祝・ロルフ・キューン『ソラリウス』初CD化!! ディスクユニオン一ヶ月先行発売です!!

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2007.09.12

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祝ロルフ・キューン『ソラリウス』初CD化、しかも日本滞在のレーベルからなのである。熱狂的ジャズ・ファンたちのオアシスと慕われるディスク・ユニオンで は、1ヶ月先行でこの記念すべき発売を歓迎した。ライナーノーツを執筆しているのは、ヨーロッパ・ジャズを驚異的勢力で聞き倒し続けるベテラン・ライター星野秋男氏。ユニオン・マニアなら誰もが一度は聞きしそのツワモノの正体 は!? ディスク・ユニオンのジャズ・マスター山本隆氏が彼との対談に臨んだ。

山本:まずね、星野秋男とは何ぞや、ということを明らかにしたいと思っているの。ぼくは昔、18年以上前かな、横浜店勤務のときに星野さんが昼にレコードを 見に来たりしていてね、ぼくが昼休憩から戻ってきても居る。夕方タバコ休憩して戻っても、まだ居るって調子でさ。もうこの人は一日にどのくらいレコード屋にいるんだろう、と。その後お知り合いになったときに、あれは、いったいぜんたい、何だったの?と訊いたら、どんなものがあるか全部見ないと気がすまない。知らないレコードがあるのがいやだ、というわけ。

星野:普通の人がレコード屋に行くのとは違くてさ。あれ欲しいな、と思って行くのではなくて、私の場合はその店に何か欲しいものがあるかどうか、を探しに行く。その店にあるものは一枚残らず全部見ないと「目的」が達成できないの。全部見てね、中にはこんなものがあったのか、知らなかった、という出会いがあったりすると、収穫があったなぁと思うけど、一枚も収穫がないと、がっくりして家に帰ったり。

山本:ツワモノですよね。しかもね、星野さんは地方公務員に身を置きながら、個人レベルで、レコード会社に対して「このヨーロッパ盤を復刻すべきリスト」をガリ版刷りで何十ページも作っていらして。それをぼくは有難くも持っているのだけど、この10年くらいでほとんど復刻されてきていて、今回のロルフ・キューンの盤もその一枚でしょ。あの情報がなかった時代に、すごいですよね。

星野:当時ベルギーのウォルター・ブルーニンクという人が出したディスコグラフィ資料があって。膨大な量を、一枚ずつシートで売っていた。海外から少しずつまとめ買いして自分で冊子に綴じたら、横に並べて1メートルくらいになった。それを、しらみつぶしに見て、これは良さそうだというのをメンバーや曲目、時代から推測して狙いをつけて、片っ端から入手したんです。このロルフ・キューンも、彼の随分ある作品数から、きっとこれはいいぞ、と決めつけてね(笑)。

山本:資料といっても、ガイド本ではないから。ほとんど賭け事だ。

星野:でもこれはほんとに良かったから。やっぱり私の勘に狂いはなかったぞと。

山本:でも失敗もあったり。

星野:そりゃあもう。

山本:そうやって星野秋男印の「金字塔」を集められたのですね(笑)。

星野:そうだね、でももちろん根拠はいろいろと。解明するんですよ。ロルフ・キューンの場合は、この『ソラリウス』前後の作品を何枚か先に持っていたんだけれども、ぜんぜんその両方でスタイルが違う。間がなかったわけ。

山本:何があったんだ!そこで!?

星野:そう!ミュージシャンというのは、自己が変革を起こす瞬間にこそ、ガッツがあって、覇気があって、彼らの生涯の中でもっとも演奏に熱がこもった濃密な作品が残ると思うんだ。だから確信はあったのね。ようやく入手して、「Minor Impressions(試聴する)」「Sie gleicht wohl einem Rosenstock(試聴する)」なんか聴いて、やったぞ!って。

山本:ぼくは「Mountain Jump」から「Lady Orsina」にかけても、いいなあって印象で。しかし全部いいですね、これは。

星野:そうですね。どの曲も月並みにさらっと演ってない。題材をどうゆうふうに料理していこうかって練られてるんです。アメリカと違うのはそこですね。ヨーロッパの特徴の中でも、ドイツの場合は構築的、構造的だと思った。音が硬くて。硬いってイメージは、たとえばドビュッシーをやわらかいとすると、ワーグナーは硬い、という感じ。それをジャズでいうと、当時フランスでジェフ・ギルソンとかバルネ・ウィランとか、ふくよかで官能的、気品が感じられる。イギリスだとフレキシブル。それに比して、ドイツはヨギ・ジャズとかウォルフガング・ダウナーとかからも、がっしりしていてメリハリが強い特質があるのが見えてきた。

山本:硬質のリリシズム。

星野:東独ものではこのロルフが圧倒的です。

山本:ブルーニンク読破の星野さんが言うと、すごい説得力。参ったな(笑)。

星野:だって所々、ピカピカと光っていますから。

山本:光ですか。

星野:それまでに無かった価値を作り出していますから、このアルバムは。これは本人も自覚していたんじゃないかと思うけど。彼はコルトレーンのスタイルを真似したのではなくて、一度解体して、分析して、再構築して、自分のサウンドにしているでしょう。その新しさで同時代性を獲得した一枚なんです。同時代性ってね、流行を捉まえるかじゃなくて、新しい価値を提示してその主人公になるということです。

山本:それは、アート全般に共通し得る視点ですね。

星野:ええ。流行というのは、素早くキャッチして真似すれば新しくは聴こえるかもしれないけれど、自ら創りあげた人とは全く違う。革新者自らの作品には、その音にこもっている力が違うのがわかるはずです。

山本:ではひとつには、その求心的な力が集まった盤こそが、それでは……

星野:金字塔認定盤、といえるわけです!

山本:さすが。

星野:でもロルフはこの次作の『リユニオン』も聴いてほしいなぁ。

山本:星野さんは、コレクターじゃないんでしょ。自称。

星野:そうです。でもレコードは大抵2枚ずつ持っています。理由はね……

山本:いや、いいです(笑)。

★ロルフ・キューン / ソラリウス/CD /\2,415(税込)

 星野秋男氏