2020.03.25
dipやGOATBEDにギタリストとして参加していたヨリモトサトシが率いるSITHA。
2月に先行配信された『Rain Hypnotic』はdipのヤマジカズヒデ、Coalter of the deepersのNARASAKI、Cali≠gari/GOATBEDの石井秀仁がゲスト参加したことでも話題を呼んだ。
2005年の結成以来、ファンには本当に“待望のリリース”となった初のフルアルバム「NEW CLEAR VISION」について、話を聞いた。
Interview:ディスクユニオン
Photo:金村修
――――SITHAのメンバーと活動歴について教えてください。
ヨリモトサトシ:
実際の結成は多分2005年より少し前だと思います。
結成当初はギターヴォーカル、ベース、シンセにツインドラムという編成でした。
ただ、一貫して活動を続けていたというわけでもないので、全然キャリア15年という感じではないんです。
現在のメンバーは始めから一緒にやっている葉子(ベース)と
今回のアルバムリリースより少し前に加入してくれた005HARRY(ドラムス)、
と自分(ヴォーカル・ギター・シンセ)の3人でやっています。
――――SITHAをやっていない期間は別の活動を?
ヨリモト:
個人的には完全にエレクトロニックな方向に寄って、ファッションショー用のミックスを作ったり、
写真のエキシビジョン用にアンビエントを作ったり、広告関連の音楽を作ったりしてました。
――――これまでのリリースはどのようなアイテムがありますか?
ヨリモト:
会場限定ではありますがCD-Rが2種類と、初期goatbedのメンバーで企画したコンピ※にSITHAとして1曲提供しました。
そのコンピに入ってる曲が唯一ツインドラムの頃の音源です。
※『CITY COLLECTION Vol.1』コンピレーション(CITY-001)2005年
――――今作が1stフルアルバムですが、作品の構想はいつからあったのですか?
ヨリモト:
構想15年、制作期間3ヶ月で…とか仰々しく言ってみたいけど、
実質はハリーさんが加入してからなので1年くらいですね。
――――バンド形態の楽曲からテクノまで幅広い曲が揃っていますが、初期の音楽性からどのような変遷を辿って今のスタイルに辿りついたのですか?
影響を受けたミュージシャン等、きっかけもあれば教えてください。
ヨリモト:
リアルタイムの80年代初期パンクやニューウェーブを通過して
電子音楽に行き着いたリビングレジェンドの方々がたくさんいらっしゃって、自分はそれを大急ぎでなぞっているようなものですが…
自分が心底感化されたのが80年代の音楽で、
それを遡ってる最中にちょうどポストパンクリバイバルみたいなものが世間で起きていたので
オリジナルのパンク・ニューウェーブの質感をお手本に初期の曲を作りつつ、
同時にクラブカルチャーに触れてどんどん電子音の割合が増えていったという感じです。
ものすごく烏滸がましいですけど、John LydonがSex Pistolsを辞めて
ダブ要素取り入れてP.I.Lをやるとか、
Palais SchaumburgのオリジナルメンバーであるThomas Fehlmannが
現役でテクノをやっているとか、そういう流れが普通というか、
鳴らしたい音が流動的に変化をしていく事に躊躇がないので
人様からしたらアルバムはとっちらかった印象かもしれませんが
自分の中では別段意識的に色々盛り込んだという気持ちはあんまりないです。
――――なるほど!オリジナル世代のパンク/ニューウェーブのアティテュードの部分もしっかり影響受けてきたということですよね。
ヨリモト:
そうですね。所謂、初期パンク的なものはある程度自分で通りましたが、
電子音が入ったバンドものやエクスペリメンタルなものは完全に秀ちゃんとこまちゃん※に出会って仕込まれました。
今思えば、まだ幼気なロックンロールギターキッズになんてものを仕込んでんだって話ですが(笑)、
未知の世界に踏み込むきっかけをくれた2人にはとても感謝しています。
あと、今回のリリースが決まる前に今やレーベルメイトとなったFOXPILL CULTのケビンくんが彼らのイベントにSITHAを誘ってくれたり、
彼らの曲をオレがリミックスしたりというやり取りがあったんですが、
歳も近いし、少なからずシンパシーというか、アウトプットの仕方が異なるけど、
内面にイビツなニューウェーブ愛みたいなものを感じてくれたから今回のリリースの切っ掛けを作ってくれたのかもしれませんね。
※石井秀仁(GOATBED/Cali≠gari)
※コマタカオ(ex SITHA/GOATBED)
――――驚いたファンも多いと思うのですが、ゲスト陣はどういったいきさつで参加が決まったのですか?
ヨリモト:
ヤマジさんはSITHAを始める少し前に出会って、その後自分がdipにサポートギターで入ったり、
そもそも前の質問で話した会場限定の音源でもヤマジさんはギターを弾いてくれていて、
その曲も収録するとなればヤマジさんのギターは必要不可欠なので
師匠、お願いしますという感じでした。
NARASAKIさんも実は初期の会場限定音源でマスタリングをして頂いていて、
恐れ多いですが曲が好きと言って頂けていたので今回はギターを弾いてくれませんか?と
お願いししました。
秀ちゃんは久しぶりに会って呑んでる時に思いつきで歌ってって
お願いしたら快く引き受けてくれました。
元々は3人別々の曲に参加してもらう事を想定してましたが、
こんな機会はあまりないのでは…と思い直して、3人全員に同じ1曲に参加してもらって、
その曲とは別にもう1曲ずつそれぞれ参加してもらいました。
――――レコーディングはどうやって進めたのですか?
ヨリモト:
ヤマジさんのギターだけはスタジオに録音しにいって、
あとは秀ちゃんもNARASAKIさんもメンバーもそれぞれの環境で
録音してもらって、素材データをオレのところに送ってもらい、
それをオレとエンジニアの原さんでミックスするというやりとりでした。
原さんは細野さんのアルバムで録音をするようなアコースティックなお仕事を多くされてますが
音楽的な内面形成がレフトフィールドというかエクスペリメンタルな方で…ってもの凄く良い意味で言ってるんです(笑)。
なので歌モノもノイジーでエレクトロニックなものも共存するSITHAにとっては最高に信頼出来るエンジニアでした。
――――アートワークデザインや、アーティスト写真にも拘りを感じましたが、何かテーマはあるのですか?
ヨリモト:
うーん…特別テーマらしいテーマはないですが、
デザインをお願いしたスチュアート※とは長い付き合いでお互いに良い音楽とかアートを常々教え合うような仲なので、
ほとんどなんのリクエストもせず、SITHAの音と人間性だけで発想してもらいました。
写真を撮って頂いた金村さん※は、元々はスチュアートからの紹介で1度ライブに来てくださって、今回撮影をお願いしました。
なんとなくロケで撮影したいなと考えたときに、金村さんのパンチが効いたモノクロ写真の中に切り取ってもらえたら
カテゴライズしにくいSITHAに1本筋の通った"ハードコアみ"みたいなものを写真で見せられるかなと思っていたので最高の出来でした。
しかも金村さん本人が現像までしてくださって、現物を見たときは本当に感動しました。
※Stuart Munro(Johann Johannsonの"Fordlandia"のジャケットデザイン等を手がけるデザイナー)
※金村修(写真家 映像ディレクターとしてもBUCK-TICKの最新シングル『堕天使』のMVで手腕を振るっている)
――――今回の作品「NEW CLEAR VISION」の収録曲について解説してください。制作秘話や聴きどころ等もお願いします。
1.Between A&B
ヨリモト:
ここ数年で近代のインダストリアルテクノと呼ばれるようなトラックが出回ったので
SITHA版のノイジーなテクノを作ろうと思って作ったものの、
出来あがったらそんなにインダストリアルじゃなかったですね…金属臭があまりしないというか(笑)。
後半の凶悪なシンセっぽい音が実はギターで作ってたりするんですが、
わりとそういう元の音からは想像しにくいエディットはアルバム全体で色々使ってます。
2.3KDR1/2
ヨリモト:
この曲は結成した時に作った曲なので15年前の曲ということになります。
Coalter of the deepersヨロシクなテンションコードで展開していく曲にして
最終的にNARASAKIさん本人にギターを弾いてもらえたので15年越しで成仏しました。
NARASAKI節は永遠にギターキッズの憧れるサウンドとプレイだと思います。
3.XaiDumbPunks
ヨリモト:
この曲もかなり初期の曲ですが、原曲とはかけ離れたエディットをしていて
ほぼ原型をとどめていません。
パンク・ニューウェーブの精神を持って、現代の技術であるmax/mspや
グラニュラーシンセを使ってゆがんだダンスミュージックを作ろうとしたらこうなりました。
歌詞カードがデザイナーのスチュアートによる予想外なデザインがされてて凄く気に入ってます。
4.Poetic Devices
ヨリモト:
ポンコツなビートでループを螺旋状に上がったり下がったりするような、
クラウトロック的アプローチがしたくて出来た曲です。
ビートがなくなってシンセだけになるパートがあるのですが、
ライブの時に音響設備の良い箱だと低音が足元から上半身に這い上がってくるような感覚があって面白いです。
あと、この曲は完全にアナログシンセとベースとドラムだけで作ってます。
5.都市に咆哮
ヨリモト:
この曲もかなり初期の曲なので15年越しで成仏です(笑)。
先に話した最初に作った音源の時点でヤマジさんがギターを弾いてくれた曲です。
今回改めてヤマジさんのギターを録音する際、間近でギターソロを見てたら格好良すぎて
半泣きになりました。
また、出来上がって自分のギターとヤマジさんのギターの絡みを聴いてもう1度半泣きになりました(笑)。
6.Rain Hypnotic
ヨリモト:
SITHAの歌がある曲は基本的に、明るくも暗くもない曲にしようという意識が無意識で働く事があってこの曲もそうなのかなと思います。
元々のアイデアはA.R.Kaneって80年代後期のネオサイケとハウスとバレアリックが
混ざったようなバンドの『A Love from Outer Space』って
ゆるいビートにパーカッションが乗ってシンセが気持ちよくて歌が哀愁みたいな曲があるんですが
そんな雰囲気を目指してました。ただ、録音の段階でヤマジさんとNARASAKIさんにデモを送って、
ギターアレンジを考えてもらったら、ヤマジさんは「depeche mode気分でいこうかな。」
NARASAKIさんは「CUREっぽくしちゃった。」みたいなリアクションをされて、80年代縛りの
伝言ゲームをしているみたいに印象がどんどん変わって面白かったですね(笑)。
――――この曲は2月にデジタルシングルというかたちで一足早く発表されましたが、先行曲に選んだ理由は?
ヨリモト:
せっかくだからゲスト全員参加の曲をシングルにしようというのが念頭にありました。
そこでシングル用のラフを何曲か作ったものの、なんというかゲストありきで作った感が
あまり面白くなくて、オレがそんな小賢しい事をしなくても、確実にゲストの御三方は想像と期待を超える
アプローチをしてくれるであろう!と思い直し、逆にゲストがどんなアプローチをするか
想像しにくい、SITHAらしい歌モノにしようということでこの曲になりました。
7.NSJK GLXY
ヨリモト:
若干無理がありますがこれで「西新宿ギャラクシー」と読みます。
この曲も結構前に作ってますが何回もアレンジをしなおしているので、あまり原型をとどめてないです。
元々はデトロイトテクノをパンクスピリッツ+人力でやるみたいなテーマでした。
自分が10代の時に働いていたスタジオが西新宿にあって、メンバーの葉子や
ゲストの秀ちゃん、ヤマジさんに出会うことになる起点がそこにあるので
西新宿の旧Loftがあった場所や、所謂プライベート盤屋がたくさんあった辺りには凄く思い入れがあります。
うろ覚えだけどデトロイトテクノの重鎮の誰かがインタビューで、荒廃したデトロイトの街が
SFの世界のようだったみたいなことを答えてて、自分にとっては西新宿のプライベート盤屋街から眺める
夜の高層ビル街がとてもSF的に見えて、若かった自分はこんな安直なタイトルをつけてしまいました(笑)。
――――この曲はイーブンキック気味でダンスミュージック要素が強く、一聴ではバンドもののアルバム収録曲とは思えないような質感ですが、
敢えてバンドに持ち込む意図はありますか?
ヨリモト:
単純にバンド愛と機械愛が50/50だからですかね。少し前までは時期によって偏りがすごくあったんですけど、
今は聴くのも作るのもほんとに垣根がないです。
あと葉子もハリーさんも細かく言えば違いはあるけど、テクノをちゃんと通過してる人達なので、
オレが作った曲に対しての理解やアプローチも早いから出来るというのも大きいですね。
8.New Clear Vision
ヨリモト:
あとで知ったんですが、先に話したA.R.Kaneってバンドに"NEW CLEAR CHILD"って
アルバムがあってびっくりしました。本当にそこからパクったわけではなく、
UKのヒップホップの誰かのリリックからパクったと思います(笑)。
この曲も結構前に作った曲ですがレコーディングしている最中にアレンジが気に入らず
既に録音が終えている状況で大幅にアレンジを変えてしまいメンバーにリトライを要求して困らせてしまいました。
元々はbleepテクノというアグレッシブなビートにメロディというよりは発信音のような音が乗る
機械むき出しのテクノみたいなものをバンドでやってみようと思って作った曲でしたが、
結果的には全然テクノではなくなり、むしろSITHA史上最速BPMの曲になってしまいました。
曲の終盤にブラストビートみたいなパートがあるんですけど、ハリーさんが
「よくmetallicaのフレーズを叩いて遊んでたんだけど、ここで活かせて良かった。」と
言ってて、metallicaなんて全然やってそうになかったので笑いました。
9.HLGRMS#E
ヨリモト:
この曲だけは元々SITHAではなく、別のプロジェクトをやっている時に作った曲を
リアレンジして録り直しました。
別の曲と悩んだんだけど、どうしてもIDMと綺麗なエレクトロニカの要素を
アルバムの中に入れたかったのと、ハード目なテクノのパーティやレイブで、
夜明け前後に得体の知れない良い曲がかかる瞬間が何度かあって、凶悪なキックとアブストラクトなシンセでそんな雰囲気を意識しました。
10.Jamming
ヨリモト:
初めから秀ちゃんに歌ってもらおうと思って作りました。
ベースミュージックの質感で歌モノを作ってそれをDavid Sylvianが歌ったらどうなるんだろうと
想像して作りました。なのでやたらとキーが低いです。
秀ちゃんに渡す用のデモではオレが歌ってるのですがキーが低すぎてまともに歌えず、
夜中に秀ちゃんからメロディの確認の電話があって、2人で確認したい部分を電話越しに
歌うんだけど全然お互いの意図が伝わらなくて、お正月の深夜に何をやってるんだろう?みたいなバカバカしい感じになって笑いました。
――――Twitter上で石井さんが歌詞が文学的と呟いてましたが歌詞を書くとき何か特別なアプローチをされてるのですか?
ヨリモト:
オレなんかよりよっぽど秀ちゃんの方が文学に明るいので彼の中でそう感じてもらえたのは嬉しいというか恐縮しちゃいますね。
初期の曲は敢えて普段使わない言葉を使って、語感とリズム感を重視してました。
この曲や『Rain Hypnotic』は逆に普段の言葉で比喩を多くしています。
そもそも論ですが、特に言いたい事もないので、その場であった出来事をただ描写しているだけですね。
――――ディスクユニオンの先着特典CD-R『Jamming#2』を聴いて驚きました(笑)なぜ別Verの制作をされたのですか?
ヨリモト:
オレの声ではDavid Sylvianにならないので(笑)。
あとアルバム収録バージョンはベースミュージックの質感と言いましたが、
曲を作り始めた時は変則チューニングをしたギターで作っていて、そのコード感を
アルバムバージョンでは消しているんですが、スタジオに行ってアンプで鳴らしたら
思いのほか良い響きで、中期WIRE※みたい!ってなったので
これはもう折角だからキーを上げるとかじゃなくてまったく別物にしてしまおうということになりました。
※オリジナルポストパンクバンドにして現役のレジェンド。ここで話している中期は80年代後半の彼らを指している。
――――バンドの1stアルバムとして聴くと意外な構成で、インスト曲が多いのが印象的でした。
デビュー作からいきなりデヴィッド・ボウイの“ベルリン三部作”に挑戦!?かと思いました。SITHAはどこに向かっているのですか?
ヨリモト:
そんな滅相もない(笑)
好きなものと、自分が今出せる1番面白い組み合わせの選曲とアレンジにしたらこうなりました。
繰り返しのようになりますが、今はバンドサウンドの歌モノも、電子音で構成するインストも、
どちらも自分の中では聴き分ける、使い分けることがなくて、
逆に言えばカテゴライズをなるべく出来ないようにしようとは思いました。
少し話が逸れてしまいますが、昔、My bloody valentineのプライベート盤ライブビデオを観てたら最前〜3列目くらいの人達が
モッシュ/クラウドサーフをしてて、もう少し後ろには明らかになんらかキマってる人達が各々踊っているっていう自由奔放な状況で、
すごく良いなぁと結構感激して。なので、より一層強度があって甘美なサウンドを出して、Destroy all of genres!を指針にしてます。
――――今後の活動やライブの予定はありますか?
ヨリモト:
5/14に新宿Marzでレコ発ワンマンがあります。
ゲストとして秀ちゃんと元SITHAのメンバーでもあるコマちゃんが出てくれます。
あと、本当はリリース後にインストアをやる予定があったのですが、
残念ながら取り止めになってしまったので、終演後にその代わりになるようなことを考えておりますので
来てくださる方は終演後すぐに帰らないでください!
あとGOATBEDの新譜で1曲リミックスをしました。
彼らのツアー会場で先行販売、5月リリース予定の模様です。
――――最後になにか一言を!
ヨリモト:
ミュージシャン誰しもが望んでいると思いますが、お好みのヘッドフォンなりスピーカーなり、
良い環境で聴いてもらえたら嬉しいです。
そしてワンマンの会場である新宿Marzさんはライブハウスでは珍しいFunktion Oneという
シンセサイザーが大変いい音のするスピーカーを導入されていて、
バンドのアンサンブルはもちろん最高の状態にしますし、シンセサイザーもたくさん持ちこんで
できる限り生の電子音で演奏しますので、アルバムを聴いてお気に召された方は是非足を運んでください。
――――ありがとうございました。
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