「神の左手、無意識の右手/ポール・マッカートニーの作り方 No.33」 宮崎貴士

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2020.11.18

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【第4章: 流れよ和音、とメロディは言った / ポール流作曲法 Vol.9 バンドとアコギ】


前回に続いて〝ポール・マッカートニーとアコースティック・ギター〟の話、そして「ファースト・ソロアルバム『マッカートニー』はなぜアコギ中心のスタイルになったのか? 」について考察してみます。


《動画:バンドとアコギの関係について》 https://youtu.be/igSCvJIDJvs


ビートルズ後期(68年~70年頃)の代表的な楽曲『ヘイ・ジュード』『レット・イット・ビー』、そしてラスト・アルバム『アビーロード』…… 当時のポール・マッカートニーはピアノを前に歌う姿が印象深い。そして訪れるビートルズの解散劇。おそらく当時のファンは「ポールが作る最初のソロアルバムはピアノ曲が中心になるだろう」と想像していたのではないか。しかし70年4月にリリースされた『マッカートニー』はその予想に反してアコースティック、そしてエレキ・ギターで演奏される曲が中心のアルバムであった。


同年12月、ジョン・レノンもファースト・ソロアルバム『ジョンの魂』をリリースする。周知の通り、ポールとは対照的にピアノを中心としたアルバムであり、これもまた、これまでギターをメインに演奏していたジョンのイメージに反するものであった。


ビートルズ時代の音楽家としてのスタイル、ソロ活動をその延長とするなら真逆に思える二人の楽器選択。単純に「興味深い~! 」というマニア話でもありつつ、その理由については当時の録音状況が反映されていたと推察される。


『マッカートニー』はすべての楽器をポールが演奏している多重録音作品、いわゆる宅録(ホーム・レコーディング)の元祖としても知られている。が、実際のクレジットを見てみると、全13曲中ホームレコーディングは9曲。残り4曲のうち1曲はロンドンにあるモルガン・スタジオ(『レッド・ツェッペリンII』が録音された)、そしてアルバム中のメイントラック『Maybe I'm Amazed』、そして『Every Night』『Man We Was Lonely』の3曲はEMIスタジオ(後のアビーロード・スタジオ)を使っているのである。


当時のレコーディングはアナログ録音方式である。ポールが一人で全楽器を演奏したアルバムだとしても、その楽器の音をマイクで拾ってアナログテープに記録する、つまり、楽器の前に(誰かが)マイクを立てて、(誰かが)テープデッキを回し、演奏が終わったらまた(誰かが)デッキを止める。


自分も中学生時代から一人で録音遊びをしていた。ラジカセにギターを録音する時など、両手がふさがっているので足の指でカセットのRECボタンを押したり(そして足がつったり)していたわけだが、ビートルズ解散騒ぎのさなか、孤独で傷心だった頃とはいえ、いくらなんでもポールが足の指でデッキのボタンを押したりしているわけもなく、一緒にいたリンダがその代わりに、というより、最低限必要な第三者が現場にいたのではないか? と、以前から想像していた。


今回調べてみたところ、ロビン・ブラックというレコーディング・エンジニア(以下、R.E)の名が出てきた。自宅録音曲を含めて数曲でR.Eを担当しているのである。つまり現場でテープを回したり、マイクを立てる手伝いをしたりしていたのではないか。


また動画内では情報が漏れていたが、EMIスタジオで録音された3曲はフィル・マクドナルドがR.Eを担当している。彼は『アビーロード』において、すでにジェフ・エメリックのアシスタントをしていた。つまり『マッカートニー』には一部、ビートルズ時代の人脈が現場に参加しているのだ。


それを前提にしてEMIスタジオで録音された先の3曲を聴いてみると、やはりサウンドのクオリティが高い。特にピアノ曲『Maybe I'm Amazed』―― ピアノは楽器の特性上、とりわけ録音するのが難しい楽器である。数本のマイクを的確な位置に立てないと〝良い音〟で録音できない。ポールもさすがにアルバム全曲を自宅で、それも一人で作ることに戸惑いがあったのではないか。(演奏は別にしても)ピアノの録音についてはクオリティの限界を特に感じていたのではないか。そしてアコギなら、サウンド・ホールを狙えば最低限、自分で録音ができる、と考えたのではないか。


一方の『ジョンの魂』は共同プロデューサーにフィル・スペクターを迎え、そのほとんどの曲はEMIスタジオで録音されている。現場には当然、エンジニアもついている。ピアノのサウンドも含めて、ジョンが欲しかったであろうシンプルかつ力強いサウンドは、狙い通りに実現しているのである。


〝何もかも一人で始めなければならなかったポール、その置かれた状況から必然的にアコギを選ばざるを得なかったのではないか? エンジニアの有無、録音環境が二人のファースト・アルバムのサウンド、楽器選択を決定したのではないか? 〟


(寄り道的な話題ではありますが、次回へ続きます。)

 

[宮崎貴士]1965年、東京生まれ。 作、編曲家。ソロ名義で2枚(Out One Discより)、2つのバンド「図書館」「グレンスミス」(ともにdiskunion/MY BEST!RECORDSより)で共にアルバム2枚リリース。 他、岸野雄一氏のバンド「ワッツタワーズ」にも在籍中。 2015年、第19回文化庁メディア芸術祭エンターティメント部門大賞受賞作(岸野雄一氏)「正しい数の数え方」作曲。曲提供、編曲、など多数。ライター活動としては「レコード・コレクターズ」(ミュージック・マガジン社)を中心に執筆。2017年6月号のレコード・コレクターズ「サージェント・ペパーズ~特集号」アルバム全曲解説。同誌2018年12月号「ホワイト・アルバム特集号」エンジニアに聞くホワイト・アルバム録音事情、取材、執筆、他。 
"Paul and Stella"  Illustrated Miyazaki Takashi
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