■オーストラリアのインディー・ソウル・エレクトロニック・アーティスト、チェット・フェイカー。2014年にデビュー・アルバム『BUILT ON GLASS』でオーストラリアのグラミー賞と呼ばれるARIAアワードを受賞しブレイクを果たし、フジロック・フェスティヴァルにも出演を果たした彼だが、2016年、本名のニック・マーフィー名義で活動していくことを発表。”次なる形“としての自分を追求しながら作品を発表し続けていた。
■そのニックが再びアーティスト名を”チェット・フェイカー“に戻し、シーンに戻ってきた。ニック・マーフィーとしてリリースした2019年の『RUN FAST SLEEP NAKED』以来、約2年ぶりとなるニュー・アルバム『HOTEL SURRENDER』を完成させた。前作のツアーを終え、ニューヨーク・シティにある自分のスタジオで曲作りを始めた彼だったが、新たな楽曲がいずれも初期作品を思わせるような雰囲気を持っていたという。昔のプロジェクトを蘇らせることは全く考えていなかったと認めている彼だったが、気づいたらアルバム1枚分の楽曲が出来ていた。その10曲が本作『HOTEL SURRENDER』となった。
■2014年、チェット・フェイカー名義でリリースしたデビュー・アルバム『BUILT ON GLASS』がそうであったように、本作もまたマーフィーが一人でソングライティングからプロデュースまでを手掛けたアルバムとなった。新型コロナウイルスがアメリカで本格的な感染拡大を見せる前の2020年3月までにほとんどの楽曲が完成したが、その後、国中がロックダウンに入り、マーフィー自身も父親を亡くすという悲しい出来事を経験した。すると突然、完成寸前の“ごきげんでフィール・グッドな”音楽が、深い意味を持つようになったのだ。
■ポップ・アンセムとも呼べそうなダンサブルなリード・シングル「Low」から、ファンキーなピアノのグルーヴが印象的な「Get High」、聴いている人を鼓舞するようなメロディーの「Feel Good」や荘厳なインストゥルメンタルが響く「So Long So Lonely」まで、『HOTEL SURRENDER』には多幸感溢れるサウンドが詰まっている。それは新型コロナウイルスのパンデミックにより不確かな1年を送った人々に“明日なんて知ったことか、今の人生が大事だ”と呼びかける「Whatever Tomorrow」にも感じられる。