《連載コラム》 幸枝の『惑星円盤探査録』Vol.25

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2022.02.10

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「惑星円盤探査録 Vol.25」

中島みゆき
『ファイト!』




どうしても歌えない曲がある。
歌おうとすると喉の奥がつまって塩辛い粒が生成されてしまう。ひどい時は聴いているだけでそうなるから一体どうしたもんか、ほとほと手に負えない事態だ。

父が中島みゆきさんのファンなので小さい頃からみゆきさんの楽曲は耳にしていたが、そういう環境でなくても「ファイト!」は口ずさめただろう。名実共に日本の名曲。

にしてもこんなに傷だらけの応援歌、ないよなぁと思う。何十年経っても彼ら彼女らの生傷はまだヒリヒリと傷みかさぶたにもならない。
歌詞の描写そのものは2022年からは離れた日常になったように思うけれど、人が生まれ営みを続ける限りなくなる事のない理不尽と、その理不尽に立ち向かう私たちの心はいつの時代も変わらなくて、その時噛み締める想いひとつひとつを中島みゆきさんは鮮明に、無情なほどに言葉にして連ねている。
救いのないような状況が延々と続く上にサビでは「闘う君の唄を 闘わない奴等が笑うだろう」だ。どっかできれいごとを言ってくれたら楽になれるのに、みゆきさんはそんなことしてくれない。締めくくりは「冷たい水の中を ふるえながらのぼってゆけ」だもの。
でも、それが確かな現実で、まっとうな真実だから、その中でかけられる「ファイト!」という一言を私たちは信用できるのだと思う。「お前に何がわかるんだよ」なんて、とても言う気にはなれない。

誰が歌っても心に響く素晴らしい曲でありながら、やはりご本人が歌唱した時の圧倒感は凄まじい。メディアでは中々お目にかかれる機会がないのが残念だが、まだご本人歌唱を聴いたことがない方は是非。

人生を動かしていく、生きることに真面目になる、その道中の辛さとか孤独さとか虚しさとか。状況は違えどそれぞれが味わうその瞬間に、力をくれる曲があると言うのはなんとうれしいことだろう。
「諦めという名の鎖を身をよじってほどいてゆく」人で私もあり続けたい。





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著者プロフィール

楓 幸枝
バンド活動を経て、現在はドラマー、作詞家、文筆業、MCなど活動の幅を広げている。
ミステリーハンターとしてフィンランドを取材するのが密かな夢。

Instagram
楓 幸枝(@yukie_kaede)