ディスクユニオン ジャズスタッフ 1月度レコメンド・ディスク

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2023.01.31

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ディスクユニオンのジャズ専門館スタッフが新譜の中で一押ししたいオススメ作品をご紹介!
今月リリースされた最新新譜はもちろん、改めて聴いたら良かった準新譜もコッソリと掲載。
最新新譜カタログ的にも、魅力ある作品の発掘的意味合いでも是非ご一読ください!




RACHAEL & VILRAY / I Love A Love Song! (LP) / 吉祥寺ジャズ館 吉良、JazzTOKYO 山本

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008587085


RACHAEL & VILRAY / I LOVE A LOVE SONG! / JazzTOKYO 丸山

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008584739


2019年のファースト・アルバム以来、待ちに待った最新作がついに入荷。
"心温まる"という枕詞はそこらで頻繁に目にしますが、文字通り本当に心が温まりますのでお試しください。
個人的には絶対にレコードで楽しみたい1枚。(吉祥寺ジャズ館 吉良)


CDと同発であったためLPも紹介。唱法、演奏法、音質諸々がちょっと保守的過ぎるかなという感触もありますが、このオールド・アメリカンな雰囲気に飲まれてしまいました。これだけあれば他はいいやと一時は思わされる。50年代半ば頃にCAPITOL辺りから10インチでリリースされていたらもの凄い名盤になっていただろうな、オリジナル盤の値段は高いだろうな、というしても仕方ない妄想もしている。急いで聴くものではなくオールタイムで素晴らしい作品になりそうなため、末永く保持して思い出したときに引っ張りだして聴いてみるという付き合い方でいかがでしょうか。とはいえやはり在庫あるうちに買っておいた方がいいですよ!(JazzTOKYO山本)


これが未来のジャズ・スタンダード。2004年創設のボーダーレスでノンジャンルなマルチジャンル・バンド "Lake Street Dive (レイク・ストリート・ダイヴ)" のメイン・ヴォーカルを務めるレイチェル・プライス(vo) と、作曲家でもあるヴィルレイ(g, vo) によるデュオ・プロジェクト作品に待望の第2弾が登場です。ここ日本で異例のロングセラーとなっている 1st作『Rachael & Vilray』(2019) から 3年、今作ではヴィルレイによるオリジナル楽曲と #12 "Goodnight My Love"(Harry Revel & Mack Gordon) をフィーチャーした全 12曲入りとなっています。2003年、ニューイングランド音楽院の生徒で、バンド活動を通して知り合った 2人は、学生時代から 10年以上も経った頃にようやく共演機会を得て 1st制作へ漕ぎ着けたとのこと。今作でも懐かしくも普遍的な魅力あふれるムードのコンセプトは変わらず、聴く者を古き良き時代への郷愁に誘ってくれます。スタジオ・ライヴ形式で丁寧に吹き込まれた、2人のタイムレスな歌声と、Joe La Barbera (ds), Larry Goldings (p, org, celeste) らによる冴え渡ったバッキングの妙をお聴き逃しなく。(JazzTOKYO 丸山)





Brian Blade / Live From The Archives Bootleg June 15,2000 / JazzTOKYO 羽根
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008556898


BRIAN BLADE & THE FELLOWSHIPの2作目"PERCEPTUAL”は概ね最高傑作との評価を確立している名盤だ。元来次元の違うドラマーであり、コンポーザーとしての優秀さやグループ表現の斬新さは第一作でも既に十分すぎる程の成果を上げていたところに、ギターのKURT ROSENWINKELが参加したことで、このバンドがもう一段の高みに上っただけでなく、以降の2000年代のジャズ・サウンド全体の方向性まで決定的な影響を与えた最重要作である。という訳で"PERCEPTUAL”を聴いたことが無い方はまずはそちらを聴いていただきたい。絶対に。50回程通しで聴いたら、満を持して本作"LIVE FROM THE ARCHIVES"に耳を傾けて欲しい。2000年のライブということで同メンバーによる同楽曲が、精緻に磨き上げられたスタジオ録音ヴァージョンとは別の魅力でグイグイ迫ってくる。それはライブならではの粗削りな迫力(もはやこのバンドはライブだから粗削りになったりしないが)といった普通の感想を超えて、ショーター在籍時のマイルス・デイヴィスのグループのように、ライヴこそ最も聴くべきというジャズの至福の境地を垣間見せてくれる。






シーリル・マルメダール・ハウゲ / ブルース・アンド・ベルズ / JazzTOKYO 丸山

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245765786


ノルウェー・ジャズシーンで今最も注目されているシーリル・マルメダール・ハウゲ(vo) と、シェーティル・ムーレリッドという 2人の新世代がオスロで録音した、透明感あふれる初のデュオ・アルバム。ジャズ・スタンダードを中心にカヴァーや優れたオリジナルで構成され、ゲストにヒルデグン・オールセット(goat horn, tp)、ヘンリエッテ・アイラトセン(fl) が参加しています。北欧らしい凛とした響きのイメージを重ね合わせながら、引き算の美学を思わせる絶妙なラインを手繰り寄せるように進んでいきます。#2 "Never Let Me Go" や #6 "Emily"、#8 "Body and Soul" といった古典的ジャズ・スタンダードで魅せる新鮮な解釈はもちろんのこと、#3 "I Can't Make You Love Me(夕映えの恋人たち)" といった名曲も印象的に歌いこなしています。日本盤ボーナス・トラックの #12 "Which Will"(Nick Drake) も聴きものです。





坂井レイラ知美 / ストレイト・ノー・チェイサー / JazzTOKYO 丸山
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245766444


坂井レイラ知美(vo) による3年ぶりのリリースとなる本作は自身初のフル・アルバムで、"酒" を題材にしたナンバーを中心に選曲。奇をてらわないシンプルな歌唱で、1st作から共に活動を続けてきた平岡 遊一郎 (g)、高瀬 龍一(tp) との音色が信じられないほど柔らかく混ざりあっています。円熟した佇まいで歌い上げるジャズ・スタンダードの数々は、一曲一曲がまるで真珠の首飾りに連ねられる一粒玉のような完成度の高さ。どこかセピアな色合いを放つ歌声とバッキングが丁寧に折り合わされた逸品です。ぜひチェックを。






ロブ・ヴァン・バヴェル / タイム・フォー・バラッズ~ザ・スタジオ・セッションズ / JazzTOKYO 丸山
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008579568


ピアノ好きのための極上バラード集プロジェクト第2弾が国内仕様で登場!  JazzTOKYO Selections No.275 に掲載しました、大ヒットを記録した前作『Time for Ballads』(2022) と同メンバーのピアノトリオで、蘭のロブ・ヴァン・バヴェル(p) が前作同様、ベルギーのクリス・マーネ製作の平行弦ピアノ (Chris Maene Straight Strung Concert Piano) を繊細に奏でています。この特徴的ピアノの独特な音色を味わえる点でも貴重なこの一枚、選曲も素晴らしく、#9 "Cinema Paradiso/I've never been in Love before" ほか思わず聴き惚れる名曲揃い。ちなみに前作とは色違いジャケとなっており、今作は紺色。よく似ていますのでご注意を。





SEBASTIEN JARROUSSE / ATTRACTION / JazzTOKYO 関口
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008198706


フランスのジャズモノって、なんだかクセが強いというか、個性的なセンスが光り過ぎてついていけないことが多いのですがこのカルテット、スゴイ美メロコンテンポラリージャズで聴きやすくてフランス作品だとは気づきませんでした。ブライアン・ブレイド&フェローシップバンドまではいきませんが雰囲気としてはミステリアスさや味気がそちらのベクトル。
曲によってはボーカルが入ったり、トロンボーンやアルトサックスの参加でクインテットやセクステット編成になりサウンドの色んな厚み加減が楽しめるのもポイント。





SCOTT HAMILTON / TALK TO ME, BABY / JazzTOKYO 関口
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008590892


今年69歳になる、モダンスイングジャズテナーサックスのベテランの中のベテラン、スコット・ハミルトンの最新レコーディング作が2023年初当店入荷。デナ・デローズ、イグナシ・ゴンザレス、ジョー・クラウスという今回もお馴染みメンバーでスタンダードをはじめ王道モダンジャズを披露。このバンド、リリーススパンは結構短くずっと同じ編成と音楽テイスト、全くブレないんですよね。当店でも根強い人気があります。きっと連番のように買い揃えている方もいるのでは?
モダンジャズの重鎮スコット・ハミルトンですが、悠久なサブトーンたっぷりの余裕ビシビシの音はもちろん相変わらず。
スタンダードジャズをいかに古の伝統を残しながら現代にアップデートしていくかを彼なりにテーマの一つにしているんではないかなと思います。なんていうか安心してスタンダードを聴ける。そこはベテランの安心感なんでしょうかね。バンドメンバーも長いこと一緒にやっているメンバーでセッションをしているので間合いなどの信頼感も抜群。





Ricardo Toscano / Chasing Contradictons / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008582660


ポルトガルのアルト奏者によるサックストリオ作品。コード楽器不在で調性感は希薄であり、楽曲のメロディも希薄。サックストリオはえてしてそうなると思うが、ドラム、ベースとのスパーリングのようで、求道的な雰囲気である。何も新年明けて早々そんな修行みたいな作品を聴くこともないが、そうは言いつつも聴きにくくないのは、サックスがフリーキーなトーンに行かず淡々と歌っているから。ダークでクールな風に見せかけて、同じリズムの上で歌うM3など、しっかりハイライトとなる演奏も聴かせてくれる。同地のレーベルClean Feedはフリー系の作品を多数リリースしているが、こうしたコンテンポラリーな作品もあるのがニクめない。





Enrico Pieranunzi / Blues & Bach - The Music Of John Lewis / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245765804


年間3作くらいはリリースしているエンリコ・ピエラヌンツィだが、トリオだったりカルテットだったりデュオだったり歌ものだったりと、それぞれ違うプロジェクトなのがえらいというか、しかもそれらをしっかり作品化してるのが実にマメである。最新作はトリオとチェンバー・オーケストラとの共演による、MJQのジョン・ルイス曲集。何かとクラシック要素が豊富なだけあり、全体としてはクラシック・コンサート的な印象が強い。しかしながら活き活きとしたソロはさすがで、トリオでの演奏は圧巻。映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネの映画が公開されている時勢に影響されすぎだが、ピアノ・トリオという映画の主人公に合わせたサウンドトラック、なんて趣も感じられる、壮大で美しいコラボレーションである。





IAGO FERNANDEZ / LUZADA / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008592590


スペインの北西の端、巡礼の終着地サンティアゴ・デ・コンポステーラを州都に持つガリシア出身のドラマーによる4th作。マーク・ターナー、ダヴィ・ヴィレージェス、ベン・ストリートというNYの精鋭が参加、この並びを見るだけで演奏が間違いないことが分かる。全体通してコンポジション、アンサンブル重視な作風で、本人のドラムも決して主張が強いものではないが、その中で朗々と歌うターナーのソロが気持ちいい。どの曲がいいかというと実はヴォーカルが入るM4だったりする。冒頭の後2曲を挟んでユミ・イトウのヴォーカルが戻ってくるわけだが、一流のジャズ・ミュージシャンはバッキングも一流である、ということを久々に思い出させられる、惚れ惚れするような歌いっぷりのバッキングなのだ。





Shaolin Afronauts / Fundamental Nature Of Being, Part 2 / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008563318


近年はエズラ・コレクティヴやKokorokoらUK勢や黒田卓也でアフロビートに触れた現代ジャズ・ファンも多いことだろう。私もその一人です。このThe Shaolin Afronautsはアデレードのサイケ・アフロ・ファンクバンドで、本作は昨年9月にリリースしたLP5枚組の中の2枚目。元の5枚組は1枚ごとにバンドの異なる影響源を表出しており、アフロやスピリチュアルにアンビエントまで内容は多岐に渡るのだが、その中でもこの2枚目はアフロビート度が高い。足腰を直撃するグルーヴに踊らずにはいられない…という"踊りたくなる度"はUK勢に及ばないが、それでもアフロビート欲を十分に満たしてくれる。シンセ使いのコズミックなサウンドも最高。





Butcher Brown / Butcher Brown Presents: Triple Trey / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008519230


ブッチャー・ブラウンの昨年9月リリース作。ビッグバンドとのコラボというのは、ジャズ・ファンク・ヒップホップ系バンドとしてはちょっと意外じゃない?と思っていたのだが、ここでのコラボ相手であるR4ND4ZZO BIGB4NDはブッチャー・ブラウンのベーシストのプロジェクトで、ブッチャー・ブラウンのメンバーも参加、という兄弟バンド的な位置にあるようだ。つまり相性はバツグン。いきなりケンドリック・ラマーのカバーに始まり、スーザフォンが入った分厚い低音のアンサンブルがダンサブルで最高。また元々はMCテニシューのアルバムとして制作していたということで、これまで以上にラップが入った、大編成の生演奏ヒップホップという贅沢なアルバムである。





Photay with Carlos Nino / An Offering & More Offering / JazzTOKYO 松本
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008566445


あえて季節外れなひんやりとした作品を選んでみました。西アフリカのギニアへの旅を経て、サンプリングとフィールド・レコーディングの可能性を広げる天才ビートメイカー/プロデューサーのフォテーと、アメリカ西海岸アンダーグラウンド・シーンで存在感を放つ"RINGS"ではおなじみのカルロス・ニーニョ。彼らの共演作 『An Offering』と『More Offering』が2CDでリリースされた。水に反射する様々な色彩や風景から感じた視覚的な体験にインスパイアされたという浮遊感のあるサウンドは夢を見ているような、いろいろな色に包まれているような不思議な心地よさがある。シンセ、ハープ、管楽器、パーカッション、環境音などが登場し、様々な質感が重なることで、想像以上に奥深く、美しい壮大な音像が生まれている。2枚目はビートが立っていて、ジャズ的要素も加わったダンサブルなミックスが気分を上げてくれる。長い冬に飽きてしまったらこれを聴いて過ごしたい。





CHAPTER SEVEN / THUMS UP(180G/YELLOW VINYL) / JazzTOKYO 西川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008584923


ドン・チェリーとの共演で知られたベングト・ベルガーが1986年に結成したチャプター・セヴンのサムズ・アップが初LP化。今回Moserobie Musicでおなじみ、サックス奏者のヨナス・カルハマーがキュレーションした再発の1枚となります。アンデシュ・ヨルミンやレナート・オーベリ他スウェーデンの逸材が集結したグループで当時CapriceからCD、カセットで発売されました。オーネット・コールマンやドン・チェリーの曲にオッフェンバックの「美しきエレーヌ」、またベルガーの牧歌的な作風やカラフルなアンサンブルを主体とした祝祭的な演奏が楽しめます。





DESIGNERS / DESIGNERS / 吉祥寺ジャズ館 荒川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008563916


ジャケットに描かれた詰んだテトリスのようなオブジェは、インスピレーション元となったフィリップ・デュジャルダンの建築から由来しているようで、だからデザイナーズ…というばかりでもないようだ。演奏はコンポーズしたものではなく、もちろんインプロで、トリオ各々が繰り出すフレーズはライヒ的でミニマル。反復、さらに変容していく展開は非常にヒプノティックである。抑制されたようでいて、いかに限定された音で遊べるか、というゴリゴリなトランス音楽です。案外これに一番近い音楽はアンソニー・ブラクストンの息子もやっていた初期バトルスかもしれない。ヴィジェイ・アイヤー・トリオ、キット・ダウンズを経由したと思しき現代感も善き。






OSCAR JEROME / Spoon(LP) / 新宿ジャズ館 高森

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008543315


KOKOROKOでの活動や多数のミュージシャンとのコラボなど様々な活躍をみせるサウスロンドンのギタリスト・ソングライター、オスカー・ジェロームの最新作が遂にリリース。JAZZ、HIP HOP、R&Bなど様々なジャンルをミックスしたサウンドとソングライティングが特徴的な彼。聴くシチュエーションを選ばない心地よいヴォーカルとギターで前作に引き続いて素晴らしい作品でした。心地よいサウンドを是非ご堪能下さい。おすすめはMVも公開されているBerlin 1です!





SAM WILKES & JACOB MANN / Perform the Compositions of Sam Wilkes & Jacob Mann / 新宿ジャズ館 高森
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008566321


近年Sam Gendelとの活動などで大人気のベーシストSam Wilkesと、JUNO106を使用して作られた最高にナイスなアルバム「106」が記憶に新しいキーボーディストJacob Mannの共作。シンセの名機YAMAHA DX7やRoland JUNO106のピコピコしたゲームサウンドのようなカラフルな音と、太いビートから成るドリーミーなトラックに浮遊感があり、聴いていて大変気持ちがいい。私のおすすめは7曲目のDr. Tです。お店でヘビーローテーションさせていますので、是非お買い求めください。






フレッド・ハーシュ&エスペランサ・スポルディング / アライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード / 横浜関内ジャズ館 山田
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008582593


大病をして以降、繊細でシリアスな作品が多くなった印象のあるフレッド・ハーシュと、近年コンコードからコンテンポラリーで攻めた内容の作品を多くリリースしていたエスペランサ・スポルディングによるデュオ・ライヴ。二人の近年作を踏まえると、重厚でスノッブな、完璧で隙のない作品になるのだろうと思っていたが、180度真逆の、スタンダードを中心にしたリラックス感溢れる王道ヴォーカル・アルバムだった。おそらく一番のポイントは、エスペランサがベースを弾かずヴォーカルに専念していることだろう。その分音数は少なくなるが、楽器がないことでより自由で、肩の力が抜けた雰囲気になっている。流れるように軽やかな彼女の歌声に、優しくしっとりと、持ち味である繊細さを活かしながら寄り添うフレッド・ハーシュのピアノも聴き応え充分だ。





NICHOLAS PAYTON / Couch Sessions / 横浜関内ジャズ館 山田
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008584744


すっかり鍵盤奏者としても板についてきた一流トランペッター、ニコラス・ペイトンの新作は重鎮バスター・ウィリアムとレニー・ホワイトをリズム隊に迎えたトリオでの作品。マイルス・バンド出身の二人を従え、ショーターやハービー・ハンコックの曲を取り上げているが、懐古主義的な雰囲気はなく、今のニコラス・ペイトンにしか出来ないアレンジと奏法でフレッシュな演奏を展開する。今作の特徴としては、普段よりサンプリングを多用している点が挙げられるだろう。大ベテランの安定したモダンなリズム・アプローチを軸に、曲によって、さらに言えば曲中の展開によって使用楽器をガンガン変え、サンプリングによって作品全体を通底するスモーキンかつスムースなムードと浮遊感を醸成する。ペイトンが従来取り組んできたストレートアヘッドなジャズとクラブ・ミュージックのサウンドが止揚をみた、充実の一枚に仕上がっている。





JAIMIE BRANCH / Fly Or Die Live(2LP) / 渋谷ジャズ/レアグルーヴ館 小谷
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008311074


2022年8月に急逝したトランぺッター最後のアルバムにして個人的最高傑作である作品が再入荷。
Medicine Singers、Yonatan Gatと発表したシングルも素晴らしく、今後ジャージ姿でライブをするこの鬼才を二度と目にすることができないことが本当に惜しい。
既作のライブ盤ではあるが、演者の演奏と観客の応答が本作を唯一無二のアルバムたらしめている。





AHMAD JAMAL / Live In Paris (1974) - Lost ORTF Recordings(LP) / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008527825


昨年11月発売のLPですが、遅ればせながら聴いてみたら良かったので紹介します。
マッコイ系モーダル奏法の導入と、ジャマルの曲者ぶり(耳障り良く見せかけておいてトリッキーな仕掛けに誘導する)が面白い反応を起こして、そのハイブリッド感で1粒で2度美味しい仕上がりになっています。
後年もっとモーダル感が強くなったアーマッド・ジャマルは最早別人の様であまり好みではないのですが、このアルバムは丁度良い塩梅です。私が60〜70年代のマッコイ・タイナーと50〜60年代アーマッド・ジャマルが好きだからそう感じるかもしれませんが。





石川晶 Count Buffalo & His Rock Band / Exciting Drums / African Rock Party / 吉祥寺ジャズ館 立石
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008570120


石川晶節全開、カウント・バッファロー名義初期傑作が再発です。昨今の「和ジャズ」ブームの中でもとりわけ人気の高い作品の多い石川晶とカウント・バッファロー。近年次々と再発がされていますが、満を持してファン待望の今作がレコード再発されたのは嬉しい限りです。ジャケからも伝わるアフリカンビート感とジャズ・ロックの融合がたまらなく、全編にわたってソウルフルなアレンジを聴くことができる作品となっています。特に、言わずもがなリー・モーガンの8ビートジャズで知られている「The Sidewinder」のカバーは、オリジナルとまったく違った雰囲気で楽しめる名カバーです。是非お買い求めくださいませ。





DESIGNERS / DESIGNERS / 新宿ジャズ館 有馬
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008563917


フィンランドジャズの最注目レーベルwe jazzからリリースされた新作は、Edition Recordsからのリリースで注目を浴びるフィンランド人ピアニストAki Rissanen、オーストリア出身のガムラン狂ドラマーWill Guthrieと、Jeff Parkerとの共演歴もあるベルギー出身ベーシストのJoachim Florentによるピアノトリオ。
本作はJoachim Florentと同郷の建築写真家Filip Dujardinの幾何学的なデジタルコラージュに対するインスピレーションを基にしつつも、
主題がジャズをコントロールするレーベルスタンスはこのトリオでも根本に置かれ、
境目のないミニマルリフと即興をレイヤリングしながら放射状に音像生成されていきます。
オルタナECMとも言えるレーベルカラーがもたらす美しい感触はもちろん、あらゆるピアノトリオをコンテンポラリー目線で追う方にとっても、これ以上ない刺激となると思います。





TONY OXLEY / Unreleased 1974-2016 / 新宿ジャズ館 久保田
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008602608


Incusの創設者の1人でもあるトニー・オクスレイ御大の未発表曲集です。M4:Frame(81年)に目を見張りました。キレッキレのヴァイオリンに始まり、横殴りするようにサックスが分け入って来た後、集団即興へなだれ込みます。渾然一体となって押し寄せる音の嵐に耳が悦びました。得意の音響的アプローチもあいまって、40年前の演奏とは思えないほど新鮮に聴こえるでしょう。
オクスレイがエレクトロニクスを使用し始めたのは早く、70年代まで遡ります。たとえば、近年リイシュー/未発表でリリースのあった『February Papers』や画家のアラン・デイヴィーとのデュオがそうですね。かたやオクスレイは70年代初頭までロニー・スコッツ・クラブのハウス・ドラマーであり、エヴァンスからの打診で『リュブリャナ・コンサート』を残すなどモダンの分野でも活躍していました。





V.A. / Spirit of France (2LP) / 営業部 三橋
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008597386


選曲、流れ、意図の3本柱がガッチリとハマるとこんな作品が出来るのかと衝撃であったコンピレーション。70~80年代のフランスの実験的な音楽の中でも研いだ先端部分を集めたような、フリージャズもフォークも民謡もなんでもござれな内容。それぞれの年代も思考も違っていそうで、でも通奏低音として流れている"抗い"や"自由"、"民族性"といったキーワードで緩やかに繋がっていることが体感できます。しかもそれが過ぎ去っていないことが現代の鏡のように写る1作。これこそコンピレーションが出来得る可能性の一つなのだろうと思います。お見事!





GROWTH ETERNAL / PARASAiL-18 / 営業部 池田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008584818


商品詳細にもある通り、アルバムのテーマである「逃避行」をシンセを中心とした浮遊感のある音色と不規則なビートによる夢と現実を彷徨うようなサウンドで表しているような気がして、違和感はあるけど不思議と心地良く疲れた体を癒してくれるような効能があります。本人も自分自身を癒すために始めたプロジェクトだというので、やっぱりヒーリング/メディテーション要素があるのかも。同じく《LEAVING RECORDS》からリリースのあるサム・ゲンデルにも通ずるものがあるので、サム・ゲンデル好きにもオススメ。