《連載コラム》 幸枝の『惑星円盤探査録』Vol.20

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2021.09.09

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「惑星円盤探査録 Vol.20」

Norah Jones
『Come away with me』




やってしまった。先月あんなに体調管理に気を遣ってるなんて言っておきながら、やってしまった。今世間を騒がせてるあの病原体に身体への潜入を許し見事に寝込んでしまった。
1週間ほぼお布団の中だけで1日を過ごし、まともな日常を過ごすレベルまで自分を回復させるのになんやかんや2週間弱かかった。
こんなに体調を崩したのはいつ以来だろうか。
ここ数年は「あ、ヤバいかも」と察知すると早めに寝たり薬で抑え込んだりポカリを飲みまくったりして軽い症状のうちに完治させていたからそもそも「具合の悪い自分」がどうだったかを忘れかけていて、病魔にやられている自分そのものに対しての戸惑いがすごかった。
使い物にならない自分に果てしない不安を感じながら、熱った身体をただ布団の上で右往左往させるだけの毎日。寝てもアツさと苦しさで15分おきに目を覚まし睡眠と覚醒の中間地点をさまよい続ける思考回路。
5日目くらいにはちょっとおかしくなりだして、夜中に自分にキレて怒鳴ったり、苦しさを紛らわすために独り言をぼやき続けたり、果てはとても良くない思考に落ちかけて「あ、これ鬱になるかも」と本気で自分を危ぶんだ。
幸いその翌日から症状も軽くなり出し、家族や友人からの電話もあったお陰で身体も心も危ぶんだ自分から徐々に解放されていった。

さて、そんな苦しい最中、映像も音楽もほぼ取り込む気になれず無音で過ごしていたのだが、唯一耳を傾けたALBUMがこの「Come away with me」だった。
このALBUMは私にとって「心身の療養のお供」になりつつある。というのも、20歳くらいの時に謎の体調不良でやはり1週間近く寝込んでた日々に繰り返し聴いていたのがこのALBUMだったのだ。コラムで何度か綴らせてもらったが20歳前後は"光の当たらない"時期で、ひたすらバイトとドラムの練習だけの毎日だった。そのストレスだったのかは不明だが、激しい吐き気と頭痛で私は動けなくなった。その療養期間にずっと聴いていたこのALBUM。
どうしてこの選曲だったのかは覚えてないけど、薄暗い部屋の中でひたすらリピートしてたことだけは良く覚えている。
元気づけられるでもなく悲しくなるでもなく、凪の様な心持ちで彼女の柔らかな歌声を聴き続けていた。
あれから14年経ち、私は再び彼女の歌声を聴きながら天井を眺めていた。見上げる景色はあの時と違うけれど。私もあれから色々あったけれど。音楽は何も変わらずここにあって、同じ様に私に寄り添ってくれた。
具合が悪くなったからか、考えるしかやることがないからか、過去現在未来の様々に思いを巡らせた。
やっぱり音楽をしていたいなと思った。不安ばかりが目について少し辟易していた自分がいたけれど。目標をもう一度しっかり見据えて、やるべきことにちゃんと集中して。

神様からもらった半強制的夏休み。
苦しかったけど、きっと意味はあったのだと思う。いや、意味のあるものにしたい。
ここでもやはり負けず嫌いは顕在である。






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著者プロフィール

楓 幸枝
バンド活動を経て、現在はドラマー、作詞家、文筆業、MCなど活動の幅を広げている。
ミステリーハンターとしてフィンランドを取材するのが密かな夢。

Instagram
楓 幸枝(@yukie_kaede)