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従来伝説的に語られていた英HMVプレス盤LPによるトスカニーニ/NBC響の音のよさが、噂から真実になったことを喜びたい。サン・サーンスの第1楽章第2部ポコ・アダージョで密やかに現れるオルガンの重厚なペダル音。オルガンと弦の美しい和声のコラボレーションでは、かつてのトスカニーニ/NBCのディスクからは絶えて聴かれなかった響きの豊かさ、しなやかさを満喫できるし、スケルツォ風の第2楽章第1部ではトスカニーニらしく控え目な打楽器群にピアノも参加して多彩な音がかけめぐる。そして一瞬の空白をぶち破る豪然たるオルガンの大音響から絢爛たるクライマックスに突入する。エニグマは意外にも親しみやすい「優しさと愛と微笑ましいユーモア」にあふれる音楽なのに気付かせてくれる。トスカニーニ一流の品位を持った演奏でもあり、イギリスの作曲家の作品には英HMVの音感が冴える。
(音楽評論家・小林利之)
トスカニーニとNBC交響楽団の一連のLPで米RCA盤よりも英HMV盤の方が音がよいという話を耳にして以来HMV盤を入手するようにしてきた。確かにRCA/Victor盤に比べて音にふくらみがありトスカニーニの音楽も迫力というより音楽的な豊かな響きがある。ただしHMV盤のトスカニーニ録音は余り多くない。アメリカのRCAがヨーロッパ向けに自分で手掛けるようになりHMV盤はなくなったためである。新しく出た英RCA盤は当然ながらきつく痩せたあのトスカニーニの音になっている。 今回の2曲はいずれも英HMV-LPを用いている。両者を比べるとセッション録音のエルガーの「エニグマ」変奏曲が実に豊かな響きで、チェロが歌うところなどチェロはトスカニーニの楽器であったことを思い起こさせてくれる。
他方のサン・サーンスはRCA盤やCDに比べて音に厚味はあるが、第4楽章のクライマックスなど迫力は満点であってもかなりヒステリックな音である。これはライブ録音でありそんなものかという気もするが、実はこの日の前半の曲はロッシーニの弦楽ためのソナタ第3番で、オーパス蔵で既発売(OPK2059)の音を聴くと豊かな美しい音である。この音源はRCAではないが録音は同じ装置で行っている可能性が高く、RCAが迫力優先の音作りをしたのではないかと想像してしまう。今回の音はHMV盤のままでもよいのであるが、前半のロッシーニの音やエニグマの音を参考にして多少バランスを変えてみた。晩年のトスカニーニの音楽は骸骨化しているという批判もあるが、レコード製作にも責任があるのではないかという提起でもある。
(オーパス蔵代表・相原 了)
【収録曲】
1. サン=サーンス:交響曲第3番ハ短調作品78「オルガン付き」
2. エルガー:エニグマ変奏曲作品36
【演奏者】
アルトゥーロ・トスカニーニ(指揮) NBC交響楽団
【原盤:英HMV LP】
ARTURO TOSCANINI / アルトゥーロ・トスカニーニ