「神の左手、無意識の右手/ポール・マッカートニーの作り方 No.30」 宮崎貴士

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2020.10.28

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【第4章 : 流れよ和音、とメロディは言った / ポール流作曲法 Vol.6 裏庭のアコギ】


ザ・ビートルズは未成熟のままにデビューした。62年のデビュー曲『ラヴ・ミー・ドゥ』でリンゴ・スターはドラムを叩いていない、直前にドラマーが交代したからだ。『ラヴ・ミー・ドゥ』が選ばれた理由もその時点でのレノン&マッカートニーの最高傑作であったからである。状況として機が熟したからではない、ある意味、付け焼き刃的に勢いでスタートしたビートルズ、その2年後に彼らは世界制覇をする。そして、優秀なプロデューサーとの幸運な出会いがあったとはいえ、彼らの驚異的ともいえる音楽的進化はその活動歴と同期していた。 成長過程の段階がすべて成果として結びついているのだ。期待も成功も予想もされていない段階から、空前絶後、全世界規模のバンドへ。どの分野のクリエイターであろうが活動歴とともに創作の内容は高度化し、変化していく。が、彼らほどその成長過程をすべて見せ切った例は他にない。


コンサート・ツアーを中断、レコーディング・アーティストとなった67年以後のビートルズ。楽曲制作に存分な時間と予算を使える環境を彼らが手にした段階で、ポール・マッカートニーは自身の作曲と編曲スキルを大きく更新することになった。シビアな締め切りからも解放され、ピアノに向き合い時間をかけて曲を作り、思いついた編曲はそれがオーケストラ編成であろうと試すことができた。その結果であるアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』、中期ビートルズの集大成とも評されるこのアルバムは、ピアノで着想された他楽曲も含めて、非常に高い評価を得ることになる。


以後、ポールはその成果を手にしたことで〝鍵盤主体の曲作り〟へ軸足を移していく、作曲自体の高度化を目指す、そんな選択肢もあったかもしれない。しかし、彼はその方向を選ばなかった。


彼がピアノに向かうことで手に入れた知識や編曲法は、あくまでも「自分が歌う曲のため」の手段だった。ここにミュージシャンとしてのザ・ビートルズ、そしてポール・マッカートニーの独自性がある。楽理的に整合性がある音楽的手法を手に入れたとしても、それは楽曲の幅を広げるための手段であって、その知識自体を高度化して専門性に向かう動機にはならないのである。スコアミュージックに本格的に向き合えば、より大きな成果を得ていた可能性があったとしても、だ。 


デビュー前から自己流を続けてきたジョンとポール、二人の曲作りの動機は「自ら歌うための曲を作る」それに尽きる。『サージェント~』が偉大なアルバムであっても、またそうではなくとも、彼にとっては〝成長過程で獲得した知識を使って、その時代に作った楽曲〟それ以上でも以下でもないのである。


ビートルズ中期、ピアノを使うことで多彩な音楽性と大きな成果を(他のメンバー以上に)手にしたポール。続く68年にリリースされた2枚組アルバム『ザ・ビートルズ』(通称ホワイトアルバム)、収録曲のほとんどは、彼らが超越瞑想の修行に出かけたインドで作曲(および着想)されている。ジョン、ポール、ジョージの3人は滞在先でアコースティック・ギターによる曲を大量に作っていた、それぞれが自分で歌うために。それゆえ、前年に作られたようなピアノによって着想された楽曲はいきなり減ってしまうのである。(ポールが作った12曲中、ピアノで演奏された曲は3曲。そのうち『ハニー・パイ』はアコギの作られた曲なので、ピアノで作曲された曲は実質2曲しかない。)


ホワイトアルバムに収録されたポールによるアコギの弾き語り曲『ブラックバード』、本人がインタビューで語っているように、弦楽器リュートのために書かれたJ.S.バッハの『ブーレ/リュート組曲第1番ホ短調』を下敷きに書かれた曲である。 かつてのようにコード弾きではないアコギ演奏、コードの構成和音を開き、(楽譜的に)横の流れ、フレーズ展開していくアレンジ ―― ピアノで獲得した手法をアコースティック・ギターで変奏しているのである。そこにはダビングを重ねた複数の鍵盤楽器もオーケストラの装飾もない。 ピアノという楽器を使うことで体得したコード感覚、転調の意識、和音の使い方が、シンプルなアコギの演奏でも具体的にイメージされているのだ。


このように、表面的には音像が変化したとみえる楽曲においても〝自分で歌う曲のために体得した音楽手法〟は、ポールの意識として連続し、息づいているのである。 

 


※参考動画

73年、ウイングス時代に放送されたTV番組より、アコギ1本でビートルズ時代やソロの曲をメドレーで。 https://youtu.be/UY3JwlwgqxU

[宮崎貴士]1965年、東京生まれ。 作、編曲家。ソロ名義で2枚(Out One Discより)、2つのバンド「図書館」「グレンスミス」(ともにdiskunion/MY BEST!RECORDSより)で共にアルバム2枚リリース。 他、岸野雄一氏のバンド「ワッツタワーズ」にも在籍中。 2015年、第19回文化庁メディア芸術祭エンターティメント部門大賞受賞作(岸野雄一氏)「正しい数の数え方」作曲。曲提供、編曲、など多数。ライター活動としては「レコード・コレクターズ」(ミュージック・マガジン社)を中心に執筆。2017年6月号のレコード・コレクターズ「サージェント・ペパーズ~特集号」アルバム全曲解説。同誌2018年12月号「ホワイト・アルバム特集号」エンジニアに聞くホワイト・アルバム録音事情、取材、執筆、他。 
"Paul and Stella"  Illustrated Miyazaki Takashi
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