「神の左手、無意識の右手/ポール・マッカートニーの作り方 No.29」 宮崎貴士

  • DIW PRODUCTS GROUP
  • ニュース

2020.10.21

  • LINE

  • メール


 

【第4章: 流れよ和音、とメロディは言った / ポール流作曲法  Vol.5 ピアノ山脈】


前回(No.27 ポール流作曲法 Vol.4)は『リボルバー』の時期からピアノを積極的に使いはじめたポール・マッカートニーの作曲スタイルの変化について書きました。今回はアレンジについての意識の変化、ひいてはバンドに与えた影響、その功罪について続けます。


コンサート・ツアー活動を止めてレコーディング・バンドとなった中期ビートルズ。『リボルバー』発売から10ヵ月後、67年6月には『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』、その半年後の12月には、クリスマスの時期に特番として放映されたテレビ番組のサウンド・トラック盤(英国では6曲入りのEP盤)として『マジカル・ミステリー・ツアー』がリリースされています。また67年のシングル盤は2枚、書き下ろしの両A面シングルとして2月に『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』&『ペニー・レイン』、そして11月にも書き下ろし曲の『ハロー・グッドバイ』&『アイ・アム・ザ・ウォルラス』(『マジカル~』に収録)がリリースされています。


67年、ポール主導で作られた、それぞれが多彩な作風をもった楽曲は全12曲、うち10曲がピアノによって作られ、演奏されています。このテキストを書くためにカウントしてみたのですが、その比率には驚かされました、この時期のポールはほとんどの曲をピアノで作っていたんですね。これらの楽曲からは、(この章で述べてきたよう)作曲段階でピアノを使うことにより身についた多様なコード進行へのスタイルの変化やビーチボーイズの『ペット・サウンズ』の影響力(と対抗心)が強く感じられます。


そして、作曲だけではなくアレンジ作業への視座もピアノによって大きく変化します。中期の楽曲では(ピアノも含め)鍵盤楽器はまず〝リズム楽器〟として基本的な役割を与えられる、つまり、それまではギターが担っていたリズムの刻みがピアノに置き換えられることになるわけです。顕著な例として、ポール作曲の『ペニー・レイン』… ピアノを含めた数種類の鍵盤楽器が縦リズムを刻む、あの特徴的なアレンジは複数の異なる鍵盤楽器を異なる音域でダビングすることにより作り出されています。


リズムを刻む以外、鍵盤によって〝コードで使われている音〟を解釈し直す編曲がなされているのも、この時期からの手法です。コードを旋律に変奏している『サージェント~』収録の『ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ』、『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』… 2曲ともジョン・レノンの作曲ですが、コードを〝まとめて鳴らす〟ギターで作られた曲に対して、鍵盤によりコードを〝分解しフレージングし直す〟編曲法にポールは踏み込んでいます。コードの構成和音を開き、(楽譜的に)横の流れ、フレーズ展開していくアレンジ。これはクラシック的な編曲法であり、すべての楽器がメロディを奏で、(横に)連なる音符の流れによって曲が展開していく、その手法を(あくまで初歩的な意味で)ポールはここで手に入れたのだと思います。


それまでは4ピースのバンドとして、役割が(ほぼ)固定していたビートルズ、ドラムのリンゴ、ギターのジョンとジョージ、ベースのポール。4人が同時にセッションし、ヘッドアレンジで曲を作っていくのが〝バンドにおける曲作りの前提〟でした。しかしポールがピアノで曲を作るようになったことにより、その前提が必然では無くなってしまうのです。


また、例えばベーシックトラック録音時、ポールがピアノの弾くことにより、ジョンとジョージの役割は不明瞭となってしまいます。それこそ「ピアノの曲にギターが2本も必要なのか? 」「弾き慣れないベースをポールの代わりに弾けばいいのか? (後から単独ダビング録音することもできるのに) 」と言うような事態に。


それまではそれぞれの役割において4人の均衡を保っていたビートルズ、楽曲に占めるポールのウエイトが作編曲に加え、演奏においても大きくなったことで、そのバランスは変化せざるを得ず、結果としてビートルズ崩壊の主要因とまでは言い切れませんが、バンドの在り方、4人の関係自体がここから変容したのはおそらく事実でしょう。


このようにポールは〝ピアノという楽器を使うこと〟により、〝楽曲の全体像をイメージすること〟が可能となり、それこそがポールを音楽的に著しく進化させました。しかし、それゆえに『ザ・ビートルズ』、4人のバンドとしてのバランスを崩す一因にも、それは繋がってしまったのです。
 

[宮崎貴士]1965年、東京生まれ。 作、編曲家。ソロ名義で2枚(Out One Discより)、2つのバンド「図書館」「グレンスミス」(ともにdiskunion/MY BEST!RECORDSより)で共にアルバム2枚リリース。 他、岸野雄一氏のバンド「ワッツタワーズ」にも在籍中。 2015年、第19回文化庁メディア芸術祭エンターティメント部門大賞受賞作(岸野雄一氏)「正しい数の数え方」作曲。曲提供、編曲、など多数。ライター活動としては「レコード・コレクターズ」(ミュージック・マガジン社)を中心に執筆。2017年6月号のレコード・コレクターズ「サージェント・ペパーズ~特集号」アルバム全曲解説。同誌2018年12月号「ホワイト・アルバム特集号」エンジニアに聞くホワイト・アルバム録音事情、取材、執筆、他。 
"Paul and Stella"  Illustrated Miyazaki Takashi
  • 前の記事へ

    「神の左手、無意識の右手/ポール・マッカートニーの作り方 No.30」 宮崎貴士

    DIW PRODUCTS GROUP

    2020.10.28

  • 一覧へ戻る

  • 次の記事へ

    寺島レコードの新定番となった人気シリーズFor Jazz Vocal Fans Only 最新作がLP化決定!

    DIW PRODUCTS GROUP

    2020.10.20

  • 一覧へ戻る

最新ニュース