モバイルファンク・・・って何だ!? ガジェット楽器を駆使して最小規模のファンクを演奏する夫婦ユニット、サイモンガー・モバイルに音楽への思いをたっぷり語ってもらったぜ


アルバム『モバイルファンクの頂点』に衝撃と感動を受けてからというもの、この日を待っていた。創作の秘密をぜひおふたりにきいてみたかった。
Nintendo Switch用ソフト「KORG Gadget for Nintendo Switch」、3DSソフト「KORG M01D」を中心に、手のひらサイズのガジェット楽器を駆使して最小規模のファンクを演奏する夫婦ユニット:サイモンガー・モバイルの登場だ。2008年より活動を開始し、毎週土曜日21:00よりYouTubeにてライブ配信中の「サイモンガー・モバイルの最重要カフェ」も好評。夫のサイモンガーが各種ガジェット楽器とボーカル、妻の嫁モバイルが鍵盤ハーモニカ(メロディオン)とボーカルを手掛け、そのコンビネーションには磨きがかかるばかりだ。さらに先日は嫁モバイルが、夫サイモンガーの全面プロデュースによるアルバム『嫁モバ☆タイム』でソロ・デビュー。ジャズ・フュージョン・ブラジリアン色も盛り込んだ作りで楽しませてくれる。
YMOに心をつかまれた少年、シャカタクカシオペアに惹かれていたエレクトーン少女がいかにファンクに染まっていったか、さっそくおふたりの話をきいてみよう。話題はごく自然に、ふたりの音楽歴から、数か月前に亡くなったクインシー・ジョーンズのことに移り変わった。


サイモンガー・モバイル


---- ご出身はどこですか?


サイモンガー 愛知県の豊橋市です。


---- 伝説の「ブラック・ヘリテイジ・フェスティヴァル」が開催されたところですね。


サイモンガー 僕は2回とも行きました(1986年、87年)。B.B.キングアル・グリーンダーティ・ダズン・ブラス・バンド・・・・今考えるとめちゃめちゃあがるんだけど、当時は正直言ってありがたみがわかってなかったな。


---- 僕はNHK-FMの特別番組で聴きました。マイティ・クラウズ・オブ・ジョイアリス・コルトレーンも印象に残っています。


サイモンガー 実家は喫茶店で、サム&デイヴキャノンボール・アダレイは父親が持っていたレコードで好きになりましたね。いつだったか豊橋に帰って父親の車を見てみたらビースティ・ボーイズのカセットテープがあってびっくりしたことも覚えています。


嫁モバイル 親の影響はあなどれないですよ。


---- 嫁モバイルさんのご出身は?


嫁モバイル 札幌です。


---- 北海道のニューヨークですね。音楽との出会いは?


嫁モバイル いとこの家にあったエレクトーンの形状がとにかくかっこよかったので自分でも演奏したくなって、6歳からエレクトーン教室に通いました。小学校5年生ぐらいになるとだんだん上達して、課題曲の内容も変わってきて、先生がジャズやフュージョンの曲を持ってくるようになりました。「こんなかっこいい音楽があったんだ」みたいな感じでウェザー・リポートの「バードランド」を弾いたり、T-SQUARE菊池ひみこ、カシオペア、シャカタクなどを聴きましたね。ディジー・ガレスピーや、ベニー・ゴルソンホレス・シルヴァー、クインシー・ジョーンズもお気に入りで、「マンテカ」や「チュニジアの夜」が入っているガレスピーのアルバムや、「ウィスパー・ノット」が入っているゴルソンのアルバム、「ソング・フォー・マイ・ファーザー」「ニカズ・ドリーム」が入っているシルヴァーのアルバムなど、ラテン、アフロ系リズムのものや、クールで美メロキャッチーなジャズにもハマりました。私のファンキー・ミュージックの入り口はこのあたりかもしれません。


---- 20世紀後半の札幌には「タワーレコード」「UKエジソン」など面白いレコード店がいくつもありました。「UKエジソン」はナゴムレコードや太陽レコードを扱う北海道で希少な店だったと思います。


嫁モバイル 私はレコード店の記憶はあまりないですね。


サイモンガー 豊橋には「ラビットフットレコード」というレコード店がありました(2003年閉店)。今ライターをしている小川真一さんのお店で、そこに行くとナゴムもPファンクも買えました。


---- 80年代後半から90年代前半にかけてPファンクは復刻が進まず、猛烈に品薄だった記憶があります。


サイモンガー 「レコード・コレクターズ」のPファンク特集(89年8月号)を手掛かりに必死に探しました。序文を小出斉さんが書いていて、まさかその何十年も後にイベントでご一緒できるとは思っていませんでした。最後にお会いした時も、本当に元気そうだったのですが・・・


---- やわらかい物腰で、文章と実演を通じて音楽を伝道なさった素晴らしい方でした。


サイモンガー 小出さんは、「聴いてみよう」という気持ちにさせる紹介をしてくれるんですよ。そこが大好きですね。


---- ところでクインシー・ジョーンズが亡くなる少し前に、嫁モバイルさんの『嫁モバ☆タイム』が発売されました。その中に入っている「ギミギミ・クインシー」という曲がとても印象に残っています。


サイモンガー ファンクラ大臣という、僕にファンクを指南してくれた40年来の友達がいるんですが、彼が嫁モバイルに楽曲を提供したいと言って、それが「ギミギミ・クインシー」。


嫁モバイル そしたらクインシーの訃報が入ってきて。


サイモンガー アルバムで「ギミギミ・クインシー」の前に入っている「霊ドバック妄想」は、死んだミュージシャンが集まってフェスをやったらどうだろう、という歌で、ここでも妙な符号が発生してしまいましたね。


---- 『嫁モバ☆タイム』リリースの動機を教えていただけますか?


サイモンガー 毎週土曜日に嫁モバイルと2人で配信をしていますが(「サイモンガー・モバイルの最重要カフェ」)、毎回嫁モバイルがリードボーカルをとる時間があるんです。そのレパートリーを増やしたいという気持ちと、サイモンガー・モバイルとしてこれまで3枚出してきたので、そろそろ目先を変えたものを出したいという気持ちがありました。また、知り合いのトークボックスプレイヤーの入江隆文さんと話しているときに、「女性ボーカルのプロデュースをしてみたら?」と言われたこともあります。そうなると、「いろんなボーカリストにアポを取ってどうのこうのとやる前に、まず一番身近な人を」ということで、嫁モバイルに・・・


---- ファンクとはまた異なる側面も味わえる作品ですね。


サイモンガー いろんなジャンルが入っている感じです。ファンクじゃないものも入っているし、ジャケットもジャパンの『錻力の太鼓』にインスパイアされていますし、毛沢東のところがサイモンガーになっている(笑)。嫁モバイルが前面に出るんだけど、サイモンガーもジャケットのどこかに出るようにしたいと思って。


嫁モバイル『嫁モバ☆タイム』



---- 普段はジャパンのような音楽もお聴きに?


サイモンガー そうです。YMOから受けたショックが特に大きかったので。最初、シンセサイザーの形状に惹かれたんです。つまみがいっぱいでかっこいいし、しかも、当時の雑誌に「既存の楽器にない音が作れる、何の音でも出せる」と書いてあった。それでシンセサイザーを使っている人には誰がいるんだろうと調べたら、YMOだと。実家の喫茶店のお客さんに初代のウォークマンとYMOのファースト・アルバム(『イエロー・マジック・オーケストラ』)とセカンド・アルバム(『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』)が片面ずつ入っているカセットテープを借りて、聴いたらとても良くて、「今度新しいアルバムが出るから、買ってほしい」と親に頼んで。それが『テクノデリック』でした。「それまで聴いてたYMOと全然違うじゃん」と思ったけれど、買ってもらった手前、「理解しなきゃいけない」と思って聴き続けるうちにめちゃくちゃ好きになって。いまでは多分YMOで一番好きですね。当時「サウンドール」というYMOのアイドル本みたいな月刊誌があって、そこが当時出していたYMOの単行本にミュージック・マガジンの『テクノデリック』のレビューが転載されていて、「今一番ファンクを感じるのがYMOのテクノデリックだ」と書いてあった。僕はそこでファンクという単語を初めて知りました。


YMO『テクノデリック』


---- おお!


サイモンガー 「ファンクって何だろう」と思いながら、そのうちプリンスが好きになって、もちろん『1999』とか『パープル・レイン』が入口ですが、そのあとに出た『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』を聴いて、「あれだけ売れた『パープル・レイン』の後にこれ出してくるのはすごい」と思って。YMOも「ライディーン」や「テクノポリス」が売れた後に『BGM』とか『テクノデリック』とか暗いアルバムを出して、売れてついてきた人を裏切るようなところにYMOとプリンスの共通点を感じたんだと思います。プリンスが大好きになるとそこからスライ&ザ・ファミリー・ストーンJB(ジェイムズ・ブラウン)、Pファンク等を聴くようになっていく。これはファンクラ大臣もまったく同じ流れです。


プリンス『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』


---- 素晴らしい友達です。嫁モバイルさんはいかがですか?


嫁モバイル 私は学校で全然音楽の話をしませんでした。合わないんですよ。アイドルにはまったく興味がなかったし、音楽について盛り上がるのは音楽教室の友達と話している時だけでした。


---- サイモンガーさんは僕と同世代ですから、80年代の空前のアイドルブームをモロに体験したのではと思いますが。


サイモンガー いや、僕はアイドルにはまったく行かなかった。細野晴臣さんが松田聖子に曲を書いているとは知っていても、そこを遮断するような生活をしていましたね。YMOのメンバーが書いたアイドルの歌に行くよりも、YMOからジャパンに行った。YMOからクラフトワークに行く人も多いと思うけど、自分はジャパンからデヴィッド・ボウイに行って、ボウイの「フェイム」がかっこよくて、何か自分の好きな感じはこの辺だなと落ち着いていく。


嫁モバイル 私はリズムから好みが絞られていくところはありますね。パーカッションが利いているものがものすごい好きだったり。


---- クインシー・ジョーンズに関しては?


サイモンガー 僕はマイケル・ジャクソンの音楽を通じて知ったので、最初はめっちゃ売れてるプロデューサーのおじさんというイメージで捉えていました。いろいろ調べていくうちにテレビ番組「ウィークエンダー」に使われていたり(「アイアンサイド」)、東京モード学園のコマーシャル(「ソウル・ボサノヴァ」)で使われていることを知って、興味を持っていった感じですね。僕はマイケルをちゃんと聴き出す前からキャメオとかスレイヴとか他のファンクを聴いていたんですが、その流れの中でいうと、たとえばマイケルの『オフ・ザ・ウォール』は圧倒的にゼニの音がする。予算のかかり方が全然違う。クインシーを通じてロッド・テンパートンを知り、ヒートウェイヴを知り、という感じで聴いていきました。


嫁モバイル クインシーに関しては、いろんな作品をバラバラで聴いているうちに「ああ、こうやって繋がってたんだ」と発見するときが面白かったです。私はパティ・オースティンの歌も大好きなんですが、クインシーの『ライヴ・アット・武道館』にも参加していて(1981年)。クインシーのアルバムでは『ライヴ・アット・武道館』と『ソウル・ボサ・ノヴァ』を特に何度も聴いた記憶があります。


クインシー・ジョーンズ『ソウル・ボサ・ノヴァ』


サイモンガー クインシーはファンクにもジャズにもハブのような形で中心にいると思います。ファンクラ大臣が書いた歌詞は、要するに「デートのときにキャメオとかスレイヴとかバーケイズのようなゴリゴリのファンクはやめろよ、もうちょっとジャズとかボサノヴァとか洒落たものがいいよ、せいぜい間をとってクインシーだよ」ということです。


---- ああ、バキバキでギラギラのファンクではなくて。


嫁モバイル それはそれでかっこいいと思うし好きですけど、「ギミギミ・クインシー」の歌詞の世界では違うんです。


サイモンガー・モバイル


---- ところで、おふたりは東京で知り合ったのですか?


サイモンガー そうです。僕がキーボード、ファンクラ大臣がベースで参加していたバンドで「コーラスを強化したい」ということで、そこの女性ボーカルが習っていたボイトレに一緒に通ったら、偶然、この人(嫁モバイル)もボイトレを受けていた。


嫁モバイル 私は当初、別の教室で習っていたんですが、そこの先生が忙しくて、代行で別の先生が来るんです。その代行の先生にこの人(サイモンガー)が習っていました。


---- ファンク・ボーカルのトレーニングですか?


嫁モバイル 普通にノンジャンルです。


サイモンガー そこで出会って、話してみたら鍵盤が弾けるという。当時、自分は先ほど話したバンドとは別に友達のファンクさんと「サイモンガー&ファンク」というバンドをやっていて、最初は打ち込みでやっていましたが、バンド化したいということで「鍵盤をやってもらえませんか」と誘ったのがなれそめです。


嫁モバイル 私がライブ活動をし始めたのもその辺からですね。それまでもずっと鍵盤を弾いていて、ヤマハにちょっと勤めていたときも店頭でデモ演奏をしたり。


サイモンガー ホーン・セクションまで含めると10人以上のバンドでした。


---- その大所帯が2人になって、モバイルファンクに切り替えようと思ったきっかけは何ですか?


サイモンガー ニンテンドーDSというゲーム機で2008年にシンセサイザーが出るんです。KORG DS-10 というシンセなんですが、ツマミみたいな部分で音を作っていって、シーケンスをここで組んで、これにはシンセが2つ、リズムマシーン用のパッドが4つあって、合計6トラックみたいな感じで曲が作れます。佐野電磁さんがKORGに話を持っていって、これが出ました。自分は元々シンセ好きだったので、こういうちっこい物からそういう音が出ることがすごい楽しくて、買って(音楽を)やってみたら思った以上に使えた。


嫁モバイル 音源がちゃんとしてるからね。


サイモンガー 「これを使えばもしかしたら1人でライブができるんじゃないか」と思って、とりあえず8曲ぐらい作ってネットにあげて。曲の中のソロとかで自分だけではもたないところがあるから、嫁モバイルをゲストに呼んでライブをして。そうやって開始したら、佐野電磁さんのイベントにも呼んでもらえるようになって、もうこれで、モバイルファンクで生きていこうと思って。まさに人生を変えたソフトですよ。結局一番使ったのはこの後に出たM01Dなんですが。ファースト・アルバムの『モバイルファンクの頂点』とセカンド・アルバムの『ズボンのすそが靴に入っていた』の音源は丸ごとM01Dです。


嫁モバイル 非常にファンク向きな音が入ってます。


サイモンガー・モバイル『モバイルファンクの頂点』


サイモンガー・モバイル『ズボンのすそが靴に入っていた』


サイモンガー・モバイル『モバイルファンクの闇』


サイモンガー KORGに金森与明さんというファンク好きな人がいて、面白がって80年代のファンクにしか使わないような音を入れるんです。シンセのグリッサンドとかザ・タイムみたいな音とか、ああいうものを入れてくるので、「これはもう完全に俺へのメッセージだな」と思っています。DS-10はアナログシンセですが、M01Dはサンプリング音源も入っているので、より自分が元々やっていたような音楽に近い。けっこうリアルなホーンとかスラップベースが入っていて、だからこれをすごく主だって使っていましたね。


---- この小さな機材でオーディエンスの腰を揺らすとは、ものすごいロマンです。


サイモンガー ライブハウスに持ち込むのも面白いと思って。この機材で他のバンドより踊らせることができたらかっこいいじゃないですか。


---- クールですよ。


嫁モバイル パソコンを持ってくる人は多いですけど、こういうものはまずいない。


サイモンガー もちろんこういうものを使う文化はありましたが、日常的にライブで使うことはあんまりなかったので、この分野の頂点になれるんじゃないかと思って『モバイルファンクの頂点』とつけたんです。


嫁モバイル 「誰よりも先にやらないと」という精神がすごい。


サイモンガー 「今後みんなこれでやるに違いない」と思ったんですが、誰もやらなかった(笑)。


---- 生活のひとコマを切り取ったような歌詞も印象的ですが、作詞作曲のアイデアはどんな時に浮かぶのでしょうか?


サイモンガー ひねり出しますね、部屋にこもって、ドアを閉めて、携帯のメモ帳を見ながら。言葉に出して、何かはまったものを、意味が通らなくてもいいからとにかく書き留めておいて、意味を後から考える。


---- 強烈な物語性を歌詞から感じます。「塩でなんとか」(アルバム『ズボンのすそが靴に入っていた』収録)あたり、共感の嵐だと思います。


サイモンガー 当時よく鶏料理を中心に出す店に行っていたんですが、味が薄いんですよ。毎回、どれを食っても。それで店員に「塩をください」と言って、塩をかけたら何とかなったという・・・。曲が結構ポジティブなので、「塩があればなんとかできる」ということを力強く訴えることになるんじゃないかと思って。


嫁モバイル 発想に関しては、「その引き出し、どこから?」と思うこともありますね。


---- 『嫁モバ☆タイム』には嫁モバイルさんが小学生の時に作ったという「ETERNAL LIBERTY」が入っています。


サイモンガー 「絶対この人の曲が1曲欲しい」と思って、小学生の頃に作ったフュージョンの曲を持ってきてもらって。


嫁モバイル ヤマハがやっている「ジュニアオリジナルコンサート」という、オリジナル曲限定のコンサートのために書いた曲です。先生がそのコンサートに私を出させるために曲を作らせました。私は演奏するのは好きですが、正直言って曲作りにはさほど関心がなかった。でも作らなきゃ先に進まないから作って、その譜面が先日、引っ越しで整理していたら出てきたんです。


サイモンガー 「絶対ください」と言ってレコーディングしました。今回のアルバムの目玉だと思います。途中の“エターナル・リバティ”という声は今回、僕が足しました。カシオペアの「ミスティ・レディ」を意識して。


嫁モバイル もともとはその箇所は、エレクトーンでパーカッションの音を出すパートでした。


---- ここで、おふたりのフェイヴァリット・アルバムについてお話しいただけますか?


サイモンガー スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『フレッシュ』かな。もう神がかっているでしょう、スライ本人においてもあれを超えることができていないと思う。何かモザイクみたいな音楽で・・・あそこに入っている「イン・タイム」を嫌いという人に会ったことがない。その前後の作品も好きですけどね。


---- 『Back On The Right Track』(邦題;スライ・バック!)に関してはどうですか? 製作途中で締め切りが来たのでとりあえず出した、みたいな感じもする作品ですが、個人的にはすごく気持ちいいんです。


サイモンガー サブスクで見ると、今、新譜のアルバムの曲はけっこう2分台とか短いものが多い。そういう意味では『Back On The Right Track』の簡潔な世界は時代を先取りしたともいえます。スライの独自性は最後まで一貫して素晴らしいし、2008年の東京国際フォーラムの来日公演も涙なしには見れなかったですね。


嫁モバイル “スライオーラ”というのか、並外れたオーラが出ていました。


サイモンガー それと双璧をなすのは1996年に日比谷野音で見たコン・ファンク・シャンエモーションズ、バーケイズ、キャメオの共演(「レッツ・グルーヴ」)。


---- そんなすごい公演があったとは知りませんでした。行きたかった!


サイモンガー それをファンクラ大臣と見に行って。バーケイズ、キャメオ、コン・ファンク・シャンと続くワル乗りの連鎖というか。バーケイズのラリー・ドッドソンは首に蛇を巻いて火を吐きながら出てきた。


---- 感動が止まりませんね。


サイモンガー キャメオも、あの頃の96年ってラリー・ブラックモンがドラムを叩くなんてことないじゃないですか。なのに1曲目でドラム叩いて、曲もファースト・アルバムの『カーディアック・アレスト』に入っている「リガー・モーティス」とかやって「マジか!」という感じでした。めったにライブで聴くことができない大好きな「ナイツ・バイ・ナイツ」もやってくれて。


---- もし僕が現場にいたら間違いなく失禁していました。それにしてもサイモンガーさんはすごい記憶力だと思います。


嫁モバイル そういう昔のことを時系列で覚えてることがいつもすごいな、と私は普通に感じます。


スライ&ザ・ファミリー・ストーン『フレッシュ』


キャメオ『カーディアック・アレスト』


---- 嫁モバイルさんのフェイヴァリットは?


嫁モバイル 当時から聴いてるものですと、カシオペアの『クロス・ポイント』は今でも好きなアルバムです。シャカタクは「ナイト・バーズ」「インヴィテーション」など曲単位で聴くことが多かったですが、アルバムではかなり後に出た『ブルー・サヴァンナ』が好みです。あとはスティーヴィー・ワンダーの3部作(『トーキング・ブック』、『インナーヴィジョンズ』、『ファースト・フィナーレ』)+『心の詩(Music Of My Mind)』の4作、ハービー・ハンコックの『ヘッド・ハンターズ』。この辺はファンク色が強く、サイモンガーとかなり共通していると思います。


カシオペア『クロス・ポイント』


シャカタク『ブルー・サヴァンナ』


---- 先ほど、ボーカルではパティ・オースティンが大好きだとおっしゃっていましたが。


嫁モバイル ソウルフルだけど暑苦しくなく、ボーカル・アレンジのセンスが素晴らしいですよね。クインシーとも繋がりが深いですし。でも、いちばん最初に心の底から「凄い!」と思ったのは同郷の大橋純子さん。クセのない美しい伸びやかな歌唱、天性の声、音域、声量、リズム感。素晴らしい歌唱技術がイヤミなく自然に生かされていて押し付けのない表現力。とにかく気持ちいい。どんなジャンルも歌いこなせる本当に稀有な歌手だったと思います。とくに“大橋純子&美乃家セントラル・ステイション”のかっこよさには衝撃を受けましたね。この2人はボーカリストとして常に尊敬し、目標にしています。男性ではケヴィン・マホガニーをぜひとも生で観たかった。


パティ・オースティン『エンド・オブ・ア・レインボウ』


大橋純子 & 美乃家セントラル・ステイション『レインボー』


---- 若くして亡くなったのが残念です。グレゴリー・ポーターホセ・ジェイムズと共にボーカル界を盛り上げてほしかった。


嫁モバイル TAKE6はアカペラグループでいちばん好きです。カバー曲のアレンジもいつも秀逸で、原曲より好きなものもあるぐらい。もちろんマンハッタン・トランスファーも外せません。


---- サイモンガー・モバイルとしてのアルバムの予定はいかがですか?


サイモンガー 来年の銀婚式に合わせて『銀婚伝説』というアルバムを考えています。


---- マーヴィン・ゲイが喜びそうですね。次回のライブは?


サイモンガー 2月22日に赤坂「Jazz Dining B-flat」で行われる「大人のケンハモ Kenhamo Party!」に出演します。主催の鈴木楽器は鈴木メロディオンという鍵盤ハーモニカを積極的に作っている会社です。僕が曲の中で「オン・メロディオン、嫁モバイル」とずっと言ってきたことが遂に鈴木楽器さんに届きまして、呼んでいただきました。


嫁モバイル 歴史のあるジャズの店で演奏できることになって光栄です。


---- ますますのご活動を楽しみにしております!


サイモンガー・モバイル


サイモンガー・モバイル公式サイト: https://smg-mobile.jimdofree.com/