JAZZ ART せんがわ 2019 ライヴレポート

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2019.10.11

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9月12(木)~15日(日)東京都は調布市仙川にて「JAZZ ART せんがわ」が行われた。
「JAZZ ART せんがわ」とは、「2008年から2018年まで11年間に渡って調布市せんがわ劇場が実施してきた即興音楽とアートのフェスティバルです。公園での無料即興ライブ等、アーティストと観客と街が混ざり合う「親密なコミュニケーションの場」を実現する地域密着型の事業でもあります。例年市民から大好評だった0歳児から入場可のライブやワークショップ、無料屋外イベント(公園ライブ・「CLUB JAZZ 屏風」)も開催。」(プレスリリースより抜粋)
フェスティバル名に「JAZZ」とありますがここで聴けるのはモダン・ジャズやバップといったジャズではなく、なんの取り決めなくその場その場で即興演奏されるフリー・ジャズのこと。4日間開催されたうちの最終日9月15日(日)の第二部「佐藤允彦(piano)×瀬尾高志(bass)×レオナ(tap dance)」と最終公演となる「フィナーレ」に参加させていただきました。

【9月15日(日)】(仙川フィックスホール)
藤原清登ディレクション:佐藤允彦(p)×瀬尾高志(ba)×レオナ(tap)


9月12日から14日までは"せんがわ劇場"で行われていましたが、最終日は場所を"仙川フィックスホール"へ移しての開催。
広すぎず小さすぎない天井の高さもあるホールで、出演者の一人である吉田隆一自身のTwitterで「小ぶりで響きの良いホール」とコメントしておりました。後方で鑑賞していたのですが、中~前方に人が入っても埋もれずにフワッと音が広がる余韻ある響きが聴ける印象。
最終日9月15日(日)の第二部は第一線で活躍し続けるピアニスト佐藤允彦、独自の音世界を構築する瀬尾高志、そしてタップダンサー、レオナのトリオでの演奏。このトリオでの演奏は今回は初めてのことで、これまでなかったミュージシャン同士が演奏できる場もフェスティバルならでは。

総合プロデューサー:巻上公一の第二部に関する説明の後三名が登場。
程よい緊張感のなか静かにつま弾かれる佐藤允彦のピアノがホールに響く。クールで芯のある佐藤允彦のピアノからは次々とアイディアが出、鍵盤を見ることなく終始瀬尾高志とレオナへ視線を向ける姿が印象的で、共演者の姿や動きからインスピレーションをもらいながらその場その場でアイディアを出し相互に反応し合っているような濃密な演奏。瀬尾高志のベースもレオナの動きへ視線を向けながら強烈にフォルテした指弾きから早いパッセージや弓を使った摩擦音までも使いわけ、ズッシリしたうねる低域を聴かせる思慮深い演奏を展開。
恥ずかしながらタップダンスの即興を初めて聴いて、その音高・音色の幅に驚かされました。踵を使っているのか、ドシンとした低音からカツっと抜けの良い高音までカバーし、タップダンス板だけでなくトタン?金属製?のタライのような金物の硬質な音色を用いることで、さながらドラマーのようなパーカッシブな表現も出てきていました。
例えば、パーカッショニストの身体の使い方は直接音に繋がるわけですが、ミュージシャンがある音を出すうえで必然となる身体の使い方など、より身体の使い方が音そのものに直結するであろうタップダンスが入ることで前面に出てきたというか、瀬尾高志の指の強弱や佐藤允彦の共演者への視線などがその場でその場で姿を変える音色や表現とどう繋がっていくのか、その瞬間を捉えたくなる耳も目も離せない1時間でした。良い演奏を聴くと1時間を1時間と感じられない、時間感覚が日常感じるものとは違うものですが、本演奏は間違いなくそれでございました。



【9月15日(日)】(仙川フィックスホール)
フィナーレ!「インプロ大集合!!」

最終日9月15日(日)の最終公演は「フィナーレ!「インプロ大集合!!」」と題され、宮坂遼太郎(perc)、池澤龍作(ds)、伊藤千枝子(dance)、佐藤直子(perc)、四家卯大(cello)、福原千鶴(小鼓)、柳家小春(三味線)、吉田悠樹(二胡)、吉田隆一(sax)、高岡大祐(tuba)、瀬尾高志(bass)、李世揚 Shih-Yang Lee (p)、坂本弘道 (cello)、巻上公一 (vo) ザ・セカンド・アプローチ・トリオ The Second Approach trio[アンドレイ・ラジン Andrei Razin (p, per, vo) タチアナ・コモーヴァ Tatiana Komova (vo, per) イーゴリ・イヴァヌシキン Igor Ivanushkin (b, per)]、三田超人(g)という「大集合」の名にふさわしい大人数、そして豪華さ。その出演者の中から3~5名で10~15分程度の演奏を入れ替わり披露するというコンパクトでありながら多くの表現に触れることができるなんともお得感のある回。印象的だったのは、開始前に巻上公一が言った「本日は何が起きるのか、本当にわかりません!」の言葉。聴く側も演奏側も何が予定調和でない場を共有しているとてもワクワクさせられる瞬間でした。以下、その中から抜粋いたします。



高岡大祐(tuba)、四家卯大(cello)、瀬尾高志(bass)、吉田隆一(sax)による低音に寄った編成。
四家卯大と瀬尾高志がたっぷりとしたパッセージでクラシカルなフレーズを披露し、儚さも感じられると同時にゆったりとした空気感は普段アンビエントやポスト・クラシカルを聴く方にも響いたであろう美しい音世界を響かせていました。高岡大祐と吉田隆一がさらに色彩感を加えるようなメロディや楽器の様々な使い方によって聴いたこともないような音を出したりと美しいだけではない奥行ある音を聴かせてくれました。
高岡大祐はチューバのベル部を観客側へ向けることで、聴く側が感じる音のダイナミクスやトーンの変化、音の向き・角度といった方向性も感じさせる演奏で、音が鳴っている場は平面的ではなく複雑に絡み合った立体的な空間であることに気づかせてくれる目から鱗の演奏。



台湾のピアニスト李世揚、Second Approach trioからタチアナ・コモーヴァ(vo)、宮坂遼太郎(per)、坂本弘道 (cello)のカルテット。
李世揚がクラシカルでヨーロピアンな雰囲気を漂わせる透き通ったトーンのピアノで静かに演奏をはじめ、知らない国の物語を語るかようにタチアナ・コモーヴァが表情豊かに歌唱を披露。
宮坂遼太郎が突如「バサっ」っと折りたたみ傘を開いた瞬間にはその予想外すぎる展開に会場からは笑いが起こり、李世揚も「!?!?」という表情のあと持参した木製のブロックを落としてみたりピアノの外側をペタペタと叩いてみたり、坂本弘道も巾着に入れてあった大量のボールペンを落としてみたりと次々とアイディアが飛び出してくる様はおもちゃ箱をひっくり返したかのようでもあり、子供が初めて音の出ることを発見したかのような無邪気で自由な発想で表現をしているのが印象的でした。



自費で来日・出演という結成20年になるロシアのベテランSecond Approach trioが登場。
「帰りが遅いなんて思ったら、あんたまたこんな時間まで飲んでたの!?!?」「いや、違うんだよ~、あそこでベースを弾いてるやつがどうしてもっていうから・・・」なんて言葉が聞こえてきそうなまるで夫婦喧嘩のような下町風情すら感じる一幕があったりと、名人と言える確かなテクニックを時にはシャンソン風な歌唱を交えて、時には人情を交えて肩肘張らずにサラリと表現するベテランのさすがの演奏にまさに"引き込まれる"雰囲気が会場を包んでいました。楽器を演奏するだけではなく、身振り手振りを交えての表現にどこか演劇的だったりコミカルなとっつきやすさを感じられたりと、Second Approach trioにとって聴くことと何かを観ることに隔たりがないような印象を受けたのは音源だけを聴いただけでは持ちえなかった発見だったと思います。



終演時間も最後の最後には出演者全員がステージに登場し演奏を披露するというフェスティバルならではの豪華な1幕が。
その演奏ではなんとブラック・サバスの名曲「Iron Man」のあのリフが飛び出してから怒涛の即興演奏に雪崩れ込んだかと思えば、The Second Approach Trioのアンドレイ・ラジン(p)と台湾のピアニスト李世揚がクラシカルな連弾を披露したりと巻上公一が第三部開演前に言っていた「本日は何が起きるのか、本当にわかりません!」の言葉通りの聴いている側も次に何が起こるのか、その予感の気配さえないような刺激的な音・展開の連続に「何が起こっている / いたのかハッキリと言葉にするのが難しいけれど、少なからず何か凄く面白いことが目の前で起こっていることは体感 / 感触として確かにわかる」とでも言えばいいのか、それはそれは凄い演奏の連続。会場からは「どうやって演奏してるんだろうね。」や「何も決めなくても音楽ってできるんだ。」といった声も聴こえ、初めて即興音楽を聴いたときの気持ちが蘇ってきたり、初心へ帰るような感情になったり、凝った肩をほぐされるような肩肘張らない雰囲気が会場を包んでいました。「毎年地元でこのようなフェスティバルが行わるって良いな。」と仙川に住まわれている方が羨ましくもあり、来年も開催されることを楽しみにしたいと感じるフェスティバルに参加できたことを嬉しく思います。


JAZZ ART せんがわ出演者(敬称略、順不同、公式HPより)
藤井郷子、ラモン・ロペス、田村夏樹、四家卯大、田中邦和、佐藤直子、ヒカシュー :巻上公一、三田超人、坂出雅海、清水一登、佐藤正治、ZVIZMO(伊東篤宏+テンテンコ)、藤原大輔、伊藤千枝子、The Second Approach trio Andrei Razin、Tatiana Komova、Igor Ivanushkin、坂本弘道、中村達也、入手杏奈、李世揚、太田惠資、PRAED - Raed Yassin、Paed Conca、佐藤允彦、瀬尾高志、レオナ、池澤龍作、高岡大祐、吉田悠樹、福原千鶴、吉田隆一、宮坂遼太郎

写真撮影:池田まさあき

『JAZZ ART せんがわ 2019』
主催:JAZZ ART 実行委員会 共催:調布市
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
協賛:岩下食品株式会社

JAZZ ART せんがわ公式HP
http://www.jazzartsengawa.net/

JAZZ ART せんがわTwitter
https://twitter.com/jazzartsengawa