JAZZ徒然草

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2010.04.28

原田和典のJAZZ徒然草 第56回

『ジャズ・ミュージシャン3つの願い』を読むと、伝説の巨人たちがグッと身近に思えてくるぜ
いやー、面白い本と出会ってしまった。こういうのがポンと出ちまうと、やっぱり質量共にアメリカにはかなわねえやという気分になる。
 
 ジャズ・ミュージシャン3つの願い
ジャズ・ミュージシャン3つの願い』(ブルース・インターアクションズ)は、あなたがジャズ好きであればあるほど連続的な驚きを与えてくれることだろう。原題は『An Intimate Look at Jazz Giants』。“普段着のジャズ・ジャイアンツ”、もしくは“ジャズ・ジャイアンツ、そのくだけた姿”といったところか。著者はパノニカ・ドゥ・コーニグスウォーター(鈴木孝弥・訳)。誰やねん、その長い名前の人という声もきこえてきそうだが、“ニカ夫人”の本名だといえば、ああ、あのひとかと、会ったことがなくても親しみを覚えるひとも多いのではなかろうか(僕もそうだ)。セロニアス・モンクが「パノニカ」を、ホレス・シルヴァーが「ニカズ・ドリーム」を、ケニー・ドーハムが「トニカ」を(To Nicaをワンワードにした)、フレディ・レッドが「ニカ・ステップス・アウト」を、ジジ・グライスが「ニカズ・テンポ」を、ケニー・ドリューが「ブルース・フォー・ニカ」を捧げた女性、それこそニカ夫人である(ソニー・クラークにいたっては、彼女に「ニカ」、その娘に「ジャンカ」をプレゼントした)。ジャズ界での彼女の知名度ときたら、おちょう夫人やデビ夫人が束になってもかなうまい。『ジャズ・ミュージシャン3つの願い』で、別にニカ夫人は長文の原稿をものしているわけではない。1961年から66年にかけて、親交のあるミュージシャン(やジャーナリスト)に、「あなたの願いを3つ教えてください」と、アンケートを頼んだだけだ。しかし、その結果が面白い。短いものから長いものまで回答はさまざまだが、そのどれにも彼らそれぞれのキャラクターが反映されている。
フィリー・ジョー・ジョーンズチャーリー・パーシップのように「カネ、カネ、カネ」で、3つの願いを埋め尽くすミュージシャンもいれば、ソニー・クラークのように「カネ」と「世界中の女」を望む欲張りなひともいる。ソニー・ロリンズハンク・モブレーも「カネ」を強く望んでいるが、ジョー・ヘンダーソンは「ラヴ、ラヴ、ラヴだ!」と、愛こそはすべてという姿勢を貫いている(余談だがビートルズの「All You Need Is Love」は、“愛こそはすべて”というよりも、むしろ“愛さえあれば”といったニュアンスであろう)。
ビートルズの話が出てきたところで、バド・パウエル等と交流の深かったフランシス・ポードラスのコメントを紹介したい。彼はこう願っている。「ビートルズを素っ裸にしてステージ上で四つんばいにさせ、髪の毛を切り、それから閉じ込めてモンクの音楽を24時間聴かせること!」。ポードラスがアンケートの依頼を受けたのは恐らくビートルズが初めてアメリカを訪れ、社会現象的なブームを巻き起こした1964年のことだろう。この年の夏、バド・パウエルが5年ぶりにフランスから故郷ニューヨークに戻ってきた。そのときポードラスも一緒に“来米”し、ニューヨークのジャズ・シーンを見て回ったのである。
そのパウエルはこんな願いを残している。「医者に診てもらったり、病院に行ったりしなくていい状態」、「日本へ行くこと」。63年に来日したモンクあたりから“日本よいとこ”という話を聞いたのだろうか。パウエルにはぜひ一度来日して欲しかった。瀬川昌久氏、大江健三郎氏、内田修氏は海外で彼のライヴを体験したそうだが・・・。草津で湯治でもすれば病状(パウエルは人生の殆どを、疾病と戦っていた)も少しは良くなったかもしれない。
ベース奏者、ダグ・ワトキンスも「日本に行きたい」とコメントしている。61年に来日し、熱狂的な歓待を受けたアート・ブレイキーあたりから日本の話を聞いたのかもしれない。しかし彼は一度も来日することなく、62年2月に自動車事故で他界してしまった。悔やんでも悔やみきれない損失である。泣けるフレーズといえば、エリック・ドルフィーの「命ある限り、音楽を演奏し続けること」というコメントにも切なくなる。彼は64年、ニューヨークに進出してからまだ5年も経たないうちに世を去ってしまった。
いっぽう、嬉しさの伝わるコメントを残しているのがシンガーのジミー・ラッシングである。いわく、「オレの願いごとのうちに1つは、たった今、叶ってるよ! ここ、日本にいることだ」。ラッシングは63年5月にセロニアス・モンクと、64年3月にエディ・コンドンと来日している。当時の雑誌記事を読むと、日本のジャズ・ファンや評論家が彼の歌を聴いて「これがブルース・ヴォーカルというものなのか!」と驚き、感動したさまがありありと伝わってくる。
60年代はまた、東西冷戦の時代でもあった。そして人種偏見が今よりも表面化していた。ディジー・ガレスピーは「世界の恒久平和」や「パスポートのいらない世界」、エルヴィン・ジョーンズは「地球の平和」、ランディ・ウェストンは「貧困と病気の撲滅」を望み、ウィルバー・ウェアは「世界が、平和と調和の中にあること」、ウェイン・ショーターロニー・マシューズは「これ以上戦争が起きないこと」、ハービー・ニコルズは「世界大戦を回避させられるだけの権力を持つこと」、ハービー・マンは「すべてのいかれた連中が奴らのくそったれな爆弾を使ってふざけるのを止めること」、スティーヴ・レイシーは「戦争に対する資金をすべて、潜在的知性の研究に転用すること」を願った。ウェス・モンゴメリーの「あらゆる差別がなくなること」、キャノンボール・アダレイの「人種差別が、この地球上のすべての場所から取り除かれることを願う」、ケニー・バレルの「人種的偏見がなくなること」、テリー・ポラード(ピアノ)の「人種、宗教、性別などによる差別のない世界」、ジミー・ヒース「もしもこの世界がもう一度最初からやり直せるとしたら、すべての人間が同じ色に作られて欲しいね」、クラーク・テリー「すべての人の意識に何かを起こしたい。いまいましい、最悪の、人種差別を根絶させるための何かを」、といった意見も切実だ。
レイ・チャールズのバック・バンドにいたサックス奏者、デイヴィッド・ニューマンは「ハイになること」と答えているけれど、これはあくまでも60年代初頭の話。その数年後、彼はドラッグのために一時活動を中断せざるを得ない状況になる。出所後にアンケートをとっていれば違う答えが出ただろう。クリーンになったニューマンは、2009年まで息の長いプレイを続けた。
「元気があれば何でもできる」と言ったのはアントニオ猪木だが、体が資本と考えるのはミュージシャンも同じだ。大御所コールマン・ホーキンスは「申しぶんのない健康」、デイヴ・バーンズ(トランペット)やG.T.ホーガン(ドラムス)も「健康」を望んでいる。ドナルド・バードは「健康、教養、長寿」、スタン・ゲッツは「正義、真実、美」、チャーリー・シェイヴァース(トランペット)は「若さ、健康、幸福」が3つの願い。アニタ・オデイは「死ぬまでアクティヴでいたい」と答え、ルイ・アームストロングは「100年生きること」を願った。ソニー・ペインは「健康、富、幸福」、つまりヘルス・ウェルス・ハピネスと韻を踏んでいるのだが、このあたりのリズム感のよさはさすがカウント・ベイシー楽団で鳴らした名ドラマーだけのことはある。ちなみにジョン・コルトレーンの願いのひとつは、「今の3倍の性的パワーを持つこと」。なにかと神聖視されることもあるコルトレーンだが、彼もやはりオスだった。正妻とは別に愛人もいたし、ベロンベロンの飲んだくれだった時期もあった。そうした過程を経たうえで、晩年の彼はあのような崇高な音響を創造したのである。
ベーシストのスパンキー・デブレストは「バードランドからオレのギャラを全額もらいたい」と答えている。伝説的名門ジャズ・クラブのダーク・サイドを垣間見たような気分になるのは僕だけか(今マンハッタン44丁目で営業している同名の店は、旧「バードランド」とまったく関係がないはず)。
バリー・ハリスは「あらゆるソウル、ファンク、そしてロックンロール・ジャズの終焉」を願いのひとつにあげている。「ワーク・ソング」が大ヒットしたキャノンボール・アダレイのグループで名をあげ、リー・モーガンの『ザ・サイドワインダー』にも参加している彼の“本音”がこの発言だとすれば、相当なアイロニーである。サックス奏者ロッキー・ボイドの「毎年、50週仕事があること」という発言も意味深だ。ジャズタイムというレーベルに残した唯一の吹き込みであると同時にリーダー作でもある『イーズ・イット』のおかげで、どうにか今も熱心なジャズファンの記憶に留められているボイドだが、いったい彼はいつまで活動を続けていたのだろうか? どのくらい仕事にありつけたのだろう?
この『ジャズ・ミュージシャン3つの願い』には、知るひとぞ知るプレイヤーの発言も紹介されている。近年、進境著しいドラマーにアリ・ジャクソンという気鋭がいるが、50年代から60年代にかけては同姓同名のベーシストが活動していた。たしかアルヴィン・ジャクソンと名乗ることもあったはずだ。ヴィブラフォン奏者、ミルト・ジャクソンの弟である。ほかにもHank Haynie、Johhny Baracuda、Sonny Nevious、Al Doctor、Cherokee Conyers、Hyler Jonesなど、少なくとも僕には聞き覚えのない面々も登場してくる。たぶん当時のニューヨークのジャズ界ではブイブイいわせていた連中なのだろう。Yasuhivo Koyamaとはいったい誰なのか。Yasuhikoの誤植だとしても、てんで想像がつかない。Jack ‘J.R.’ Montroseなる人物はジャック・モントローズのことか、それともJ.R.モンテローズのことか? 後者だとすれば本名はフランク・アンソニー・モンテローズ・ジュニアなので、フランキーやトニーと呼ばれたとしてもジャックと名乗ることは、まずない。前者だとすれば本拠地の西海岸から一時的にニューヨークにやってきたときを捉えての取材ということになるが、だとしてもジャック・モントローズの人脈とニカ夫人の人脈はあまりにも違いすぎる。George Brightはサックス奏者George Braithのことだろう。単にKhalilとある人物は、ドラム奏者だということなので、ひょっとしたらスリー・サウンズの2代目ドラマーであるKhalil Madiを示しているのかもしれない。
この本をさらに魅力的にしているのは、ニカ夫人が撮影したたくさんの未発表フォトである。「ファイヴ・スポット」の店内をカラー写真で知ることができるのも嬉しいし、ソニー・クラークやハンク・モブレーの見たことのない姿を見ることができるのも、彼らのポートレイトが絶対的に少ないだけに実にありがたい。そして猫ファンにもぜひ目を通してもらいたい。ニカ宅は別名“キャットハウス”と呼ばれるほど、たくさん猫がいたのである。猫になつかれるモンク、猫を抱っこするクラーク、トミー・フラナガンに寄り添う猫など、どれも印象的な写真ばかりだ。上半身裸のハチマキ姿でスネア・ドラムをチューニングするフィリーの姿もいいし、頭にバケツをかぶるモンクにも微笑が漏れる。なぜバケツを頭に?と疑問になる方もいらっしゃると思うが、それがモンクなのだからこれでいいのだ。


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