<連載>原田和典のJAZZ徒然草 第111回

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  • 2019.10.16

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    「小学生の頃、マイルス・デイヴィス『死刑台のエレベーター』のサウンドトラックをよく聴いていました」 あまりにも独特な“日本式ハードコアロック”を体現し続けて32年。マリア観音の木幡東介さんに、創作の源について尋ねてみたぜ

    全身全霊で事に立ち向かうことの美しさ。マリア観音のパフォーマンスはそれを遺憾なく提示する。
    「一番、二番、サビ」とか、「AABA形式」とか、そういうものをはるか向こうに追いやる、あまりにも独特な音楽。その源はどこにあるのかと大久保「EARTHDOM」の楽屋でリーダーの木幡東介さんに尋ねたら、ジャズからも大きなインスピレーションを受けているとの答えを得た。そこでぜひじっくりお話をうかがいたいと思っていたところ、埼玉県飯能市にある木幡宅にお招きいただいた。3階建ての家には9匹の甲斐犬がいて、さまざまな弦楽器や打楽器が置かれた楽器部屋では近作のレコーディングも行なわれている。
    ぼくがマリア観音のライヴを初めて見たのは90年代初頭、まだ高円寺に「20000V」があった頃の話だ(今の「二万電圧」とは別の場所)。イラン人サックス奏者SADATO(後年オーネット・コールマンに師事)が出るというので、彼に誘われて出かけたら(ちなみにそこでギターを弾いていたのは、いまノー・インプット・ミキシング・ボード奏者として活動する中村としまる)、たしか最初の出演者がマリア観音だった。それから20数年、まさかこんな形で再会できるとは。鬼才・木幡東介の言葉に耳を傾けたい。


    マリア観音 (撮影:池田敬太)

    ---- (部屋を見渡して)アナログ・レコードもCDもそれぞれ数百枚はあるように思います。しかもジャンルが現代音楽、民謡、歌謡曲、ブルース、民俗音楽、ロック、ジャズ、落語など幅広い。幼い頃からノンジャンルで音楽を聴いていたのですか?
    木幡東介 母が音楽好きで、クラシックのレコードが家の壁いっぱいにありました。その片隅に少し、ジャズとかポピュラー音楽のレコードがあって。子供心にクラシックはあんまりよくわからなくて、いちばん好きだったのはマイルス・デイヴィスの『死刑台のエレベーター』のサウンドトラック。あれはよく聴いていました。小学生くらいの時ですかね。両親が共働きで一人っ子だったので、ビートルズだとかマイルスだとかジョン・コルトレーンだとかのレコードを勝手に引き抜いて聴いていました。


    CDコレクションの一部。バルトーク、テレビジョン、カンパニーから小林旭まで


    マイルス・デイヴィス『死刑台のエレベーター』の国内盤LPジャケット。現在は別ジャケットでCD化

    ---- ご両親はどんな職業を?
    木幡 出版社に務めていました。母が角川書店、父が平凡社で。だから画集とか写真集とか家にいっぱいありました。小説を読めとも言われたけど、僕は図鑑ばっか見ていましたね。そのあと、親戚に預けられて。母の友達の娘が暴走族だったんですよ。9つ上の、血はつながっていないんですけど、姉ちゃんみたいな感じで、いつも暴走族の集会に連れていかれて。そうするとかかっているわけですよ。ビージーズの「サタデー・ナイト・フィーバー」とか、あの当時のいろんなディスコとか、すごく流行っていたKISSの曲とか。その人はやがて自分で劇団とかやり始めて・・・
    ---- 暴走族から劇団に?
    木幡 そうです。それで唐十郎の影響を受けるようになって、僕もピンク・フロイドとかJ・A・シーザーとかを聴くようになって。それが小学生の頃ですね。島根にいる爺さんは、「島根野鳥の会」の会長とかやっていて、旅館も経営していました。朝、手伝っていたんですよ、旅館の仕事も。板前に市場に連れて行ってもらったり、買い付けに一緒に出かけたり、さよりの季節に漁に行ったり。父の実家は裕福だったんですけど、母の実家は埼玉の才羽とかあっちのほうで、そこの子たちとよく一緒にフナや雷魚をとったりとか、用水路で遊んだりして楽しかったですよね。
    ---- そんな生活の中、木幡さんは尺八を習い始めたそうですが。
    木幡 父方の祖父が「山陰尺八道場」っていうのをやっていて、今はいとこが継いでいるんですけど。それでやらされていたんですよ。叔父の紹介で代々木に習いに、高校の時3年間行かされて。なんかいろいろうまいこと言われて。「やったらモテるぞ」とか(笑)、これがそのときの楽譜です。


    尺八の譜面

    ---- 3年間もやらされ続けるのって、大変ですよ・・・
    木幡 音を出すのが精いっぱいだったから、いやいや通っていましたね。正座で足はしびれるし、鼻炎だから息継ぎが苦しいし、さんざんでした。いとこと割と同時期に習い始めさせられて。尺八には本曲と外曲があって、本曲っていうのは、いわゆる仏教の虚無僧のための楽曲。(宮城道雄の)「春の海」とかは外曲なんですよ。僕は外曲から始めて、逆にいとこは本曲ばっかやらされているから外曲がほとんど吹けない。外曲の方が難しいんですよ。細かいテクニックが多くて。一般の人が考える尺八っていうのは、本曲の感じだと思います。外曲は、いわゆる尺八っぽくない曲ばっかりで。でもこの頃もロックは聴いてましたよ。ポストパンク、ニューウェイヴの時代で、フライング・リザーズスロッビング・グリッスルホワイトハウスとかが好きだった。「FOOL’S MATE」(77年創刊。初代編集長の北村昌士は後にトランスレコード設立、YBO2結成)で恒松正敏さんが取り上げていたラフ・トレードのジェイムズ・ブラッド・ウルマーを聴いたり(『アー・ユー・グラッド・トゥ・ビー・イン・アメリカ?』)。あとあの当時って、楽器ができないような人が、けっこうバンドを組んでいた。僕もノイズだったらできると思って、宅録ばっかりやって遊んでいましたね。


    学生時代に買った「FOOL’S MATE」

    ---- 尺八のあと、いよいよ美大でヴォーカルの入ったバンド活動に向かいます。
    木幡 大学のサークルでハードコアパンクのコピーバンドをやっていたんです(この時はギター)。そのうち大学のなかだけじゃなくて、外でやりたいなって思い出して、その時知り合ったメンバーとやるようになって、おだてられて、ヴォーカルを始めた。だから誰か特定のヴォーカリストに憧れてというのとは違います。
    ---- 掟ポルシェさんとはその頃に知り合ったんですか?
    木幡 掟ポルシェはマリア観音を始めて2年目くらいに、お客で来てて、そのうち彼もバンドをやり始めて、彼の企画したライヴに何回か出て、仲良くなったんです。彼はボアダムスとかジョン・ゾーンが大好きで。
    ---- 当時ジョン・ゾーンを聴いていたのは、相当新しいはずです。
    木幡 まだ日本に入ってきたばっかりくらいじゃないかな。割と掟ポルシェからそういうのを聴かされて、彼の部屋にもよく泊まりに行きました。2年くらい塗装の職人を一緒にやっていたこともありますよ。
    ---- 1989年には当時人気だったテレビ番組「イカ天」(「三宅裕司のいかすバンド天国」。BEGINたまカブキロックス等も出た)にも出演されたそうですね。
    木幡 あれは出たいバンドが応募するんですけど(VHSを提出)、マリア観音は、友達のバンドのリーダーが勝手に応募しちゃった。ビデオ審査で受かって、説明会に行って。もちろん、グランプリになったりする人たちは、その人たちをデビューさせるためのアレもあったと思うけど、僕らは全然そういうコネもなく。テレビの直後はいきなりお客さんが200人くらいになったんだけど、すぐにいなくなって、元に戻りました。
    ---- ところでマリア観音の歌には、「1番、2番、3番」とか「ここでサビ」みたいなものがないような気がします。全部の流れを含めて「1曲」というか。
    木幡 クラシックと一緒ですよ。でも、譜面は書かない。メンバーに進行表を作ってもらって。自分が観客として聴いている時に、ポップスだと展開がわかるじゃないですか。ジャズも慣れてくると、形式がわかってくる。テーマがあって、小節数に従ったアドリブのパートがあって。でも僕は「どうなるかわからない」っていうのが欲しい。と同時に、それを何回も繰り返したいんですよ。同じことを。1回しかできないんじゃなくて。今のメンバーには、僕がすべての楽器を演奏した『マリア観音のためのフリー・ロック・ドラミング』を最初に聴かせたんですよ(注;2017年リリース『全滅しても愛だけが遺る』のカップリング)。みんなに渡して、最初のたたき台にした。これを好きになってくれて、なんでも言うとおりにしようっていうひとが、マリア観音のメンバーになる。僕はバンドの指揮者でもあるから。今のメンバーは、僕の言うとおりにしようって人ばかりだからありがたいんですよ。いくら優秀なスキルを持っていても、それ(=木幡氏のコンセプトを理解する)がないとマリア観音の音楽にはならないので。


    マリア観音『全滅しても愛だけが遺る+マリア観音のためのフリー・ロック・ドラミング』

    ---- 歌詞も「好きだ」とか「君とずっと一緒にいたい」みたいなものではない、本当に木幡さん独特のものです。
    木幡 ユーミンの歌みたいな世界は自分の人生になかったから(笑)。だけど喜怒哀楽があるっていうことに関しては、人間、一緒でしょ? あと、たまにやるのが、ウィリアム・バロウズのカットアップの概念。全く関係ない本から任意で文書を持ってきて、でも同じ人物が選んでるから、奇跡的なトータル性が生み出されるみたいな。あの面白さがけっこう好きです。だから自分で選んでくるわけですよ、いろんな本とか見て、メモして、それを組み合わせてしばらく歌っていると、「あ、だから(この言葉を)選んだのか」っていうのが自分でわかってくる。
    ---- あの長い歌詞を覚えて、ライヴごとに、全く一字も変わらず歌うのも驚きです。
    木幡 誰でも数をやればできると思います。最初は僕もできないと思ったけど、般若心経を覚えているから。島根の祖父の家から車で40分のところに叔母の家があって、そこがお寺なんですよ。そこに預けられると必ず食事の前に、家族で般若心経を言わなきゃいけない。紙に書いて、だんだん何回も何回も言っていくと、頭に入ってきて、そのうち勝手に口から出てくる。別に何を言っているかもわからなくても、口の癖がつくっていうか。それと同じですね。


    直筆の歌詞

    ---- 飯能市に引っ越したのは、より本格的にドラムに取り組むためだとうかがいました。それだけドラムにこだわりがあるということですか。
    木幡 僕が教則本で最初からやろうと思ったのは31歳になってからですが、ドラムは子供の頃から好きだったんです。いろんな音楽を聴いても、なんかドラマーに注目しているんですよ。なかでもジャズ・ドラムはすごい発明だなと思いますね、あのシンコペーション・・・。最初はバディ・リッチから入って、ケニー・クラーク、シドニー・カトレット、ジョー・モレロも聴いて。サニー・マレイも衝撃でした。
    不破大輔さんは渋さ知らズと並行して、マリア観音で演奏したこともあるんです。それで「アルバート・アイラ―がいいよ」って言われて。アイラーのレコードを聴いたらサニー・マレイやミルフォード・グレイヴスがドラマーだった。銀座のフリースペースみたいなところでやっていたサニー・マレイのワークショップにも行きましたよ。こんなに軽く叩くものなのかっていう。「絶対力を入れるな」みたいな。ほんとに菜箸みたいなスティックでしたね。
    ロックでも好きになるドラムは、結局ミッチ・ミッチェルだったり、ジンジャー・ベイカーだったりピーター・クリスだったりクリスチャン・ヴァンデだったり、ジャズをやってきた人ばっかりなんです。マニ・ノイマイヤーはここ(木幡宅)に来たことがありますよ。グル・グルのCDはほとんど持っていたし、奏法を教わったら、あの人もジャズ出身なんだけど「叩いているうちはダメだ。スティックは握るんじゃないんだ」と言って、持ち方を教えてくれて。


    ドラムを叩く木幡氏 (撮影:池田敬太)

    ---- マリア観音の楽曲のリズムには野生動物の動きも取り入れられていて・・・
    木幡 やっぱり憧れですよ。例えば、プロレスラーとかどんなにすごくても、握力80とか100くらいでしょ。オランウータンは300ですからね。そういうのって憧れじゃないですか。究極の肉食動物は、クズリっていう最大のイタチ科の動物(別名クロアナグマ)。上野動物園にいますけど、いつも寝てるから、自然界に放さないとすごさがわからない。凶暴でね、サルやライオンの要素を全部持っている。甲斐犬も犬の中ではかなり反射神経がすごくて、半分山猫みたいなところがあって、木に登ります。


    本棚の一部

    ---- そして、この夏にはマリア観音の最新作『東夷偽史先住民拙言滅裂多仁』もリリースされました。タイトルは何と読むんですか?
    『とういぎしせんじゅうみんせつげんめつれつおおしじん』です。
    ---- 漢文調ですね。
    木幡 はい。「巧言令色鮮し仁(こうげんれいしょくすくなしじん)」のパクリです。「東夷」は中国の人から見た大敵の場所というか、「偽史」はニセモノの歴史。結局ほんとの歴史はわからない。要するにルーツがないってことです。
    ---- ジャケットのイラストは木幡さんの制作で。
    木幡 そうです。モンゴル帝国が世界征服したじゃないですか。その時に、屈服しなかった国の兵隊をみんな山で首から埋めたっていう。埋めて見せしめに、上半身を埋めて。だから、昔の西洋人が、アジア大陸にはこんな化け物がいるって想像したらしいです。そのイメージで絵を描いてメンバーの顔を貼ったら、エレクトレコードのヒラヤマさんがすごく気に入って、これにしようってなった。「メンバーが笑っているのがいい」と。中に使おうと思った絵が、ジャケットになっちゃった。


    東夷偽史先住民拙言滅裂多仁


    『東夷偽史先住民拙言滅裂多仁』 ジャケット用イラストの別テイク(未完)

    ---- 西荻窪Pit Barで長尺生演奏による定期公演(マリア観音「定期生演奏会」)も始まりますね。しかも、次世代の音楽家をゲストに招いて。
    木幡 ヴォーカルのPA以外、みんな生音なのがいいですよ。ロックのライブハウスって基本的にPAの音じゃないですか、楽器の音じゃなくて。ドラムも何も、鳴りすぎる傾向がある。Pit Barはかなり質素なんですよ。だからうまくなるのにいいかなって。俺を呼ぼうっていう、マリア観音のファンだって言ってくれてる若い子たちにお返しもしたいしね。


    マリア観音 (撮影:池田敬太)


    マリア観音 (撮影:池田敬太)

    ---- 木幡さんやベースの明子さんがライヴの時、甲斐犬たちは?
    木幡 おとなしく留守番です。雷が鳴るとパニック起こして逃げちゃう子もいますけどね。2メートルくらいだと、ひとっ飛びで飛び越えちゃう。だけどみんなおとなしく待ってくれますよ。


    甲斐犬


    甲斐犬

    ■「絶滅動物記」第三十五章~マリア観音「定期生演奏会」其の一
    10月16日(水) 【場所】西荻窪Pit Bar
    【1~2時間演奏予定】マリア観音(木幡東介/平野勇/伊藤明子/a_kira)
    【ゲスト】死神紫郎
    【開場】19時【開演】19時半

    ■うしろ前さかさ族&てろてろ共同企画「扁桃核の夜」
    10月26日(土) 【会場】立川AAカンパニー
    【出演】痛郎、木幡東介(マリア観音)ドラム・ソロ、Ghostleg [Nii Mariko (HOMMヨ) and waniwave]、第二口腔外科、地底湖、てろてろ、うしろ前さかさ族
    【開場】16:30【開演】17:00

    ■第15回「深谷ロック・フェスティバル」
    11月16日(土) 【会場】JR深谷駅ギャラリー1(1Fギャラリー)
    【出演】鵺魂、玉響海月、ねこと花かんむり、中川五郎(ゲスト:香村かをり+大熊ワタル)、突然段ボール、マリア観音(木幡東介/平野勇/伊藤明子/a_kira)
    【総合司会】TASKE
    【開場】14:30【開演】15:00

    ■「絶滅動物記」第三十六章~マリア観音「定期生演奏会」其の二
    11月21日(木) 【場所】西荻窪Pit Bar
    【1~2時間演奏予定】マリア観音(木幡東介/平野勇/伊藤明子/a_kira)
    【ゲスト】てろてろ
    【開場】19時【開演】19時半

    ■12月1日(日・昼)新大久保アースダム(ワンマン・ライヴ)

    ■12月20日(金)西荻窪Pit Bar(ゲスト:うしろ前さかさ族)

    「マリア観音」Web Site
    http://mariakannon.jorougumo.com/index.html

    「マリア観音」Facebook
    https://www.facebook.com/mariakannon.band

    「マリア観音/エレクトレコード」公式You Tubeチャンネル
    https://www.youtube.com/user/ERECTRECORD