<連載> ★山本隆のJAZZ IN THE WORLD★ 2017 Jan.

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  • 2017.01.27

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    WARNE MARSH / ウォーン・マーシュ / ウォーン・マーシュ
    このレコードを見つけたのは、明治大学(和泉校舎)の中古レコード催事コーナーだったか。ワーナーの国内盤の中古で千円くらいだった。ボクのバイトしていたマイルスには、このレコードがなかったので、どうしても聴いてみたかったのだ。「Tシャツのウォーン・マーシュ」と勝手に命名してさがしていたのだ。インペリアルの『Jazz Of Two Cities』もさがしていたけどなかったね。で「Tシャツのウォーン・マーシュ」を入手した日、嬉しくて嬉しくて、当時のジャズ研の連中に「見つけたよ」と自慢しまくった。それで飲み過ぎた。結果タクシーの中に置き忘れてしまい、しょんぼりした、という話。今でもそうだけど、ウォーン・マーシュは昔から好き、結構上位の好きに分類される。ほっとするというか安心感を与えてくれるのだね。このレコードの編成はふたつに分かれている。ポール・チェンバース+ロニー・ボール+フィリー・ジョー・ジョーンズのカルテットで演奏されているのが、「トゥー・クロース・フォー・コンフォート」と「イッツ・オールライト・ウィズ・ミー」。でその他の曲がポール・チェンバース+ポール・モチアンでのトリオ演奏となる。ウォーン・マーシュの拍子抜けしたようなほんわかとした浮遊感漂う音色を堪能するなら、トリオ演奏ということになる、と思う。ブルーノートを代表してニューヨークから参加したポール・チェンバース。ビル・エヴァンスのトリオを代表して参加したポール・モチアン。この二人の天才的なバックアップが、孤高のクールネスをより顕著に発揮させることに成功した一枚。より魅力がわかる「ジャスト・スクィーズ・ミー」、「マイ・メランコリー・ベイビー」を推す。


    IGOR BUTMAN / イゴール・ブットマン / Golden Sunray
    一昨年の9月にロシアへ行ってきた。出張とかではなくて純粋な観光。入国するのにロシア大使館へヴィザの申請をしなくちゃいけないのは面倒だったけど、JALで10万円という比較的安価な航空券で行けたのは良かった。何十年も行きたいと切望していたサンクト・ペテルブルクのエルミタージュ美術館。あんな川沿いの立地なんだと妙に感激した。モスクワでは、クレムリンとかモスクワ大学などの建築物を見て回ったり。グゥム百貨店というのがおそろしく近代的なのにも驚いた。ある夜、ロシアの知り合いがイゴール・ブットマン・ジャズハウスに連れて行ってくれた。サックス奏者のあのイゴール・ブットマンのライブハウスだ。イゴールとは数年前にカンヌで会ったことがあって、「ボクを憶えているか?」と言ったらもちろん、と言ってくれた。かなり酔っぱらっていたようにも見えたのでホントかどうかわからない。その酔っぱらったイメージが脳裡にやきついた。それでこのCDは昨年のブレーメンでもらってきたもので、ようやく入荷してきた。まあ、いいんだよね、凄く。オーソドックスなテナー好きの人なら、気に入るだろう。もちろん酔ってはいないぞ。ピアノを弾くOleg Akkuratovという若者は歌もうたい、これがまた超クール、あ、ピアノもとってもいいけど。何曲かで披露している。録音はニューヨークのアバタ・スタジオ、2016年。



    ENRICO PIERANUNZI / エンリコ・ピエラヌンツィ / Menage a Trois
    昨年の暮れに入荷してたちまち売り切れ。今現在一時的に品切れになっているモノ。なんかエンリコ・ピエラヌンチの魅力が全開!という気持ちだ。メンバーを見るとドラムがアンドレ・チェカレリだと。アンドレは、『Seaward』の時のドラムだ。十数年前こればっかりに夢中になっており、エンリコといえばアンドレという図式が成立しているボク的に。もちろん『Kingdom』のアレックス・リールのキレッキレもいいんだけど。浮遊感というか自然にエンリコに絡んでくるのが心地よい。実際、1からノリノリの演奏で、わくわくし通しだ。早速文章を書き始めたのだが在庫がないという、在庫ないなら紹介できないな、残念だなと思っていたら、冒頭で書いたが間もなく入るというのではやり書き始めたわけ。エンリコ・ピエラヌンチの相手としてはこのアンドレ・チェカレリのドラムがピッタリと来るな、やっぱり。あと曲も素晴らしい。マスタリングは知る人は知っているステファノ・アメリ、といのもいい。ベースのDiego Imbertはあまりよく知らないけど、聴いているとHein Van De Geynのようにエンリコとの相性の良さを感じたね。至福の時間を共有しますか。



    YOSUKE INOUE / 井上陽介 / GOOD TIME AGAIN!
    1月4日新宿ジャズ館。アムステルダムから来ていたトランペット奏者、ギドン・ヌネス・ヴァルスのインストア・ライブがあった。実はアムステルダムのレコード店でのインストア・ライブも盛ん。コンチェルトという新品も中古も全ジャンルで客の要望に対応しているレコード店があって土曜日の午後なんかに行くと、100人単位のお客さんでごったがえしている繁盛店。ある時、インストア・ライブの現場に遭遇したけど、それはそれはものすごい観客でなんかすごい、という感じ。それで、新宿ジャズ館でのインストア。急な話ではあったが、対戦相手として井上陽介さんにお願いした。ふたつ返事で即了解を得た。このトランペットとベースのデュオ演奏は、無料ライブとは思えないクオリティの高い演奏で、満員のお客さんも大満足の様子だった。井上さんの超絶技巧細かいテクニックプレイがさく裂で感動してしまった。その井上さんの新作がコレだ。非常に聴きやすい、親しみ感マンテンの内容だ。大好きな「Close To You」も超気持ちいい演奏。CDのキャッチ・コピーに「今、アコースティック・ベースでここまで表現できるベーシストは、他にいない」と書いてあるけど、そうかもしれない。存在感バツグン、主張するベース、歌うベース。ボクの中で敬愛するオスカー・ペティフォード彷彿させてくれる貴重なアーティスト、素晴らしい。



    MICHEL REIS / ミシェル・レイス / Capturing This Moment
    ミシェル・レイスの2015年のカルテット作品。ちょっと前のものになるが、最近になって気がついた。昨年11月に初めてルクセンブルクに行ってきた。ベルギー、フランス、ドイツに隣接する小さな国。今までに行ったヨーロッパのどの都市とも趣を異にする雰囲気ある国だと思った。ジャズのミーティングに参加してきて、ルクセンブルクのジャズシーンを少し垣間見てきたのだ。その際にレイスのCDを聴いたのだった。レイスは2014年、2016年と来日してコンサートを数か所でやっており、既に日本で彼を賞讃するファンも多い、ときいて少し焦っている。そういえば、2014年フランスの「ラボリエ」というレーベルから、『Reis | Demuth | Wiltgen』という作品が出ているな、と思い出した。このレーベルを主宰するジャン・ミシェル・レゴニーと数年前、ブレーメンで会った時、ルクセンブルクで凄いピアニストを見つけて録音したよ、と言っていたのを思い出した。そうかそうか彼だったか。確かにいい。ジャン・ミシェルはシャイ・マエストロを紹介したプロデューサーでもあるので納得度が高い。この作品はソプラノサックスを擁したコンテンポラリーな雰囲気。これが結構いける。



    MAKI NAKANO / 仲野麻紀 / 旅する音楽-サックス奏者と音の経験
    旅するのが好きだ。というかボクのは「旅」という概念とは違い、単に飛行機に乗って外国へ訪問しているだけの「移動」にすぎない。ほぼ出張だけど嫌いではない。年に5回か6回ロシア上空を往復している。ボクには沢木耕太郎の『深夜特急』みたいな無銭旅行的な旅はできない。何日間もクッションのきかないバスに乗って移動したりはできない、無理だ。でも最近興味を持ち始めている。所持金6千円だけで日本を飛び出して路上ライブで稼ぎ世界中を旅したという35歳の若者の本も読んだりして、「ボクには無理だな」と思いながら楽しんでいる。ブルキナファソという国の名前を知ったのは、著者の仲野麻紀さんと東京小川町の居酒屋で飲んでいた時だった。地図で見ると中央アフリカのナイジェリアとかセネガルに隣接している国だ。仲野さんは世界中の演奏家と演奏をしていて、そこの楽士8名(カバコ)を日本に連れてきて演奏をすることにしたのだと。それがなかなかの冒険談で面白くきかせてもらったのだが、これが痛快。もうヴィザだら、そもそもパスポートの申請だら、いろいろ彼女が頑張ったのだという。そのくだりも掲載されており興味をひく。もうボクが一度も足を踏み入れないだろうなぁという国へ赴き演奏し、そしてそれを日本へ紹介する。そんな国家事業を彼女は実践している。「旅」する音楽、これはその記録である。


    JACOB CHRISTOFFERSEN / ヤコブ・クリストファーセン / We Want You / ウィー・ウォント・ユー
    ヤコブ・クリストファーソンのピアノトリオ作品を聴いている。結構好みのピアノ。今回ベースはラーシュ・ヤンソンのトリオでおなじみのトーマス・フォネスベック。存在感のあるベースがいい感じ。何年か前にラーシュ・ヤンソンさんが拙宅へワインを飲みに来た時、彼とも一緒に飲んだなぁ。ドラムのゾルターン・チャースはハンガリー生まれでスウェーデンに住んでいる。はやり何年か前、ストックホルムのファッシングでヤン・ラングレンのトリオ演奏を観た時のドラムが彼だった。ロックからジャズまで幅広くまかなえるヴァーサタイルなドラム。シーネ・エイとヤコブは何度か日本に来ていますね。



    SLAWEK JASKULKE / スワヴェク・ヤスクーケ / 夢の中へ
    2016年12月13日ポーランド大使館にて、JAZZPERSPECTIVE VOL13「ポーランド特集」の発売記念パーティーが行われた。今回は、ポーランド文化センター所長を永年務められた「マルタ・カルシさんお別れ会」という意味合いもあり、大使館にて招待制にて執り行われたのだった。マルタさんが誰かポーランドからピアニストを呼びましょうか、その方が一層華やかになるから、と言っていたのが11月の下旬くらいだったろうか、急きょヤスクウケの来日が決まった。そのイベント当日は、ボクのポーランド訪問話、オラシオさんのコメダ講演のあと彼のソロコンサートが始まった。来場者の多くは彼の演奏を聴いたのは初めてだったと思うが、いっぺんで彼の本質に魅了されたようだった。美しいメロディを紡いでいく彼の手もとを皆食い入るように見つめていた。ボクも最前列で聴いていたわけで、その美しさに徹底的に魅了された。そのヤスクウケの最新のソロ作品がコレ。今日は朝っぱらから集中鑑賞中なのだが、これが気持ちよすぎてやばい。うっかりしていたら眠くなる官能的な内容。あぶないあぶない。


    DAG ARNESEN / ダグ・アルネセン / Pentagon Tapes
    ダグ・アルネセンの新作ということで聴いてみた。ダグといえば今から十数年前に『ムーヴィン』という1994年録音盤がありピアノトリオのファンに随分と届けた思い出がある。またその10年後、『Time Enough』というのがあって、それも当時のスウィング・ジャーナルで担当していた「輸入盤ワールド」というコーナーで紹介、ユニオンの他のジャズ担当者も一丸となって推選したものだ。それ以降もこのレーベルから継続的に発売されている息の長いトリオだ。ダグのオリジナル曲が相変わらずによくって引き込まれてしまう。とりわけ8は好きな曲調で今回では一番繰り返し聴いた。どこかに「サブリミナル効果」が仕組まれていたのか、すぐさま、パット・メセニーの『Still Life Talking』にとびついた。