「神の左手、無意識の右手/ポール・マッカートニーの作り方 No.25」 宮崎貴士

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2020.09.23

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【第4章: 流れよ和音、とメロディは言った/ポール流作曲法 Vol.2】


前回 第24回 https://diskunion.net/diw/ct/news/article/1/91302


「ポール・マッカートニーは曲をどうやって作りはじめるのか?」… 前回のテキストで分類したポール流の作曲法5パターン。【パターン(1)】のメロディ先行型については以前、紹介した『イエスタデイ』の説明がそれに当たると思います。まず先に〝メロディありき〟、メロディにはじまり、その流れに合わせて和音(コード)をあてていく作業となり、No.22、23の動画で解説したよう【パターン(3)】の他楽曲からの引用など、知識や経験から曲を展開し、完成に至ります。


今回は【パターン(2)】、楽器を弾きながらメロディを作り出す、見つけ出していく作業について、楽器としてピアノを使った〝ポール流作曲風景〟をシミュレートしてみます。


【動画-1】https://youtu.be/gS3ox5t-i2cb

スロー、もしくはミディアムテンポでメロディックなバラード調の曲を、思いつくままに繋げて弾いています。曲の主なKey(調)は《C》、《B♭》、《F》、《E♭》、そしてそのマイナー調を使っていて、すべての曲はそのKeyの流れに入っています。「和音の響きがキレイ!」と感じる方が多いと思いますが、いかがでしょう? 楽器の特性として、ピアノは一連の調の響きが美しいんですね、調性が取れている、と。これらのkeyは、コード展開としてマイナーKeyとの親和性も高く、曲の陰影を作り出すのに向いている和音群だと理解しています。動画内では弾いておりませんが、この調で作られた代表曲として、ビートルズの『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』が挙げられます。


【動画-2】https://youtu.be/rQ38_VxlfYc

こちらはアップテンポ調の曲を思いつくままに繋げて弾いています。曲の主なKeyは《D》、《E》、《G》、《A》です。これらはギターでよく使われるコード群、つまり楽器の特性として、ギターで押さえやすいコードを使っています。なぜ「バンド向きでアップテンポ、メジャー調の曲」が必然的に多くなるのか? … ピアノで作った曲でもギターと相性がいいKey、つまりバンドで演奏しやすい曲調だからなのか、ピアノで弾いたときの明るくきらびやかな響きに魅かれて、自ずと曲調が決定されるのか、楽理的には説明がついている事かもしれませんが、ここは判断が分かれるところです(どちらか、というより複合的な印象によって、曲調が定まってくるのかとも)。ピアノの楽器的特性とあいまって、7thコード〝ブルーノートがより響く調〟であることも、付け加えておきたいところです。そして、またもや弾き忘れております、『エボニー&アイボリー』もこの調に含まれる曲です。


ピアノを弾きながら曲を、メロディを作りはじめる ――「さて、メロディックなバラードでも、いっちょ作りまっか!」そう思えば【動画-1】のように、また「アップテンポの盛り上がるバンド向きの曲」と思えば【動画-2】のように、経験則からピアノを弾きはじめ、その響きからメロディを探っていく。当然、これは大枠での分類で、アップテンポ向きとみられる《D》調ではじまるバラード曲も勿論、存在します。あくまでも「楽器に向き合ったときにどういう気分でメロディを作っていくのか?」というスタートの時点の考察であり、このように〝コードの響きからメロディを見つけていく作業〟は、ポールに限らず、多くの音楽家に共通しているものと理解しております。


動画内、私はポールの曲を弾いておりますが、ポールの場合は当然、自身の曲を手がかりにはしません。かつてはそれがヘンリー・マンシーニだったり、ブライアン・ウイルソンだったり。なぜポールは彼らの曲に惹かれたのか? それは計りかねますが、こうして誰かのお気に入りの曲を弾いている流れ、その和音の響きのなかで自分のメロディが湧き出てくる、と。ピアノは〝和音がすべて目の前で展開する楽器〟ですので、そういう作曲法に向いているんですね。




 

[宮崎貴士]1965年、東京生まれ。 作、編曲家。ソロ名義で2枚(Out One Discより)、2つのバンド「図書館」「グレンスミス」(ともにdiskunion/MY BEST!RECORDSより)で共にアルバム2枚リリース。 他、岸野雄一氏のバンド「ワッツタワーズ」にも在籍中。 2015年、第19回文化庁メディア芸術祭エンターティメント部門大賞受賞作(岸野雄一氏)「正しい数の数え方」作曲。曲提供、編曲、など多数。ライター活動としては「レコード・コレクターズ」(ミュージック・マガジン社)を中心に執筆。2017年6月号のレコード・コレクターズ「サージェント・ペパーズ~特集号」アルバム全曲解説。同誌2018年12月号「ホワイト・アルバム特集号」エンジニアに聞くホワイト・アルバム録音事情、取材、執筆、他。 
"Paul and Stella"  Illustrated Miyazaki Takashi