人の意気がぴったり合い、そこで互いに会心の笑みをもらす風景を見かけるが、そうしたいい意味での予定調和の美学というのがジャズには厳然として存在すると思う。そのことはライブを見てくっきり分かることである。そうした好ましい境地にさらにいっそうの緊張感を加えて最高のシチュエイションを作り出したのが(2)のシャフラノフ盤。この盤の私の第一印象をお伝えすると美しき波紋である。水面に広がる波模様を脈々と伝えるようにしてシャフラノフのトリオは新しい境地を示しているように見える。そのあたりの心境をジャケットはとても旨く伝達していてシャフラノフに改めて惚れ直した。もう一枚、視界良好のピアノ・トリオでゆく。フランス発の(3)はベース・リーダーの一枚でこれはCD一枚同じ資質ながら一曲一曲が微妙に別々の世界のニュアンスを持っているようでさながら展覧会の絵を見ているような趣だ。あきない。この場合完成度が高いというジャズ・タームは似合わない。だからこそ親近感が涌いてくるのである。<アイム・グラッド・ゼアズ・ユー>のやわらかな絵の前でしばし私はぼう然とした。前が見えるようで見えない。見えないようで見える。そういう絶妙なピアノ・トリオが(4)のアクト盤。ドイツのアクトは視界不良のレーベルと思っていたがこれは例外的に見通しが悪くない。前作3枚とは明白に音楽志向が異なる。しかしよくありがちな迷路にまよい込んでいない。私は近頃このあたりのややピアノ・トリオにしてはやや異質な空気感を好きになっている。正調から好ましい異調へというトランスファーはたいていのジャズ・ファンのたどりがちな道筋ではないか。いやなに、そっちへ行きっ放しというわけではない。いったり来たり、行きつ戻りつ、が楽しいんだ。そうやってジャズ・ファンはつつがない一生を送るのである。<バルカン・エアー>。これが私にとって忘れられない一曲となったがこの曲に代表されるように地中海~アフリカあたりの空気をただよわせたエスニックなピアノ・トリオとして珍重してゆきたい。一口にピアノ・トリオといってもいろんなパターンがあるからピアノ・トリオが好まれているのだ。あきられているんじゃないかと言われつつ長い生命を保っているのだ。これからもピアノ・トリオは不変に安泰だろう。(5)のマーク・コープランド、(6)のコリン・バロンは前3作のどれとも異なる風合いの作風を持つ。2人とも音楽を強固に特殊に自分のものにしているという点で類似しており、そういう意味では非常によく出来た私小説の一ページ一ページをめくる思いがする。ただしジャズとしての温度感は低い。特にスイス人の(5)はそうだ。低血圧の人向き、かもしれない。私は正常だからごくたまに聴くことにした。悪くないんだ。

(1)DAVID NEWTON TRIO / INSPIRED / BND RECORDS 2005
(2)VLADIMIR SHAFRANOV / NEW YORK REVISITED / ATELIER SAWANO 2006
(3)CEDRIC CAILLAUD / JUNE 26 / APHRODITE 2006
(4)ALBORAN TRIO / MELTEMI / ACT 2006
(5)MARC COPLAND / MODINHA / PIROUET 2006
(6)COLIN VALLON / LES OMBRES / UNIT RECORDS 2004


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