「ポール・マッカートニー/ヴァラエティ 連載 No.40」 宮崎貴士

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2021.01.22

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【なぜポールの音楽キャリア、クリエイティビティには限界がないのか? 】


昨年4月から毎週更新、これまで39回(序章を入れると通算40回)にわたり「ポール・マッカートニーの音楽の作り方」を連載してきました。当然、今までのテキストでポールについてのすべてを書き尽くせたわけでもなく、彼の音楽の作り方自体を解析し尽くしたわけでもありません。何より重要なテーマである「ポールとジョン、ふたりの関係」については、まだ手もつけていない状態です。
 

〝ジョン・レノンとの出会い〟―― それこそが、今年79歳になるポールが今でも音楽を作り続け、世界で最も成功したミュージシャンとして名を残すことになった最大の契機です。ビートルズ時代もそれ以後も、彼が現役ミュージシャンとしてセルフ・コントロールに成功している理由は「ジョン・レノンという巨大かつ最高の他者を内に抱えているから」だと理解しております。そして、これまでの連載でも重ねて書いてきたように〝バンド〟の存在も彼にとって重要なものです。


多くの才能あるアーティストが、巨大な成功を獲得した後、まるでその成功の代償であるかのようにネガティブな心理に追い詰められ、キャリアを終えてしまう、ありふれた挫折談(これは20世紀型の症例だと実は思っております) …… マネージャーであったブライアン・エプスタインの死はそのリスクを引き受けてしまった一例だとしても、誰よりも絶大な成功を手に入れたポール、そして他のビートルズの3人が、その危機を、自己破滅に至る道をなぜ回避できたのでしょう? (また、ジョンはその道を逃れることができても、自身が生み出した他者によって、図らずも人生を終えることになってしまうのですが)


ポールがオールマイティな音楽的才能と絶大なる成功、偶像的な人気も手にしながらも、ナルシシズムの罠に堕ちず(逆にナルシシズムの不在は80年代の不調をひきおこすわけですが)クリエイティビティを喪失しない理由、それは《ジョンとビートルズ》という〝バンド〟の存在 ―― 彼の原点かつ基準となる他者がポール(の意識/無意識)を支えていたからではないでしょうか。もちろんポールならではの〝作り方〟を持続させられるほど、元来の才能をもっていたのは明らかですが、その創作の道中には常に伴奏者、いや、伴走者がいたからこそ、ポールはその道を踏み外すことがなかったのだと推察します。〝自身を規定している他者の存在〟こそが、ポールのキャリアを支えているのです。
 

そんなポールの音楽の作り方をテクニカルに解析する作業は、音楽家として彼の特異な立ち位置を浮かびあがらせることになります。彼が作る音楽、そこに内包されている楽理(の正当性)とは、創作過程で出会い、後からその存在に気がつく〝道標〟のようなもの ―― その時々に誰かの音楽を聴き、受けた感銘が自身の曲作りのモチベーションやインスピレーションを喚起し、その〝音楽的快楽〟を起点として、できあがった曲は、知らず知らずのうちに楽理にも見合った(時には逸脱した)構造を獲得することになり、そこで得た成果は、彼ならではのオリジナリティをもつ〝作り方〟として形成される、その繰り返しなのではないでしょうか ―― 自分自身の〝耳〟と興味だけを頼りに音楽を作り続けていった先は、相応に見晴らしが良い場所であった、と言うように。
 

決められた作り方や方法論に依拠しない、ということは、それによって意識が制約されてしまうこともありません。ポールのソングライティングは「制度化されていない」からこそ興味深く、あくまでも〝道標〟でしかない、制度化された楽理にとらわれてしまうと、ポール独自のクリエイティブな歩みから、いつのまにか逸れてしまうのではないでしょうか。


彼の歩みに寄り添い、「あ、ポールはこの場所でこんな景色を見たんだ」という〝音楽的な快楽〟を共有すること ――「ポールが使ったこの和音の響きは美しい」「この曲のリズムのグルーヴは凄い」など、楽理の正当性に頼らず、『音楽から何を聴きとるのか? 』それこそが個性であり、もっとも重要な意識だと思っています。自らの耳で獲得した〝音楽〟だからこその『ポール・マッカートニー』の素晴らしさ、ではないでしょうか。


自己流の音楽家が作り続けた音楽への興味は尽きない …… 「仲間とともに〝耳を頼りに〟歩み続けること」、それ自体がポールの音楽作りの基本姿勢であり、それは広く共有できる意識だと思います。歩み続けることによって辿り着く地平は誰にとっても〝自分だけの場所〟ですが、そこから見える景色を共有する人もきっといるはずです。
 

今後は、書き続けてきた内容を今一度整理しながら、また新たに思いついたことを流動的に書き進めるつもりです。より多様な視点から考察し続ける、そのために今回、連載タイトルを変更しました。機会があれば、他の音楽家の頭の中にある「ポール・マッカートニーの作り方」などを聞き出してみたいと考えています。また、それぞれによって異なるであろう「ポール・マッカートニー流の実践」は興味が尽きない話になるのではないか、と。


本年も、どうぞ引き続きのお付き合いを。 

[宮崎貴士]1965年、東京生まれ。 作、編曲家。ソロ名義で2枚(Out One Disc)、2つのバンド「図書館」「グレンスミス」(ともにdiskunion/MY BEST!RECORDS)で共にアルバム2枚リリース。2020年よりポニーのヒサミツ氏との2人ユニット「Flozen Japs」活動開始。岸野雄一氏のバンド「ワッツタワーズ」にも在籍中。 2015年、第19回文化庁メディア芸術祭エンターティメント部門大賞受賞作(岸野雄一氏)「正しい数の数え方」作曲。
他、曲提供、編曲、など多数。ライター活動としては「レコード・コレクターズ」(ミュージック・マガジン社)を中心に執筆。直近では2020年9月号のレコード・コレクターズ「ポール・マッカートニー・ベスト・ソングス100」特集号にて執筆。
宮崎貴士[mail : m-taka-m@da3.so-net.ne.jp]
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