《連載コラム》 幸枝の『惑星円盤探査録』Vol.15

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2021.04.08

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「惑星円盤探査録 Vol.15」

山下達郎
『RIDE ON TIME』




「ハリー、自分がほんとうに何者かを示すのは、持っている能力ではなく、自分がどのような選択をするか、ということなんじゃよ。」

引っ越してちょうど1ヶ月が経った。
寝室に備え付けの本棚があるお陰で、寝る前の読書が、新習慣であり、1日の終わりの贅沢なひとときとなった。
この1ヶ月、私は毎夜ハリーポッターを読んでいる。最近「ハリーポッターと秘密の部屋」を読み終わり「ハリーポッターとアズカバンの囚人」に突入した。
因みにハリーポッターは10代から愛読していてこれで恐らく3回目の再読。
まだ読んでいないストック本が何冊もあるというのに、そちらには手もつけず、魔法学校ホグワーツで起こる事件に毎夜胸をときめかせている次第だ。
「ハリーポッターってどう面白いんですか?」とまだ読んだことのないミュージシャンのお友達に先日に聞かれたのだけど、"話の展開が面白くて、ワクワクする"という、とてもシンプルな理由がメインにありつつ、その巻ごとに、"生き方"について校長アルバスダンブルドアからの優しいメッセージがハリーという媒介を通して私たち読者に送られる。その暖かいやりとりも、ハリーポッターシリーズを読む楽しさであると思う。
冒頭に書いた台詞は、「秘密の部屋」での校長のことば。"自分がなりたくない自分"になる素質がある、いつか本当にその恐れる自分になるのではと悩んでいるハリーに、校長が優しく語りかける。
自分の居た環境、遺伝子、元々の能力、容姿や性格。
"選べない私"で形成されている自分が、どんな自分になるのか。私たちは"選んでいける"のだ。

山下達郎氏の「RIDE ON TIME」は1980年リリースのALBUM。山下達郎さんの美しい楽曲に絶妙に絡み合う吉田美奈子さんの歌詞世界。そして青山純さん伊藤広規さんの鉄壁リズム隊のキャリアスタートの作品でもある。
特に好きなのは「DAY DREAM」。
アレンジがとてつもなくかっこよく、ドラムをコピーした。ベーシストをバーチャルで思い浮かべ、スタジオで独り、ちょっぴり緊張しながら演奏するのだ。
そして何より、吉田美奈子さんの歌詞がとても素敵なのだ。
歌詞の中に沢山の色の名前が散りばめられいて幻想的でありながらも、都会っぽさもしっかりある唯一無二な詞。山下達郎さんも「吉田美奈子が提供した詞で最高傑作」と評しているそう。何回演奏しても、何回聴いても胸がトキめく。
この曲を聴くときにいつも映像が頭の中に浮かぶ。
ビルの群れと行き交う人々、夏の青空、ショートカットで華奢な体型の綺麗な女の人(満島ひかりさんみたいな)。彼女は翼もないまま突如空へと駆け上がっていく、駆け足で。そんな彼女を歓迎するかのように空に色が咲いていく。花びらのように、花火のように。
どんな所でも、どんな時でも、自由に向かって駆け上がっていける。望み、動き出しさえすれば、見たこともない夢みたいな世界に辿り着く。
今まで知らなかった色たち。煌びやかな色、くすんだ色、名前も知らない色に驚きながら、手を伸ばし身にまとう。
そうやって、やがて私だけの、誰とも違う色彩になっていくのだ。
そんな希望とワクワクを感じる。
”自分に無いもの”にずっと焦点を当て尻込んでた自分はもうおしまい。駆けていこう。色鮮やかな未来を作り出したい。白昼夢のような予測不能な未来へ遊びにいく。





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著者プロフィール

楓 幸枝
バンド活動を経て、現在はドラマー、作詞家、文筆業、MCなど活動の幅を広げている。
ミステリーハンターとしてフィンランドを取材するのが密かな夢。

Instagram
楓 幸枝(@yukie_kaede)