2025.05.13
「3313アナログ天国」と「ブルース&ソウル・レコーズ」誌の共同開催イベント「ブルース120年の歩みを知る」に招かれて、1930年代の分厚い音に浸ってきたぜ
ブルースをより深く知りたい、ブルースとはどんな音楽か知りたい、という音楽ファンに向けたイベント「ブルース120年の歩みを知る」が好評だ。2月22日に下北沢「3313アナログ天国」(5月から西荻窪に移転)で開催された第3回目「1930年代のブルース」のトークゲストに、ありがたいことにお声がけいただいたので、今回はその誌上レポートをしたい。ナビゲイターはブルース&ソウル・レコーズ誌の濱田廣也編集長。氏が所有する希少な78回転盤やLPをよく調整されたオーディオで味わうのは至福のひとときであった。
さて30年代だが、私の頭のファイルには「恐慌」、「ビックス・バイダーベック死去」、「ビッグバンドの楽器編成がほぼ固まる」、「ルイ・アームストロングやコールマン・ホーキンスがヨーロッパで大成功」、「ベニー・グッドマンの爆発的人気」、「フレッド・アステア、歌い踊る」、「カウント・ベイシー楽団のニューヨーク進出」、「グッドマンが38年に早くも“ジャズ20年の歴史”を回顧するコンサートを開催」、「“フロム・スピリチュアルズ・トゥ・スウィング”コンサートが2年連続開催」、「コモドアやブルーノート等のレーベルが設立」、「ビリー・ホリデイ“奇妙な果実”」、「チャーリー・クリスチャン登場」、「グレン・ミラーが爆売れ」などのトピックが並んでいて、そこにジャンゴ・ラインハルトの参加したフランス・ホット・クラブ五重奏団、ディック・ミネの「ダイナ」などアメリカ以外の事柄が放射線状に飛び散っている。では、ブルースはどうか? ジャズとのつながりにも思いをはせながら、約2時間の会を最も楽しんだのは自分かもしれない。
BLUES&SOUL RECORDS(ブルース&ソウル・レコーズ) 最新号:No.183
特集 ブルース・レコード・ガイド [パート1]
●Depression Stomp / WASHBOARD RHYTHM KINGS / WASHBOARD RHYTHM BAND - Jazz Star Serie No.6 (RCA Victor)
まず濱田編集長が、1929年10月にニューヨーク株式市場で大暴落が起きたこと、さらにフレデリック・ルイス・アレンの著書「Since Yesterday: The Nineteen-Thirties In America; September 3, 1929-September 3, 1939」に触れて「大恐慌によって本当に世の中が大きく変わってしまったこと」を説明、ロバート・ディクソンとジョン・ゴッドリッチがまとめたディスコグラフィー「レコーディング・ザ・ブルース」(1970年出版)の話へ。1929年をピークとしてブルース・レコードの生産量が一気に下がったが、1933年からレコード会社各社が廉価盤レーベルを作るなどして徐々に回復、37年ごろにまたピークになったものの、原材料(シェラック)の入手が原産国の戦争などで難しくなり、レコードの生産量が減った-----といったことが説明され、そこから「Depression Stomp」の紹介に移った。“Depression”とは不況・恐慌のことだが、それでも“Stomp”、ダンスと結びついているのだなあと私は感慨深くなった。「Jazz Star Serie」はドイツRCAが出していた復刻LPシリーズで、このNo.6は66年の発売。演者名はウォッシュボード・リズム・ボーイズ、ヴォーカルはスティーヴ・ワシントン。
●Mississippi River Blues / BIG BILL (BROONZY) / Bluebird No.6 (RCA)
主催者が前述“フロム・スピリチュアルズ・トゥ・スウィング”に出演してもらおうと考えていたロバート・ジョンソンが見つからず(もう他界していた)、白羽の矢が立ったのがビッグ・ビル・ブルーンジー。私はアルバム『Big Bill's Blues』をよく聴くが、この「Mississippi River Blues」を聴いた覚えはなく、学びを感じた。
●These Times / PEETIE WHEATSTRAW / CHARLEY JORDAN - PEETIE WHEATSTRAW: 1930-1939 (MCA) [JP]
1976年、ビクター音楽産業が出した「MCAブルース・トラディション・シリーズ」からの一作。日本語ライナーノーツの情報量の多さ、情熱の濃さにも感服させられた。この日かかったのは「地獄の保安官」ことピーティー・ウィートストローのナンバーだが、ステファン・グロスマンにも影響を与えたというギタリストのチャーリー・ジョーダンの演奏楽曲も含めて、このLPで持ちたいと思った。編集長いわく、「大変な時期だと歌っているが、ユーモアがある。ブルースの歌詞には、しんどいときにも笑い飛ばすという姿勢が結構ある」。
●W.P.A. Blues / CASEY BILL WELDON / V.A.: The Story Of The Blues (CBS)
W.P.A.という単語について私はルイ・アームストロングとミルス・ブラザーズの共演楽曲で覚えていたが、意味はすっかり忘れていた。編集長によると「いわゆるニューディール政策当時のルーズヴェルト大統領が考えた雇用促進局、要は失業者が多いので仕事を増やそうという部署のこと」。そしてこの曲は、金がなくて大家から出て行けと言われている男が主人公。その部屋から退去させようとWPAがやってくる。苦しんでいる人たちを助けるというよりはその人の気持ちをぶっ壊す、それがWPA。
●G Man / ROBERT LEE McCOY / V.A.: Lake Michigan Blues 1934-1941 (Nighthawk)
Gマンとは「ガバメント・マン」のこと。連邦特別捜査官のことで、1935年にはロバート・キャグニー監督が複数形の『Gメン』という映画を製作――――といったことが編集長によって説明される。のちにロバート・ナイトホークと名乗るロバート・リー・マッコイは「もしも自分がGマンになったら」という感じで歌っており、話題の言葉をブルースにうまく取り入れた一例として紹介された。
●Floating Bridge / SLEEPY JOHN ESTES / 1935-37 (MCA) [JP]
これまたビクター音楽産業から出た一作。1975年のリリースだから、「第一回ブルース・フェスティバル」来日翌年の編集盤ということになる。私はこの増補版CDというべき『1935-1940』を持っているが、「LPで聴くのもまた趣があるなあ」というベタな印象を新たにした。
●Crossroad Blues / ROBERT JOHNSON / King Of The Delta Blues Singers (Columbia)
私が初めて買ったブルースのLPは秋葉原の石丸電気で手に入れたジョン・リー・フッカー『ブギ・チレン』、エルモア・ジェイムズ『ダスト・マイ・ブルーム』、『ボビー・ブランドとジョニー・ギター・ワトソン』という、いずれもビクター音楽産業の1500円盤だったが、戦前ブルースのディスク初購入は『ロバート・ジョンソン ザ・コンプリート・レコーディングス』の2枚組CDだった記憶がある。新宿のヴァージンメガストアやタワーレコードやHMVで、平積みにされていたのだ。収録されたのは1936~37年、日本の歴史でいうと盧溝橋事件のあたり。その時代に録音されたモノラル音源が55年後にCDになって、CHAGE&ASKAとかKANとか槇原敬之の新作などと同じような感じで華やかにディスプレイされていた風景を想像していただきたい。当イベントに編集長が持参したのは1961年リリースの米国オリジナル盤、いわゆる6eyeレーベルだ。
●Bottle It Up And Go / TOMMY McCLENNAN / 78
ブルーバード・レーベルの有名なミュージシャンだとは認識しているが、自分が思い浮かぶのは「ウィスキー・ヘッド・ウーマン」ぐらいしかないという不勉強ぶり。だからこの曲にも学びを得た。しかも78回転!
●Billie’s Blues / BILLIE HOLIDAY / 78
若い頃のビリー・ホリデイの「歌うことが楽しくてしょうがない感じのおねいちゃんぶり」がまぶしい。私は大全集で持っているが、78回転で聴くとなんというか、「その当時の新曲としてこの歌に接していたファン」の気持ちに近づけたような感じにもなる。ミルドレッド・ベイリーの伴奏もこなしたピート・ピーターソンのつまびくベースの音がビンビンに響いてきた。
●Oh! Red / HARLEM HAMFATS / Hot Chicago Jazz, Blues & Jive 1936-1937 (Folklyric)
私が「ジャズ批評」編集部に入った頃と、同誌が楽器奏者やジャズ史にテーマを絞った編集を始めた時期は重なっていた。それまで一介のジャズファンとしていい気になっていた自分はその編集過程で「知らない世界がこんなにあるんだ。俺は大海の中の爪の垢だ」と認識し、それが今に至る行動の源泉となっている。そして筆者から、誌面掲載用にレコードジャケットをお借りして、ネオパンSSという白黒フィルム(予算不足のためASA100)を、接写の利くカメラに突っ込んで撮った。ハーレム・ハムファッツのレコードを貸してくださったのは岩浪洋三さんだったか大和明さんだったか。米アーフーリー・レーベル傘下のフォークリリック盤(1981年リリース)のジャケットを見て、そんなことを思い出した。
●The Big Boat / WASHBOARD SAM AND HIS WASHBOARD BAND / 78
これには本当に驚いた。この歌が、昭和12年頃、日本ビクターから発売されていたのだ! もちろん78回転、ブルース関連の国内盤としては本当に最初期に出たものに違いない。しかも音がいい。戦前日本のプレス技術に乾杯! なおこのレコードについては「ブルース&ソウル・レコーズ」最新号で1ページにわたって書いたのでそちらもご覧いただけると幸いだ。
●Mr. Johnson Swing / LONNIE JOHNSON / The Blues Of Lonnie Johnson (Swaggie)
ジャズ・ギター史にも必ず登場する、というか、登場していただかなければならない巨人。私はエルマー・スノウデンとの円熟した『Blues & Ballads』にほれ込んでいるが、この「Mr. Johnson Swing」は素晴らしく颯爽としている。オーストラリアのスワギー・レーベルのLPもジャズ批評の編集の頃にいろいろ評論家諸氏から借りた。シドニー・ベシェとマグシー・スパニアの“ビッグ・フォー”や、エディ・ラングの盤を覚えている。
●Saturday Night Struggle / ALBERT AMMONS & MEADE LUX LEWIS / BOOGIE WOOGIE TRIO (Storyville)
アルバート・アモンズ、ミード・ルクス・ルイス、ピート・ジョンソンの“ブギウギ3人男”が、本当に熱狂的に支持されていたことが伝わる貴重な公開録音。ずっと探していたアイテムだったので(昔テイチクからLP、アルファからCDが出ていたが、てんで見ない)聴けてうれしかった。
●I May Be Wrong / JIMMY RUSHING (with COUNT BASIE'S ORCH.) / Blues I Love To Sing (Ace Of Hearts)
今さら何を言えばいいのだ。
●Floyd’s Guitar Blues / ANDY KIRK AND HIS CLOUDS OF JOY / 78
コンピレーションCDでは何度も聴いてきたが、78回転でフロイド・スミスの骨太なスティール・ギターを味わうのは格別。チュルーンというポルタメントも快し!
次回の「ブルース120年の歩みを知る」は、第5回『1950年代を見渡す[1]──ブルースとロックンロールとR&Bの競い合い』
ゲスト:日向一輝(ひなた かずあき) ナビゲイター:ブルース&ソウル・レコーズ編集長 濱田廣也
<日時>
5月31日(土) 開場:13時30分 開演:14時(約2時間)
<会場(アクセス)>
西荻「3313アナログ天国」
〒167-0042 東京都杉並区西荻北4-30-4 1F(路面店)
※西荻窪「佐々木製麺所」ほぼ真向い、グレーの建物の1階
※JR西荻窪駅下車 北口から徒歩11分(バスあり)、地図は https://3313cafe.jimdofree.com/ に記載。
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