レコード屋が和モノ・シティポップ(CITY POP)を語る! #01 ~ 私の和モノ

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2019.11.08

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text by こやま


数年前まで至るところで3桁で見かけた山下達郎『FOR YOU』が今では5,000円出しても買えない...。

竹内まりや "Plastic Love"のYouTube動画は削除を繰り返しながら数千万回再生を突破し、その動画に書き込まれた称賛のコメントはほとんどが英語。

※最近はPlastic Loveの動画が削除されなくなった。これは権利者がこの動画を適正に収益化し、削除しない方向になったのでは?という見方があるみたいだ。

同曲収録のセーラー服ジャケでおなじみのLP『ヴァラエティ』の買取価格もぐんぐん上昇中...。一体何がどうなってるんだ。



あくまでこれはほんの一例に過ぎず、70~90年代の邦楽に対する世界からの評価が軒並み上がり続け、数年前までの常識と相場感が一切通用しなくなった。正直なところレコード屋が一番混乱している。

数年前、海外の取引先にとある日本の音楽を紹介したとき、
「サウンドはものすごくいい。すばらしい。ただ本当に申し訳ないが日本語の音楽は欧米のマーケットではかなり厳しいんだ。」と言われたことがあった。

海外のリスナーは我々日本のリスナーとは逆で、歌詞の意味がわからない音楽はあまり聴かないのかな。すごくもったいないなとその時思ったのだった。そんな状況がここ数年で少しずつ変わってきたのだろうか。

私がこれまで店舗で海外のお客さんに問い合わせを受けたレコードのベスト3は

1. 山下達郎『FOR YOU』と『SPACY』
2. 亜蘭知子『浮遊空間』
3. 細野晴臣 諸作

だった。

他にも松田聖子や梶芽衣子 (なぜ!?) も何回か問い合わせを受けたことがある。海外のお客さんは「あるだろう」と期待してリクエストしてくれるが、残念なことにこれが全然無いのである。なぜならこれらはもう立派すぎるほどのレア盤だから。特に山下達郎や細野晴臣は店頭に展示した瞬間に売れるので全然在庫がない。ウォントに対して相場が安すぎたとも言える。旅行のついでとはいえ、せっかくお店まで来てくれたのに「ごめん、ない」と答えたことが今まで数え切れないほどあった。

でも『FOR YOU』が5,000円を超える値段で販売されているというのはレコ屋としてはものすごく複雑。海外の人が買っていかれることも多く、確かに5,000円で売れる。でもこれまでの相場からしてこれは正常ではない気もする。まだ自分が20代前半の頃は、こういう本当に内容の素晴らしいレコードを安く買うことができたし、それらの安いレコードが沼もとい素晴らしいレコードライフへの入り口だった。

このような空前の和モノブーム(しかも息が長い)について、ディスクユニオンのバイヤーはどう思っているのか。それぞれの「私の和モノ1枚」とともに簡単に話を聞いてみた。

そもそも「和モノ」とはどういう音楽を指すのか。社内でもある人は「いわゆるシティ・ポップのこと」と答え、ある人は「火縄銃でボーン!」と答える。また別の人は「海外で人気のある日本のレコード。山下達郎も福居良も高田みどりもイノヤマランドも和モノ」という。そして別の人は「熱心なディグの末、再評価と再発見されたもの」と熱弁していた。

よって、ここでは回答者それぞれの解釈での和モノとさせていただきたい。





原マスミ / 夢の4倍




Selected by キシシタ (ハウスバイヤー)


5年ほど前に帯付オリジナルを3,000円ほどで買ったが、今だったらとても手が出ないと思う。当時すでにディスコ的な和モノは掘り尽くされた感があったけど、このあたりはまだまだマークが薄かった。当時からこのレコードはかなりプレイしている。今は本当に国産レコードが高くなった。どこまで行くんだろう。

※『夢の4倍』や『イマジネーション通信』などのユピテルのレコードは後年にChopというところから7インチ付きで再発盤が出ているので、オリジナル主義の方は7インチなしのユピテル原盤をおすすめします。




佐東由梨 / ロンリー・ガール




Selected by タケオ (ユニオンレコード渋谷)

ECDのロンリーガール
でこの元ネタを知った。そしてこの曲でMarvin Gayeの"Sexual Healing"を知った。
Hip Hopのサンプリング文化と原曲へのリスペクトをとても感じたし、今でも自分の中で忘れられない曲。ザ・和モノって感じ。

ちなみにオリジナルはさすがにもってないです。和モノが盛り上がるのは本当に嬉しいけれど、日本のレコードがどんどん海を渡っちゃうのはレコード屋としては寂しい。でもこれはどうしようもないね。次はどんなレコードが人気になるんだろう。それがわかれば苦労しないか。




吉田美奈子 / 恋は流星




Selected by Komakino (SOUL/BLUES バイヤー / KISSING FISH)

正直決められない気もするけど、私の和モノ1枚といえば真っ先にこれが思いつく。思い出深い曲であると同時に、オリジナルのシングルを所有していないことも忘れられない大きな理由のひとつ。




細野晴臣 / はらいそ




Selected by ヒノ・ハラディーノ (SOUL/BOOGIEバイヤー)

今から15年くらい前、PA系の専門学校に入学してすぐにできた友達にこのアルバムを含む、はっぴいえんど他、細野晴臣関連のCDをたくさん借りた。
中でもこのアルバムには本当に衝撃を受けて、オリジナルのレコードはもちろん帯付きで所有。今でも愛聴盤。




鈴木慶一とムーンライダーズ / 火の玉ボーイ




Selected by オオタケ (オンラインショップ)

今から何十年も前の話。学生時代に渋谷のBYGというロック喫茶でバイトしていた。その時バックルームに入り浸っていたのが鈴木さん。
当時はちみつぱいというバンドだった。鈴木さんは私の2つ上で、当時よくつるんでいた。はちみつぱいを解散した後発表したのが今作。当時の思い出が蘇ってくる。




井上陽水 / 9.5カラット


Selected by F (HIP HOPバイヤー)

さまざまなアーティストに提供した楽曲を自分で録音し直した作品集。小学生くらいから聴いてるんじゃないかな。超メロウ。とにかく井上陽水が来る。レコードは高いものは無いけど、じわじわと値上がりすると思う。でも注目してほしいのはレコードになっていない『ハンサム・ボーイ』以降のサウンドなんですよ。Spotifyにある”Ambient/Chillwave Yosui Inoue”という、陽水をアンビエントとして聴くプレイリストがおすすめ。
 



杉山清貴&オメガトライブ / アナザー・サマー


Selected by 大将 (HIP HOPバイヤー)

子供のころ親父の車でいつもかかっていた。これとアイズレーの『Between The Sheets』のセット。ほんと時代だよね。
今の和モノブームってレコ屋として本当に嬉しいことだと思ってます。日本語ラップもさらに盛り上げていきたい。




小沢健二 featuring スチャダラパー / 今夜はブギー・バック



Selected by いのまた (テクノ ハウス バイヤー)

私にとっての和モノといえばコレ。とにかくカラオケで助けられたな〰。




このシリーズ、できれば続けたいと思っています!

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