「神の左手、無意識の右手/ポール・マッカートニーの作り方 No.22」 宮崎貴士

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2020.09.02

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【第4章:流れよ和音、とメロディは言った/マッカートニーとマンシーニ Vol.1】

 

さて、この章ではポール・マッカートニーが曲を作っているときにはどういう事を考えているのか? 実際に楽器を弾きながら、その思考の流れを「想像してみよう」と思っております。動画を中心にしながら、考察を重ねてゆきます。


作業開始前からすでに分かっていることはただ一つ、「ポール・マッカートニーは世界でただ一人、ポール・マッカートニーに影響を受けていない作曲家である」という事実。ポールだけがポール流から独り自由な音楽家であるのです。では、ポール的なコード進行を知る事、ポールの曲を分析する作業は意味がない行為なのか? そういうことではありません。ここで追求してみたいのは〝結果としてのポール風〟ではなく、音楽好きなら共有出来るかもしれない〝魅力ある音楽が立ち上がる瞬間〟その地平を耳で聴きながら探ろうとする試みです。(今後テキスト内で最低限のコードネーム、音楽用語は使用いたしますが、基本は「音」で伝えてみたいと思っています。)


●『ムーン・リバー』から聴こえてくる『イエスタデイ』そして『ヒア・ゼア・アンド・エブリウエア』


1961年、映画『ティファニーで朝食を』での劇中歌、オードリー・ヘップバーンが歌う『ムーン・リバー』

【作曲:ヘンリー・マンシーニ/作詞:ジョニー・マーサー】 https://youtu.be/vnoPke8tlAs

“ Moon river, wider than a mile / I'm crossing you in style some day / Old dream maker, you heart breaker / Wherever you're going / I'm going your way ”(参考個所を指摘するために1番のみ歌詞を表記)


最上級のメロディを持つ名曲『ムーン・リバー』。米国の作曲家によって作られたこの曲、コード(和音)とメロディの関係、深い印象が残る旋律の作られ方、そこにポール・マッカートニーに共通する音楽的感覚がみえてきます。では、この曲をまずはピアノでさらりと弾いてみます。

https://youtu.be/BPVZEmvCQJ8


ヘ長調、つまり曲のキイはFで弾いています。ここで簡単に各調のスケールを弾いてみます。

https://youtu.be/beUGbKK3DCA


ハ長調、つまりキイCで弾くのが音として分かりやすいですね、「ドレミファソラシド」。分かりやすく書きますと、いわゆる転調とはこの「ドレミ~」の音階が曲の途中で「ずれていく」感覚を指します。では『ムーン・リバー』の肝となるコードの転調個所はどこに訪れるでしょうか?

https://youtu.be/-sOf40NH-xo


転調は歌詞の“some day”のところになります。ここのコードの流れだけを弾いています。


次に、あえて最初は和音を工夫せずに終止していく流れ、次にこの曲が展開していく和音の流れを続けて。

https://youtu.be/fxPkHqrxp-s 


いかがでしょうか? 最初のパターン、メロディとともに曲が終わってしまう感覚が伝わるでしょうか? そして実際の和音の流れ(コード進行で表記すると《F-Em7-A7》)、この流れが曲を発展させていく肝になります。最初のパターンですと、その先をどうやって続けていくのか? 行き先不明のまま、宙ぶらりんのカタチになってしまいます。強引に書いてしまいますが、曲作り、コードとメロディの関係を発展させていく作業とは、この流れ、音の連なりによる工夫を曲の中で作っていく作業になります。


そして『ムーン・リバー』が魅力的になる瞬間、そのコード進行《F-Em7-A7》を曲の出だしでいきなり使っているのが『イエスタデイ』なんですね、弾いてみます。

https://youtu.be/AX4oc4KJ-cs


いかがでしょうか? ポールが眠っているときに浮かんだメロディにあてたコード進行には『ムーン・リバー』と共通する快楽《F-Em7-A7》が潜んでいたのです。で、音楽的な影響とは実のところ、こういうカタチで現れてくるのだと思います。


61年に発表された『ムーン・リバー』をポールも当然聴いていたでしょう、場合によってはピアノでコード進行を自分なりに捉えていたかもしれません。が、『イエスタデイ』に潜む『ムーン・リバー』の進行については、引用でも盗作でもありません。曲全体のコード進行を「使っていない」のです。〝素晴らしい和音の流れ〟を身につけていくとは、こうした〝ある瞬間の音楽の快楽〟を自分の身体に入れていく作業なのです。それが不意に、「無意識に」自分の曲の中で表現される瞬間がある。それが音楽創作の連鎖、影響、広がっていく世界観なのだと自分は理解しているのです。


『ムーン・リバー』と『イエスタデイ』の関係、私の妄想領域の解析なのは前提として、最後に貴重な動画を紹介いたします。1965年、英国のテレビで放映された『The Music of Lennon & McCartney』、作曲家としての「レノン&マッカートニー」を取り上げた番組、ポールの紹介に続き、ゲスト出演としてピアノを弾いているのがヘンリー・マンシーニです。

https://youtu.be/nPXa1SaYTXU

 

(『ヒア・ゼア・アンド・エブリウエア』についての解析は次回に!)

 

[宮崎貴士]1965年、東京生まれ。 作、編曲家。ソロ名義で2枚(Out One Discより)、2つのバンド「図書館」「グレンスミス」(ともにdiskunion/MY BEST!RECORDSより)で共にアルバム2枚リリース。 他、岸野雄一氏のバンド「ワッツタワーズ」にも在籍中。 2015年、第19回文化庁メディア芸術祭エンターティメント部門大賞受賞作(岸野雄一氏)「正しい数の数え方」作曲。曲提供、編曲、など多数。ライター活動としては「レコード・コレクターズ」(ミュージック・マガジン社)を中心に執筆。2017年6月号のレコード・コレクターズ「サージェント・ペパーズ~特集号」アルバム全曲解説。同誌2018年12月号「ホワイト・アルバム特集号」エンジニアに聞くホワイト・アルバム録音事情、取材、執筆、他。 
"Paul and Stella"  Illustrated Miyazaki Takashi
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