『THE LAST DON ~G'Z MIX』は、1994年から2001年にかけて制作されたギャングスタ・ラップを厳選し、全30曲79分にわたって展開されるMIX作品である。2005〜2006年にMIXされた音源をリマスターした本作は、当時の熱気を閉じ込めつつ、現在のリスニング環境でも十分に力強く響く仕上がりとなっている。

ウェストコーストのファンク由来のバウンス感や、サウス特有の重低音と生々しいリリックが交錯し、ストリートの空気を思わせる濃厚な構成。イントロのサンプリングMIXからアウトロまで、MR.MIKEやO.D.C.のインタールードが橋渡しとなり、単なる寄せ集めではなく物語性を帯びた流れを形成している。これはカセットMIX文化やストリートDJの伝統を想起させるだろう。

選曲の背後には、長年ブラックミュージックを掘り続けてきた ATSUC A.K.A CUSTAITO の感覚が滲んでいるようだ。10代からレコードショップを巡り、現場で身につけた耳と経験が、曲の配置や繋ぎに表れているといえる。ATSUC A.K.A CUSTAITOの歩みが、このMIX全体を「ストリート・ドキュメント」として成立させているのだと思わせる。

収録には MAC DRE、KING GEORGE、KINGPIN SKINNY PIMP といったシーンを象徴するアーティストに加え、2-DEF、C.C.G.、707 Hustlers などのローカルな存在も含まれる。暴力やサバイバルを描くC.C.G.「I Talkin Murder」、享楽的な日常を映すChilee Powdah「Playa Ta Playa」、社会的リアリズムを刻むSelf Tightled「A Hustlaz Livin Hell」など、多面的なテーマを織り交ぜながらも、全体は一貫してハードなギャングスタ・トーンで統合されている。

こうして2005〜2006年当時の視点で編まれたMIXが、2020年代にリマスターされることで、90年代後半から00年代初頭のストリートヒップホップを俯瞰するアーカイブとして甦った。アンダーグラウンドの肉声を連ねることで、むしろギャングスタラップのリアルさを強調している点が最大の魅力である。

『THE LAST DON ~G'Z MIX』は、90年代ヒップホップ黄金期の地層を横断的に掘り起こし、今に通じる鮮度を宿した一枚だといえる。コレクターにとっても、リアルなストリートの息遣いを求めるリスナーにとっても必聴の作品である。