ちんどん屋の響き 音が生み出す空間と社会的つながり

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2023.03.23

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※A5・296ページ

通り抜ける音が、巷の情動(こころ)に響きわたる
数十年の停滞ののち再起した、路上の巡回広告業ちんどん屋。大阪の路地裏、震災後の仮設住宅、脱原発集会など、様々な場に集う情緒、力、関係が、〈ヒビキ〉によってあらわになる。初のちんどん屋研究書。


◇推薦の辞より
彼女の質問は、実にきめ細かく執拗だった。
出版を心から喜ぶ
――林幸治郎(ちんどん通信社創始者)

本書は刺激的な議論に満ちている。
〔ちんどんは〕洋楽受容の歴史のど真ん中にある
――大熊ワタル(音楽家/文筆家)


◇解説より
ヒビキは現場の人を繫ぎ、歴史の蓄積を縫い合わせ、情動を活性化する……本書はちんどん屋を見たことのない読者に向けて、今日的な音楽/音響研究の諸テーマへと導くのに巧みだが、彼らを見聞きし、よく知っているつもりの日本人読者にとっても新たな発見に富むだろう。
――細川周平(音楽学者)

 
◇本文「プロローグ」より
ある日、私はこの〔渋谷のスクランブル〕交差点を歩いていた。心身ともにかなり弱っていたときだったこともあり、至るところに氾濫する消費主義の感覚的標徴に圧倒され、すでに経験していた孤独の感覚がさらにはっきりと浮き彫りになった。そんな中、突然、交差点を横切ってそれぞれの道を歩く人の波の中で、大阪でインタビューをしたちんどん屋の林幸治郎の言葉がよみがえってきた。


「家の中にいる人に聞かせているのよ。……街中ハッピーな人はいないよ。あんまりね。……鬱の人が〔家から〕出てくるような音を〔出さなきゃいけない〕」。


インタビューのときは、その発言はなんだか悲観的なように聞こえた。もしかして、自分自身の苦難を大阪都市部の見えない聴衆に投影しているのではないかとさえ思った。

でも、そのとき、交差点の途中で、私は突然、林と同じように世界が聞こえたのだ。この群衆の中で孤独の重さを感じていたのは私だけではないだろう。ちんどん屋の実践者がどのように社会関係やその断絶を「聞いている」のか、私はそのとき理解した。……ちんどん屋の音の労働は、ある社会的つながりに関する哲学に深く根ざしているということに気づいたのだ。

……彼らの仕事が作り出そうとする音のアフォーダンス(環境が生み出す能力)に注目することで、公共空間をいかに理解しうるのか、そして、ちんどん屋の音が響く都市空間においていかなる社会的結合と断絶が生起しているのか、ということを考察していきたい。


◇目次

推薦の辞――林幸治郎/大熊ワタル
日本語版への謝辞――阿部万里江

プロローグ 始まり

序章 ちんどん屋の響き
1 音の哲学者であり路上の民族誌家としてのちんどん屋
2 ちんどん屋の音と歴史
3 今日のちんどん屋
4 ちんどん屋の曖昧さ
5 本書一連の問い
6 ヒビキ/響き
7 方法についての覚書
8 章立て

第1章 歩く歴史
1 身体化されたヘテロフォニー
2 歩く技術
3 街のリズム――街の歩行者を歴史化する

第2章 魅惑を上演する
1 民族誌的おとぎ話
2 ちんどん屋、他者性、同質性
3 大衆を歴史化する
4 懐かしさ、無垢、差異

第3章 想像共感の音を出す
1 移り行く近代性の地理――街路、公共空間、社会的つながり
2 音の商売と想像共感
3 町廻り――都市空間を交渉する
4 ヒビキ――情動の響きと音響の響き
5 ちんどん屋を雇う――「賑やかさ」
6 反個人主義の美学
7 即興について
8 洗練された不器用さ
9 聞き流されるために雇われる
10 響きと公共的親密性
11 ちんどん屋の不安定な聴衆

第4章 ちんどん屋を政治化する
1 ちんどんに触発されたプロジェクト
2 公共空間の危機
3 情動的類似性を探り当てる
4 まつりごと――祝祭性の政治

第5章 沈黙の響き
1 街頭抗議におけるちんどん屋
2 ちんどん屋の音の労働――情動的かつ音響的な響き
3 自粛の沈黙
4 生存の政治を音にする
5 賑やかさと生存の倫理

エピローグ 響きのアフォーダンス

解説 響け、ちんどん世界――細川周平
訳者あとがき