【21世紀の「クルビ・ダ・エスキーナ」】ジャズとブラジル音楽、そしてミナス

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2013.08.23

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ジャズとブラジル音楽、そしてミナス


ここではミナスのサウンドを中心としたブラジルと「ジャズ」の接点をいくつか紹介してみたいと思う。
 

 
まずはEsperanza Spaldingだろう。デビュー作でEgberto Gismontiをカバー。ウルグアイ人ピアニストNando Michelinとの一連の活動。セカンドではMilton Nascimentoの「Ponta De Areia」をカバー。そして、サードの『Chamber Music Society』ではMilton本人をゲストに迎えた。プロデュースはToninho Hortaらミナス人脈とも共演歴がありブラジル音楽に造詣の深いGil Goldstein。ここでの室内楽テイストは、クラシックのそれと言うよりは、A.C.Jobim辺りが見せていたものに近い響きがしているように思う。そういう意味ではRafael Martiniと並べて聴いてみるといいだろう。

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そして、それらと並べたいのが現代ジャズ最高の作編曲家Maria Schneiderだ。彼女は自らもブラジル音楽からの影響を公言し、そのサウンドにはブラジル音楽、なかでもミナスのサウンドが持っているような空間的な広がり、そして風景描写的な感覚がある。個人的にはWayne ShorterAlegria』*1も加えたい。オーケストラを使ってVilla Lobosの楽曲を取り上げるなど、70年代にMiltonと共演し、いくつものブラジルの曲を取り上げてきたShorterが辿り着いた解釈は実に興味深い。



ジャズ=ミナス文脈ではPat Methenyも欠かせない一人だ。ブラジルの、ミナスの音楽をもっともわかりやすくジャズの言語に翻訳した音楽家と言ってもいいだろう。そして、それはジャズの世界で定着し、ブラジルにもフィードバックされている。Metheny人脈と言えば、近年のBrad Mehldauは『Where Do You Start』でToninho HortaやChico Buarqueの楽曲を取り上げた。カバーで言えば、ダウンビート誌のクラリネット・ランキングで一位にもなるAnat Cohen『Claroscuro』*2Lô Borgesの名曲「Tudo Que Você Podia Ser」を含む3曲のブラジル曲を取り上げたし、ドイツのピアニストWalter LangもMiltonをカバーし、ついにはゲストにも迎えた。

  

歌手ではGretchen Parlatoが筆頭だろう。EsperanzaやMarcus Millerがブラジルの色を欲したときに彼女を起用している。自身のアルバムでもブラジルの曲を取り上げ、更にライブではブラジル音楽のみを歌う時もあるほど。GretchenやEsperanzaの歌唱は現在のミナス人脈のそれと近いアトモスフィアを持っているように思う。
個人的に一押しは
Kurt Rosenwinkel以降最も注目すべきギタリストとも言われるMike MorenoAnother Way』*3Kendrick ScottAaron Parksらニューヨークの若手実力派と紡ぐサウンドは現代ミナスと近い、軽やかさや浮遊感が漂う。

これらはほとんどが2000年以降のアメリカのジャズだ。彼らが今、ジャズの新たな一歩のためにジャズボッサやサンバのリズムとは違うところでブラジルの音楽に着目している。「ブラジル音楽、もしくはミナス」は2010年代のジャズの重要なキーワードとなるだろう








※本文中で番号の当てられている3作品のご紹介

*1 Wayne Shorter / Alegria (Verve) 2003  

*2 Anat Cohen / Claroscuro (ANZIC RECORDS) 2012

*3 Mike Moreno / Another Way (WORLD CULTURE MUSIC) 2012

 

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柳樂光隆  




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