「神の左手、無意識の右手/ポール・マッカートニーの作り方 No.39」 宮崎貴士

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2020.12.30

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【番外編コラム08 / 僕とポールとザ・ビートルズと】 

 

自分が初めてポール・マッカートニーを聴いたのは70年代後半、彼がバンド『ウイングス』で活動していた頃であった。当時、洋楽ヒットチャート上位の常連だったウイングス、新曲やニューアルバムがリリースされるたびにラジオなどで大量にオンエアされるので、意識せずとも彼らの曲には聴き馴染みがあり、レコード盤にも自然と手を出すようになった。洋楽雑誌などで最新情報や過去の活動歴を積極的に追うようになる以前、ラジオから流れる曲に反応し、純粋に惹かれた〝音楽〟としての『ウイングス』、そして、そのバンドを率いる『ポール・マッカートニー』―― 自分にはまずポールが作る〝音楽〟がそこにあった。


ビートルズの特別な存在感、付随する肥大化した関連情報に触れる前に、ポール(=ウイングス)の音楽に惹かれたのは幸運であった。数年後には、当然のごとくビートルズのアルバムも聴きはじめるのだが、そこへ遡った最初の動機はあくまでも「ポールが書いて歌っている曲がそこにも入っているから」だったのである。


と、いきなり〝僕とポール〟みたいな話題を書いております。他人にとってはどうでもよい、そんな私的思い出話をこの連載では避けてきたんですが、いまさら自己紹介みたいな話を書いている訳は「ポールがビートルズにこだわる理由」―― そこにあるポールの感情を、当時、いまひとつ理解できていなかったから、なんです。


あくまでも70年代後半の中坊の印象ですが、当時のポールは一人でも(ウイングスを率いながら)充分に成功していて、それを成立させている(中学生程度でもわかる)絶大な才能もあるのに、なぜ、かつてのバンド、解散して数年も経つバンドの存在にこだわるのか? そして、音楽雑誌やジャーナリズム界隈は、なぜ、いつまでも「ビートルズはいつ再結成するの? 」とポールに聞き続けるのか? ―― ビートルズ時代の記憶が無く、楽曲やそのバンドの価値や権威を知らなかった、その頃の自分にとっては「発売中のウイングス、この新曲が最高! 」であるのに、と。


今となってはビートルズ時代と(ウイングス期以外の)ポールのソロ活動にこそ強く惹かれているのですが、その時に抱いた違和感はずっと心の奥底に残っていました。その記憶もこの連載をはじめた一つのきっかけだったんです。「なぜ、ポールは『ザ・ビートルズ』やバンドにこだわり続けるのであろうか? 」......


ところで、つい先日(12月21日)、突然、来年公開予定のビートルズの映画から、一部のシークエンスが公開されました。


2021年公開予定映画『ザ・ビートルズ:Get Back』 https://youtu.be/OzW8ZRVD0H


1969年初頭からはじまった、いわゆる「ゲット・バック・セッション」、そこに残された60時間の未発表映像と150時間の未発表音源が再編集された映画。監督はピーター・ジャクソン(『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ)。


1970年、映画『レット・イット・ビー』と同名のアルバムとしてまとめられていたプロジェクトが、50年も経て膨大な未公開フィルムと音源によって再構成されている。その公開された映像に何より驚かされたのは、ビートルズの4人が仲良くはしゃいでいる姿、そこで生まれているグルーヴの凄みでした。


そもそも4人はリヴァプールで生まれ育った音楽好きの仲間、楽器を演奏していたからこそ、彼らは出会って関係性が深まるのですが、(リンゴだけは後から加入したものの)10代半ばからの幼なじみであり、もともと同じ街で育ってきた同士なんですね。彼ら4人にとって「世界一成功した、偉大なバンド」という状況は、目標として共有されてはいたものの、もともとの関係性の先に訪れた産物にすぎません。


あまりにも巨大な存在としての『ザ・ビートルズ』、彼らが獲得したとされる成功と名声、そこから派生した彼らを巡る言葉、すべての権威は、彼ら自身には関係のない、すべて後付けの〝他者による印象〟だったんです。「あそこまで仲が良かったのか」という純粋な驚き ―― 当事者にしかわからない、第三者であるファンには、はっきりとみえることがなかった関係性がそこにはありました。


そして映像の3分45秒あたり、代替不可能な4人が生み出す圧倒的なグルーヴが最高潮になる瞬間 ―― ポールにとっての〝バンド〟とは、一般的な意味での〝バンド〟というよりも「ジョンとジョージとリンゴがいるバンドに自分がいる状況」のことだったのではないでしょうか。誰よりも一緒にいて楽しい、子供時代からの仲間たち......


解散による強烈な喪失感を経験しても、ポールにとって〝帰る場所〟であり続けた『ザ・ビートルズ』―― ジョン・レノンという尊敬するリーダーがいて、音楽好きの仲間として〝4人の中の1人〟でいられる場所、〝(偉大なる)元ビートルズ〟という肩書き、その逃れられない期待や役割から解放される唯一の場所は、そこにしか存在しません。


自分にとって、ポールが今も興味深い存在であり続けるのは、ソロでも成功しうる才能をもちながら、その才能だけでは達成できなかった経験を誰よりも理解し、愛しているからだと思います。あのポール・マッカートニーを超えてしまう存在 ―― それが、世界でただ一つのバンド『ザ・ビートルズ』だったんですね。映画『ザ・ビートルズ:Get Back』はその光景をまさに映し出している作品になっているのではないか、と期待しております。

 


※) 4月からはじまった毎週水曜日更新の連載ですが、来年からは不定期連載となります。さしあたり1月6日は休載いたしますが、今後ともひきつづき、よろしくお願いいたします。
 

[宮崎貴士]1965年、東京生まれ。 作、編曲家。ソロ名義で2枚(Out One Discより)、2つのバンド「図書館」「グレンスミス」(ともにdiskunion/MY BEST!RECORDSより)で共にアルバム2枚リリース。 他、岸野雄一氏のバンド「ワッツタワーズ」にも在籍中。 2015年、第19回文化庁メディア芸術祭エンターティメント部門大賞受賞作(岸野雄一氏)「正しい数の数え方」作曲。曲提供、編曲、など多数。ライター活動としては「レコード・コレクターズ」(ミュージック・マガジン社)を中心に執筆。2017年6月号のレコード・コレクターズ「サージェント・ペパーズ~特集号」アルバム全曲解説。同誌2018年12月号「ホワイト・アルバム特集号」エンジニアに聞くホワイト・アルバム録音事情、取材、執筆、他。 
"Paul and Stella"  Illustrated Miyazaki Takashi