2021.05.08
前回からの〝ポール流の曲作り〟―― その取りかかり方の3つのうち、残すところあと1つから話が続きます。
《3》他者、ひいては他の楽曲に影響されて曲を作りはじめるパターン
連載で触れてきたように、ポールの才能は〝他者〟との出会いによって開花します。まずはジョン・レノンの誘いによってバンドに入り、ソングライティング・チーム『レノン&マッカートニー』を組みます。彼らに潜在的なソングライターとしての能力はあったのは事実ですが、二人の才能が花開く土壌を作ったのは、(第2章で書いたよう)プロデューサーのジョージ・マーティンでしょう。おそらく彼との幸運な出会いがなければ、レコードデビューをしていたとしても、二人はあそこまでソングライターとしての能力を進化させることはなかったと思います。このようにポールの音楽歴、その能力を理解するのに〝他者の存在〟は不可欠です。
当然、その(優秀な)相手を選んだポールの慧眼と意志があってこそですが(それこそ、その相手と「出会えるかどうか」でもありますが、出会ったチャンスを見逃している人のなんと多いことか! )、〝優れた誰か〟によってすべてのキャリアが支えられていることは、彼のバックグラウントとして通底しています。
また既存の楽曲にインスパイアされた事例は相当数あり、例えば『ペニー・レイン』、作曲時に意識したのはジョンが作った『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』の存在ですが、アレンジや演奏面はザ・ビーチ・ボーイズのアルバム『ペットサウンズ』の影響下で作られています。
このように他者の音楽からの影響で曲を作るとき、ポールはそれ単体をダイレクトに表現することはなく、いくつかのアイデアをミックスして楽曲を完成させています。さまざまな要素を取り入れて曲を成り立たせる、いわゆるミクスチャーですね。
他者からの影響や引用(※注) ―― まさにそれによって作られ、更新された楽曲が流れをなしているのが〝ポピュラー音楽史〟ですから、何もポールに限った話ではありません。だがしかし、彼の曲作りを語る上で〝他者の存在〟がとても重要なのは言うまでもありませんし、さまざまな〝他〟から大小を問わず影響を受けて、彼の楽曲は成り立っているのです。
さて、次に《ポール流、曲の組み立て方》について、思いついた曲想をどうやってポールは楽曲として形作っていくのか? ここではメロディを主体として、彼が意識しているであろう〝ポール流のメソッド〟を解析してみます。
先に書いたよう〝思いついた〟メロディや曲想の「結果は未知数」ですから、そのままでは良し悪しの判断ができません。まずはそのメロディにコードをあててみて〝曲の輪郭〟を把握します。メロディ自体が元来もっているコード属性やメロディが牽引する可能性を測るために、コードをあててみるのです。
この工程、なぜか〝(野球における)バッティング〟に例えてみるとイメージが伝わりやすいかと思われます。球に対して「いいコースに来た! 」とバットを振り、あてた瞬間「これは飛距離を出せそうだ! 」と手応えを感じ、結果として(かなりの確率で)好打となる。音楽の場合も「いいメロディが出てきた! 」と思ってコードをあててみると、その瞬間にメロディがもつ〝可能性〟(=飛距離)が見えてくるのです。「まずはバットにあてること=メロディにコードをあてること」により、その曲がどう広がりをみせるのか、本能的な〝勘〟からなのか、積み重ね(=今まで聴いた音楽)から得た〝経験〟からなのか、その瞬間に自ずとわかってくるものです。
次回は「コードをあてることでわかるメロディの可能性」、そして「メロディとコードをどう展開させていくのか? 」をテーマに、ポピュラー音楽史上最高の作曲家のひとりである『バート・バカラック』の発言を引用しながら、ソングライティングについての考察を続けてみます。
※注)他者からの影響や引用、それは作曲時のものだけではありません。例えばビートルズの中期のアルバム『リボルバー』の頃、(自身が弾く)ベース音がレコード化されるときの音圧に不満をもったポールは「モータウン・レコードみたいにベースが目立つように録音してくれ」とレコーディング・エンジニアに提案しています。「楽曲の魅力は作詞作曲だけでは完成しない、サウンドも含めたすべてのプロダクションの結集である」―― その意識こそがポール流のベースとなっているのです。
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