2017.12.21
ママディのギターに酔い、ドウェインのドラムに打ちのめされ、レジ―のベースに心をかき乱され・・・・初夏のニューヨークに出かけて、アフリカ、キューバ、メキシコ、南極を味わってきたぜ
2017年もいつの間にか終わろうとしているので驚く。
子供の頃は放課後から夕食までの時間が限りなく長く感じられて、遊んでも遊んでもまだ晩飯にありつけなかった気がしたものだが、年をとると本当に時が速い。
さて今回はニューヨーク・レポートである。書こう書こうと思っているうちに月日が経ってしまった。「ヴィジョン・フェスティヴァル」についてはジャズジャパン誌に寄稿したので、こちらではそれ以外についてまとめたい。
ブルックリンの「バーベス」(376 9th St. (corner of 6th Ave.) Park Slope, Brooklyn)ではザ・マンディンゴ・アンバサダーズを見た。
同クラブには2008年から毎週水曜日にレギュラー出演しているのだが、ついに今回、ライヴに接することができた。
ギタリストのママディ・クヤテは1956年のギニア生まれ。もともとはバラフォン(西アフリカで使われる木琴)を演奏していたという。ギニア時代には反政府的だということで4度投獄されたようだが、2004年に一念発起して渡米、2005年にザ・マンディンゴ・アンバサダーズを結成した。
マンディンゴ・アンバサダーズのリーダー、ママディ・クヤテ
この日は彼のギターに、ベース、ドラム、トランペット&フリューゲルホーン、テナー・サックス&クラリネットの各奏者が加わる5人編成だった。
「バーベス」の客席は、それほど広くない。
そしてこの日は、いつにもまして椅子の数が少ない。それもそのはず、オーディエンスの大多数は踊りにきているのだ。レパートリーはワン・コードのリズミカルなものばかり。キューバ・グアンタナモ出身のトランペット奏者エウディ・フェルナンデスが出す強烈なハイノート、イスラエル出身のオラン・エトキンによるむせび泣くようなクラリネット、シングル・ノートを多用して長いフレーズのソロをとるママディのギターなどが一体となって、1曲が15分とか20分とか続く。ママディはアンプの前にドカッと座って他のミュージシャンに一切視線を送らず指示することもない。にもかかわらずエンディングや“キメ”がビシッと揃うのは見事だった。
日によって編成が変わり、ヴォーカルが加わることもあるというので、今度は歌入りのセットを聴いてみたいと思った。
マンディンゴ・アンバサダーズ
「グラス・ボックス・シアター」(55 W. 13th St. near 6th Avenue)では、「ザ・ストーン・アット・ザ・ニュー・スクール ジョン・ゾーン・インプロヴ・ナイツ」というシリーズが始まっていた。
名門校「ニュー・スクール」とジョン・ゾーンが中心となって運営されている「ザ・ストーン」(the corner of avenue C and 2nd street)が手を結び、2017年6月から翌年2月までの金曜土曜の午後8時半から開く“即興道場”がこれである。
ぼくが行ったのは開始2日目。告知されてからすぐに予約しておいてよかった。というのはこの公演、たちまちソールド・アウトになってしまったからだ。
参加者はゾーン(アルト・サックス)、ワダダ・レオ・スミス、ピーター・エヴァンス(トランペット)、クレイグ・テイボーン、シルヴィ・クロヴァジェ(ピアノ)、イクエ・モリ(エレクトロニクス)、レジー・ワークマン(ベース)、ケニー・ウォルセン(ドラムス)、ジェン・シュー(ヴォイス)。
彼らがゾーンの指示によって2~3人ずつのグループにわかれ、だいたい5分ぐらいの即興を繰り広げる。場内は満員。メンバーがステージに並び、即興に取り掛かるまでの数秒間、そのときの観客の状態はまさしく“かたずをのむ”という表現がピッタリだ。
幅広い音域をかけめぐるエヴァンス、空間に音をそっと垂らすようなワダダ、しっとりした電子音で空間を満たしたイクエ、ドラム・セットの端から端まで使ってメロディとリズムの間をゆらめくウォルセン、みんな見事だった。
最年長のワークマン(82歳)は一切ビートを刻まず、指を弦に押しつけたり、回転させた拳で弦を打ち付けたりしている。ジョン・コルトレーンやリー・モーガンやアート・ブレイキーと共演していた頃のプレイとはあまりにも異なるのだが、後日彼に尋ねたところ、それで当たり前なのだという。
「そういうスタイルの音楽は、50年も前に何千何万回とやりつくしたよ。今の私は前にも増して、出したことのない音、試したことのないアプローチを探し求めているんだ」。
ラストでは全員そろって即興ジャム・セッションを披露。こういう場合「音のデカい者だけが目立って終わり」ということが往々にあり得るが、そこはゾーンが音楽監督なので、たとえジャムといえども起承転結があり、世代・性別・出身国・人種を超えた猛者たちが聴きどころをつくった。
6月3日は「母の日」だった。
ブルックリンのウィリアムズバーグにある「ナショナル・ソーダスト」(80 North 6th Street)では午前11時からソニア・デ・ロス・サントスの子供向けライヴが開催された。
ソニア・デ・ロス・サントス
彼女はメキシコ・モンテレイ出身で、アメリカーナの人気グループ“ダン・ゼインズ&フレンズ”での活動で名をあげ(この10月に国内リリースされた『レッド・ベリー、ベイビー!』にもヴァレリー・ジューンらと共に参加)、2015年には初のソロ・アルバム『Mi Viaje: De Nuevo León to the New York Island』も発表している。
ソロ歌手としてソニアが取り組んでいるのは“ファミリー・ミュージック”。親子が一緒になって楽しめる音楽だ。開演時間少し前につくと、すでに十数組の子供連れが集まり、子供の何人かは会場を走り回っている。
ソニアとバンドは客席後方から楽器を演奏しつつステージにあがり、遊んだりシャウトしたりしている子供たちに微笑みを送りながらパフォーマンスを続け、その合間に親や子供たちに語りかけた。するとどうだろう、騒いでいた子たちの視線はソニアたちに注がれて、いつしか身を乗り出して音楽に耳を傾けているではないか。手拍子を打つ子もいれば、踊り出す子もいる。ギターだけではなく、メキシコの弦楽器“ハラナ(jarana)”によるプレイも見事だった。
この会場でぼくは、実に興味深いライヴ情報を入手した。ブルックリンの「コンコード・バプティスト・チャーチ・オブ・クライスト」(833 Marcy Avenue (between Putnam and Madison))で行なわれる催し「アン・アフタヌーン・オブ・ジャズ&ブルース」に、ドウェイン・クック・ブロードナックスが出るというのである。スパイク・リー監督映画「マルコムX」にドラマー役で出ているし、故ジミー・スコットの伴奏者として何度も日本を訪れているので彼の名をご存知の方も少なくないであろうが、ぼくはそれ以降ライヴに接していないので、久々にあのドラムを聴きたいと思い、足を運んだ。
ライヴ会場が行なわれた場所は板張りでバスケットボールのネットもあり、体育館と公民館が一緒になったような感じ。「地元の集会」的手作りの催しという印象を受けた。
実においしいフルーツウォーター(水に果実が浮かんでいる)や軽食(クラッカーに手作りのディップをつける)にすっかり嬉しくなっていると、司会者が出てきてメンバーを紹介した。
ドラムスはもちろんドウェイン、オルガンはハーレム「レノックス・ラウンジ」の花形であるネイサン・ルーカスだ。観客は自分の両親ぐらいの老人が多く、こういう音をヒップホップやトラップに親しんでいる世代にもぜひ体験してほしいものだと思ったが、シャッフル・ブルース中心の選曲はファンを大いに乗せていた。ゲスト・シンガーではカーラ・クックがさすがの存在感を示していた。
ドウェイン・クック・ブロードナックス(ドラムス)のバンド
ハーレム135丁目にある「ショーンバーグ黒人文化研究所」(515 Malcolm X Blvd)の2Fでは「ブラック・パワー!」という特別展示があった。60年代から70年代前半にかけての黒人運動を振り返ろうという企画だ。
サン・ラーとジェイムズ・ブラウンが向かい合わせに載っている当時の黒人向け雑誌のレイアウトに「そうそう、これなんだよ」とひとりで唸ったり、ポスターやバッジに描かれたフレーズの“強度”に改めて圧倒されたり。グランダッサ・モデルズ(黒人ばかりが集まったモデル事務所。ジョン・パットン『オー・ベイビー』、フレディ・ローチ『オール・ザッツ・グッド』などのジャケットに登場する女性は、この事務所のタレントだ)についても、実に詳しく紹介されていた。また1Fでは当時の貴重なポスターもたくさん展示されていた。
「ブラック・パワー!」展示より
「ナチュラリー‘72~ブラックネスの10年」というイベントではナディ・カマール(別名スポールディング・ギヴンス。ニーナ・シモンの伴奏も務めた)やマックス・ローチが登場、71年の「ブラック・エキスポ」のポスターにはウィルソン・ピケット、ジェイムズ・ブラウン、ラスト・ポエッツ、ジョー・リー・ウィルソン、エディ・ゲイルのゲットー・ミュージック、ハービー・ハンコック(改宗前)、ジミー・キャスター、“カントリー・プリーチャー”ことジェシー・ジャクソン師らの名が並ぶ。いったいどんなイベントだったのだろう。胸が熱くなるとは、このことだ。
「ブラック・パワー!」展示より。Don PullenをDon Pullinsと表記
ニューヨークではすでに夏が始まっていたので、せめてミュージカルは涼しいものを観ようと、トニー・カイザー劇場(305 W 43rd St)に行き「アーネスト・シャクルトン・ラヴズ・ミー」を楽しんだ。
イギリスの南極探検隊を率いた実在の人物、シャクルトン(1874~1922)が現代に舞い降りるという話だ。
舞台はブルックリンにある、とある女性の部屋。
その女性はハード・ロックをかたくなに追求するミュージシャンの彼氏と同棲していたのだが、ロクな儲けがなく、「俺の才能を大衆に認めさせてやる」と旅に出たっきり。
そんな彼女がガラガラの冷蔵庫をあけると、そこは19世紀の南極につながっていて、氷だらけになったシャックルトンがそこから出てくるという寸法だ。シャックルトンとその女性は時代を超えた恋に落ち、観客も巻き込んでの一大エンタテインメント・ショウが展開される。
ラスト・シーンでは、長旅で世の中に揉まれたのか、すっかりメロウになった彼氏が戻ってきて“いい仕事が見つかった。やっと安定した生活ができるよ。ハコバンでオールディーズを演奏するんだ。「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」、なんていい曲なんだ”。
役者はウェイド・マッカラム(二役)とヴァレリー・ヴィゴーダのふたりだけ。ふたりは音楽家でもあるのでウェイドはギターを弾いて歌を歌い、ヴァレリー(シンディ・ローパーとツアーしたこともある)はフレット付きの6弦エレクトリック・ヴァイオリンをかき鳴らしながらボニー・タイラーのようにシャウトする。おそろしく芸達者なふたりによる、この抱腹絶倒コメディは、オフ・ブロードウェイ・アライアンスの2017年度最優秀ミュージカル賞に選ばれた。
というわけでかなり駆け足になってしまったが、今年一年本当にありがとうございました。来年もよろしくお願いします!
「ヴィジョン・フェスティヴァル」出演者によるパレード
「ヌーブルー」では、ギター奏者バーン・ニクスの追悼ライヴを開催
「スモールズ」ではロニー・バラージュらが気を吐く
老舗「ヴィレッジ・ヴァンガード」にはジャヴォン・ジャクソンが登場
ロングアイランドのソクラテス彫刻公園では、ルネ・マクリーンのライヴが
映画館ではジョン・コルトレーンのドキュメンタリー「Chasing Trane」上映中
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