ディスクユニオン ジャズスタッフ 3月度レコメンド・ディスク

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2023.03.31

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ディスクユニオンのジャズ専門館スタッフが新譜の中で一押ししたいオススメ作品をご紹介!
今月リリースされた最新新譜はもちろん、改めて聴いたら良かった準新譜もコッソリと掲載。
最新新譜カタログ的にも、魅力ある作品の発掘的意味合いでも是非ご一読ください!




鈴木勲 / Approach / 吉祥寺ジャズ館 立石
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008616090


1986年、鈴木勲が富樫雅彦、市川秀男、塩本彰(A1,3)と作り上げた傑作「Approach」がCD、LPで再発です。鈴木勲のアンビエントな響きが富樫節と呼応し、そこに市川秀男、塩本彰が丹精に参加してきます。全編を通してアンビエントな作品となっており、鈴木勲の情熱的なソロが冴えわたる「MYSTERIOUS」から、富樫雅彦作長尺の即興曲「EAST WORDS」などスリリングな構成が魅力的な曲がつまった、和ジャズファンのみならず、音楽ファンにはたまらない作品となっています。ぜひお買い求めください!





Chris Potter / Got The Keys To The Kingdom / JazzTOKYO 羽根
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008609317


現在公開中の映画『BLUE GIANT』に「俺は世界一のジャズプレーヤーになる。」という殺し文句があるが、リアルに世界一になった男の姿を見たければ、クリス・ポッターを聴けば良いのだ。Down Beat誌が「地球上、最も研究され(そして模倣された)サキソフォン奏者」と評したように、彼の変幻自在な活動歴はそのまま現代ジャズの歩みに置き換えることも出来るし、彼が如何にトンデモナイかをここで列挙するには字数が足りないが、本作のようにワンホーンのライブというフォーマットで楽器を鳴らしきる姿は、ジャズの音楽的知識や視聴経験が乏しいリスナーにも大変分かり易く、テクニック的には恐るべき高度な事をやっていても、耳の中へグリングリンに捻じ込まれるような野性的、直感的な訴求力を併せ持った麻薬的サウンドと言えるだろう。NYのVANGUARDライブとしては、2002年"LIFT(大傑作!)"、2007年"THE RED LINE"に続く三作目であり、トラッドからパーカーのバップ曲、ジョビンの曲までカバー曲で埋め、そのサウンドは香しいそよ風から野獣の咆哮にまで姿を変える。"LIFT"で魂を抜かれてしまったジャズ中毒者は、20年後の本作でも恍惚とする以外に無いし、本作に初めて出会い衝撃を受けたジャズファンは、ぜひ過去作も遡って聴いて欲しい。






Jason Moran / From The Dancehall To The Battlefield / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008624622


James Reese Europeは、1910年代に音楽業界の黒人のための協会"Clef Club"を設立して楽団を組織、ジャズの楽団(当時まだジャズという呼称すらなく、"Concert Of Negro Music"というタイトルだったそう)として初めてカーネギー・ホールで演奏した人物である。第一次大戦には黒人による第369連隊"ハーレム・ヘルファイターズ"の中尉として従軍、軍楽隊を率い、フランスでヨーロッパ初のジャズの演奏会を開いた、ということでもその名が知られている。リズムにシンコペーションを取り入れたことから、のちに「音楽のマーチン・ルーサー・キング」とも評されており、アメリカ音楽、黒人音楽の祖と言って過言ではない。
ジャッキー・バイヤードに師事し、ストライドやラグタイムの奏法を自らの演奏や作品に反映、過去にはファッツ・ウォーラーのトリビュートにも取り組んだモランが、ラグタイムの時代の作曲家であるEuropeに言及するのは自然なように見える。しかしこれはラグタイムの単なるオマージュではなく、ジャズの歴史、ひいては黒人音楽の歴史を探究する壮大なものであり、黒人音楽家として現代社会へ向けたステートメントなのだ。ラグタイム〜トラッドの雰囲気と、バンドワゴンのアグレッシブな演奏が交錯する内容も当然のごとく素晴らしい。いにしえの音楽、伝説の作曲家へのオマージュを現代的に成し遂げた、全ジャズファン必聴の大傑作である。





SAM GENDEL / COOKUP / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008614678


まず各曲のオリジナルをはっきりさせておこう。M1・Ginuwine('01)/ M2・112('98)/ M3・Aaliyah('98)/ M4・All-4-One('94)/ M5・Soul For Real('95)/ M6・Ginuwine('03)/ M7・Beyoncé('03)/ M8・Joe('99)/ M9・Erykah Badu('00)/ M10・Mario('04)/ M11・SWV('97/'92)/ M12・Boyz II Men('95)。
毎年リリースを連発するサム・ゲンデルの2023年第1弾は、『Satin Doll』『DRM』以来、久々のノンサッチからのリリース。『Satin Doll』と同じトリオで、かつてジャムっていたという90〜00年代のR&Bカバー集である。ちょっと意外な選曲という気もするが、このあたりのヒット曲に親しんできた世代だろうし、『Black Radio』以降の感覚ならば何ら不思議ではない。とはいえオリジナルを知らないとどういう曲なのかよく分からない、換骨奪胎的なカバーセンスと、サックスだけでない様々な音が鳴っているサウンドはどこをどう切ってもサム・ゲンデル。かつこれまでにリリースされたソロ作や、『Satin Doll』などとも違う音楽が完成している。アブストラクトな音色の中に感じられるあたたかみは、若き日に親しんだ楽曲というノスタルジーよりは、曲自体のメロディーのよさだろう。





Yessai Karapetian / Ker u Sus / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008628221


パリのアパートの一室からソロピアノ録音を贈る新興レーベル"Paradis Improvise"の3月のリリース。もう1枚のジャン・ピエール・コモがさすがに名前も内容もいいのでみんなあんまり見てないようだが、このアルメニア出身の若手、エッサイ・カラペティアンも、並居る人気ピアニストたちに劣るところをかけらも感じさせない。出自に由来する独特の感性や、若さを感じさせるリズミカルな速いパッセージも披露しつつ、美しいメロディを下手にこねくり回さずに素直に奏でるところは好感が持てる。昨年リリースのソロ・デビュー作はハードな作風で、熱量高い凄まじい勢いの作品だったが、対極にある落ち着いた良質なソロは、彼の幅の広さと実力の証。単純にとてもいいソロピアノ作品なので、知った名前だけ買うのはもったいないですよ。





Yessai Karapetian / Yessai / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008577709


今月"Paradis Improvise"からソロピアノ録音がリリースされている、アルメニア出身の若手ピアニストが昨年リリースしたソロデビュー作。あまり話題になっていなかった気がするが、この高まる熱量を維持し続けるような演奏は無視できない。楽曲は同郷のティグランを彷彿とさせる知的かつ複雑なアレンジだが、そのテクニックと演奏力を、テクニカルなことへの挑戦やコンビネーションプレーではなく、テンションに全振り。スタジオ作品にもかかわらずライブのようなアツさの、すさまじい勢いと力強さを持ったアルバムなのだ。一時期のハード・フュージョンにも似たサウンドは人を選ぶところ。しかしこの熱量と歌いっぷりはそれさえも克服する。ベテラン・人気ピアニストと並んでソロピアノが録音される仏ジャズ・シーンの注目株、チェックしておかない手はない。





Bill Laurance & Michael League / Where You Wish You Were / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008592588


スナーキー・パピーの昨年作『Empire Central』は、結成の地ダラスへの愛を込めた最高のファンク・アルバムだったが、その分過去作にあったワールドミュージック成分があまり強くなかった。スナーキーのピアニスト ビル・ローレンスと、バンドにワールド要素を持ち込んできたリーダーのマイケル・リーグによる本作は、そちらで薄くなったワールド成分を補うかのような一枚。リーグが奏でるのはウードなどの弦楽器。西洋音階に準拠しない響きと、ロンドン出身のローレンスのメランコリックでヨーロピアンなピアノは、どこかの国のようでどこでもない独特の哀愁と、長年の友人でもある2人のインタープレイ、というジャズ的な美しさを湛えている。この組み合わせでACTというのも決して意外ではない。





中村海斗 / Blaque Dawn / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008557168


"BRUTUS"のジャズ特集にも取り上げられた新鋭ドラマーのデビュー作。昨年暮れのリリースなのだが、いやー見逃してたのが悔しい、というくらいの驚異的な演奏が繰り広げられているのだった。リーダーの中村は21歳、アルトの佐々木梨子に至っては18歳。恐れ入りましたといったところだが、つまりはブルーノートの新星イマニュエル・ウィルキンスやジョエル・ロスらに比肩する同世代のミュージシャンがここ日本にも存在する、という事実に他ならないのだ。実際本作のインパクトはウィルキンスのそれを思い起こさせた。"BRUTUS"では中村のインタビューや、日本の若手にクローズアップした記事も掲載。ご一緒にぜひ。ジャズ特集なんてなかなかないですし。





Gabi Hartmann / Gabi Hartmann / JazzTOKYO 丸山、吉祥寺ジャズ館 中村
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008619259


仏パリ出身の新鋭SSWガビ・ハルトマン(vo, g, p) が、ノラ・ジョーンズとの仕事で知られるジェシー・ハリスを共同プロデューサーに迎えたデビュー作品がこちら。2022年4月に発表した 5曲入り EPがジャズ・ファンやワールドミュージック・ファンの間で話題になったガビが待望のフル・アルバムをこの度リリース。ジュリアン・ラージ(g) がゲスト参加した唯一無二の世界観を持つ極上のヴォーカル作品で、彼女の歌声を一言で表すならば「エレガントなカジュアル」、その世界観を一言で表すならば「甘やかな憂鬱」。英語/フランス語/ポルトガル語で唄われる、哀愁感漂う楽曲をぜひお聴き逃しなく。(JazzTOKYO丸山)


8ヶ月近く「フル・アルバムはいつ出るのだろうか・・・」と本人のサイトを毎日のようにチェックしておりました。パリ出身の才媛で現代ジャズ最高のSSWの一人と言っても過言ではないでしょう、GABI HARTMANN(ギャビ・アルトマン)のフル・アルバムが遂に登場です。いつまでたっても出る気配のないスマホのコール音を蜂の羽音に例えたM1やジュリアン・レイジが参加した本作をプロデュースしたジェシー・ハリスのカバー曲のM2、他にもアフリカ出身のミュージシャンたちとの友情から生まれた楽曲や難民問題を扱った楽曲などを、ギター、ベース、ドラム、オルガンの温かみのある音色に少し気だるいヴォーカルを乗せてというか溶け込ませて歌っています。ジャズというカテゴリーにとらわれず、シャンソンやアフリカ音楽、フォーク、カントリー、ボサノヴァ、ブルース、地中海沿岸の音楽など様々な言語と文化をミックスした、多様性に溢れたセンスの塊のようなヴォーカル作品です。ところで、この作品が持つ空気感が何かに似ているなぁ、とずっと考えていたのですが、フランソワーズ・サガンの小説(厳密に言えば朝吹登水子さん翻訳の独特の文体)が持つ、甘くてほろ苦くて退廃的でほんの少し憂鬱、なあの感じでした。 (吉祥寺ジャズ館中村)





Simone Kopmajer / With Love / JazzTOKYO 丸山
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008612959


本邦でも高い人気を誇るシモーネ・コップマイヤー(vo) による 2023年作品が入荷いたしました。生ける伝説シーラ・ジョーダン(vo on #11) のゲスト参加に加え、ジョン・ディ・マルティーノ(p) やハリー・アレン(ts) がバックを支える注目の一枚。オリジナルを織り交ぜつつラブソングなどをカヴァーし、グラミー賞を受賞した NYの弦楽四重奏を迎えてハイクオリティな楽曲に仕上げています。シモーネの優艶な歌いぶりもですが、リッチなストリングスの響きもうっとりと聴き入ってしまう素晴らしさ。おすすめです。





Helen Merrill / Helen Merrill (Hybrid Mono SACD) / JazzTOKYO 丸山
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008598266


祝・初単独 SACD化!  全オーディオファイル・ファンは見逃し厳禁の、ヘレン・メリル最高傑作にしてジャズ・ヴォーカルを代表する歴史的名盤が高音質レーベルの大本命アナログ・プロダクションより登場です。過去にエソテリックから発売され現在は廃盤の BOXセット『6クイーンズ・オブ・ジャズ・ボーカル』(2016) が初 SACD化だったため、本盤が初 SACD単独発売という記念的な一作となります。現代最高の名エンジニアであるケヴィン・グレイが携わっており、これまでアナプロを追いかけてきた方、また、ハイブリッド SACD のため通常プレイヤーでも再生可能なので、高音質盤は初めてという方にもお薦めです。ヘレン・メリルのハスキーで官能的な歌声をハイクオリティに楽しめる逸品。ぜひ。





Elga Paoli / Una Vita Fatta A Mano / JazzTOKYO 丸山
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245768449


伊のエルガ・パオリ(p, vo) による 2023年作品のテーマは「人々、美、時の流れ、そして戦争」。録音期間は 2020年 7月から 2年間で、新型コロナウイルスの流行によって完成まで長くかかったとのこと。パンデミックの渦中に制作される作品は精神的・内省的な要素が強いように感じますが、本作も深く内側に潜るような雰囲気です。ファブリツィオ・ボッソ(tp on #2, 5, 6) 参加曲や、軽くコーラスが入るのみのインスト曲(#7) も収録。英語歌唱は 4曲目のみで、それ以外は全ておそらくイタリア語となっています。エルガの素晴らしい音程感覚と表現力、ぜひ聴いていただきたい一枚です。





Ornette Coleman / Ornette At 12, Crisis To Man On The Moon Revisited / JazzTOKYO 西川、新宿ジャズ館 木村
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008626658


近年HAT HUTのREVISITEDシリーズは自社レーベル以外の音源の復刻にも力を入れているようだ。今回オーネット・コールマンの作品はIMPULSEの2作品を収録している「ORNETTE AT 12」は息子のディナードが12歳で参加したスタジオ作品。「CRISIS」はニューヨーク大学でのライブでこちらもドラマーはディナードが参加している。CDとして復刻は過去にREAL GONE JAZZから1回のみ。さらに注目なのがアポロ月面着陸を記念して作られたIMPULSEプロモ7インチ音源が収録されている。これは驚愕だ!! ただでさえ強烈なアンサンブルにエマニュエル・ゲントの電子音が絡むサウンドが炸裂しまくる。(JazzTOKYO西川)


オーネットのImpulse!3作を収録。その中でも大注目なのは7インチシングルMan On The Moonの初CD化、オリジナルEP以来の再音盤化だろう。
そのEP音源はタイトルにアポロ計画真っ只中の現実/SF感がモロに現れて、演奏中に電子音が使われてはいるが効果音程度。
ここで聴くことが出来るのは60年代後半〜70年代前半のオーネット・アコースティック黄金期(個人的見解にて断定)の音、具体的にはDon Cherry, Dewey Redman, Charlie Haden, Ed Blackwell編成完成形の録音の一部分。
オーネットファンなら必聴!!(新宿ジャズ館木村)





Don Cherry / Musikforum Schloss, Viktring, Austria - July 20, 1972 / JazzTOKYO 西川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245768863


ドン・チェリーとダラー・ブランド、カルロス・ワードのトリオは「第三世界-アンダーグラウンド」のタイトルでトリオ・レコード/NADJAからリリースされ近年フリー・ジャズのみならずレア・グルーヴ方面からも注目されている。(カルロス・ワードを除いた)その作品のメンバーにジョニー・ダイアニとナナ・バスコンセロスが参加したオーストリアのライブ音源がLP化。ラジオ音源と思われレコードでは初出ではないでしょうか?瞑想的なヴォーカルが心地よいA1から4人の化学反応が起こり始めジャンルを超越サウンドに唯々浸るのだ。





Pedro Neves / Hindrances / JazzTOKYO 西川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008575567


2014年の作品以来ピアノ好きに注目されているポルトガルのピアニスト、ペドロ・ネヴェスの最新作。期待を裏切らず哀愁溢れる旋律が奏でられる美メロの嵐!!トリオで4作目となる。クラシックに影響も受けたヨーロピアン・トリオといった感じで金太郎飴のようにどこを切っても変わらず、今回も洗練された安心のトリオ作といえよう。「7インチサイズペーパースリーブ 、300枚限定ナンバリング入り」とコレクタブルな作品ですのでお早めにどうぞ。




Zoh Amba / O Life, O Light Vol.1 / JazzTOKYO 西川、JazzTOKYO 山本

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008585064


テネシー出身のサックス奏者、ゾウ・アンバはTZADIKから発売された作品が注目され一気に存在感が増したアーティストの一人だ。ウィリアム・パーカーとフランシスコ・メラを迎えフリースタイルとフォーキーなメロディーが独特な雰囲気を醸し出す。「アルバート・アイラーを彷彿とさせる」と形容されるがやはり何か違う。アイラーほどドロドロとしたものは感じないが、時代背景も違うので当然かもしれない。とにかく力強く無心に吹きまくる様がひしひしと伝わってきて素通りできないアルバムです。LPはCDより1曲多く収録されております。(JazzTOKYO西川)


ウィリアム・パーカーとフランシスコ・メラ!思わず反応してしまいました。トリオでフリー・フォームな音楽を演奏しているという点がすごく好き。"アイラーを思い出させる"と言われるとそう聴こえなくもないが、きっと違いますよね。そういった感覚をうまく言語化できたとき、レコード屋として一つ深化するような気がしています。(JazzTOKYO山本)





TOMER COHEN / Not The Same River​ / 横浜関内ジャズ館 山田
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008628237


1996年NY生まれ(27歳!)、幼少期はイスラエルの片田舎育ちという若手ギタリスト、トマー・コーエンの初リーダー作である。今作ではSFジャズ・コレクティヴでおなじみベースのマット・ペンマンと、同じくSFジャズに参加実績のあるドラマー、オベド・カルヴェールをリズム隊に迎えたギタートリオの編成で、リラックス感と緊張感が両立したような、スリリングかつ堂々たる演奏が楽しめる。そもそもギタートリオというフォーマットはギタリストの誤魔化しが効かない、真にギタリストの実力が問われる編成である。初リーダー作でトリオに挑戦する意欲もさることながら、このジャケットの小川のように淀みなく流れるフレーズ力、トップクラスのリズム隊に吞まれることなく見事なアンサンブルを披露する胆力と瞬発力は見事としか言いようがない。






TREVOR DUNNS​ / eances / 新宿ジャズ館 四浦
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008570812


トレヴァーは言う、「このような学術的、歴史的、難解な概念をどのようにして音楽に変換するかというと、私のプロセスは、様々の研究と同時進行で曲を書く作業も進んでいくのですが、音楽が完成するまで2つを組み合わせることはしないのです。」 シュルレアリスムにおける痙攣美の役割から、何世紀も前の社会的症状の物理的な語源までをテーマに、モジュレートさせた変拍子群、強力なコンポジションと各演者の創造性の対峙で、ブルックリンのアヴァンギャルドなジャズがクールにグルーヴしている。Trio-Convulsant : Trevor Dunn (bass), Mary Halvorson (guitar), Ches Smith (drums, timpani, conga) with Folie à Quatre





PATRICIA BRENNAN / MORE TOUCH / 吉祥寺ジャズ館 中村
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008570808


メキシコ生まれで現在はアメリカを拠点にしているヴィブラフォン奏者、パトリシア・ブレナンの新作です。現代音楽的なフレージングとやたらと耳に残るエフェクトをかけたヴィブラフォンの音色、そして現代NYジャズ最高峰のメンツ、キム・カス(bass)、マーカス・ギルモア(ds)、マウリシオ・エレーラ(perc)の独創的な演奏が非常に面白い。スピリチュアルと現代音楽の間のようなサウンドで、なんだか難しそうだわねぇと思っていたのですが不思議とそういう感じが一切なく、レトロSF映画のサントラのような妙な抜け感と大都会の路地裏の無機質な雰囲気を漂わす作品でした。





JEAN-MICHEL PILC / YOU ARE THE SONG / 新宿ジャズ館 有馬
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008638180


この三人でトリオを組みだして20年以上の時が経ち、本作は12年振りの5作目。
店頭演奏に困ったら過去のトリオ作を再生し続けてきましたが、今回、ようやくリリースとなりました。
録音前には簡単な決め事しか用意しないそうで、このトリオのダイナミズムの源は、そういったシンプルな理由から来ていたようです。
セットリストもなし、しかも全て(?)ファーストテイクだそうで、これまでの各人の歩みとスタイルを考えれば三人の特徴が最も活かされるアプローチだと納得しました。
本物を聴きたい方は是非。





Don Cherry / Maghreb Cantata, Live 1969(2LP) / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245769527


察しの良い方は参加メンバーを見てお気づきのことでしょう。実はこのアルバムはドン・チェリーのリーダーアルバムではありません(勝手に断定)。George Gruntz「Noon In Tunisia」関連作品です。チュニジアでの別日の録音と数か月後にヨーロッパで同様の主要メンバーとコンセプトで録音したもとを推測されます。
チュニジア・セッションでのドン・チェリーは主に民族楽器の笛を彼らしく吹いています。ヨーロッパ・セッションではコルネット(ポケットトランペット?)を吹いています。
George Gruntz「Noon In Tunisia」が好きな方、ドン・チェリー・ファン両方にとって非常に興味深いアルバムです。





JOSH JOHNSON / Freedom Exercise / 新宿ジャズ館 田中
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008610719


LPオンリーリリースだったデビュー作品が国内盤限定ボーナストラックを加えての初CD化。
Jeff Parker,Makaya McCravenとの共演・レコーディングと活動を続けてきたJosh Johnson。

2019年~2021年にわたるLive音源を収録したJeff ParkerのETA IVtet名義の2022年リリース作"Mondays At The Enfield Tennis Academy"では、今作にも参加するAnna Butterss(B)をはじめ、個性的なフレーズをぶつけながらも息の合ったインプロビゼーションを聴く事ができた。

自身名義でのデビュー作となる今作は、それと比較すると大人しく、一聴するとテンションを抑え気味にしているようにも思えた。
改めて、今作を聴き返してみると他のサイドメンの個性を紡ぐような端正な演奏、彼独特の音の抜き差しは寧ろ、このメンバーでのグルーヴを最大限に引き出しているように改めて感じた。





MAGALI DATZIRA  /  DES DE LA CUINA / 新宿ジャズ館 久保田
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008623929


スペインのベース/サックス奏者ジョアン・チャモロが主宰するサン・アンドレウ・ジャズ・バンド(以下、SAJB)は2006年の創立以来、若き才能を世界へ輩出してきました。中でも楽器と歌を両立させる女性アーティストに秀で、アンドレア・モティス、エヴァ・フェルナンデス、リタ・パイエスといった才女たちがこのユース・ビッグバンドから巣立ち、単独で個性的なアーティストとして活躍しています。マガリ・ダッチラもその一人。97年バルセロナ生まれの彼女は7歳でベースを始め、SAJBで頭角を表してきました。2014年に『Joan Chamorro presenta Magali Datzira』や『La Magia de la veu』でフィーチャーされていますが、2016年にはSAJBを離れています。その後、2020年のシングル「Fruites」を皮切りに配信でのリリースを重ねていました。
1stアルバムとなった本作は、EP『< /3』のようなポップス路線とは異なり、ギター、ベース、ピアノ、それにバイオリン、ヴィオラ、チェロから成るストリングス・トリオの小アンサンブルを基調としたアコースティックな作品です。M11を除く全曲を彼女のオリジナルが占めており、その卓抜なソングライティング能力に驚かされました。直近で良質なリリースのあったレイヴェイ、ギャビ・アルトマンともども愛聴していただけるに違いありません。





CECILE MCLORIN SALVANT / Melusine / 営業部 三橋
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008618165


ヴォーカリストという枠を越え、もはや孤高の存在とも言えるセシル・マクロリン・サルヴァント。現在揺れに揺れているフランスの伝承に基づいた作品という最新作が前作同様Nonesuchからリリースです。ストレートな演奏はもちろん、クリシェから距離をとるかのような展開と音使いが要所で聴け、彼女がどのように制作をしているのか、どんな生活をしているのかのドキュメンタリーがあったら観たいと思う方も少なくないはず。フランス語やオック語など様々な言葉で歌われた本作は"語り"をどんな言語で音にするのか、そのアイデンティティに関わる繊細な問題が鏡のように自分へ突きつけられるある種の切実さに満ちた作品のように思えます。身体を通した思考を信じたいと強く思える背筋を伸ばさずには聴けない作品。





Hotel San Claudio(LP/ORANGE VINYL) / MARK DE CLIVE LOWE / 営業部 池田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245768577


マーク・ド・クライヴ・ロウの活動拠点であり、ファラオ・サンダースが亡くなった地でもあるLAの夕日を思わせるジャケット。どのナンバーも夏のゴールデンアワーに聴きたくなります。が、やはり一番推したいのはファラオ・サンダースへの追悼としてカバーされた2曲。特にアルバムの最初と最後に収録されている、祈りが込められたようなフルートの音色が美しい「The Creator Has A Master Plan」は心が洗われるようで、これを聴くためだけでも価値があるアルバムだと思わせてくれます。日本にルーツのあるロウならでは(?)の日本語タイトル曲も気になるポイントですが、ここではおそらく世にある”金沢”タイトル界一ディスコティックな「Kanazawa」が聴けます。せっかくならジャケットに合わせたオレンジ・ヴァイナルでムードを作って、音楽に包まれてほしいです。