2017.07.06
セシル・テイラー、石川さゆり、デーモン閣下らと共演する“笛の魔術師”。
7月25日にニュー・アルバム『わらぶき~日本のうたI』を発表、ますます精力的な活動を繰り広げる重要無形文化財総合指定保持者・一噌幸弘さんに、たっぷりお話をうかがったぜ
僕にとって一噌幸弘さんは“笛の魔術師”だ。ある時は鋭く、ある時は柔らかな吹奏。その響きは空気を震わせ、ジャンルやカテゴリーを吹き飛ばし、時の流れや国境を飛び越える。安土桃山時代より続く能楽一噌流笛方、重要無形文化財総合指定保持者。とんでもないヴァーチュオーソなのに気さくで物腰は柔らか、しゃべりも面白く、笑顔がたえない。
このところの一噌さんはいつにも増して精力的だ。7月25日には3年ぶりのニュー・アルバム『わらぶき~日本のうたI』をギタリスト高木潤一との共同名義で発表、同日には渋谷「公園通りクラシックス」でリリース・ライヴを開催し、それに先立つ7月9日には千駄ヶ谷・国立能楽堂で「一噌幸弘の能楽堂へ行こう2017第二弾「受け継がれる伝統 創造する伝統 一噌幸政十三回忌追善会」」を世に問う。さらにへヴィーメタル歌手、デーモン閣下との公演「幽玄悪魔」の第3弾も企画中。フリー・インプロヴィゼーションによるレコーディングも発売日を待つのみである。乗りに乗る一噌さんに、ジャズ関連のトピック中心にお話をうかがった。
一噌幸弘・高木潤一『わらぶき~日本のうたI』(7月25日発売)
--- ニュー・アルバム『わらぶき~日本のうたI』の発売が近づいてきました。「越冬つばめ」「天城越え」「こきりこ節」といった歌謡曲や民謡を、即興を交えたインストゥルメンタルとして聴かせてくれます。すごく新鮮です。
一噌幸弘 以前の僕だったら、こういう曲を演奏することはなかったでしょうね。
--- どういう心境の変化があったのですか?
一噌 僕の笛を作っている笛師さんのところで、新しい笛ができると僕がいろんな曲を試し吹きするんです。能の古典曲やジャズとかクラシックとかプログレッシヴ・ロックとか民族音楽とか。でも一番みんなが喜んでくれるのは歌謡曲や演歌なんですよ。ギャラリーがどんどん集まってくる。「ぜひそういうCDを出してください」と言われて、それがずっと心の中にありました。あと、2012年にNHKの「歌謡コンサ―ト」というテレビ番組に出たときに、石川さゆりさんとの共演で「天城越え」を能楽アレンジで披露して、それがとてもうまくいったんです。それ以前にも藤あや子さんと共演したことがあるんですが、「演歌もいいなあ」という気持ちがさらに強くなりました。実はこの収録(「歌謡コンサ―ト」)の時、僕はフラメンコ・ギターも入れたかったんです。でもNHK側が会議した結果、「今回は能楽アレンジだけで」ということになった。「それならフラメンコ・ギターを入れて、歌謡曲や民謡を集めたアルバムを自分で作ればいい」と考えた結果も、今回の『わらぶき~日本のうたI』につながっています。
--- アルバムでフラメンコ・ギターを担当されている高木潤一さんは、ジャズ・ギタリストとしてもロン・カーターやバリー・ハリスなどと共演したキャリアの持ち主です。一噌さんが「演歌や民謡のアルバムを作る」と告げたとき、どんな反応でしたか?
一噌 すんなり受け入れてくれましたね。高木さんは、演歌をスペイン語に訳して、フラメンコ・ギターのラスゲアード奏法を入れて伴奏して歌うことがあるんです。“それを聴いたスペイン人は、「フラメンコだ」って言うんだよ”と言っていましたね。要するに“泣き”ですよね。フラメンコのブレリアとかファルーカとかが、演歌と共通する。逆に、チェンバロとヴィオラ・ダ・ガンバで演歌を弾くと、今度はフランス・バロックみたいにも聴こえますよ。
--- 袴の一噌さん、カラフルなシャツを着た高木さんが並んで写っているジャケットもユニークです。
一噌 この日は寒かったなあ・・・。場所はお台場です。ジャケットのデザイナーで写真も撮ってくれた山田真介さんが見つけてきてくれました。
--- メロディから即興への移り変わりもごく自然で、アレンジも細やかです。
一噌 アレンジは本当にいろいろ考えましたよ。超絶なキメを作るやり方もあったんですけど、今回は何よりもメロディを生かす方向で取り組みました。簡単な曲ほど、アレンジが難しい。メロディがシンプルであるほど気を使っちゃいますよね。原曲の(歌の)節回しを、どう笛で表現しよう、とか。
--- 今後はさらに、フリー・インプロヴィゼーションのCDリリースが控えているとうかがいました。
一噌 マスタリングしたばかりで、まだ発売日が決まっていないんですが、ひとつはドラムの吉田達也さんとピアノの原田依幸さんとの演奏。CD1枚に入りきらなかったので、2枚組になると思います。もうひとつは原田さんと、笙の石川高さん、小鼓・太鼓の望月太喜之丞さんとの演奏です。吉田さんと原田さんとのトリオは、もう1枚分の音源がありますが、こちらはまだマスタリングしていません。
--- 初めてジャズを好きになったのは?
一噌 子供のころから能管やリコーダーを吹いていたので邦楽やバロック音楽には親しんでいましたが(初舞台は9歳の時、「鞍馬天狗」)、ジャズを初めて聴いたのは中学生の頃ですね。最初はジャズ・ロックが好きで、とくにギターに夢中になりました。マハヴィシュヌ・オーケストラ(ジョン・マクラフリン)の『虚無からの飛翔』や『エメラルドの幻影』を聴いて「なんだこりゃ」と驚いて、シャクティ・ウィズ・ジョン・マクラフリンやスーパー・ギター・トリオ、アル・ディメオラが入ったリターン・トゥ・フォーエヴァーの『浪漫の騎士』などいろいろ聴きました。ディメオラは、パコ・デ・ルシアがゲストの『エレガント・ジプシー』もすごかった。「スペイン高速悪魔との死闘」とか・・・
--- すごい曲名です。邦題を付けた人のノリノリ具合が伝わってきますが、原題は「Race with Devil on Spanish Highway」なので、別にそれほどブッ飛んだ訳ではないんですね。
一噌 僕も「津軽三味線超高速悪魔の狂喜」という曲を作りました。津軽三味線小山流の小山豊さんに捧げた曲です。
--- 悪魔といえば、一噌さんはコンサート・シリーズ「一噌幸弘プロデュース 能楽堂へ行こう 幽玄悪魔」でデーモン閣下とも共演なさっています。
一噌 「幽玄悪魔」はこれまで2回公演して、実は今、次の公演を企画中です。初めて一緒になったのは今から20数年前、仙波清彦さんの“はにわオールスターズ”のライヴだったと思います。閣下の最新アルバム『EXISTENCE』に僕の「深山幻想記」という曲を提供したのですが、インスト曲「深山幻想曲 序曲」としてアルバムの1曲目を飾らせていただきました。9曲目の能ROCKアレンジの方は閣下と共作した歌詞が付いています。閣下の歌は日本的泣き節の雰囲気があって、大好きですね。
--- 話を戻すと、マクラフリンやディメオラやパコ・デ・ルシアを聴きながら、フリーにもハマっていって。
一噌 そうですね。山下洋輔さん、坂田明さんを「すごいなあ」と思って、ペーター・ブロッツマンがエヴァン・パーカー、デレク・ベイリー、ハン・ベニンクと共演して、ただ野獣のように吹きまくる『ニプレス』や『マシンガン』に狂気を感じて。それからセシル・テイラーの『ダーク・トゥ・ゼムセルヴズ』。やり倒すだけやり倒して、最後は本当に美しく終わる。この終わりのくだりは能や雅楽の音取に通じるものを感じました。
--- 1992年にセシル・テイラー、富樫雅彦さんと共演なさったときのことについて、教えていただけますか? 「白州・夏・フェスティバル'92」で演奏後、TOKYO FMのスタジオでレコーディングを行なったそうですが(現在のところ未発売)。
一噌 セシル・テイラーの作品では、日本公演のCD『アキサキラ』(73年)もずっと印象に残っていました。ピアノ、サキソフォン、ドラムスが相手の演奏に全く反応せず、我が道を行っているのにも関わらず、しっかりとしたアンサンブルとして成り立っているのが素晴らしいと思っていました。僕が共演した白州フェスティバルでも、反応しない形態をとるかと思ったんですが、僕の演奏に反応し対話するかのごとく掛け合いにまで発展していきました。意外性があり、演奏していて非常に感動しました。このことが、レコーディングへと繋がりました。レコーディングの時、セシル・テイラーが部屋を暗くしてお香を焚いたんです。インスピレーションを高めるためだったのかと思いますが、僕にとっては新鮮な出来事でした。富樫さんのドラムスも空間を浄化させてしまうような素晴らしい演奏でした。あと、セシルは6、12、36と6の倍数で短いフレーズ、ロングトーン、上行フレーズ、下行フレーズなどを演奏するように指定するところもあり、これも新鮮でしたね。
--- ほかにお好きなジャズ・ミュージシャンは?
一噌 キース・ジャレットが好きですね。アメリカン・カルテットの『生と死の幻想』もいいし、ソロの『パリ・コンサート』も素晴らしい。バッハとドビュッシーに通じる美しさですよ。エリック・ドルフィーも好きですし、ローランド・カークにも触発されました。カークは同時に3本のサックスを吹くんですが、それなら僕は5本の笛を同時に吹いてみようと。笛はサックスと違って首から楽器を下げられない。ストラップがないから。だから譜面台の上にスタンドをおいて、そこにケルトの笛を立てたり。
マハヴィシュヌ・オーケストラ『エメラルドの幻影』 | アル・ディメオラ『エレガント・ジプシー』 | デーモン閣下『EXISTENCE』 |
ペーター・ブロッツマン『ニプレス』 | セシル・テイラー『ダーク・トゥ・ゼムセルヴズ』 | キース・ジャレット『生と死の幻想』 |
--- ファースト・アルバム『東京ダルマガエル』はセシルとの共演の前年、1991年のリリースです。
一噌 レコード会社から、どんなミュージシャンと共演したいかという打診がありました。山下洋輔さん、坂田明さん、渡辺香津美さんとぜひレコーディングしたいと伝えたことを覚えています。
--- 僕はジャズ雑誌にいた頃にリアルタイムで初めて聴いて、すごく気持ちよいショックを受けました。第2弾の予定もすぐに決まったのではないですか?
一噌 それが、次の企画は「アイドルと共演して歌謡曲をやってほしい」という内容だったんですよ。当時の僕はフリー・インプロヴィゼーションとジャズ・ロック、プログレッシヴ・ロックが至上だと思っていたから、とてもじゃないがやってられないと・・・・。でもアイドルと共演しておけばよかったかな、今にして思えば(笑)。
一噌幸弘『東京ダルマガエル』(現行のCDジャケット)
一噌幸弘の能楽堂へ行こう2017第一弾 「アースアワーチャリティー公演 らいちょうの舞」(3月24日、国立能楽堂)より。
同公演より。左から首藤久美子(琵琶)、高本一郎(リュート)、磯部舞子(ヴァイオリン)、一噌幸弘、吉見征樹(タブラ)
--- 7月25日に開催される「公園通りクラシックス」の歌謡曲中心のライヴと異なり、7月9日に国立能楽堂で行なわれる「一噌幸弘の能楽堂へ行こう2017第二弾「受け継がれる伝統・創造する伝統 一噌幸政十三回忌追善会」」は“邦楽”です。ジャズ・ファンにはヴァイオリン奏者の壷井彰久さん、ベース奏者の吉野弘志さんの参加も気になるところですが、この公演について、ご説明いただけますか?
一噌 父(一噌幸政氏)の十三回忌を機に、能の音楽である囃子に注目した公演を開催します。第一部には「受け継がれる伝統」というタイトルがついていて、普通の古典の回ではほとんど披露されない「一管」(笛のソロ)や「連管」(笛のデュオ)もします。「一管」は完全な即興演奏で、父親を自分に憑依させて吹きます。古典には「拍子合(ひょうしあい)」と「拍子不合(ひょうしあわず)」があるんですけど、「拍子不合」はジャズ・ファンの方にはフリー・インプロヴィゼーションのように聴こえるんじゃないかなと思います。第二部は「創造する伝統」と題し、僕が作曲・編曲した新作能楽囃子を届けます。今回の公演には人間国宝の梅若玄祥先生、野村萬先生、亀井忠雄先生、三島元太郎先生のそうそうたるメンバーが参加しています。「変幻化」で梅若玄祥先生、観世銕之丞先生、野村万蔵さんが一緒に舞うのは、非常に貴重な機会だと思います。それを僕の新曲でできるのは光栄です。
日本には、千年以上前からすでに、フリージャズ、プログレ、コンテンポラリージャズに匹敵する、散楽、田楽、節会の舞などがありました。今回の公演では、これらの要素を生かした曲を演奏します。「えっ、そうなの?」という方にも、今までには全くなかった斬新な世界を体験しに、ぜひ国立能楽堂にいらしていただけたらと思っています。
一噌幸弘さんのHP http://issoyukihiro.com/
ブログ https://ameblo.jp/issoyukihiro/
種)イシガメ、名)ブラック1号、年齢)不明。2011年から家族に
種)ホルスフィールドリクガメ、名)とぅどぅるく、年齢)不明。2009年から家族に
上の大きいのは2枚目と同じ
左側の種)ヘルマンリクガメ、名)ふーほー、年齢)不明(まだ子供です)
右側の種)ホルスフィールドリクガメ、名)ろるらー、年齢)不明(まだ赤ちゃんです)
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