「神の左手、無意識の右手/ポール・マッカートニーの作り方 No.24」 宮崎貴士

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2020.09.16

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【第4章: 流れよ和音、とメロディは言った/ポール流作曲法 vol.1】



さてさて、前回前々回と、ポール・マッカートニー流の《コード(和音)の流れ》とその上に紡がれていくメロディ、その関係を意識した曲作りについて、手始めに参考曲を弾きながら一例を示してみました。このように、ポールが感じているであろう、そして考えているはずの〝音楽的な快楽ポイント〟を探り出してアナライズする作業、「このコードの流れは気持ちいい」、「そのコードとメロディが重なると曲が広がっていく」、そんな快楽ポイントを〝耳〟で共有する作業をこれからも続けていきます。


音楽作りに必要な作業、おおよそすべての方法論について自己流を極めているポール・マッカートニー。事前に楽理を意識せず、あくまでも自身が感じる、聴こえる音を取り入れながら楽曲を作っています。そのキャリアは50年以上、彼がその年月で修得してきた方法論、技術、全てを共有して理解するのは元より無理な作業です。なによりポール流の音楽術は彼の類まれなる《音楽的表現力》―― この連載で書き続けてきた元来のリズム感、歌唱力などと不可分な関係があります。逆に言うと「歌えない曲は作らない、弾けない曲は作れない」。


ポールほどに歌えて弾ければそれで充分だよ! (特にヴォーカルとベースに関してはトップクラスの能力ですので)という思考も当然ありますが、それこそがポールのオリジナリティ。誰もが彼になれないことが自明ならば、その状況こそが、誰にとってもオリジナリティを獲得する可能性に繋がるという話でございます。なにしろポール自身がその類まれなる能力を〝バンド〟にはじまり、他者によって獲得してきた音楽家です。ポール流を知ることで私たちが出来ることは、ポールが感じている〝音楽の魅力〟を共有して〝自分にとっての音楽〟に気づくことである、と。ポールにとってのジョン・レノンやジョージ・マーティンが他者であり、その存在によってポールが自身にとっての〝音楽〟を発見していったように、ポールを通じて、私たちそれぞれの〝音楽〟を探っていく作業につながればと思います。


さて、ここでポール流の作曲法、そこに至る流れを大まかに【ポール流の作曲パターン】として分類してみます。


1) メロディ先行型

楽器を使わずにメロディを作るパターン(鼻唄などもふくむ)。
参考曲:『イエスタデイ』


2) コード先行型

楽器を弾きながら、和音の流れのなかでメロディを作っていくパターン。楽器の特性によって作られる曲は異なり、また使用する楽器を横断して作られる曲もある。
参考曲:ピアノによる『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』/ アコースティック・ギターによる『ブラック・バード』


3) 他楽曲からの引用(コード分析)型

他楽曲中のコードの流れを分析、部分引用、もしくは和音の重ね方を引用するパターン。
参考曲:前回動画で説明しました『ヒア・ゼア・~』をはじめ多数あり。特にビーチボーイズ『ゴット・オンリー・ノウズ』のコード解析からの影響は多くみられます。


4) 他楽曲からの引用(雰囲気)型

これは音楽的な引用ではなく、その曲がもっている魅力や役割を引用する、『....』みたいな曲、を作るパターン。
参考曲:ラヴィン・スプーンフル『デイ・ドリーム』→『グッド・デイ・サンシャイン』


5) 歌詞とメロディを同時に作っていく、もしくは歌詞先行型

歌いたい事が同時にメロディ(抑揚)を伴って表現される、ジョンに多くみられるパターン。
参考曲:『オール・マイ・ラヴィング』


以上、5パターン、おおよそかつ乱暴な分類でありますが、当然ながら上記の分類を横断して、最終的には楽曲として完成させることになります(例えば、バッハ的な和音にインスパイアされ、アコギを弾いているうちに『ブラック・バード』を作るように)。楽器を持たずにメロディが降ってくるような『イエスタデイ』的なパターンであっても、音楽的知識が付加され、コードを展開していく知識がそこに備わっていないと楽曲は他者に届けられません。ひきつづき、次回から実際の曲作りをまた動画で説明していきます。必要と思われる知識をその都度含めて、解説していきたいと思います。

 


付記:『ヒア・ゼア~』が収録されたアルバム『リボルバー』期は、ポールにとって、以後の作曲キャリアにおいて最も重要な転換期になるかと。その時期の作曲意識の自覚的変容についてはいずれ記したいと思います。



 

[宮崎貴士]1965年、東京生まれ。 作、編曲家。ソロ名義で2枚(Out One Discより)、2つのバンド「図書館」「グレンスミス」(ともにdiskunion/MY BEST!RECORDSより)で共にアルバム2枚リリース。 他、岸野雄一氏のバンド「ワッツタワーズ」にも在籍中。 2015年、第19回文化庁メディア芸術祭エンターティメント部門大賞受賞作(岸野雄一氏)「正しい数の数え方」作曲。曲提供、編曲、など多数。ライター活動としては「レコード・コレクターズ」(ミュージック・マガジン社)を中心に執筆。2017年6月号のレコード・コレクターズ「サージェント・ペパーズ~特集号」アルバム全曲解説。同誌2018年12月号「ホワイト・アルバム特集号」エンジニアに聞くホワイト・アルバム録音事情、取材、執筆、他。 
"Paul and Stella"  Illustrated Miyazaki Takashi