《連載コラム》 幸枝の『惑星円盤探査録』Vol.23

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2021.12.09

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「惑星円盤探査録 Vol.23」

椎名林檎
『無罪モラトリアム』




人生を変える出逢いが今まで何回あっただろうかとちょいと考えてみる。
人、モノ、場所、作品、ことば,,,,,,。
パッと思い出すだけで数個ある。激情型な私は虜になると止まらないタイプで、細胞の奥深く骨の芯にまでそれを擦り込ませておきたいタイプ。未知なるものに手を出すのが苦手というのもあり、「好き」ってなるともうとことんなわけだ。
そんな人生の中で恐らくNo.1の激情体験がこのALBUM「無罪モラトリアム」との出逢いで、どれくらいののめり込みかと言うと、このALBUMを録音したカセットテープ(我が家はMD参入にかなり抵抗を示したため、私が中学生になるまでカセット一筋であった。嗚呼時代の移り変わり,,,,!)を延々リピートしまくり酷使したためにひと夏でカセットプレーヤーを壊してしまったほど。人生でいちばん聴いたALBUMで、それは多分もう塗り替えられることのない記録だろう。
小学校6年生12歳の私にとってあまりに衝撃的で刺激的な作品だった。
世の中にこんなカッコいい人がいるんだと感動し、頭のテッペンからつま先まで余すところのないようひたすら彼女の世界に身を投じていた。
特に衝撃的だったのは歌詞で、CDをレンタルしたときにコピーした歌詞カード(TSUTAYAでCDを借りるのが当時の楽しみで、いつもレンタルしたいリストをメモしておいてお店でまとめ借りしてカセットにオリジナルMIXテープ作ってたな。これもまた時代の移り変わり,,,,。くぅ、、なんか泣ける。)を舐めるように隅から隅まで読んでは、当時全く知らない“シドヴィジャス”“リッケン620”という単語や、“あなたには殺されてもいいわ”“機械の様にあまりバカにしないで”などの10代独自の死生観・厭世観をあらわにした文章にドギマギとトキメキが止まらなかった。クレジットも何度も見返し、まだ楽器のことなんて全然分からなかったのに「へぇ、この曲とこの曲は同じ人たちで演奏したんだ」とか「あ、ドラムは全部同じ人がやってる」なんて心の中でひとり感想をもらしていたのだ。当時はまだ何の用もないのに公式のバンドスコアまで買い、使用楽器やライナーノーツを読んではやはり「この楽器かわいいなぁ」だの「ふぅ〜ん、そんな気持ち込めて書いた曲なんだぁ」などと脳内でぼやき、こちらもやはり舐め回すように隅から隅まで何度も何度も読み返していた。
思い返せばそれまで曲が出来るまでのことなんて知ることもなかったし考えたこともなかったから、初めて触れた曲の裏側の世界がこれまた刺激的で知れるのが楽しくて仕方なかったのだ。
しかし人とは欲深いもので、だんだんと見ているだけでは満足出来なくなり気付けば林檎さんの真似事を始めていた。そしてそれが私の作詞の始まりだった。
林檎さんの曲のメロを拝借し、そこにオリジナルの歌詞を新たにはめ込む。替え歌的な要領で思いつくままにノートに書き溜めていった。途中からは調子に乗ってライナノーツまで書いていたのだから呆れる。林檎さんを模して、一人称は「あたし」、「此処」「其の」は必ず漢字表記。タイトルの字体は歌詞カードのフォントを一生懸命真似して書いていた。
3,4冊ほど書いた歌詞ノート、今読みたくてたまらないそれは生憎とうの昔に恥ずかしさに負けて処分してしまった。

今私の目標のひとつは作詞家としてたくさんのアーティストに歌詞提供をすること。
ヒットソングを書いて令和の松本隆になります!とかなり偉そうに吹聴している。

歌詞を書くのが楽しくて仕方ない。良いのが思いついた時は勿論だけど、全然思いつかなくてずっと考え込んでる時間も実は結構楽しい。こんな楽しいことが仕事になるなんて最高だなと思う。
私はきっと、あの「無罪モラトリアム」に夢中になった12歳の延長のままに生きているのだと思う。「こんなの書けるの世界で私だけかも」なんて、書き上げた歌詞を見返してニヤニヤしてるあの時の私のまま作詞をし続けているのだと思う。

よく飽きないよなぁと、半ば呆れ、少し感心する。

更に延長線上にいるのはどんな私なのか、せっかくなのでしかと見届けていこうではないか。





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著者プロフィール

楓 幸枝
バンド活動を経て、現在はドラマー、作詞家、文筆業、MCなど活動の幅を広げている。
ミステリーハンターとしてフィンランドを取材するのが密かな夢。

Instagram
楓 幸枝(@yukie_kaede)