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豊富な演奏経験に基づく独自のアレンジを生かして、異彩のサウンドを発揮する松本全芸トリオの野心的デビュー作。
最近のジャズ界はピアノ・ブームで、特に若い女流ピアニストがもてはやされているが、実際に90年代から第一線のピアニストとして多くのジャズ・グループで腕を磨いてきた中堅ピアニストの中に、確乎とした自分のスタイルをもって、個性的で且つ興味ある演奏を展開している者が沢山いる。今回ピアノ・トリオ・アルバムを発表する松本全芸もその一人である。
彼は現在トランペット奏者・村田浩のザ・バップ・バンドのピアニストとして、全国ツアーを含めて相当忙しく活動し、且つ宮間利之とニューハードにも所属しているが、一方で自己のピアノ・トリオによる演奏にも積極的に取り組んでいる。その際には多彩な楽想によるオリジナル曲や、スタンダード・ナンバーを独自の解釈で組み立てた異色的なサウンドを開陳して、聴く者を驚かせ、楽しませている。
このアルバムでは、気心の知れたベースの渋谷盛良とドラムスの橋本学と組み、オリジナル4曲とスタンダード6曲を取り上げ、彼独自の個性的なこだわりに徹し、ハーモニーやリズムにアレンジを加え、他のグループとは異なるサウンド演奏を目指している。
彼のピアノは勿論だが、澁谷のベース、橋本のドラムス共に、その音楽的水準は極めて高く、高度なインタープレイを通じて、意表をつくような面白いトリオのサウンドが生まれている点を、じっくり鑑賞して頂きたい。
(ジャズ評論家・瀬川 昌久)
● 松本全芸のプロフィール(Piano) 1963年神奈川県生まれ。慶応大学在学中より演奏活動を開始。卒業後、1989年から1992年までバークレイ音楽大学に留学し、ハーブ・ポメロイやジョージ・ガゾーン、ビル・ピアス等と共演の機会を積む。帰国後、ジョージ大塚、井ノ上淑彦、大井貴司らと共演、現在は自己のバンドの他に、宮間利之とニューハード、村田浩とザ・バップ・バンド、石田博カルテットなどで活躍中。愛好するピアニストとして、キース・ジャレットとジョン・テイラーを挙げている。
MASAKI MATSUMOTO / 松本全芸