原田和典のJAZZ徒然草 第82回

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2012.12.26

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フジロックや東京JAZZにも登場。人気DJの大塚広子さんと、四谷「いーぐる」で共演することが決まったので、その打ち合わせをここに掲載するぜ

このところ豪華ゲストが続いている「JAZZ徒然草」。今回はDJの大塚広子さんにご登場願った。
渋谷の老舗クラブ「TheRoom」での人気イベント「CHAMP」でのレギュラーDJ、六本木「アルフィー」でのメインDJをはじめ、日本中のパーティーに出演。ミックスCDやコンピレーションCDも多数発売し、その売り上げは延べ1万枚を超える。2010年にはスペインでDJをしたほか、「FUJI ROCK FESTIVAL」に登場。2012年にはアジア最大級のジャズ・フェスティバル「東京JAZZ」にも参加した。
そんな売れっ子の大塚さんが、なぜかぼくと共演するイベントが2013年1月12日(土曜)、3時半から四谷の「いーぐる」で行なわれるのだが、実のところぼくは大塚さんと一度あいさつをした程度で、会話と呼べるようなものはまったくしてこなかった。そこで「いーぐる」セッションの打ち合わせも兼ねて、九州ツアーから戻って間もない大塚さんにいろいろお話をうかがうことにした。


 

―― ご出身はどちらですか?

大塚 千葉県の野田市です。

―― 幼い頃から音楽は聴いてらしたんですか?

大塚 いいえ。テレビとかで流れるヒット曲を聴いて、地元のジャスコでCDを買うぐらいですね。買ったのを覚えているのは松任谷由実のアルバム。3000円くらいだったかな。光GENJIにハマってる友達もいたけど、私は「別に」という感じだった。本格的に音楽っていいなあと思うようになったのは、中3のときにもらったボビー・コールドウェルのカセット・テープを聴いてからですね。

―― ベンチに座ったひとの横に、太陽が出ているジャケットのやつでしょうか。

大塚 たぶんそうだと思います。当時はなんにもわからなかったですが、なんか「いいな」と思いました。同じ頃、ビートルズもやっぱりダビングしたカセットで聞いてましたけど、それよりもボビー・コールドウェルが良かった。それで高校に入ってからファッション雑誌の流れでパンク・ロックに興味を持ったり。それでセックス・ピストルズとかクラッシュとかダムドとか、いわゆるパンクの定番を聴くようになりました。レコード(アナログ盤)を買うようになったのもそのくらいですかね。レコードを買うのがオシャレだと思ってました(笑)。あの大きなLPサイズの袋を持ちたかったんです。

―― 変わった高校生だと思います。ブラック・ミュージックと出会ったのは?

大塚 近所だったので、よく柏のディスクユニオンに行っていたんです。当時は今の感じとはまた全然違って、薄暗い地下室みたいなところだったんですが、そこが怪しくてかっこいいなと思った。なにもわからないけど、たくさんのジャンルのレコードがあったから、とりあえず安い盤を集めようとしてどういうわけかアース、ウィンド&ファイアーのレコードを買ってしまって(笑)。円の中にひとがいるジャケットです(『Powerlight: 創世記』)。
パンクは結局、格好で聴いてただけで、曲のよしあしは当時まだよくわからなかった。そんなときに、ブラック・ミュージックが心に入ってきたんです。ラジオを聴いていたらマーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ハプニング・ブラザー」が流れてきて、すごい素敵だなと思ったんですよ。気持ちが揺さぶられる、感情が変わるという経験をして、それからはブラック・ミュージックに夢中ですね。
そんな流れで「オルガンバー」が開店し、フリー・ソウルのイベントや、サバービアの本とかの影響でいろいろレコードの知識を覚えていったといった感じですね。ヒップホップのイベントにもよく行っていました。

―― フリー・ソウル、サバービア。ぼくも楽しんでいました。意味のわからないひとは30代以上の人に尋ねるか、ご自身で検索してくださいね。大塚さんがジャズを好きになったのも、この時期ですか?

大塚 そうですね。でも私はもっと前から、ジャズを聴きたいなとは思ってたんですよ。それでジャズのガイド本を何冊か買ったんですけど、正直言ってよくわからなかった(笑)。私は当時10代だったし、随分シックで落ち着いた大人な世界だなぁとは思いましたけど。やっぱり当時は、かっこつけたかったしブラック・ミュージックにどっぷりだったので、ジャズにしてもなにかもっと違うものがないかなと思って、結果的に出会ったのが「コテコテ・デラックス」や「ドロドロ・ジャズ図鑑」です。当時感じていたジャズのイメージのなかでも新鮮でファッショナブルな感じがしました。

―― あれをファッショナブルとおっしゃったのは大塚さんが初めてです。

大塚 そうですか~。でもレコード店のジャズ・コーナーってまた、入りにくかったですよね(笑)。若い女子がいるだけで違和感ありありというか、怖いおじさん方に怒られそうな雰囲気・・・。

―― 彼らも本当はうれしいんだと思いますけどね、たぶん照れてるんですよ。大体いまどきジャズ・コーナーに来る女性はニホンカワウソ並に希少なんだから、国で保護してもいいぐらいです。
いつ頃からDJを志されたのですか?


大塚 DJになりたいと思ったことはないんです。レコードを探して買うことと、DJという活動が並行していった。それが今でも続いているだけなんです。自分のものにするだけというより、いろんなひとに聴いてもらえるDJという活動がやりがいになっていました。初めてDJをしたのは高校のときだったかな。その後、都内のクラブで20歳すぎてからDJイベントに混ぜてもらって、会社づとめをしながら毎月DJをやっていましたね。

―― 大塚さんのお仕事で特に印象的だったのが、トリオ・レコードやDIWやサムシン・エルスのミックスCDなんです。ぼくはレゲエのミックスCDは聴いたことがありますが、「ジャズのミックスCD」という発想には驚いた。ジャズはアタマからケツまで聴くものだ、という意識があったので、途中を抜き出したり、フェード・インやフェード・アウトしてつなげるやり方は新鮮でした。ぼくはジャズ喫茶の「片面文化」で育ったので・・・
   

大塚 「片面文化」ってどんな感じなんですか?

―― アナログ盤の片面が、ジャズ喫茶では丸ごとかかる。そこには冗長なベース・ソロがあるかもしれないし、ダラダラした展開があるかもしれない。だけどそれも含めて、ひとつの物語として、じっくり耳を傾けるんです。

大塚 その魅力って・・・?

―― そういわれると困りますが、ぼくはガキの頃から、そういうものだとしてジャズ・レコードに接してきたから。

大塚 私は片面全部通して聴くってことを経験していないんです。レコードを買い始めた時から「どの曲がグッとくるか探す」ということに意識がいっていましたね。なんでだろう・・・。

―― いいレコードの片面だと例えば、1曲目でパーッと盛り上げて、2曲目はバラードでしっとりと、3曲目でまた盛り上がって、とか、流れが絶品なんですよ。それをジャズ喫茶で、目を閉じたりしながら、じっくり聴く。

大塚 昔は時間の流れがゆっくりしていたから、ですかね・・・。そもそもDJは、1枚のなかから1曲選んで、自分で片面をつくっていくということに近いのかな。その意味で必要な自分の感覚に合う曲をまず拾いたい。

―― アナログ盤のコレクションは、すべてオリジナル盤だとうかがっていますが。

大塚 オリジナル盤にこだわっている理由は、そのアルバムが最初に出たときの匂いも感じたいというか。オリジナル盤は、ジャケットも含めて、そのときの時代がつまっているような気がするんです。

―― ストラタ=イーストのオリジナル盤とかは、本当に手作りの感じで、ジャケットはゴワゴワしていて、盤のプレスも雑だったりするけれど・・・

大塚 それが私にとって、最初に触れたジャズのかっこよさなんですよ。ざらついているような雰囲気や力強さがあるところ、それがすごくいいんです。

―― 六本木「アルフィー」の企画(アルフィーラウンジ)も好評ですね。

大塚 私が出演者をブッキングしているんですけど、ストレートにジャズのライヴというようにはしていません。先日はKLEPTOMANIACさん、伊東篤宏さんをお招きしました。

―― 伊東さんのオプトロンは、本物のエレクトリック・サウンドだと思います。ところでDJの方って、出演中ずっとレコードをかけてるじゃないですか。お手洗いはどうするんですか?

大塚 我慢してますかね(笑)。でも8時間とか続けるDJもいるし、そういう場合はどうしているんだろう? 多分、簡易用のが用意されているのかもしれませんね(笑)。

―― DJユースのおまる・・・・。現場で、一番よくかける曲は?

大塚 よく知られている曲としては、アート・ブレイキー「モザイク」。前奏がドラマチックでいいんです。あとはちょっとマイナーなジャズ・ファンクでサラ・ウェブスター・ファビオ「スウィート・ソングス」ですね。

―― さて1月12日の「いーぐる」ですが。

大塚 どうしましょう?

―― 「いーぐる」さんから提案されたのは、大塚さんとぼくが、指定されたテーマを元に1曲ずつかけて、それをお客さんにどっちがいいか挙手してもらう、という方法です。それで、誰が選曲したかも、演奏者名も、曲名も事前に一切明かさない。

大塚 原田さんに「コテコテ」とか「ドロドロ」を今、講義してほしいという気持ちもありますよ。原田さんの本で育った私世代としては・・・

―― 講義ねぇ・・・それでは先生と生徒の勉強会になってしまう。そんなのどこかの大御所の方がやればいい。お客さんが喜んで「いやー良かった、楽しかった、時間をやりくりして来た甲斐があった」って言ってくれれば、ぼくはゴキゲンなんです。だって1月12日、土曜日ですよ。中野サンプラザではハロプロ、青年館ではスパガ、渋谷ではBABYMETALのイベントがある。その中でお客さんがわざわざ「いーぐる」に足を運んでくださるわけだから。

大塚 そうですね。対決よりは、盛り上げ重視で!

―― 平和にいきましょう。だけどガチで。大塚さんのDJとしてのアプローチと、ぼくの雑文エンターテイナーとしてのアプローチの相違点がいろいろ楽しめるんじゃないかと思います。3時半からです。ぜひおこしください!


■大塚広子 関連作品■

★ここに行けば大塚さんに会える!
12/28(金) 渋谷 The Room
12/29(土) 名古屋 domina
1/11(金) 高円寺 GrassRoots
1/12(土) 四谷 いーぐる
1/13(日) 乃木坂 Cactus
1/19(土) 新宿 オーディオユニオン
1/20(日) 吉祥寺 メグ
1/22(火) 新宿Brooklyn Parlor
1/23(水) 六本木 アルフィー
1/25(金) 渋谷 The Room

大塚さんのHP http://djotsuka.com
四谷「いーぐる」のHP http://www.jazz-eagle.com