XENIA FRANÇA - シェニア・フランサ オフィシャル・インタビュー

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2018.03.21

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*シェニア・フランサ「プラ・キ・ミ・シャマス?(呼びつけないで)」 - アルバム『シェニア』より

 



■ INTERVIEW with XENIA FRANÇA


Q. どんな音楽に影響を受けましたか? 子供の頃から今に至るまで、どんな音楽を聴いて育ちましたか?

私はブラジル北東部バイーア州の出身で、常に音楽が溢れている街です。私たちの腰を揺するような歩き方からお分かりいただけるかと思いますが、カンドンブレの文化や音楽が常に身近にある環境ということもあり、リズムやダンスが、自然と多くの人に影響を与えているのです。これはバイーアに限らずブラジル全土について言えることですが、アフリカ移民が持ってきた文化こそが、この国の持つ最も重要なカルチャーの一つであると思います。バイーア音楽は基本的にプレッタ(ポルトガル語で黒の意味。ブラジリアン・アフロ、ブラック)音楽です。バイーア出身の私は、この音楽とは切っても切れない関係なのです。

私の音楽遍歴について話すと、音楽大学を卒業したとか、特にそう言った経歴はありません。私の父、ジョルジ・フランサは昔少し音楽をしていて、ギター弾きのヴォーカリストとして活動していたこともありました。もしかしたらそんな父の影響があったのかもしれません。子供の頃は、ラジオでかかっていた音楽を聴いて育ちました。当時はサンバ・レゲエ(Samba Reggae)とか、レゲエ、ブラジル全土のサンバがかかっていました。バイーア出身のブラジリアン・アフロ・グループ、イレ・アイェ(Ilê Ayê)、オロドゥン(Olodum)、ムゼンザ(Muzenza)などもよく聴いていたし、そういった音楽は、人種差別や、黒人としての誇りなどを歌った、質の高い詩が多く含まれていたのもすごく印象的です。

私が子供の頃から好きでたまらないのはマイケル・ジャクソンで、敬意を込めて祭壇に彼用のお供え物を置いているほどです。アメリカの所謂ブラック・ミュージックと言われるものはずっと大好きで、確実に影響を受けたと言えると思います。スティービー・ワンダー、ダイアナ・ロス、ホイットニー・ヒューストン、エラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリディ、エリカ・バドゥ、エスペランサ・スポルディングなどが挙げられます。ブラジルのアーティストでいえば、ジャヴァン、ジルベルト・ジル、カエターノ・ヴェローゾ、ミルトン・ナシメント、エリス・レジーナ、エルザ・ソアーレス、モアシール・サントス、マルガレッチ・メネゼス、オルケストラ・フンピレーズ、マリーナ・リマなどです。子供の頃から音楽に感動を与えられていたし、じっくり聴いて自然と涙を流したりもしていました。今でも音楽がそういった感動を与えてくれることは変わっていません。

ここ4年ほどはキューバ音楽に傾倒しています。アフリカ出身のキューバの打楽器であるバタをこのアルバムで使ったのも、美しい文化を持ったキューバの人々へ向けての賞賛の意を込めています。

*イレ・アイェ


*オルケストラ・フンピレーズ

 

Q. アルバムの中で聴けるネオソウル的なビートを入れるというのは、誰のアイデアでしょうか。

プロデューサーのロウレンソ・ヘベッチスとピポ・ペゴラーロと話し合った上、私たちで決めました。アルバムを作ると決めてからミーティングを重ね、どのような影響を取り入れた作品にしたいか構想を練りました。おっしゃられたようなビートは、私たち3人が考えていた共通項目の一つでしたが、そういったアフロ・アメリカンのビートにブラジルのパーカッションが加わったことで、この独自のサウンドが仕上がりました。

*ロウレンソ・ヘベッチスのアルバム『オ・コルポ・ヂ・デントロ』より


Q. アルバムの中にはユニークなアレンジが聴ける楽曲がいくつか見られます。例えば、コンテンポラリーな管楽器アレンジが聴ける「ド・アルト(丘の上)」、詩にハーモニーを乗せる手法が聴ける「ガルガンタ(喉)」など、どういった経緯でこのようなアレンジが生まれたのでしょうか?

5曲目「ド・アルト(丘の上)」のアレンジはロウレンソ・ヘベッチスが書きました。数年前、私たちはハヂオ・ガナ(Radio Gana)というジャズのスタンダードやブラジル音楽を演奏するバンドをやっていて、その中のレパートリーの一曲にハービー・ハンコックの「バタフライ」がありました。私たちはこの曲のバス・クラリネットのアレンジが大好きで「ド・アルト(丘の上)」の構成を考えていた時に、まさにこのアレンジを思い出し、その影響を入れることに決めました。

6曲目の「ガルガンタ(喉)」に関しては、アルバムを作り始める前から詩にこういった形で音を乗せるアイデアがありました。ハーモニーとドラムが詩そのものに乗るスタイル。アメリカ人のベーシストでモノ・ネオンという人がいて、よくユーチューブでその人の動画を拝見するのですが、その人がこういったスタイルで人々のスピーチなどにベースを載せる動画をいくつもアップしていて、いつも好きで見ているのでその影響もあったかもしれません。

*ハービー・ハンコック「バタフライ」

 
*ハヂオ・ガナ。こちらはフェルナンダ・ファヤというシンガーをフィーチャアしての「処女航海」カバー。

*モノ・ネオン&ロバート・グラスパー


Q. アルバムを通じて、一番伝えたいメッセージはなんですか?

私はブラジルに生きる黒人女性です。それは、とてもとても大変なことです。ブラジルは今でも社会的に非常に深刻な問題を抱えており、それは私たち黒人女性が普通に生活すること、何かを達成しようとする上で障害となるようなことばかりです。

このアルバムを作るにあたって、ブラジルに生きる黒人女性が抱える数多くの困難や社会的差別を何とか表現出来る方法をあらゆる方面で探していましたが、ある時、それは私自身が一番知っていて、私の肌の中に染み込んでいるものだと気がつきました。文化的な自分の位置を守ること、フェミニズム、人としての愛情、黒人女性としての孤独さ、アフリカの先祖からの価値、プライドや誇り。具体的にはそういったものが挙げられます。そして、それらを整理し考え直したことで、人種差別や女性差別の意識を持った人々にされてきた数々の行為がもたらしたトラウマや衝撃を、少しずつ見つめ直すことができました。

そういった意味でこのアルバムは、私自身の自己治療であると同時に、これを聴いたすべての人、そういった差別に悩んでいるすべての人に、少しでも孤独を感じて欲しくないという想いで作ったとも言えます。
 

Q. アルバムを通じて、ブラジリアン・アフロの影響が非常に大きく見られます。あなたにとってブラジリアン・アフロ(カンドンブレ)とは? またそれらは、日常生活の中であなたとどんな関係がありますか?

私がバイーアで生まれ育ったことと、アフリカから来た様々な文化の要素、つまりカンドンブレの文化や思想が私の基盤になっていると言えると思います。私たちがよく食べる食事にはデンデヤシの油(*1)が多く使われますし、カンドンブレのリズムはバイーアの音楽にも体の中にもすり込まれています。葉のシャワー(*2)を浴びる文化が普通にあるし、そういったすべての神秘性が、オリシャ(*3)と深い関係を持っていて、私たちバイーアの人たちの想像力の中に染み込んでいているのです。このアルバムでは、それらすべてが自然と現れているのが感じられると思います。

音楽の仕事をするにあたって、こういった私の軸となっている文化へ賞賛の意味も込めて、ここまで自由に表現をすることができたのはすごく嬉しいことです。アルバムの中で聴けるタンボール(打楽器)の数々とその後ろで聴ける詩やストーリーは、学校では決して教えてくれないようなことばかりです。そういったすべての要素が、私の中に崇高なエネルギーを運び込んでくれ、その音が私を宇宙の彼方にトリップさせ、アフリカから来た私の先祖代々の人々のことを想像しては、ただただ感謝の気持ちが溢れてくるのです。多大なる敬意を込めて過去を見つめ、今というこの瞬間を全力で生き、永遠というものの素晴らしさを感じながら将来を見つめる、そんな風に生きています。 アシェ!(カンドンブレの言葉で、力、フォースの意味)
 
*1 - アフリカやブラジルのカンドンブレ文化に影響を受けた食材。
*2 - カンドンブレの文化で、お湯につけた葉っぱでシャワーを浴びる儀式の一つ。入れる葉っぱの種類は「オリシャ」と関係しており、その際にする唱えごとや葉の種類によって効能が変わると信じられている。
*3 - カンドンブレ、ウンバンダで信じられているアフリカの神たち。
 
(インタビュー、翻訳:村上達郎

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