ディスクユニオン ジャズスタッフ 3月度レコメンド・ディスク

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2024.03.29

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ディスクユニオンのジャズ専門館スタッフが新譜の中で一押ししたいオススメ作品をご紹介!
今月リリースされた最新新譜はもちろん、改めて聴いたら良かった準新譜もコッソリと掲載。
最新新譜カタログ的にも、魅力ある作品の発掘的意味合いでも是非ご一読ください!




アリス・コルトレーン / カーネギー・ホール・コンサート(SHM-CD) / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008793533


アリス・コルトレーンの強力なスピリチュアルLIVE盤登場! アリス、ファラオ、シェップ、ギャリソン等々、後期コルトレーンを支えた強者達の饗宴。過去の非公式リリース1曲に未発表3曲を加え、全体で約80分に増強した公式盤!
VERVEからLPとCD、国内盤はユニバーサルのSHM-CDが発売。
過去のリリースはHi Hat盤CD(2018)、10インチレコード(2019)、Alternative Fox盤45回転LP(2020年)はどれも収録曲Africa1曲目のみの約28分。
今回のリリースによってこの日のライブの全貌により近づいたと言えるでしょう。
今回リマスタリングに気を遣った様だが、録音時の問題の為かファラオの音が全体的に小さめなのは唯一残念な点ではあります。





Chris Potter / Eagle's Point / JazzTOKYO 羽根

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008794012

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245778950


小売店従事者のはしくれとして新譜レビューで気を付けている事がある。それは”サムズダウン”をしないこと。ネットで調べれば分かるような”データ”の羅列はしないこと。それ以外は結構好き勝手にやっていて、それってあなたの感想ですよね的な突っ込みどころ満載な駄文を書き散らかして今に至る訳だが、要はお薦めの気持ちを思い入れ(思い込み)たっぷりに伝えようと常日頃意識しているので、本作のように非の打ち所がない、ジャズのマイルストーン的作品を前にすると、逆に言葉に詰まってしまう。現代最強と言える奇跡のメンバーが揃った本作は発売前から話題で、実際に聴いたリスナーは様々な感想を抱くことだろう。極私的には6曲目”Other Plans"のメルドーの哀切なピアノに絡み合うポッターのサックスに打ちのめされているところだ。今作を評価する比較対象として持ち出されるのは、” Mood Swing"だったり、"Three Quartets"、或いは”Giant Steps"だったりするのだろうか。いずれにしてもそれらの歴史的名盤に匹敵するものが、今あなたの手に取っているそのアルバムなのだ。もはや買う買わないを迷っている場合ではない。それよりも昨年サラッとリリースされて、ついつい聴き逃されてしまった可能性の高いパティトゥッチ名義のアルバム”Live In Italy"も合わせて再度品揃えしているので、必ず入手して欲しい。本作への助走的トリオが結成された重要音源である。





Joel Ross / Nublues / JazzTOKYO 羽根

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008794683


"Nublues"と銘打ったブルーノート4作目。と言ってもコンセプト先行ではなく、元来スピリチュアルな持ち味のあるジョエル・ロスなので、ブルース表現に於ける説得力が凄い。ただ上澄みをすくい取ったような紋切り型のスピリチュアルには鼻白むだけだが、ジョエルの場合はブルースの再解釈の結果、スピリチュアル成分が旨みとなって滲み出てくる点で、そもそものベクトルが異なる。今作のジョエルのマレット捌きは得意とするアンビエントなハーモニーを効果的に挟みつつも、かつてなくゆっくりとシンプルに、でも確実に音の銃弾をリスナーの耳に撃ち込んでくる。あぁ、ヴィブラフォンって本当にいい音だなぁ、これだよなぁ、と身悶えしっ放しだ。本作ではコルトレーンの楽曲を2曲カバーしているが、ありがちなimpulse期からではなく、コルトレーンのキャリアでは比較的地味なAtlantic期1960年10月のセッション、しかもそのまま”Coltrane Plays The Blues"ではなく、"Coltrane's Sound"からの楽曲というのが憎いというか、相当にコルトレーンの探究をしている事も伺える。勇気を振り絞って言うと、アルトのイマニュエル・ウィルキンス他、グループ全体としての仕上がりは、偉大なるオリジナルを越えているのでは。本作のプロデュースにはリーダー本人に加え、出ましたキーマン、ウォルター・スミス3世の名も。2020年前後からはっきりと姿を現したブルーノートのフェーズ7(勝手にそう思っている)が見事に捉える現代のメインストリームジャズが面白くて目が耳が離せない。





Terrace Martin's Gray Area / TERRACE MARTIN'S GRAY AREA LIVE AT THE JAMMJAM "CD" / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008787891


オーディエンスが取り囲む中で、ロナルド・ブルーナーJr.がドラムを叩きまくっている動画を見たことがあるだろうか。演者の熱量をそのまま感じられそうな超至近距離のライヴを収めたこのアルバムは、Covid-19が世界を脅かす直前、2020年の1月末ごろにデジタル・リリースされたもの。これがポップ・アルバムならば「コロナ前ってこんな感じだったよね」と懐古感も出そうだが、ジャズ・セッションならばそんな心配は無用。むしろここには新たな発見がある。それはキーボードのポール・コーニッシュ。フリーキーなテラスやカマシら豪傑に並び、ブルーナーの恐ろしいほどの煽りをものともしない闊達なソロを披露、短いながらもメロウなソロ曲も用意されている彼は、2023年のマーク・ジュリアナの来日公演に帯同したほか、Knowerの最新作にも参加、来日公演にも帯同予定。ここ数年で急激に頭角を表してきた、今最も注目すべきピアニスト。2020年当時、まだほとんど知られざる存在だった彼をフックアップしたのはテラスだった。さて長尺の後半2曲ではゲストも参加、当然だがカマシ・ワシントンは圧倒的だ。5月には新譜もアナウンスしたカマシ。それまでは、フィジカル的にあまりに強いこのライヴ・アルバムで、ガツンとぶん殴られたい。





Michael Thomas / The Illusion Of Choice / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008793424


マイケル・トーマスはミゲル・ゼノンに師事したアルト奏者。ブラッド・メルドーの『Finding Gabriel』に参加、リーダー作ではジョナサン・ブレイク、ジェイソン・パルマーとも共演しているNYシーンの実力者だが、今挙げた他はビッグバンドへの参加が多いようだ。しかしCriss Crossデビューの本作はそんな地味な印象を払拭する。熱を帯びながら知的に駆け抜けるソロで、マニュエル・ヴァレラ、マット・ブリューワー、オベド・カルヴェールという硬軟自在なメンバーと共にドライヴする、強力なコンテンポラリー作品に仕上がっている。個人的にはイマニュエル・ウィルキンスに肩を並べる存在、ジョナサン・ブレイク昨年の傑作『Passage』にも似た興奮を催すカッコよさ。ピアニストがキューバ出身、というのもこの2作の共通点だったりする。





Keyon Harrold / Foreverland / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008733926


およそ7年ぶりの新作。パンデミック下の孤立、母親の死、息子がヘイト事件に巻き込まれる、といったことが重なり疲弊していたとき、仲間とのセッションでモチベーションを取り戻したことが制作のきっかけだという。生演奏にラッパーやソウル系シンガーをフィーチャーした謂わば"Black Radio"系譜の作風は今や珍しくもないが、ヒップホップでの客演も多いキーヨンだからこそそこには必然性があるし、辛い経験を経て辿り着いたこの音楽性こそが、彼にとって帰ってくる場所のようなものなのかもしれない。グラスパーやクリス・デイヴ(近年にない叩きっぷり!)ら盟友の参加も嬉しいし、メロウでチルなサウンド、豪華ゲストに耳を奪われるが、その中心で歌うキーヨンのトランペットの輝かしい響きにこそフォーカスしたい。そこに現代のブラックミュージックを担うトップ・トランペッターとしての矜持を聴くことができる。





divr / Is This Water / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008784144


リアルタイムでの作曲、即興を基本とするスイスのピアノトリオ"divr"のデビュー作。ピアノの繰り返すフレーズなど、一聴してミニマルな印象も受けるのだが、一つの楽曲の中で3人が違う時間軸で演奏しているような、異なるリズムが共存するアンサンブルが、時間感覚を伸び縮みさせる。ミックスとポストプロダクションを手がけているのは、同じくWe JazzでOtis Sandsjöの"Y-Otis"にも参加しているDan Nicholls。レディオヘッドやブロードキャストをカバーしているあたりからも彼らの志向するところが読み取れるが、ピアノのメランコリックで北欧的なエレガンスを際立たせつつ、リズムやサウンドプロダクションからはヒップホップ~ビートミュージック的な感覚が匂ってくる。カッコいい。





Lawrence Fields / To The Surface / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245778105


ローレンス・フィールズが知名度を上げたのはチーフ・アジュアー(クリスチャン・スコット)のバンドでの活躍だろう。「Sunrise In Beijing」や「Diaspora」の、どこかオリエンタルなピアノのテーマ・リフでバンドの重要なピースを担っていたのがまさに彼。ほかジョー・ロヴァーノやデイヴ・ダグラスなどとも共演、ストレートなジャズからコンテンポラリーまでこなせる実力派として、シーンで存在感を表してきたピアニストだ。ようやくと言っていいこのデビュー作は、共演歴もある中村恭士、チーフのバンドの同僚でもあるコーリー・フォンヴィルを迎えたトリオ作。若さ溢れる鮮烈さよりも、奇をてらうことなく勘所を押さえたエレガントな演奏に耳を奪われる。シーンを牽引するトップ・ミュージシャンからベテランまで、引く手数多の理由もよくわかる、要注目の良作だ。





Riley Mulherkar / Riley / JazzTOKYO 逆瀬川、JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008798244


リンカーン・センターの歌ものプロジェクトで音楽監督を務めるトランペッターのソロデビュー作。目を惹くのはエクスペリメンタルなサウンド作りで注目を浴びるRafiq Bhatia、そしてピアノのChris Pattishallの参加だ。彼ら3人は'20年にBhatia『Standards, Vol,1』、'21年にPattishall『Zodiac』で共演。本作はその続編とも言えるのかもしれない。本作ではBhatiaのどこか鬱々としたサウンド・デザインを纏いながら、ウィントンにも評価されてきたMulherkarが随所で深い表現力を発揮。ピアノとのデュオ「Stardust」が素晴らしい。また目立った活躍こそ少ないものの、エメット・コーエンのリズム隊を迎えている点にも注目。独特のサウンド・デザインが映えるのも、演奏の強度あってこそなのだ。(JazzTOKYO 逆瀬川)


シアトル出身、ジュリアード音楽院卒、公式サイトによるとJALCの“Jazz for Young People”のアンバサダーを過去に務め、マルサリスとも共演経験のあるというトランぺッター、ライリー・マリャーカーのデビュー作。きっとマルサリス・スクールの一人として古臭いジャズをマジメに吹いているんだろうと思って聴いた。足踏みしながら独奏するM1“Chicken Coop Blues”は確かにニューオリンズ・スタイルだ。しかし次の瞬間(M2)、オモテ拍は足踏みからシンセベースへ変貌、コンテンポラリーな音響効果が施され、そこにブルージーなラッパが響き渡る。メンバーを見れば、セオ・クロッカーのツアーに帯同したラッセル・ホールがベース担い、現代のエクスペリメンタル・ジャズを牽引するラフィク・バーティアがサウンド・デザインを担当している。そしてこれだけ“今風”のメンツを揃えながら、ライリーのソロはニューオリンズ・ジャズへの敬意を忘れない。百年前と現代の音楽が融和する、ネオ・ニューオリンズとでも呼ぶべき音楽である。ボーカルの入るM5などブルースを通り越してもはや黒人霊歌。要注目の新人です!(JazzTOKYO 東舘)





ネイサン・デイヴィス / イフ / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008787253


廃盤だったネイサン・デイヴィスの人気タイトルが国内では20年振りに再発されました。聴いたことがない・持っていない方には自信を持って薦められます。リズム隊が強いんですよねえ。エイブラハム・ラボリエルがベースをブイブイ言わせる(4)やネイサン・デイヴィスがソプラノを吹き倒す(3)といった疾走感溢れるナンバーが特に好きで、中古で入ってくるたびに店頭でかけていました。多重録音されたテーマ部分からアガりますし『イフ』といえば私はまず(3)を思い浮かべます。いえ、レアグル的な観点では12インチでシングル・カットもされたB面や(1)といった黒い曲の方が圧倒的に人気だと思うのですが、それだけ魅力的な1枚だということです。かつて私もCDを探しました。嬉しい再発です。





ロニー・フォスター / トゥー・ヘッディド・フリープ / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245777982


ATCQの名曲「Electric Relaxation」を筆頭にサンプリングネタとして有名な(7)を収録したジャズ・ファンク名盤が10年振りのCD再発です。一昨年の重量盤リイシューの際は新宿ジャズ館の店頭で毎日のようにかけられていました。グルーヴィーでのどかで、店頭演奏がしっくり来るんだよなあと印象に残っています。幅広く愛され続けるクラシックなタイトルですね。
本盤は進行中の日本独自のブルーノート再発企画の中の1枚です。ケヴィン・グレイによる最新リマスターを採用した新規ライナー付の各2200円は気合が窺えますし、本作のように一部廃盤だったタイトルも含まれています。ぜひこの機会に聴き直してみてはいかがでしょうか。





ジョン・ヒックス / John Hicks Live in Tokyo(2CD) / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008778365


80年代にDIWから4枚のリーダー作をリリースするなどジョン・ヒックスは弊社との繋がりの深いピアニストですが、未発表音源が今になって出てくるとは驚きました。リリースに至る経緯はぜひライナーをご覧ください。
ジョン・ヒックス自身の曲やスタンダードを中心とした選曲ですが、半数はこれがソロピアノ初収録だと思います。貴重な音源が丁寧にデザインされて店頭に並んでいて誇らしいですね。選ぶならナット・キング・コール作のDISC1(7)。ファラオやデヴィッド・マレイのサイドでもお馴染みのヒックスですが、軽やかに跳ね回る演奏も魅力なのです。





BARBARA CASINI / Todo O Amor / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/W132


リー・コニッツ、トニーニョ・オルタ、アレッサンドロ・ガラティなど名だたるアーティストと共同でアルバムをリリースしてきたイタリアのボッサ/ジャズ・シンガーの1stです。全曲が彼女のオリジナルですが、名曲のカバー集と言われて一向に疑わないほど美しい楽曲群が収められています。ステファノ・ボラーニの伴奏で囁くように歌い始める(1)、瑞々しいギターとともに澄んだ歌声を聴かせてくれる(3)が白眉。この1stが彼女の原点にして最高傑作だと思います。Philologyから出ているから埋もれやすいのかなと思いますが、ブラジル音楽好きの方に改めて聴いていただきたい作品です。





SUNNY FIVE / Candid / JazzTOKYO 久保田
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008794013


デヴィッド・トーンとマルク・デュクレが共に参加したティム・バーン新クインテットの初作品。奇天烈で不協和なギター・サウンドとバーンのアルトが最高の悪夢の幕開けを告げる冒頭からわくわくが止まりませんでした。ツイン・ギターの歪んだ音の波を背に咆哮する(2)の中盤のバーンが美しい。オールスターが集結した会心の瞬間を捉えた即興セッションの記録です。30分越えの(4)を筆頭に聴き通すには体力の要る作品ですが、4は中盤のツイン・ギターの狂奔や独り荒れ狂うバーンのソロが聴きどころ。(3)はバーンのソロのバックで奏でるギターノイズまで滅法格好良いですね。瞠目する瞬間が随所に現れます。





村上春樹 / デヴィッド・ストーン・マーティンの素晴らしい世界 / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008784039


ジャズ・アルバムのアートワークに、どのようなイメージをお持ちだろうか?多くの人は、タイトルとリーダー名、ときにはサイドメンの名前、曲名、詞書が長々と記され、それらアルファベットが整然と配置された画面を思い浮かべるかもしれない。言うまでもなくそれはブルー・ノートやプレスティッジの多くのアルバムをデザインしたリード・マイルスの手法だ。寸分の狂いなく設計されたタイポグラフィによるスタイリッシュなデザインが歓迎されたのは、ハード・バップ全盛のジャズが「作品性」を強めていったことと無関係ではない。これらのジャズの持つ音楽的な説得力は勿論すさまじい。でも最近、そういうジャズばかり聴いていると、肩が凝ってきて、もうちょっと余分な隙間があって、風通しのいい音楽を聴きたいな、と思うようになった。そんな「風通しのいいジャズ」が、この本の中でたくさん紹介されている。多少演奏の出来が悪くても、ミスマッチでも、マンネリでも、まあ録音したんだから出してしまえ、という(アルフレッド・ライオンの好むところではなかったかもしれない)若干いい加減なノーマン・グランツによる録音は、いま振り返って耳を傾けてみると、そこに「豊かなちゃらんぽらんさ」とでも言うべき、ある種平和な時代の空気が閉じ込められていることに気づく。そしてその時代の記憶は、同じ絵が色違いで流用されていたり、どう見てもナンセンスであったり、幾分シュルレアリスティックであったりする、デヴィッド・ストーン・マーティンのアートワークにも刻印されている。村上春樹によるこの本は、そうした往時の「豊かなちゃらんぽらんさ」へ向けた大いなる礼賛だ。そういえば彼の書く小説にも、突飛な展開や滑稽なキャラクターが見受けられる。小説も音楽も、畢竟人間が理屈で説明できないことを表現し、それを感じ取るためにあるのかもしれない。





山本剛 / SWEET FOR K / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008775693


巨匠・山本剛と、その戦友的存在であるTBMレーベル元エンジニア・神成芳彦による「再会アルバム」第二弾。“For K”の“K”とは神成のことに他ならないが、今回は全11曲中6曲がエロール・ガーナーの作で、さらに彼の愛奏曲であるデヴィッド・ラクシン作曲〈ローラ〉に山本剛のオリジナル曲が〈ガーナー・トーク〉と、ガーナーへのトリビュート・アルバムと言って差し支えない内容。ガーナーの持ち味である「ビハインド・ザ・ビート」(かっちりとした左手のビートに対し右手の音符が少しずつ後ろに引っ張られる)を自家薬籠中のものとする山本のプレイはまさしく職人芸で、オールド・スタイルによる心地よいピアノトリオを堪能できる。70年代から山本剛を聴いていたジャズ評論家の中山康樹氏は、彼の演奏を「変わりゆくなかの変わらないもの」と評していた。若輩者の私にとって、在りし日の未だ変わらざる世界については想像するしかない。が、それもまた豊かな時間であることに変わりはない。





田中智子 / じゃあ、またね。 / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245779256


関西拠点の未知の歌手だが渋オタとしては推さねばなるまい。推し活はオタクの使命、サブスクも試聴盤もないのでにわかにファーストペンギン化して購入する。これがすばらしい。耳を惹くハスキーめな声、グルーヴィな太鳴りのベース、いつになくドライブの効いたピアノ。ライブ録音で粗も残るが歌い手による基本日本語自作曲で説得力がある。浅川マキ、金子マリ、平田王子など数多の渋伴歌手たちに並ぶ個性。謎の曲名やパワポ度高いジャケデザインで損してる感もあるが、写真に映える手の美しいフォルムが些細なことは気にするなと囁く。発足30年の地底レコードも本作でB107F。名作絵本"ちか100かいだてのいえ"よりも深い。地下音楽鉱脈の発見と紹介を続け、アケタに並ぶ中央線ジャズの老舗となった。うららかな春の宵、ふらりと立ち寄ったライブスポットでこんなステージに遭遇したら最高だ。





Ivo Perelman / Seven Skies Orchestra / JazzTOKYO 赤尾
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008767128


フリーミュージックについて語るとき"酷い"は誉め言葉のようだ。既存音楽概念からの逸脱度が高いと"酷い"と称賛される。その価値観からするとブラジルのテナーマン、イーヴォペレルマンはさほど酷くはない。フリージャズの枠組みの中でデヴィッドS.ウェアのように心地よく荒れ狂ってくれる。広大な南米大陸を一括りにするのは短絡的だが、ガトーバルビエリに通ずる熱い音色は土地に由来するのだろうか。ラテンアメリカといえば文学も映画も音楽も時間の概念が特異なものが多く、永遠を一瞬と捉えているのかある種の達観が感じられる。約束の時間がずれても許容範囲、想定外の逸脱も暴走も想定内。フリージャズには好都合な風土ではないか。近年のペレルマンは落ち着いたのか、この新作はアンサンブル重視の行儀よい知性派な仕上がりで少々物足りない印象だ。音楽家ではなくテナーマンとしてのペレルマン、また熱く酷く暴れてくれるだろうか。





Otis Sandsjo / Y-otis Tre / JazzTOKYO 菅原

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008795270


ベルリンを拠点に活動するスウェーデンのテナー奏者、Otis Sandsjö『Y-OTIS』『Y-OTIS 2』に続く3枚目のアルバム。ベーシスト/プロデューサーであり盟友のPetter Eldh、divrのミキシング/ポスト・プロダクションにも携わったDan Nichollsを加えた3名による制作。Otisの最近の活動では、昨年11月リリースのKoma Saxo『Post Koma』における仕事が記憶に新しいが、本作はサックス、ベース、マスタリングを担う人物が共通しているにもかかわらず、内容も質感もそことはきっちり差別化されており、また、前作・前々作から分かりやすく地続きでありながら着実に重層化/多次元化を達成している。その七変化する手触りを正確に形容しようという試みはもはや不毛であり、そうして術中にはまった自分を発見することを通して、彼の強力な作家性を再び確信させられてしまう。





DAYNA STEPHENS / Closer Than We Think / 新宿ジャズ館 四浦

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008791212


テナー・サックス奏者のデイナ・スティーヴンスの久々のリーダー作。彼の考える現在進行形のジャズの多様性が、指導者の顔も持つデイナならではのメンバー選びに、実によく表れている。日本生まれの女流ベーシストのカノアに、FSNTの諸作品でも活躍する韓国出身のJKに、斬新なサウンドとハーモニーが興味深いギタリストのエマヌニュルと、これからのシーンで注目を集めるであろう若手を従えて、デイナらしい丁寧な、いつも通りのサウンドを、聴かせてくれている。こういう活動が、ジャズを進化させる小さな一歩なのだと、実感させてくれる快作に仕上がっている。本アルバムはソニー・ロリンズの名作「橋」にインスパイアされているとのことも押さえておいてほしい。





JIM SNIDERO / For All We Know / 吉祥寺ジャズ館 中村
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008797714


ベテラン・アルトサックス奏者、ジム・スナイデロの新作は、意外にも自身初というサックストリオ編成でのスタンダード・ナンバー集。ピーター・ワシントン(b)とジョー・ファーンスワース(ds)というここ数年多くの作品で共演している重鎮お二人が脇を固めています。コードレス編成のため一つ一つの音の輪郭がくっきりと浮かび上がって、堅実で明るい輝きを放つジム・スナイデロのアルト・サックスの魅力が一段を際立っているように感じました。美しいベース・ソロで始まるM2『Naima』や思わず身体全体でスウィングしてしまうM3『Love for Sale』、アレンジの巧みさが心憎いM7『My Funny Valentine』などの名曲の数々が、エネルギーと緊張感と優雅さで満たされた演奏で楽しむことができます。個人的には、演奏(歌唱)次第ではすすり泣きと恨み節が聞こえそうになるM6『Willow Weep for Me』がいい感じにカラリとしていて好みの演奏でした。





ANDREA MOTIS / Febrero(EDICION ESPECIAL) 吉祥寺ジャズ館 中村
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008811962


アンドレア・モティス久々の新作です。前作はWDRビッグバンドとコラボしたゴージャズな仕上がりの作品でしたが、今作は南米を代表する名曲の数々にジャズ・スタンダード・ナンバー2曲が収録された、チリの室内楽団との録音作です。自身のパートナーでもあるクリストフ・マリンジャーがヴァイオリンで、アルゼンチンのグループ、アカ・セカ・トリオのメンバーでもあるアンドレス・ベエウサエルトがピアノでゲスト参加しています。タイトルの『Febrero』はスペイン語で2月のことで、季節が真逆の南半球では夏真っ盛り。このアルバムには彼女が感じた南米の夏の太陽や花の香りや人々の熱気がふんだんに込められています。これから春を迎える喜びを味わう私たちにとっても華やかで楽しい作品です。個人的には彼女のキュートさが全面に出たM6『Noche de Ronda』がお気に入りです。





調布砂ノ会 / 石ノ歩調 / 吉祥寺ジャズ館 田口
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008811763


東京を拠点に活動する調布砂ノ会による自主制作のフリージャズ。サイケデリックなアンビエント・即興演奏グループ、野流のメンバーでもある佐々木皓介(琴)が主体となっている。テナーサックス、琴、エレクトリックベース、朗読という珍しい編成で、ポエトリーリーディングを交えた実験的な作品。M3では感情を開放させるような演奏で激しい一面も見せる。日本の情景や精神性を軸にした演奏が繰り広げられている。アートワークや世界観へのこだわりも含め、往年の日本のフリージャズやインプロヴィゼーションへのリスペクトを感じる。近年、リスナー目線から純邦楽や現代邦楽にスポットが当たることを見かけるが、その流れともシンクロしたサウンドになっている。





Tony Malaby / The Cave of Winds / JazzTOKYO 菅原
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008455153


サックス奏者/作曲家のトニー・マラビーによるサビーノ・カルテットの2022年作が入荷。アルト、テナーを携え、3人の傑物を引き連れて制作されたスタジオ・アルバム。参加メンバーは、ダニー・マッキャスリンやポール・モチアンと共闘し、デヴィッド・ボウイの遺作『★』にも参加したベン・モンダーをはじめ、マイケル・フォーマネク、トム・レイニーと、改まって経歴を文字に起こすのも馬鹿らしいほどの錚々たる顔ぶれ。ベテランの矜恃を感じさせる硬派で隙のない52分間。しかしながらこの手の作品としてはそれなりに聴き易い部類かと思われ、フリー・ジャズ初学者にもお薦めできる一枚。同レーベル他作品も併せてどうぞ。





BILL EVANS / LEGENDARY TRIO AT BIRDLAND 1960 REVISITED /  新宿ジャズ館 有馬
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008794466

スイスの歴史あるレーベル[Hat Hut Records]にて、近年人気を博す新シリーズ[Revisited-ezz-thetics]から、BILL EVANSの『BIRDLAND 1960』のリマスターがリリースされました。
「ポートレイト・イン・ジャズ」の翌年にあたるこのタイトルは過去に何度もリリースがありましたが、この一連のシリーズでリストアを担当するMichael Brändliによって、これまでにない音質向上が試みられました。
実際のところ元々の音源がラジオなので限界があるのですが、過去のリリースと比べるとかなりの差があることも分かります。ただ、オーディエンスの騒音があえて目立たせてあるところは好みが分かれるかもしれません。個人的に不快さは感じなかったですが。
少なからず新解釈という意味では面白いクオリティだと思うので、エヴァンス好きな方は所謂「リバーサイド時代」の細かい部分の認識をアップデートできるかもしれません。





RASMUS SORENSEN / BALANCING ACT / 商品部 川村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008823551


デンマーク出身の超新星ピアニスト、ラスムス・ソーレンセンのピアノトリオ。ベースには引っ張りだこのアレキサンダー・クラッフィー、ドラムにはなんとケンドリック・スコットが参加。おそらくまだ20代であろうが、繊細なタッチながら粒立ちの良い円熟味溢れるピアノのプレイ、粘り強いベースのサウンド、ここ最近はピアノトリオでの参加の印象にないケンドリック・スコットですが、ブラシに持ち替えて、控えめにサポートしながらも、さすが超一流の存在感あるドラミングで、オリジナル、スタンダード共に極上のピアノトリオのサウンド。特に最後を締める『Everything I Love』はキース・ジャレットのスタンダーズトリオの新譜がもう聴けなくなり、ぽっかりと空いた心の穴を、幾ばくか埋めてくれるような素晴らしいインタープレイを聴かせてくれます。この同じメンバーで次回、次々回作もぜひ聴きたくなるような作品です。
メンバーは違いますがオリジナル曲中心の2022年作のデビュー作も要注目。

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008823559





GREG FOAT / Live at Can Rudayla, Ibiza(LP) / 商品部 池田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008817739


今年も猛暑になりそうな夏に先駆けてグレッグ・フォートがぴったりな作品を届けてくれました。イビサ島にあるヴィラCan Rudaylaのプールサイドで行ったセッションという状況を整理しただけでも”イビサだな~!”という印象を受けますが、その期待を裏切らないバレアリックなバカンス・ムード漂う1枚。アナログシンセを使ったコズミックなサウンドに浸る「Pool Side」「Sunset Side」をお供にゆったりするも良し、「Dining Table Grooves」で踊りまくるも良し。