「神の左手、無意識の右手/ポール・マッカートニーの作り方 No.16」 宮崎貴士

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2020.07.22

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前回No15コチラ https://diskunion.net/diw/ct/news/article/1/89870

【番外編コラム-02:時代によって私たちの耳も変わっていくのである Vol.1】

 

昨年末から企画を練り始め、紆余曲折ありながらも、結果このディスクユニオンの軒先をお借りして毎週書き続けているこの連載。本業との平行作業はなんとかクリア出来、内容についてもまだまだ書き足りないほど頭の中にはネタが詰まっているのですが、そこに「ポール・マッカートニーについて書いて!」と別の依頼案件が入って来てしまうと、さすがにバンザイ!してしまうというか、いや、それでも書く!死んでも書き続ける!と思わなくもないのですが、さすがに会ったこともない相手について考え続けて死ぬのも嫌なので、今週、来週ともに気軽なコラムで穴埋めさせて頂きたい!申し訳ない!と、誰が読んでいるのかさっぱり分からぬままに頭を下げつつ、番外編でございます。


さて、困ったときのYouTubeということで、前回「ビートルズの『ラバーソウル』を80年代にCDで聴きなおした時に『Michelle』や『You Won't See Me』のテンポが曲中で変化している事に気づいた」話について補足いたします。


まずは65年にリリースされたザ・ビートルズ版の『Michelle』

https://youtu.be/WoBLi5eE-wY


この曲のテンポについて気になってしまった箇所は、間奏後、歌としては3番にあたる「Michelle, ma belle Sont des mots qui vont tres bien ensemble Tres bien ensemble」のライン、上記の映像では2分05秒辺りから、音楽用語では「リタルダンド(通称リット)」と言いまして、曲中で意図的にテンポを下げて演奏する手法となります。曲終わりでテンポを下げて終止するというのはよく使われる手法ですが、『Michelle』の場合、エンディングパートの前、3番の途中から(ふいに)リットしているのがどうも不自然に聞こえてしまうのです。


比較としてポールがソロになった以後に演奏している映像も確認してみましょう。92年の演奏です。

https://youtu.be/F6KWX4zDE7Y


両ヴァージョンともにほぼ同じBPM(Beats Per Minute…1分間の拍数)で演奏されているのですが、92年の演奏を聴くと、曲全体のテンポが一定しているのを比較としてご理解頂けると思います。92年版はリットすらしていません。


『Michelle』のようなミディアム・バラード曲をさほどテンポを変えずに演奏する意識は「過度に情緒的な演奏、歌唱をしない」というポール、というより実はビートルズ時代からの前提となっています。だからこそ彼らの楽曲は今でも生き続けていると言っても過言ではないと思っています。


「曲に感情を乗せて聴くのはリスナー側の作業であり、作る側は曲の補助線として編曲などで工夫はしても、楽曲が持つ感情を自らの意志で一方向に固定しない」… ビートルズのこの自覚的な音楽作りはかなり画期的な意識だったと思います。現実と感情の乖離をユーモアやギャグとして表現する国民性、英国人らしさとも言えるでしょう。


話が少しずれてしまいましたが、ビートルズ時代の『Michelle』のテンポを現代的に、シーケンサー登場以後の聴取環境にアップデートしたのが92年版なんですね。


時代によってテンポ感が変化した曲として、よりその変化が分かりやすい『You Won't See Me』、そして時代と意識がアップデートされてもオリジナル版のグルーヴの魅力が減じるどころか逆に輝いてしまう曲、『Get Back』について。次回も番外編として、この話題は続きます。

 

[宮崎貴士]1965年、東京生まれ。 作、編曲家。ソロ名義で2枚(Out One Discより)、2つのバンド「図書館」「グレンスミス」(ともにdiskunion/MY BEST!RECORDSより)で共にアルバム2枚リリース。 他、岸野雄一氏のバンド「ワッツタワーズ」にも在籍中。 2015年、第19回文化庁メディア芸術祭エンターティメント部門大賞受賞作(岸野雄一氏)「正しい数の数え方」作曲。曲提供、編曲、など多数。ライター活動としては「レコード・コレクターズ」(ミュージック・マガジン社)を中心に執筆。2017年6月号のレコード・コレクターズ「サージェント・ペパーズ~特集号」アルバム全曲解説。同誌2018年12月号「ホワイト・アルバム特集号」エンジニアに聞くホワイト・アルバム録音事情、取材、執筆、他。 
"Paul and Stella"  Illustrated Miyazaki Takashi
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