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「出現」と「幻惑」相反する要素が共存し、変容し続ける状態を描いた『Paradessence』
現代ニューエイジ、環境音楽を牽引する存在となったSpencer DoranとRyan Carlileによるエレクトロニック・デュオ、Visible Cloaksの待望の通算3作目となるニュー・アルバムが完成。
『Paradessence』において沈黙は重要な登場人物。音を彫刻する行為の中に感じられるだけでなく、あらゆるものに及ぼす圧力、そしてそこから現れるものにおいても感じられる。グループは建築理論家Christopher Alexanderの「ポジティブ・スペース(positive space)」という概念に影響を受けた。物体そのものを構築するのと同じくらいの配慮を、物体の周囲にある“空白(void)”の形にも向けられる、という考え方だ。ここでは、音が自らの沈黙を伴って運ばれていく様子が聴こえる。存在と非存在のあいだを振動し、微生物のようにライフサイクルをたどっていく。
『Paradessence』を下支えする楽器群には共同体性がある。風が葉の群れの上を漂い、動きが消えたことで空気が見えるようになる時のように、それらは群れのように動く。複数の種が同じ曲の中で共存し、数分のあいだに、せり出し、引っ込み、変容していく。「環境として水平に機能する作品を作るのではなく」とDoranは言う。「空間の中で変化していく“生きた素材”として捉え、絶えず流動しているものとして概念化したかった。」曲の形式はアンビエンスから離れ、純粋な抽象へと舵を切る。ユートピアニズムが周縁に漂う。想像上の未来との関係は、ナイーブでも、シニカルでも、ノスタルジックでもない。
Visible Cloaksが時間をかけて築いてきた世界は、しばしばコラボレーターによって物質的なかたちを与えられてきた。『Paradessence』では、その馴染み深い顔ぶれが再び戻ってくる。Motion Graphics(Joe Williams)は「合成木管(synthetic woodwinds)」で登場し、アルバムの共同ミックスも担当。彼特有の艶やかな質感で輪郭を整えている。連結した2曲「Shapes」と「Thinking」は、環境音楽の革新者Yoshio OjimaとSatsuki Shibanoとともに制作された。彼らはデュオが参加した世代横断のFRKWYSコラボ『serenitatem』でも共作した相手だ。後者の「Thinking」では、Ojimaが書いたスポークン・テキストが用いられ、Shibanoが日本語で、そして作曲家で長年の友人でもあるFélicia Atkinsonがフランス語で朗読している。
Doranの「不確定(indeterminate)な室内楽」プロジェクトComponium Ensemble(自動演奏するソフトウェア楽器群)が、「System」の基盤を提供する。それはPessoa的な異名性(heteronymity)の瞬間でもある。さらにアルバムには、ルーマニア出身の作曲家・ヴァイオリニストIoana ?elaruも参加し、「Intarsia」で声と弦の演奏を提供している。Doranはこのコラボを「幻影的な存在感(illusionary presence)の練習」と呼び、「彼女の実際の楽器演奏と仮想楽器を並置し、合成ストリングスと現実に存在するストリングスの境界をぼかす」というアイデアから共同で発展させたと語る。
「Intarsia」における?elaruの緊迫したパフォーマンスは、『Paradessence』のドラマティックな核をはっきりと示す。それは切迫した彫刻的な仕事であり、ひとつの楽器と人間の声が、合成的な成長の海によって変調されていく。Doranは「この現実と仮想のあいだの滑り(slippage)は、まったく別の何か、奇妙で言葉にしがたい何かを捉えている」と説明する。「それは、オンラインでも現実の生活でも、デジタル・モダニティの中で生きることに固有の要素なんだ。」
Visible Cloaks:
Visible Cloaksは、Spencer DoranとRyan Carlileによる米国ポートランド拠点のエレクトロニック・デュオ。プロジェクトは2010年にDoranのソロとして始動し、2014年にCarlileが合流してデュオとしてのVisible Cloaksへと発展した。セルフ・タイトルのデビュー作を経て、ニューヨークの名門RVNG Intl.へと契約。代表作『Reassemblage』は2017年2月にリリースされ、DoranとCarlileの共同プロデュースによって、ポストYMO以降の電子音楽的冒険に敬意を払いながらも、その系譜をなぞるのではなく別の方向へと踏み出した作品として位置づけられる。80年代半ばから90年代初頭にかけての日本やイタリアのエレクトロニック・ポップ/アンビエントが切り拓いた道筋から敢えて逸れ、合成的な“種”から育った樹木が深い音の樹冠をつくる森の中に、自分たちの陣地を築いていくような独自の音響世界を確立した。アルバム収録曲「Valve」にはdip in the poolの甲田益也子が参加し、「Terrazzo」にはMotion Graphicsが参加するなど、客演を含めて作品世界を拡張している点も特徴として刻まれている。サウンド面では、Doranが日本のニューエイジ/アンビエントや電子音楽への関心を背景に制作してきたことが各所で言及され、Yellow Magic Orchestraや坂本龍一の名が影響源として挙げられることもある。また制作プロセスについては、Doran本人がAbletonのインタビューで、システム的な発想にもとづくアプローチや音作りの方法論を語っている。2017年後半にはミニアルバム『Lex』を同年12月にリリースし、複数の方言やアクセントを連鎖させて翻訳ソフトに通すことで生成された“異星の言語”を音素材として取り込み、彫刻的なアレンジの網目に、意味へ回収されない静謐な発声を織り込んだコンセプト作品として提示した。ビジュアル面でも作品世界の統一が重視され、『Reassemblage』のアートワークや『Lex』期の短編映像でBrenna Murphyが関与している。さらに2019年には、尾島由郎と柴野さつきとの共作『serenitatem(FRKWYS Vol. 15)』を発表。初の日本ツアー終盤に両者と出会い、ヨーロッパ・ツアー中に録音した加工音のスケッチを尾島へ送り、加筆・編集された音を再び折り込みながらスタジオ・セッションへ持ち込むという往復運動の中で制作が進められた。そこで生まれた作品は、人間と機械の境界が縫い目としてほとんど見えないほど滑らかに結合されつつも、その気配が至るところで示唆される鋭利なレコードとして結実している。Visible Cloaksは、特定地域の音楽史、とりわけ日本の環境音楽/シンセサイザー音楽への参照を、単なる引用ではなく制作手法そのものの設計へと転換し、翻訳・変換・生成といった方法論を軸に、アルバムごとにコンセプトを更新しながら、RVNGを軸に音と視覚、コラボレーションを統合した作品群を展開してきた。
nce』
VISIBLE CLOAKS / ビジブル・クロークス
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