INTRODUCTION

「もちろんLIBROの音楽はヒップホップだが、彼の音楽の魅力は日本語ラップというこの国で生まれた特殊なジャンルの濃厚な味わいにある。本人自身も日本語ラップへの特別なこだわりと愛を語っている。メロディアスなネタ選び、 ビートの柔らかい鳴り、やさしいグルーヴ、日本語のアクセントを活かしたフロウとライミング。すべてに無理がなく、ポップ・ソングとしても聴ける。そこには90年代に育まれた日本語ラップの型式があるのだけれど、それはとてものびやかなで自由なものに思える」――僕はLIBROのフル・アルバム『拓く人』がアナログ化する際にこのようなコメントを寄せた。日本語ラップの型式は不自由で排他的なようでいて、実は自由でのびやかで雑食的である。そういった日本語ラップのストロング・ポイントを魅力的に引き出すことができるのが、このベテラン・ラッパー/トラックメイカーであり、その引き出し方にLIBROの流儀がある。そんなLIBROの最新作『風光る』はここ数年の創作活動のひとつの集大成といえるような素晴らしい仕上がりだ。漢 a.k.a.GAMI、ポチョムキン、DJ BAKU、小林勝行、5lack、仙人掌が参加している。意外な音楽遍歴、ラッパー/トラックメイカーとしての流儀や共同作業やプロデュース、ラップの言語表現などについておおいに語ってくれた。

●インタヴュー/文
二木信

――僕はラップをするなら「自虐は全部禁止」なんです

■LIBROさんは「日本語ラップ」っていう日本独自の音楽ジャンルにこだわりがあるというような話をかねてからされてますよね。LIBROさんの音楽を聴くと、そのことがとても腑に落ちるんです。「日本語ラップ」以外の何物でもないと感じるんです。

LIBRO:そうですね。『拓く人』のアナログがリリースされる時のコメント(http://diskunion.net/clubh/ct/detail/1006807913)でもそういう風に書いてくれたじゃないですか。そういう聴き方をしてくれているのがすごいうれしかった。

■たとえば、サンプリングにしても、キャッチーなメロディーにしても、恋愛や内省に関するリリック、歌詞にしても、日本人的なふくよかなグルーヴにしても、これは日本でしか生まれ得ない音楽だなと。

LIBRO:うれしいです。

■今日はそのあたりのお話もうかがいつつ、アルバムの話をメインにしていければなと考えています。『風光る』はいつぐらいから制作を始めたんですか?

LIBRO:制作は2015年11、12月ぐらいからスタートして、3、4ヶ月ぐらいで作りましたね。制作ペースはどんどん早くなってるような気がするし、作るのは楽しくなってきてますね。作り続けるのがすごく気持ち良くて。

■2014年に『COMPLETED TUNING』を出して、2015年にはEPの『GEAR』、フル・アルバム『拓く人』、嶋野百恵さんとの『オトアワセ』と立て続けに発表しています。かなりハイペースですよね。

LIBRO:そうですね、『COMPLETED TUNING』の漢のレコーディング後からこの流れが始まったと思います。

■ラップをすることにLIBROさんが躊躇した理由は?

LIBRO:「三昧」(2003年)を作った時に、当時言いたいことは全部言い切ってしまったんですよ。その曲の最後で「これ以上何が足んない?」って歌ってますからね。歌うことがないなんてほんとはないんだろうけど、そこでまとめてしまったというか。かつては音楽以外の人生経験も足りなくて、自分の頭で考えて歌うだけの内容や目的がなかったのかもしれない。

■歌いたいことがなかったとか、なくなったとか?

LIBRO:なくなったというわけではないんですよね。特に何かを意識するでもなくやっていた時が一番堂々としてたと思うんです。それが、道が舗装される中でいろんな人と出会って、これから先に何かをやろうという時にことごとく自分の感覚とは違った。いろんな人が当時言ってくれたことが今は全部わかるんだけど、その時はあんましリンクできなかった。

■それは、当時の日本語ラップの潮流や進む方向と自分がやりたいことにズレが生じたっていうことですか?

LIBRO:そうですね。今思えば、当時どんな内容の歌詞を書きたかったかというと“戒め”なんですよね。

■ああ、なるほど。ここ最近の歌詞も戒めの歌詞が多いですよね。

LIBRO:そうそう。今は完璧にそれをやってるんです。でも、そういう歌詞は人生経験がないと重みが出てこないじゃないですか。だから、歌詞を更新できずに、さらに他に何かを書く目的がなかったのかなと。それに気づいたのが、『拓く人』を出した後なんです。その時にDEV LARGE(D.L)さんの『THE ALBUM』(2006年)を聴いたら、「戒めが全部入ってる! これはヤバイ!」って思って。そのアルバムのDEV LARGEさんのラップには自虐が一切ないんです。強さが半端じゃない。それがかっこいいなって。だから、僕はラップをするなら「自虐は全部禁止」なんです。そうして、ラップをまた再開したんです。

■「自虐は全部禁止」なのはなぜですか?

LIBRO:自虐がダメなのは、何かを言うために自分を一回わざと凹ますことだと思うんです。そういう演出はちょっともう恥ずかしい。僕はそれを「自虐の飛躍」という韻でメモってるんですけどね。過去の自分は自覚なくそういうことをしていた気がするんです。それで「自虐は全部禁止」というルールにしたらいろいろほぐれて、見えてくるなと感じた。僕は自分の内面のことしか書かないけど、内面を見続けるのはけっこうキツイことでもある。でも、このルールを導入してからは、ことばを言い替えることで内面を整理していけるようになった。それが「拓く人」ということなんです。

■今日はLIBROさんの音楽遍歴についてもお聞きしたいんですけど、音楽との出会いはどのようなものでしたか。

LIBRO:自分は小学生の時は大阪にいて、中学生で東京の練馬の大泉学園に来たんです。その時に聴いてたのはメタルとかそういう洋楽ですね。他の人があまり聴かない音楽を聴いて、半分バリアを張ってるみたいな感じでしたね。それで中学の頃にギターを買って、やたら速弾きの練習してましたね。「速いヤツが一番偉い!」って(笑)。自分は真面目に誰かのコピーをして練習するよりは曲を作りたい人だったみたいなんです。それですぐにカセットのMTRとドラムマシンを買ったんです。

■メタルの速弾きをやっていて、ドラムマシンを買うのはそれなりに飛躍がある気がするんですが、そんなことはないですか?   

LIBRO:「速いヤツが一番偉い!」から、練習トラックをドラムマシンでちゃんと作る、という自然な流れでしたね。ただバンド仲間を作ったり、音楽を通して友達を作ったりせずに一人で作ってましたね。個人で完結してましたね。でも曲作りはなかなか上手くいかなかったですね。で、高校に入った時に、僕の最初のシングルの「軌跡」(1997年)の裏に入ってた「居場所」でラップしてるARKっていうヤツと出会うんです。高一の頃ですね。僕がメタルを聴いてるって言ってたからか、ARKはアイス・Tを出してきたんです。それが、僕が最初に聴いたヒップホップですね。でも最初あんまりピンときてなかったですね。

■アイス・Tは時代を感じますね。

LIBRO:で、ロックではニルヴァーナが出てきたりして。

■グランジの時代の到来ですね。

LIBRO:で、ガラッと曲調が変わって、熱さがより一層増すじゃないですか。

■エモーショナルになりましたもんね。

LIBRO:うん。だから、「速いのが偉いわけじゃなかったー!」って。

■ははははっ。

LIBRO:楽器が全然下手だったし、ヒップホップっていうのはサンプリングで作っていて、「もはや弾いてさえいないのか」と知るんです。それで、特に僕なんてメンバーも探さずに一人でやってたからサンプラーが欲しいなって。

■楽器の演奏者にはサンプリングという手法に抵抗を感じる人もいましたよね、90年代は特に。

LIBRO:でも僕はあんまり抵抗がなかったんです。ヒップホップとかサンプリングを普通にかっこいいって思えた。だから、ヒップホップ・カルチャーってことよりも、もう曲を作りたいということの延長ですね。

■カルチャーとしてではなく、曲を作りたいからヒップホップだったというのは面白いですね。日本語ラップって音楽を意識し始めたのはいつ何でしょうか?

LIBRO:最初は日本語ラップを意識してなかったですね。むしろ意識するようになったのは最近だと思う。自分の作ったものを聴いて、日本語ラップって懐の深さがすごいあるよなって再確認した時があった。自分が曲を作り始めた時に、ちょっとしたヒントになったのは矢野顕子の『JAPANESE GIRL』(1976年)だったんです。親はフォークとかのレコードをいっぱい持ってましたけど、それは自分が“歌モノ”と感じる唯一のレコードだったんです。『JAPANESE GIRL』を聴いた時に、「ん!? これはなんかすごいなー」と思って。曲を形にしたいのが先行しているから、歌詞とかもこうやって書くのかと思った。

■あの作品はまた一風変わっていますけど、LIBROさんの音楽には日本のポップスの血が流れている、というのは前々から感じていたことでした。極端な言い方をすると、今のシティ・ポップと言われるような音楽の一部が自分に響くのとそう遠くないところにLIBROさんの音楽を聴く楽しみってあるんですよね。

LIBRO:それはあるかもしれないですね。他の日本語ラップとちょっと違うなって部分があるとしたら、そういう部分かもしれない。ただ日本語ラップを意識したのは、それまであんまり耳に入ってこなかったストリート系のラップの意味がわかるようになってきてからなんです。

■大人になるにつれて。

LIBRO:そうです。人生経験を積んだのもあって、そういうストリート系の日本語ラップのブルースが入ってくるようになってきたんです。それで、「もう一度自分も音楽をやるか」って考えた時に、そういう日本語ラップをそのまま自分がやることには違和感があった。「それは何だろうな?」って考えた結果、自分に影響を与えてきた音楽とかも全部含めちゃうのが日本語ラップだよなぁと思ったんです。それが日本語ラップの懐の深さかなって。

■『Mind Tuner』のvol.1、2の赤青のミックスにはそれこそストリート系のブルージーなラップがたくさん入ってますよね。あれは意外でした

LIBRO:自分が見たり聴いたりしてる日本語ラップはあそこに入れさせてもらった人たちなんですよね。

――あの曲(「マイクロフォンコントローラー」)がまたラップをやろうと思うきっかけのひとつでしたね



■再び本腰を入れて音楽活動を再開したのが、2013年に『Mind Tuner』出してからですよね。

LIBRO:うん。ほんとそれ以降ですね。ハッキリとやめたっていうわけじゃなかったんですけど、ただ今はやんないよなっていう確認は日々ありましたね。他のことをちょっとやってみようかなってのもあって、ただふゎーっとしちゃって、もう半分自暴自棄みたいな時期もありましたね。

■久々に活動を再開してからリリースした『COMPLETED TUNING』には、多種多様なラッパーが参加していますよね。どのように人を決めていったんですか?

LIBRO:OJIBA、小林勝行、SMITH-CNくんたちには面識なくいきなりお願いしたりして、ヒップホップ的には珍しいやり方だったと思いますね。ただ、それもアリにしてくれる懐の深さや協力してくれた人たちのつながりがありがたかったですね。ほんとに突撃でしたね。あんまりやんないほうがいいんじゃないかな(笑)。

■それは若いトラックメイカーやビートメイカーへのアドバイスですか?(笑)

LIBRO:そうですね。ラップってやっぱラッパーが一番偉いと思うんですよね。プロデュース・アルバムってみんなに力を借りて完成させてますからね。

■LIBROさんの音楽は、音とことばが密接に絡み合って統一感をもって成立してると思うんですけど、『風光る』のラッパーとの共同作業、プロデュースはどのような感じでしたか?

LIBRO:ラップの人は自由なワン・ヴァースなり空間があれば何かをやってくれるんです。だから、上手くそのスペースを作っておくというだけで、それ以上はあまりことばで説明はしないですね。

■曲のテーマに関しても何もない説明しないですか?

LIBRO:いちおうテーマは伝える時もありますね。たとえば、今回は自分が先にフック的なモノを入れたりもしました。だから、テーマを説明するというよりは、そういうフックのメロディーやラップや歌詞から汲み取ってもらう感じですね。今回のアルバムに参加してくれた人たちはそれがほぼできる人達でした。

■5LACKの「熱病」も仙人掌の「通りの魔法使い」もLIBROさんはラップ・シンギンみたいなスタイルでフロウしていますよね。これも先にLIBROさんの歌入りのトラックを二人に渡したんですか?

LIBRO:仙人掌の「通りの魔法使い」に関しては、僕が後からあのフックを入れてますね。仙人掌はまた別のビートで一曲録っちゃってたんですけど、「今の状況的にこういう気持ちじゃない。だからこれは出さないで欲しい」って言われて、ビートを差し替えて新たに録り直してるんです。そういうのもあって、後から僕がフックを入れて、仙人掌の歌詞にたいして「こういう気持ちですか?」とこちらの解釈を返してる。そうしたら、向こうも「そうです」と。(笑)。

■そうだったんですね。仙人掌がワン・ヴァース目をキックし始めるまでに一分も空けますよね。あの間の取り方というか、空間の使い方、歌い出し方には唸らされました。素晴らしかったですよね。

LIBRO:そうですね。そういうことは全然アリですよね。

■5LACKの「熱病」から仙人掌の「通りの魔法使い」の流れが僕は特に好きなんですけど、曲も繋がってますよね。

LIBRO:全体を通して、真ん中で一回切れるぐらいで、他はうっすらと繋げてますね。そう言えば、5LACKのフックも後から入れましたね。5LACKは上手く昔の僕の曲を使ってくれましたね。

■「雨降りの月曜」のリリックを引用してますもんね。

LIBRO:うん。5LACKは、「ちょっとカヴァーさせてもらいました」って。

■「熱病」のトラックのラップ始まるまでのビートを聴いて、もしや5LACKとの共作か?とふと思ったんですけど、違うんですよね。

LIBRO:“5LACKっぽい”というのは意識しましたね。5LACKもそうだけど、僕はみんなの真面目なところが大好きなんですよ。ストリート寄りの人の真面目なとこを見ちゃうともうヤラレてしまう。あと、やっぱ自虐に行かないですよね。「熱病」もそうですよね。「ふとこう思うときがあるかもしんないけど……でも……」ってパッと切り替えていく。そういう強さがかっこいいなって思うし、大好きですね。あとラッパーは、自分のプライヴェートなところとかは見せないほうがかっこいいとか思われがちかもしれないけど、何よりもウソをつくのが一番かっこ悪いですからね。

■それと、LIBROさんと共作していつもと違う側面がはっきり出てくるのは漢ですよね。最近はハードなストリート系のリリックも多いじゃないですか。でもLIBROさんとやると日本語ラップのラッパーとしての誇りや矜持についてのリリックになる。これはすごく面白いことですよね。こういう“ラッパー道”を歌うスタイルの漢はおそらく今LIBROさんとの共作で一番輝いているんじゃないですかね。

LIBRO:ああ。そうですね。だから、そこだけにしてくれてんのがほんとありがたい。僕もやんなきゃいけないんじゃないかっていう気持ちにさせてくれる。漢に最初にやってもらったのは、『COMPLETED TUNING』の「マイクロフォンコントローラー」(feat. 漢, MEGA-G)でしたね。あの曲が僕はすごい好きで、あの曲がまたラップをやろうと思うきっかけのひとつでしたね。

■どんな制作でしたか?

LIBRO:うん。そのREC(録音)の時に、漢がラップを終えて、「この後に(LIBROがラップ)入れなよ」って言ってきて、「あ、はい」って(笑)。じゃあ、その曲の漢の歌詞をもう一回100%自分のことだと思って聴いてみようと。そうして聴いたら、「ガーン」って衝撃を受けた。

■入ってきちゃったんですね。

LIBRO:そう。これはラップやるのは大変だなって思った。ただ、その曲の漢のリリックにはラッパーとしてやることが順番に全部書いてあるから、自分が煮詰まったりした時そこに立ち返ればいいなって思えた。それもあってすごい良い曲だなって思うんです。漢はもはやそんなに言わないようなことをその曲でラップしてたから、半分は僕に言ってんだと思ってるんです、勝手に。

■そんないいエピソードがあったとは。

LIBRO:漢はヘンに意地の悪い皮肉みたいなことは絶対言わないラッパーですからね。漢はリアルにこだわるとは言ってるけれど、ストリート寄りの人はストリート寄りのリアル、大学生には大学生のリアル、それぞれのリアルがあると考えてる。だから僕も言えることがあるなって、漢と団結して行けるんですよね。大人になってそういうことがちょっとはわかるようになってきて、ヘンにこっちが壁を作らなくなった分、突撃して行ける感じですね。まあ、9SARIからリリースされているDVDか何かで「意外に思うかもしれないけど、LIBROとの出会いはストリート」って言ってて、「えっ?! 言っちゃうの」ってなりましたけどね(笑)。巻き込みが、なかなかすごいんですよ。

■巻き込んでくるタイプですよね(笑)。ポチョムキンやDJ BAKUについてもぜひ語ってもらいたいです。

LIBRO:ポチョムキンとの「NEW」はPVを撮ったんでぜひ見て欲しいですね。ポチョムキンは人としてバランスがすげぇ良くて、やりやすかったですね。しっかり連絡を返してくれるっていうか(笑)。

LIBRO/NEW feat.ポチョムキン



■ははは。DJ BAKUは「永久高炉」にスクラッチで参加してますね。

LIBRO:BAKUくんも、いつもありがたいって感じです。アルバムができそうになると「ここにBAKUくんがいたらな」ってなる(笑)。『オトアワセ』の「時の鐘」ではBESくんの声をコスってもらったんですけど、今回も緊急連絡してやってもらったんです。贅沢ですよね。DJ BAKUのスクラッチ・シリーズの曲を集めたいなってぐらいです。

■また、小林勝行も参加してますね。

LIBRO:うん。小林くんは『COMPLETED TUNING』でやってもらった曲が輪廻みたいな話でむちゃびっくりしたんです。その後僕もライヴで関西の方をまわるようになって、そういう時に会うとめっちゃマインドが良くて、今回もやってもらったんです。

■やっぱりゲスト参加してくれた人との間にいろんなドラマがありますね。

LIBRO:ありますね、やっぱり。

――迷った時はターンテーブル2台とMPCでできるエディットの範囲におさえようとしてる。それが正解かなって思う。


■これまでラップとプロデュースの話をメインでしてもらったんですけど、LIBROさんのトラック・メイキングにもすごく興味があります。今って何で作ってますか?

LIBRO:今はMacでLiveっていうソフトを使ってますね。

■え!? そうなんですね。

LIBRO:昔はMPC2000XLを使ってて、めっちゃ早くボタンを押せるようになってたんですけど、エンターボタンがダメになっちゃってもうギューッて押すしかなくなった。さらにエンターボタンがバーンって飛んでなくなって、めり込んだ状態でそれを爪楊枝で押してたんですよ。

■ははは、それはヒドイ(笑)。

LIBRO:そう。これはいくらなんでもマズイ。しかもこれはちょっとヒップホップじゃないぞ、ということでMPCでの制作はやめたんです。ただ、迷った時はターンテーブル2台とMPCでできるエディットをしようって考えてます。

■それはつまり、Liveでターンテーブル2台とMPCでの音作りを再現しているっていう意味ですか?

LIBRO:うん、そう。音質を再現するということではなくて、Liveだと延々と作業をやり続けて、エディットし続けちゃうから、迷った時はターンテーブル2台とMPCでできるエディットの範囲におさえようとしてる。それが正解かなって思う。それも自分への戒めですね。

■ビートやサンプリング・ソースの組み合わせ、全体の構成を複雑化させないようにしてるんですね。

LIBRO:そうです。特にそこは意識してやってますね。ビートはよりシンプルにして、ラップを引き立てられればいいと思ってる。あくまでもラップを前に出して、(聞き手がラップから)逃げられないようにしときたいんです。編集でかっこつけようとかはあんまりやってないですね。

■LIBROさんのビート、トラックのふくよかさの秘密って何なのか、と考えるんです。もう一聴してLIBROのビートだとわかるあたたかい音の鳴り、質感があるじゃないですか。音質について最も気にしてることは何ですか?

LIBRO:痛い音を入れないってことですね。

■すごくシンプルですね。

LIBRO:うん。だからキンキンしないようにしてる。むしろ気にしてるのはそこだけかもしれない。みんな痛い音を入れがちじゃないですか。でもそういう風にはしない。僕はTR-808の音とかも大好きなんですけど、そこにのせるシンセも丸い音だし、ギザギザした音を入れない。エンジニアやってくれてるZKAくんもそこを理解してくれてますね。

■なるほど。最後の質問になるんですけど、『風光る』というタイトルはどういう意味ですか?

LIBRO:僕はタイトルをあんまりパッとつけられない人間なんです。それもあって、「対話」とか「軌跡」とか「胎動」とか「音信」とか漢字二文字の曲名が多いんです。そういうタイトルはつけるのが簡単だからこれまでそれでやってきたんですよね。でも、それだけじゃいけないなと思って考えた。自分がラップを初めてから考えてきたのは、ことばにする手前の感情、喉元ぐらいまできた感情や想いを曲の中で表現したいということだったんです。それは見たり聞いたりする感覚がわかれていない状態というか、そういうことを上手く抽象的に表現したいと思い続けてきたんです。そういうのもあって、今回「風が光る」ということばにたどりついた。「風光る」ということばはもちろん造語なんですけど、このことばにはいろんな感覚が混ざっていくようなものを感じたんです。このタイトルに関してもそうですし、いまはコ・プロデューサーのKEIちゃんとチームでやっていて、いろんなアイデアもらっているんですよね。KEIちゃんのパワーはほんと大きいですね。

■LIBROさんはラップで、風景や情景、または心象風景、抽象的な感情をシンプルに言語化してリズムにのせていく、ということを追求してきた方ですよね。

LIBRO:そうですね。このアルバムに「コントラスト」っていう曲があるんですけど、感覚のコントラストを表現したいという想いはありますね。もちろん物事をバッと言い切りたい気持ちもあるけれど、色味みたいにつながってわけられない感覚も大事にしたいんです。僕はほんとに自分の内面の葛藤ばかりをラップしてきたから、今後もその部分をより深めていきたいし、そういうことを伝えられるようなことばを探しているんです。『拓く人』以降はもうドアが開いた後だからもう部屋には戻ってはいけないですね。今はやり始めないといけない段階で、そうやって拓いた後に作ったのが今回の『風光る』なんです。





LIBRO - 風光る

AMPED MUSIC / JPN / CD / AMPED007 / 2016年5月25日発売
保存