ディスクユニオン ラテン・ワールド部門 年間ベスト企画「君島大空が聴く/選ぶ年間ベストアルバム2020」

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2020.12.23

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2020年のディスクユニオン ラテン・ワールド部門の年間ベスト企画の一環として登場していただくのは、ギタリストとして、高井息吹などのライブや録音に参加する一方、シンガーソングライターとして2019年に1st EP『午後の反射光』を発表、2020年に2nd EP『縫層(ほうそう)』を発表した君島大空。意外に思われる方も多いと思うが、CINRAのインタビュー記事『君島大空、苦闘の第二作。狂騒と覚醒の狭間で、ひっつかんだ実感』でレオナルド・マルケスやMinimalistaについて語っていたり(https://www.cinra.net/interview/202011-kimishimaohzora_ymmts)、TOKIONのインタビュー記事『コラージュから読み解く君島大空』ではアントニオ・ロウレイロについて「彼のファーストアルバム(『Antonio Loureiro』2010年)は特別な作品です」(https://tokion.jp/2020/11/04/ohzora-kimishima-collage/)と語るなど、ブラジル音楽への影響をはっきりと公言している。そんな君島にこちらが提示するワールドミュージックの年間ベストタイトルを聴いていただくとともに、彼が選ぶ年間ベストも発表していただいた。君島大空を入り口にこれからワールドミュージックに触れる方も、この記事をきっかけに君島大空を知ったというワールドミュージック・リスナー、どちらも必見の内容となっている。
選盤 / インタビュー / 構成:ディスクユニオンラテン部門
OHZORA KIMISHIMA / 君島大空 / 縫層

縫層

OHZORA KIMISHIMA 君島大空

期間限定特典:未収録音源ダウンロード用QRコード封入

APOLLO SOUNDS / JPN / CD / APLS-2010 / XAT-1245735700 / 2020年11月11日

  • 日本のロック
  • 紙ジャケ
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ディスクユニオンラテン部門(以下、DU)
本日は君島大空さんにディスクユニオンラテン部門的ワールドミュージックの年間ベストを一部聴いていただいてコメントをいただこうという企画なんですが、君島さんにディスクユニオンラテンのTwitterをチェックしていだたいているみたいで、「君島さんからちょこちょこいいねがくるぞ」ってすごいびっくりしていたんです。

君島大空(以下、君島) めちゃめちゃチェックしてます。

DU ありがとうございます。 それがきっかけなんですが、最近のインタビューではアントニオ・ロウレイロやレオナルド・マルケスについてもおっしゃっていたりするんで、実はワールドミュージックに興味があるんだなということがわかってきたんです。はじめに、ワールドミュージックとの接点、出会うきっかけみたいなところを教えていただきたいんですが。

君島 そもそも音楽をめちゃくちゃ漁っていたときに、北欧の電子音みたいなのに興味がいって、そこからジム・オルークとかオーレン・アンバーチとか、あの辺のシカゴの音響系を聴き始めた流れでアルゼンチン音響系を知ったのが、たぶん南米の音楽を聴くきっかけだったと思うんですけど、最初はフアナ・モリーナの『Segundo』がめちゃくちゃ好きでした。高校生の中頃から終わり頃にフアナ・モリーナとかカブサッキ、モノ・フォンタナとかあの辺の人を聴き始めたのが最初で、ブラジルはもうちょっと後なんですけど、アントニオ・ロウレイロがとっかかりでしたね。1stがすごく好きになって。


ANTONIO LOUREIRO『ANTONIO LOUREIRO』

DU ロウレイロに触れるきっかけは何だったんですか?

君島 いろんなものでディグっていたんですけど、誰かに勧められたんじゃなくてジャケ買いみたいな感じで聴き始めた気はするんです。このジャケやばいなと思って。で聴いたら内容が素晴らしくって。そこからロウレイロ周辺の今一緒にやっているような、ベースのフレデリコ・エリオドロとかペドロ・マルチンスとかもロウレイロきっかけで色々調べるようになりましたね。ロウレイロで一気にブラジルにこんな音楽があるんだって気づけたと思います。

DU ちなみに音楽の情報収集はどうやってされているんですか?

君島 その当時は、ユニオンしかなかったです。僕、地元が青梅っていう中央線の西の方なんですけど、立川のディスクユニオンにめちゃくちゃ行ってます。で、あとタワレコ。新宿のワールドの階あるじゃないですか。あと渋谷のタワレコにめっちゃ行ってました。今もCD屋には行くようにしています。

DU じゃあ情報収集はネットというより店舗で実際に目にしてっていうことが多いんですか?

君島 そうですね。ちょっと前まではサブスクで色々探してたんですけど、やっぱ物が、フィジカルがすごく好きなので。あと店舗に行くと目に入ってくるから。そっちの方が健康的というか自分にやっぱり合ってるなって。行きあぐねてた時期あったんですけど、最近はまた行くようにしてますね。

DU 事前にラテン部門の年間ベストから一部抜粋したリストをお送りしているんですけど、そこからいくつかに時間が許す限りコメントいただきたいのですが。



■ブラジル
MOONS 『DREAMING FULLY AWAKE』
GILBERTO GIL 『GIL - BALLET PARA O GRUPO CORPO』

■アルゼンチン
RODRIGO CARAZO 『OCTOGONO』
ASI 『MINIMAS + COMPARTIDAS』

■ラテン
LIDO PIMIENTA 『MISS COLOMBIA』
MERIDIAN BROTHERS 『CUMBIA SIGLO XXI』

■チカーノ
CHICANO BATMAN 『INVISIBLE PEOPLE』

■カタルーニャ
MERITXELL NEDDERMANN 『IN THE BACKYARD OF THE CASTLE』

■ポルトガル
MONTANHAS AZUIS 『ILHA DE PLASTICO』

■ワールドジャズ
TATIANA PARRA & VARDAN OVSEPIAN 『TRIPTYCH』
SVEN WUNDER 『WABI SABI』

■クンビア / スロウテクノ
MUMBIA Y SUS CANDELOSOS 『HOKKORI TIME / CUMBIA DUCHA』
HISTORY OF COLOUR 『ANTUMBRA』

■アフリカ
AFEL BOCOUM 『LINDE』
ETUK UBONG 『AFRICA TODAY』

■アジア
PANTAYO 『PANTAYO』

■その他
CHASSOL 『LUDI』
武田吉晴 『アスピレイション』
PURNAMASI YOGAMAYA 『OH MY BELOVED』
ANDREW WASYLYK 『FUGITIVE LIGHT AND THEMES OF CONSOLATION』




君島 僕のベストとも被っているのがあって、アシィがめちゃめちゃ好きです。これは今年の全体のベストの中でもトップに入ってきてました。めちゃくちゃ好きです。


アシィ『ミニマス+コンパルティーダス』



DU どういうあたりがお好きなんでしょう?

君島 コロナになってっていうよりは、自分の時間が増えた部分が頭打ちであると思うんですけど今年って。その中で僕は疲れちゃって、新しい音楽を探さなくなっちゃったんですよね。それで夏頃は昔聴いてたようなのとか、いわゆる旧譜をすごく聴いたりだとか、自分のルーツになっているものを聴いたりしてたんですけど、ブレイク・ミルズの『Mutable Set』ってアルバムが今年出て、それがすごく誠実な作品で。世間の騒がしさから、俗っぽいところから離れた静けさみたいなのがやっぱりすごく好きだなあ、っていうのを改めて思うことがあって。で、アシィを聴いたときに、自分のこれからやりたいことにもなんかかすっているというか、音像としても音楽の構造としても、すごく嫉妬を覚えるというか、「いいな、こんなことして」みたいな(笑)。押し付けがましくなさっていうか、すごく丁寧な質感と手触りだったので、一曲目でめちゃめちゃグッときてしまって、一曲目の一音目でもう、ありがとうございます、って(笑)。それこそ新宿のラテン館で出会ったんですけど、確か。やべーの見つけちゃったみたいな(笑)。ほんとに、アシィは本当に最高です。大好きです。韓国のトラックメイカーが僕すごい好きで、なんか無機質な、すごく冷たい音の質感で、体温がないようなトラックなんだけどなぜか印象としては、白い部屋みたいな空間、韓国という国特有の虚無感みたいなのを感じることがあるんですけど、それがすごく綺麗だなと思ったりしていて、そこにも通ずるようなものをアシィのトラックメイクというか音世界の作り方には感じてました。自分もこういうことをしたいなって思った作品でした。


BLAKE MILLS『MUTABLE SET』

DU 直接こうだとは言われてないですけど、アシィはバンドで結成して、だんだんソロ・プロジェクトみたいになってきて、CDで出したのは『Minimas』と『Compartidas』っていうふたつが2 in 1 になってるんですが、その後半の方は、ほぼ自宅でそれぞれが録った音を組み合わせてみたいなものになっていて、録音時期からすると違うんですけど、家にこもっちゃう今の時期みたいなのとフィットしてるなという感じはしますね。

君島 なるほど。そういう感じはいい意味でしなかったというか、だから僕は『Compartidas』から入って、それの一曲目でうわー、ってなって、で『Minimas』を戻って聴いたんですけど、繋がっているというか、貫いているものはあるんだけど、全然質感が違ったので驚きました、ずっと翻弄されているような気で聴いています。『Compartidas』は最高に好きです。あとムーンズ。も1stがすごく好きなので、これも聴いてました。


ムーンズ 『ドリーミング・フリー・アウェイク』

DU ムーンズ、3作目まで出ましたけど、全部聴いてらっしゃいますか?

君島 聴いてますね。ムーンズは。1stの衝撃がすごく強くて。かっこいいバンドだなって思って、最初全然どこの国か知らないで聴いてたんです。でもなんかこれは欧米諸国ではない気がするなと思って調べたらそうで、だけどちょっと異質な感じがしたんですね。自分が今まで聴いてきたそのラテン、ブラジル、アルゼンチンのものとは違う質感。歴史をちゃんと大切に扱ったうえで自分たちの音楽をやってる丁寧さ。丁寧だなって思うんですよ。ブラジルの音楽家とか南米の音楽家ってすごく。トラッドなものを大事にして、今の音楽をやってる丁寧さみたいなのって日本の音楽にはあんまり感じなくて、伝統的なものをモダンに昇華するみたいなって日本ではないことだなっと思って。それが聴けるのがすごくいいなって、いろんな人に思うんですけど、ムーンズもそれをすごく感じました。それと同時にすごく新しい音だなと思って。5曲目の「Dreaming Fully Awake」、タイトル曲がすごい好きです。あとムーンズはドラムの音がめちゃくちゃ好きですね。



DU
たしかに丁寧に録られているんですが、ほぼ一発録りらしいです。

君島 そういう感じですよね。レオナルド・マルケスとかジョアナ・ケイロスのインスタを観てると、みんないつも同じスタジオに集まって、誰かの家なんだと思うんですけど、そこで演奏したり、レコーディングしたり遊んだりしてる様を見ると、日本にはない在り方のコミュニティがあって、いいなって思います。そういう空気が出てるのかなって思いました。1stの時もすごく感じましたけど。

DU 君島さんのインタビューですごく生活の音をすごい大切にされているというのを読んだんですが、日本でもKAKULULUなんかは最近少しそういう場所になりつつあるのかもしれないですけど、そういう普段の空気の音みたいなものなんかが録音に入ってるというのは、レオナルド・マルケスなんかもほんとにその通りだなと今聞いて感じました。

君島 なんか絶対に録ろうと思っても録れないこのメンバーの息づかいみたいなのがあるというか、ムーンズは曲自体が所謂わかりやすい意味でのエモーショナルなものじゃないじゃないですか。その上で人間の呼吸だったり血の流れみたいなのを感じられるバンドなんですごく好きですね。

DU ほんとに物静かなんだけど、隠された情熱というか、強い気持ちみたいなのを感じるアルバムですよね。

君島 うんうん。それを音源で聴かせるのがめちゃくちゃ上手だなと。レオナルド・マルケスは、『Early Bird』を初めて聴いて、なんか久々にアルバムというものを聴いたなっていう気がしたんですよ。こんなに統一感のあるもの聴いたのは久しぶりだなと思いました。調べて聴いていって1stの『Dia e Noite no Mesmo Céu』がめちゃくちゃ好きになりましたね。


レオナルド・マルケス『ヂア・イ・ノイチ・ノ・メズモ・セウ(同じ空の昼と夜)』

DU ちなみにさっき、ぽろっとジョアナ・ケイロスの名前が出たんですけど、そのジョアナの唯一の東京でのライブで君島さんをお見かけしたんです。

君島 それはFRUEのアフターパーティですよね。僕ジョアナのインスタをフォローしたらなぜかフォロー返してくれて。「ジョアナ・ケイロスからフォローきた!」って、ひとりで喜んでたら、何日か後に東京でライブがあるっていうの見かけてメッセージ送ったら、すごく丁寧に返してくれて、僕の音楽も聴いてくれて、その感想と共においでよって言ってくださって。で観にいったんですけど、素晴らしかったです。彼女もロウレイロからの流れで知って、ソロもすごく好きですね。それでいうと、ハファエル・マルチニの『Suíte Onírica』がレコードになったじゃないですか。あれが僕ほんとに嬉しくて。もっと広まればいいって思ってた音源だったのでLPになってよかったなって、ラテン館に行くたびに思います。


RAFAEL MARTINI SEXTET + VENEZUELA SYMPHONIC ORCHESTRA『SUITE ONIRICA』

DU レコード派なんですか?

君島 いや、僕レコードプレイヤーを最近入手したんですよ。だから初めて自分で買うLPをずっと迷っていて、これはでもマルチニしかないだろうって気持ちに最近なってます。行くたびに買おうと思うんですけど手が出ない。買います。買いに行きます。

DU ありがとうございます(笑)。アルゼンチンではもう一タイトル挙げてまして、ロドリゴ・カラソっていうアシィのゴンサ・サンチェスの盟友のシンガーソングライターの作品なんですが。


ロドリゴ・カラソ『オクトゴノ』

君島 これめっちゃ好きです。肌にあってる感じがすごくします。日本の音楽でも海外の音楽でも、ひとりで完結する音楽でありつつ音はすごく開けているみたいなのが最近すごく増えてきている印象が僕あって、これにもそういう空気感を感じたんですが、クレジットを見ると、びっくりするくらい人が加わっていて、これはまたひとつ時代が動いてる感じがするって思いました。

DU ロドリゴ・カラソはコルドバっていうアルゼンチンの都市で活動しているんですけど、コルドバ界隈のメンバーが参加しているだけじゃなくて、世界中の、ブラジルの人とかイスラエルの人とかも参加してたりするような、南米だけじゃなくて世界中の人たちとやっていくみたいなアルバムになってますよね。

君島 メロがすごく綺麗です。ある種その国特有の臭みみたいなものもあるんですけど、どこのものかわかんない感じがして僕は聴きやすかったですね。生活の中に入ってくる感じがすごくします。音響もやばい。6曲目とか1曲目のイントロとかもすごい好きです。アンサンブル自体がすごく特異なことをしているわけではないはずなんだけど、ミックスの感じとかがすごいモダンな印象を受けました。知らなかったです。この人。

DU ちょっと話はずれますが、音楽を聴くときに、メロディーとかコード進行だけじゃなくて、音響っていうのは注目するところなんですか?

君島 すごくしますね。その音響、音像というか、ミックスの感じ。例えば極端な比較ですが、カセットテープに一回落としたものと、すごく上質なスタジオで録ったものとで同じコード、同じメロ、同じ弾き語りの曲をそうやって別にミックスした場合、全然聴こえ方は違ってくるんで。楽典的なものと音響的なもの、ある特定の条件の揃った状態で聴くから映えてくるもの、というのがすごく気になっていて。南米の音楽の場合はそれを意図してやってるのかはわかんないんだけど、音響的な処理もすごく好きです。ジスモンチの初期のころの作品とかもなんでこんなにコンプかけてんだよみたいな(笑)。ストリングスだったりドラムだったりとか、団子になってるけどなんかかっこいなみたいな。南米の音楽って好きでやってる感じが如実に伝わってくる音響をしてる気がして。そのミックスの具合だったりとか、処理の仕方だったりとかが気持ちに実直な音をしている気がしています。J-POPだと絶対ないなと、なんていうか雑な言い方ですけど。最近はこの人もそうですけど、あとFerran Palauの『Kevin』てアルバムが、僕のベストにくいこんでいるんですが、さっきのアシィとかもですけど、意外と無機質な音像、僕がさっき韓国っぽいって言ってたものなんですけど、それが出てきてるのはすごく楽しいなって思いました。音響面でそこにすごく意識的な側面があるというか表出してきているのかなって最近考えることがあります。


FERRAN PALAU『KEVIN』

DU なるほど。じゃあ南米以外の作品についてもコメントいただきたいんですが、特に印象に残っているものはありますか?こちらがお渡ししていたリストでなんですが。

君島 武田吉晴さんは今年、友達に教えてもらって聴いてました。ずっと。6月くらいに気持ちが壊れて、音楽聴けなくなったりとかしてたんですけど、そのときに、知り合いにSpotifyのリンク送ってもらって、ずっと聴いてました。これは。でも僕、詳細全然知らないです。ジャケと音楽の感じからなんか匿名性があるからあまり自分から調べないでおこうと思って、情報を入れないで聴いてましたね。何者なんだっていう感じなんですけど。


武田吉晴『アスピレイション』

DU けっこうアルゼンチン音響派の的な人とも通じるサウンドの人ですよね。日本人ではめずらしいというかあまりいない感じですけど。

君島 そうですね。あとこれも聴いていたんですが、読み方がわかんないんだよなあ。Purnamasi Yogamaya。これは僕、今年の頭あたりにBandcampで買いました。でバンドメンバーに教えたのを覚えています。音がやばくて。あと1曲目が7分あるのに惚れちゃって。1曲目7分の曲もってくる人がいて救われたみたいな気持ちになって。で、わりとチェンバーなんだけど、ジェイムス・ブレイクみたいな瞬間もある。これもめっちゃ聴いてました。でも名前が覚えられなすぎて、あとから探せないんですよね(笑)。3曲目の「Šventosios Upės (The Holy Rivers)」をヘビロテしてました。これめちゃくちゃ好きです。なんでこんなバランスの音が作れるんだろうって。ソングライティングはもちろんなんですけど、エレクトロニクスの感じと生楽器の感じが、アシィとかもそうなんですけど、生楽器と電子音の混ざり具合が有機的すぎて、びっくりする音楽が今年はちらほらあったなという感じがしてまして、その中のひとつにこの3曲目がありますね。これはどこの人でしたっけ。


PURNAMASI YOGAMAYA『OH MY BELOVED』



DU リトアニアの人ですね。

君島 そうだそうだそうだ。めっちゃ好きです。これはも真似したいなあって思いました。悔しいなあって(笑)。おこがましいですけど。いや、めちゃくちゃ好きです。声もすごく好きです。そっか3月か、だからリリース直後に買ってますね。

DU Bandcampで常日頃、漁ってたりするってことですか?

君島 レコ屋が最近一番多いんですけど、その次に多いのがBandcampですね。直でアーティストにお金がいくのがすごく健康的だなっていうところで始めたんですけど。探してて楽しい。本当に昔10代後半にレコ屋で、ユニオンの半額コーナーとかでジャケ買いをしてたときの感覚に近い気持ちで買えるんで。デジタルだから2000円もしないし、新しいものが買えるのでBandcampは大好きですね。

DU このタグで検索してますみたいなものは?

君島 South Koreaですね。空中泥棒が大好きなので。あとレーベル買いができるんで、それがいいなっていうとこですね。


空中泥棒『CRUMBLING』

DU 空中泥棒は音響が変わってますよね。尖っているというか。

君島 本当に何をやってんのかわかんないですね空中泥棒は。音楽を聴くと、音響処理の面でも音楽的な展開の部分でも、ざっくりとですが多分こうやってるんだろうなっていうのはなんとなくわかる方だと自分では思ってるんですけど、空中泥棒は本当に、どちらの面からみても何やってるのかわかんないです。過程が見えないというか。あと送っていただいたシャソール、これは中村佳穂さんからDMが飛んできて、「君ちゃん好きだと思うよ」っていうので送られて聴いたのを今思い出しました。詳細を調べていないけど、これもなかなか奇怪なアルバムだった気が。


シャソール『ルディ』

DU 人の話し声を音楽化するみたいな人ですよね。

君島 そういう人なんですか?

DU そういうところから着想を得てというか、全編そうではないんですけど、音楽として作ってるところと、人の話し声を無理矢理音楽化するみたいなものと両方あります

君島 だからこういうことになってるんですか。なるほど。ちょっとASA-CHANG&巡礼とか思い出したりしたんですよね。そういう美しいエディットの感じなのかなと。あとは、Andrew Wasylykすごい好きでした。初めて聴きましたけど、これはいいなって思いましたね。純粋に気持ちよく聴ける。でもPurnamasiが1番です。この中だと。それとアシィとムーンズ。かなあ。うん。あとアルゼンチンのロドリゴ・カラソ。

DU それ以外だとどうでしょうか?

君島 スヴェン・ワンダー。『Wabi Sabi』のひと。これはすごいいいですよね。箱庭感があってすごく好きだなあと思いました。この人も、どこの人なのかは存じ上げないんですが。


スヴェン・ワンダー『わびさび』

DU これはスウェーデンのたぶんスタジオ・ミュージシャンなんですよ。スヴェン・ワンダーっていう名前も仮名というか、匿名ミュージシャンという感じで個人でもないんだと思います。元々ヨーロッパのライブラリー・ミュージック、職人的なミュージシャンが、テレビだったり映画だったりに音楽をつける仕事をしていたというのを総称するジャンルがあるんですよ。そこにすごく影響を受けていて。民謡とかをテーマにはしてるんだけれどもあくまでムードとしての民謡というか。

君島 にしてはすごいぐいぐいきますよね。

DU (笑)。そうですね。とはいえしっかり日本の文化に精通している人にリサーチをしてかなり真面目に取り組んだらしいです。ただどうしても手に入らない楽器とかがあったんで、それはその中国の琴で代用したりとか。すごい変わったアルバムではあるんですけど。

君島 ロシアのクラシックの作曲家に似てる狂気を感じたんです。

DU 誰でしょう?コンロン・ナンカロウじゃなくてですか?

君島 コンロン・ナンカロウ、も近いですね確かに(笑)。セルゲイ・クリョーヒンていうロシアのクラシックの人がいるんですが、今ライブラリー・ミュージックっていう話を聞いてすごく納得がいきました。彼の音楽にはロックとかジャズをクラシックに取り入れようとして、成功しきらなかった質感みたいなのがあって。体温のなさみたいなのがすごく近いような感じがして楽しかったんですよね。コラージュ感というか。作ってみましたけど、どうでしょう、みたいな。爆発してるのにこっちにすごい委ねてくるみたいな(笑)。無責任な感じがすごい好きかもって思いましたねこれは。うん。

DU あとはリストにないもので加えたいものがあれば。

君島 さっきのハファエル・マルチニのLP、これはベストに加えてもいいんじゃないかな。あとディアンジェロ・シルヴァは前のアルバムもすごい好きで聴いてたんですけど、『Hangout』はいいなって思いました。ティグラン・ハマシアンが僕大好きなので、そこにつながっているような感じで好きでした。


ディアンジェロ・シルヴァ『HANGOUT』



DU では君島さんの年間ベスト10タイトルお教えいただきたいんですが。

君島 アシィが入って、あとFerran Palauの『Kevin』はかなり衝撃的だったので。これもほんとに2、3週間前にラテンのフロアで見つけたんですけど最高でした。でブレイク・ミルズの『Mutable Set』。

アシィ『ミニマス+コンパルティーダス』
FERRAN PALAU『KEVIN』
BLAKE MILLS『MUTABLE SET』

君島 バカラックの新譜、『Blue Umbrella』、あれが素晴らしくて、すごく好きですね。92歳とは思えないみずみずしい作品だなと思いました。


バート・バカラック&ダニエル・タシアン『ブルー・アンブレラ』

君島 ジョックストラップ、っていうミュージカル・デュオみたいなのがいて、それの『Wicked City』っていうアルバム。ミュージカル・デュオって言ってるのはなんでだろって調べたら、2人とも音楽演劇学校を出ていて、1人はトラックメイカーで、1人がヴァイオリニスト兼ヴォーカルなんですけど、トラックメイクも偏執的だし、ヴァイオリンのエディットも偏執的だし、でも曲はすごくまとまりがあるポップスを作っていて、ジョックストラップは今年いいなって思いましたね。


JOCKSTRAP『WICKED CITY』

君島 ジア・マーガレットっていうSSWがいて、2ndアルバムが『Mia Gargaret』っていう名前の頭の字だけ入れ替えたアルバムがあるんですけど、なんかジア・マーガレットが病の為に声が出なくなっちゃって、歌ってない2ndアルバムなんですよ。声をなくした、って帯に書いてあったのがとても印象的で、なんだろと思って聴いたら、歌がない、ほぼシンセのインストなんですけど、それがすごいよくって。あったかくって。最近は声も戻ってきてるらしくて3枚目が楽しみなんですが、2枚目はすごく綺麗でよかった。たぶんこの時期だから出したのかなと思うようなアンビエントな雰囲気の作風なんですけど。歌がいつ始まってもおかしくない。電話越しの声のサンプリングとかもしていて、なんかすごく生活に近い音楽だなと。


ジア・マーガレット『MIA GARGARET』

君島 エイドリアン・レンカーの『songs』。エイドリアン・レンカーはソロの時に変則チューニングをめちゃくちゃ使うんですけど。今回もとても曲が美しかったです。


エイドリアン・レンカー『ソングス・アンド・インストゥルメンタルズ』

君島 あと僕の一押しが、Jo David Meyer Lysneっていうノルウェーのジャズギタリストなんですけど、ノルウェーにHubroっていうレーベルがあって、そこの音源を僕Bandcampで買ってるんですけど、そこはフリージャズとインプロヴィゼーションの専門のレーベルなんですよね。で、このJo David Meyer Lysneは僕と同い年で、でソロ作をいくつか出してるんですけど、コントラバスの奏者とやってるアルバム『Kroksjø』がとても良かったので。モジュラーの即興演奏とチェンバーなインプロヴィゼーションの音源なんですけど、すごくいい。若い世代がインプロヴィゼーションを開拓していこうという気概を感じられるレーベルでとてもいなあと。


Jo David Meyer Lysne & Mats Eilertsen『Kroksjø』

君島 日本の方なんですけど、a子っていうアーティストの『潜在的MISTY』っていうアルバム、EPなのかな。今年の秋頃に出たんですけど、それはとてもよかったですね。J-POPに希望を感じました。中学生ぐらいのときに東京事変のCDを買って、聴いて、1人で部屋で「うわー!」って高揚して、こういう僕を救ってくれる音楽があるんだって気持ちになったんですけど、そのときの高揚を覚えた。女性ヴォーカルの吐息に興奮する。見ちゃいけない場所見てるみたいな。すごくよかったですね。


a子『潜在的MISTY』

君島 あと、さっき言ったHubroというレーベルのKim Myhrっていうギタリスト。これもノルウェーなんですが、僕今一番好きなギタリストなんですけど、日本にもよく来るらしいんですよ。Kim MyhrとAustralian Art Orchestraと一緒にやってる『Vesper』っていうアルバムがあるんですが、これがとってもよかったです。この作品きっかけでこのレーベルに魅了されていって、さっきのJo David Meyer Lysneとかを聴き始めたんです。インプロヴィゼーションって戦いのイメージがあって。自分もたまにそういうところに行ったりするんですけど、1対1で誰かとやりあうみたいなことの経験が多かったせいか、そういう印象を強く持っていたんですが、このノルウェーのレーベルの作品、Kim Myhrの音楽とかを聴いてから、また作曲としてのインプロヴィゼーションみたいなものにすごい可能性を感じていて、即興演奏の枠組みの作り方とか編成の違いだったり、オーケストラとかモジュラーシンセみたいなものを自然に同居している状況みたいなのが結構新鮮で。それをギタリストがやってるっていうのが、すごく僕はなお新鮮で、すごく好きですね。開いた音楽だなと。日本だと閉じた印象がインプロとかにあって、アンダーグラウンドな印象がすごく強くあると思うんですけど。例えばそういうジャンルとポップスみたいなものがすごくシームレスにつながってる感覚をさっきのJo David Meyer Lysne然り、Kim Myhr然りにすごく受けて自分もこういうことがしたいな、と。結果そういうことに繋がっちゃうんですけど。すごく元気になりましたね。日本でもこういうことができる気がするというか。こういう状態が生まれたらいいのにっていうか。これはほんとうに大レコメンです。


Kim Myhr & Australian Art Orchestra『Vesper』

DU Hubroは面白い作品多いですよね。

君島 面白いしなんか音がいいんですよね。ローレン・コナーズとか大好きなんですけど、日本だけで上映されたローレン・コナーズのドキュメンタリー映画があるんですね。それを見たときに、録音方法みたいなのが出てて、あの人テレビつけっぱなしとかで自分の部屋のツインリバーブの前になんか安いレコーダーみたいなの立てて録音したのリリースしてるっぽくって、そういうのも大好きなんですけど(笑)。Hubroはめちゃくちゃ音が上質なのが面白くって聴いてますね。すごくポップだなって印象を受けます。


※ローレン・コナーズ のドキュメンタリー映画『Gestures』のティザー映像

DU 例えば、シーンとして、さっきレーベル買いっていうのがありましたけど、こういうシーンを今は追いかけてるみたいなのはありますか?

君島 レーベル買いみたいなのにハマっていて、さっきのHubroもそうなんですが、Recitalっていうレーベルがあって。Sean McCannっていうアンビエント作家なのかな。がやっているカリフォルニアのレーベルなんですけど、めちゃくちゃ好きで。室内楽みたいなものとアンビエント・テクスチャーっぽいものが融合していて、かつ1作1作がすごくコンセプチュアルで。無くなってしまった都市、貧困層が住んでいたマンション街みたいなもののための音楽を小編成の管弦のアンサンブルと、何で音を出してるかわからないめちゃくちゃローファイなノイズとでアルバムが1作品あったりとか。ぽんぽんぽんって出てるんですけど、このレーベルは肌に合うなと思って聴いてますね。あとLeyland James KirbyのThe Caretakerの「Everywhere At The End Of Time」っていうシリーズものの6部作が去年完結したんですけど。これから彼が何をするのかなっていうのがすごく気になっていて。前作のシリーズがアルツハイマーになった人が頭の中で見ている景色を6枚の作品を使って、その過程を描いているんですけど、それがすごく素晴らしくって。他の人のリミックスとかもしてるんですけど、全部Leyland James Kirby色に完全に染め上げていて、でもどうやってこの音像になっているのかはわかんなくて。この人が次何をするのかっていうのはいつも気にしていますね。あとはさっきの韓国のシーンですかね。韓国のインディーシーンはいつもチェックしています。バンドもトラックメイカーも。



DU
やっぱりそういうご自身で追いかけてる音楽っていうのはご自身の音楽にも影響を与える部分が多いんでしょうか?

君島 そうですね。ただ音楽それ自体の感動はもちろんなんですけど、それ以外に何か見えてないと僕は嫌で。景色が見えたりするものがすごく好きなんですよね。自分が思い出せなかったことを思い出したりとか。自分の記憶だったり感覚とかにすごい急接近してくるものとか。それを、自分の中にあるものをすごい遠いところから見せられてる気持ちになるのがさっきのRecitalっていうレーベルだったり、Kim Myhrの音楽だったりとか、The Caretakerだったりっていう感じがすごくしていて。韓国のシーンもそうなんですよね。余白のさみしさみたいなものがすごく自分と被る感じがしていて。そういうものを選んで聴いてるんだろうなって思いますね。

DU 南米というかワールド範疇で選んでいただいたものも、君島さんらしいなっていうものがすごく多かったんで、すごい納得しましたね。

君島 なんかとても共感してしまうんですよね。おこがましいですけど。さっきのPurnamasiさんもそうですけど、その感じはなんか知ってるなーっていう。そのジャケ、そしてこの音でこの映像を立ち上らせるならなんか友達になれる気がするみたいな気持ちになるんですよね。アシィとかFerran Palauとかもそうですけど、なんかすごく1音1音の処理に意味がありそうな気がするものってすごく好きで。過剰なエディットが好きなわけではなく、処理の丁寧さだったりのところに歌詞、言語を超えた部分の歌みたいなものがある気がしていて。メロディーとは別のベクトルで、ここの余韻を残した意味がすごくあるんだろうなみたいなものが感じられたのがアシィだったり、Ferran Palauは余韻みたいなのが極端になかったり、編成もすごく小さかったり、すごくポップだけどそういう翳りみたいなものを感じた気がするんですよね。悲しさみたいな。日本人の詩性にすごい近いものを感じる瞬間があって、言葉はわからないんですが、この2作はそれがあったなと。

DU ありがとうございました!


取材:2020年12月10日ZOOMにて



君島大空(きみしま おおぞら)
1995年生まれ、日本の音楽家。2014年から活動をはじめる。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし、多重録音で制作した音源の公開をはじめる。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。4月には初の合奏形態でのライブを敢行。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日、『FUJI ROCK FESTIVAL'19』 ROOKIE A GO-GOに合奏形態で出演。同年11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ・NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。2020年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を、同年11月11日にはEP『縫層』を発表。ギタリストとして、高井息吹、坂口喜咲、婦人倶楽部、吉澤嘉代子、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、劇伴、楽曲提供など様々な分野で活動中。