《連載コラム》 幸枝の『惑星円盤探査録』Vol.12

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2021.01.14

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「惑星円盤探査録 Vol.12」

曽我部恵一
「ヘヴン」




「梯子の頂上に登る勇気は貴い
更にそこから降りて来て
再び登り返す勇気を持つ者は更に貴い」

日本画家速水御舟のことば。
とっても素敵だなと以前メモしていたこの一文をふと思い出したのは、去年末。曽我部さんに久々に再会した帰り道のこと。

曽我部さんとは音楽番組「ぷらすと」でMCを何度か一緒にやらせてもらった。
曽我部さんと初めてタッグを組ませてもらった時に私が強く抱いた感想は、「あぁ、曽我部さんはミュージシャンだなぁ」だった。
いや、当たり前じゃん、と突っ込まれそうだけど、ほんとにそう思ったのだ。曽我部さんをミュージシャンとはっきり承知した上で、隣に2時間座り話をさせていただいた結果、心からそう思ったのだ。
自由と秩序の揺らぎ、暖かさの隙間から時折香る孤独感。マーブル模様の魅力を放つ曽我部さんに、私は「ミュージシャン」を感じたわけなのだ。


「ヘヴン」がリリースされたのは、「ぷらすと」が終了して間もない頃。
Spotifyの新曲プレイリストで「文学」が流れてきて私は速攻で虜。たまらずCDを注文。
ほんとに恥ずかしい話だけど、CDを買ったのは久しぶりだった。

「ヘブン」は曽我部さんキャリア初のラップアルバム。
多作家で音楽性も幅広い楽曲を作られるのは皆さんもご存知の通り。とは言えラップ曲のみのアルバムにはビックリ。
これだけ積み上げたものがある中で真新しいチャレンジをされる姿勢がとてもカッコいいし、何よりアルバムがまっじでカッコいい。

一曲目「small town summer wind」の出だしからもうたまらない。
アルバムの世界へむんずと引き込まれてゆき、あれよあれよと言う間にいつもあっという間に10曲全曲を聴き終わってしまう。オリエンタルでサイケな押しの強いトラックに曽我部さんの浮遊感ある歌声がよく映える。そして歌詞のラップとしての機能性と詩としての芸術性のうつくしいバランスに、あの日曽我部さんに感じた「ミュージシャン」をまたも再確認。
私が特に好きなのは「夜行性」。聴く度に背中がゾクゾクする。
頭の中のスクリーンに妄想MVを流しながら、世界をたっぷり堪能。

発売されてから2年ほど経過されているけれど、今も定期的にリピートしていて、いつか曽我部さんにこの気持ちを伝えたいなと思っていたのだけど、今回コラムを書くにあたり、せっかくだから曽我部さんにお会いしてアルバムのことアレコレ伺ってみよう!と思い立った。

制作経緯、歌詞のイマジネーション源、トラックのサンプリング元、タイトルの由来.........。色々教えていただいた。
当初は聴いたお話をここに記述するつもりだったけど、それはなんだか無粋な気がしてきたのでやめておく。私の中に大事に仕舞わせてもらう。

数年振りの曽我部さんは相変わらず素敵な曽我部さんだった。
「やりたいことやった方がいいよ絶対。」とサラッと言い放つ曽我部さんを、「またお茶しよう」と笑顔で手を振り合い別れたその直後に思い出していた。
曽我部さんに肌馴染み抜群のセリフだった。そのフィット感に、曽我部さんの今日までの歩みをほんの少し垣間見た気がするしこれからの歩みもちょっぴり覗けた気がしている。

キャリアに甘んじることなく、立場に寄っかかることなく、風に誘われるまま進み続ける軽やかな大先輩に、新たな勇気をもらったのでありました。





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著者プロフィール

楓 幸枝

バンド活動を経て、現在はドラマー、作詞家、文筆業、MCなど活動の幅を広げている。
ミステリーハンターとしてフィンランドを取材するのが密かな夢。

Instagram
楓 幸枝(@yukie_kaede)