【特集】女性ヴォーカリスト、Michal率いる日本随一のシンフォニック・メタル・バンド、ANCIENT MYTHにロング・インタビュー!!

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2021.07.02

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7月7日に最新作『ArcheoNyx』のリリースを予定する、東京拠点のシンフォニック・メタル・バンド、ANCIENT MYTHへインタビューを敢行!


結成は2002年に遡るが、現在は2008年に加入した女性ヴォーカリストのMichal(ミカル)を中心に、ワールドワイドな活動を展開。これまでの集大成といえる2016年のリ・レコーディング・ベスト・アルバム『Aberration』は、日本の他CDと配信共にヨーロッパでもリリースされ、同年には初めての海外公演をMetal Female Voices Festにて行った。翌2017年には初めてのヨーロッパ・ツアーを、イタリアのTEMPERANCEらと共に行い、ドイツ、ベルギー、フランス、オランダなどで10公演を完遂。その後、国内ツアーやイベント出演などを行いつつ、中国や韓国へも遠征し知名度を高める。今回メンバー・チェンジが相次いだものの、バンドの軸は不変のまま強化された作品を発表する。


待望の新作について、これまでの活動、自身が属するメタル・シーンの変遷、影響を受けたカルチャーやそれを昇華した幻想の世界観等についても、Michalさん (Vo)とHalさん (Key)にお答えいただきました。
 


Current line-up is:
L→R

Hal (Key)
Michal (Vo)
Shibuki (Ds)
Kohei (Gt)



---新作『ArcheoNyx』についてまずお聞きしたいです。タイトル『ArcheoNyx』は夜をモチーフとしているのですか?


Michal:これは造語なのですが、ギリシャ神話の夜の女神「Nyx」(ニュクス)に、「古代の〜」の意味を持つ接頭辞「Archeo」をくっつけています。


---前作から約5年振りのリリースですね、この間を振り返るとどのようなことが思い出されますか?


Michal:『Metal Female Voices Fest』というベルギーの女性ヴォーカルの大規模なメタルフェスに出演(‘16)したり、ヨーロッパツアーや中国や韓国のフェスに出たりしました。また来日したバンドの前座をしたり、ともにツアーをしたりする中で、「世界の猛者と渡り合うためには自分の実力の底上げが必要だ」と思い、声楽を本格的に学び始めました。音域も広がりましたし、オペラヴォーカルとロックヴォーカルの使い分けがうまくできるようになりました。また、アレンジ面に少しでも何かフィードバックできたらいいな、と思ってヴァイオリンの教室にも同時に通いました。2018~19年にはCD-Rでデモを3曲、会場限定販売したり、一部をYouTubeで公開しています。


---ヴォーカル・スタイルがかなり多彩ですね、意識したことだったりインスパイアされた事、文化などはありますか?


Michal:声楽を学び直したことをきっかけに、『曲の主人公がどんな気持ちでどんな声で歌っているのか』をより一層意識するようになりました。クラシックでは、楽譜上に強弱や歌い方/表情についての指示が書かれているので、声の使い分けを明確にするきっかけだったかもしれません。他には、同じく多彩な「声」を操る声優さんにも注目しました。特にすごいと思っているのが、同じ作品の中で1人で何役もこなしたりする山寺宏一さんで、彼のいろんな声を聴き比べて得たヒントもありました。


---「天狼大神」は日本を強く感じさせますが、海外ツアーなどで自身がアジアや日本のバンドであるのを再認識したためでしょうか?


Michal:半分はその通りです。私はヴァイキング・メタルやペイガン・メタルも結構好きなのですが、自分にない「民族性」が新鮮で興味深く響くのだなと感じています。なので、私たちのメロディーや音使いの中に、「日本らしさ」というものが特に何もしなくても潜んでいるのかとは思いますが、あえてもっと「日本らしさを感じさせる曲を」と思って作りました。


Hal:実際は、海外ツアーをする前の『Aberration('16年)』の製作段階で、Michalの作ったデモがありました。ちなみに日本らしさを出すために日本古来の音階を使うという手もありましたが、わざとらしいというか、クセが強くなるのでやりませんでした。ですが「和楽器は入れたい」と要望があって、尺八の生演奏を収録しました。ちなみに『Aberration』は元々、色んな国、色んな民族要素を出したいとMichalに言われましたが、付け焼き刃って感じになってしまうのを避けたかったのと、それはそれでANCIENT MYTHじゃないんじゃないの?と思ったのでそうしませんでした。「Skoal!」にフィドルって感じのヴァイオリンは入れましたが。


Michal:昔から格闘ゲームが好きで、格ゲーの音楽も大好きで。カプコンもSNKも、どっちも好きなんですけど、格ゲーの代表格はやっぱり『ストリートファイター』じゃないですか。あれはステージ毎の音楽に各国のカラーがあるんですよ。リュウは日本らしいし、ケンはアメリカっぽいし。サガットは良くわからない…タイか!(笑)。格闘系の曲だからアップテンポで、バトル要素がある中にも、各国のテイストがあるのが好きだったから、そういうのもやってみると面白いのかな?と思ったんだけど。


Hal:それはメタルとはまた別だからね。ゲームの中で色んな国を巡るから、その音楽が合うのであって。ゲームをやってる人とアルバム聴く人は違うから って言ったんだよね。だけど日本のメロパワとして「天狼大神」ぐらいの感じだったら変じゃないかなあと。


---なるほど。自分が日本人であることの意識を、うまくANCIENT MYTHの世界観に落とし込んでいる風に聴こえますね。

 

Hal:実は「天狼大神」の「ハッ!ハッ!」って掛け声も、格ゲー由来なんですよ(笑)。
パンチや技を「ハッ!ハッ!」って出してる声(笑)。デモの頃から、明らかに「ゲームから拾っただろ」みたいな音が入っててね(笑)


Michal:そう、拾いものです(笑)


Hal:だからライヴでコーラスする時、思い出してニヤニヤしちゃいます(笑)


---ファンタジー・ゲームの世界観かと思いきや、格ゲーの方なのは意外です。


Michal:あ、私はやっぱりその両方かな。初めて言いますけど、「天狼大神」は『大神』っていうカプコンのゲームからヒントを得ていまして、あれ天照なんですよ。色々な神話等を調べていると、狼は日本では神様なんだけど、ヨーロッパでは悪魔だったり悪者扱いされている。何故かというと、日本は古くから穀物を育てる国なんです。害獣を駆除してくれるのが狼で、その言葉自体が「大きい神」と書いた「大神」だと。でも西洋人は肉食だから、自分たちの取り分、羊とか食べてしまう狼は悪者扱い。その西洋と日本の違いがあったから題材としたくなりました。

 

 ※ショート・デモ・バージョン

 

---基本的なバンドの事についてもお聞きしたいのですが、ANCIENT MYTHは嬢メタルのシーンでいうと、オリジナル世代のバンドといってもおかしくないですよね?


Michal:そう…なんですかね? あくまで身近の話になってしまいますが、私が大阪でバンド活動を始めた頃でいうと、周りで女性ヴォーカルで先に活動されていた方は、Fairy Mirrorぐらいでした。KING RECORDSから近々アルバムがリリースとなるソロ・シンガーのSaekoさんがまだ在籍されていました。


---活動しているうちに周りに女性メタル・ミュージシャンが増えてきたなと。


Michal:そうですね。男性ばかりだったから、女性は窮屈な思いをしていた部分も最初はあったわけですよ。着替えとか、今でこそセパレートしている部分はあるけれど、昔は大部屋一つで「楽屋!」て感じだったから(笑)
そんな状況の中「数少ない女性メタル同士で仲良くなろうよ」みたいな感じで、女性メンバーがいるバンドを盛り上げたくて、2010年前後にファンジンの『Noir(ノワール)』を立ち上げました。
※国内インディー・メタル・レーベル:Black-listed Productionsとの共同制作で作られた雑誌。Aldiousを最初に大きく取り上げたほか、初期の嬢メタル・シーンの盛り上げに尽力した。


Hal:これが、初めて女性のメタル・バンドにメディアとして着目した感はあったよね。大手の雑誌がまだ特集していないころで…。


---それは凄いですね。Noirはまたやらないんですか?


Michal:大変だしもうやらない(笑)


---Aldiousの1stフル・アルバムのリリースが2010年なんですね。やはり当時の盛り上がりについてご自身の肌で感じていましたか。


Michal:Aldiousを『Noir』で特集した号を読んだHMVの方が気に入って、連絡をくださって、(Aldiousの)レーベルの人と繋いだりとかもあって、中間的な、皆の発見になる媒体にはなっていたと思うんですよね。女性メンバーがいるバンドだけでイベントをやったりすると、どんどんお客さんが入るようになって。


---それは昔から日本のメタル・シーンを追っていた方が移っていった感じですか。


Michal:きっとそうですね。「女の子のいるメタル、面白そうじゃん」てなったり。もちろん「女性だから持て囃されるのはおかしい!」と硬派な方も今も昔もいるのはわかりますけどね。


---その初期のシーンが次第に浸透していって、大手出版社から取り上げられるようになっていく。その中でご自身のバンドはどういった立ち位置にしようと思っていたのですか。


Michal:これはあまり載せられない情報かもしれないのですけど、今の嬢メタル・ファンと呼ばれるような方が求めているのって、音楽(の質)じゃなかったのかな?と感じてしまってるんですよね。


---ファンと接していく内にそう感じるようになったのですか。


Michal:「空気感が違うな」というか。他のメタル・バンドをいっぱい聴いて、それぞれを音楽性や芸術性の高さで評価していた方が、急に国内の嬢メタル・バンドを前にすると、その評価がめちゃくちゃ甘くなるんですよ(笑)。それが凄く不思議で。そういうシーンになっちゃったんだ、と思って。もちろん質の高いバンドもたくさんいますけどね。


Hal:初期の段階でシーンを裏からも表からも盛り上げて、そういった背景があって、今の若手の女性メタルバンドがたくさんいる状況を見ていると、複雑な思いがあると思うんだけどね。そのへんどうなの?自分もポーンと(上に)行きたかった? と突然ぼくから質問(笑)


Michal:私は向いてなかったから。今でよかった。私はライフ・ワークとして、ずっとメタルを続けていく気持ちがあったから。
マイノリティでもいいんですよ。そもそもメタルが好きな人たちって、「皆が好きなものと違うものが好きな俺カッコいい」って。「俺だけが良さを分かっている」みたいな。そこは残したかったし。


---おっしゃる通りでANCIENT MYTHは、ハマる人がハマる音楽だなと思います。実際に販売員だった身からすると、メロディック系のシーンを長く追ってきたような方が買ってくださるんですよね。だから嬢メタル/女性ヴォーカル・メタルといえども、しっかりと音楽性で評価する層にも響いているのだなと。聴きたい理想像が自己に確立されているような方にしっかり響く音ですよね。


Hal:嬢メタルってヴィジュアル系と似たようなもので、音楽ジャンルを指す言葉ではないと思うんですよね。シーンと、お客さんも含めた棲み分け。だからそこ(嬢メタル)には収まりたくはなくて、どう聞いてもシンフォニック・メタル、メロディック・パワー・メタルな音楽性となるようにしました。「ただ女性が歌っているメタルですね」とはならないように、シンフォニック要素やメロスピ要素なりを強く出そうとは意識しました。


---音楽ジャンルといえば、オリジナル・メンバーのMittuさんがリーダーだった時代はどのような系統のメタルでしたか?


Michal : 割とストレートなメタルに近いところから始まり、徐々にクラシカルかつゴシックな要素が混ざって、最初のミニ・アルバム『Antibes』('05年)ができたようです。その後、私が'08年に加入するのですが、ライヴ向けによりスピード感のある曲を作るようになり、だんだんメロディック・スピード・メタルに近づいてきました。


---Michalさんの元々いたバンド(Mandylion)とサブ・ユニット(Codename:Wingless)も方向性といえますか?


Michal:Mandylionは、もっとRHAPSODYやANGRAの方面に寄っていたように感じます。ただ、アルバムは残せていないので、もし続けてアルバムを作っていたらどうなっていたかは、神のみぞ知る部分ですね。Codename:WinglessはMandylionよりはもう少しゴシックな雰囲気でやっていました。


---主な影響源などを、改めてお聞かせください。


Michal:私が大きく影響を受けたバンドは、やはりKAMELOT、初期のDARK MOORや初期のSONATA ARCTICA、RHAPSODY (OF FIRE)、EVANESCENCE、NIGHTWISH、LABYRINTH、FAIR WARNINGあたりでしょうか。ジャケットやミュージック・ビデオの世界観も重要で、同じパワー・メタル系でも、マッチョな感じを前面に出したようなバンドはあまり好きになれなかったんですよね。「ジャーマン・メタル」と言われていたバンドよりは、その後の'90年代後半から2000年代始めのメロディック・パワー・メタル・バンドが好きですね。


Hal:一番好きなメロディック・パワー・メタル・バンドは、RHAPSODYです。あ、でもやっぱり自分のメタルの入り口でずっと一番好きなバンドであるX JAPANです。


---幻想、神話等をモチーフとした歌詞の世界観についてはFINAL FANTASY(以下FF)なども影響源の一つと過去のインタビュー記事でおっしゃってましたが、具体的なタイトルや曲はどのあたりになりますか?私もゲーム音楽はメロディック・メタル界隈との親和性があると思っています。FF VI の「妖星乱舞」やブレイブリーデフォルトの「地平を喰らう蛇」とかシビれますよね。


Michal:FFは4~8、10の曲が特に好きです。伊藤賢治さん、新世界楽曲雑技団(SNKサウンドチーム)、ALPH LYLA(カプコンサウンドチーム)から受けた影響も大きいですね。ドラゴンクエストの楽曲も大好きなんですけど、影響が出た部分は少ないかもしれません。


Hal:FFの作曲家、植松伸夫さんの音楽が好きで昔ファンクラブも入っていました(笑)。その後ゲームをやらなくなったりしましたが、サントラは買い続けています。Michalと同じく伊藤賢治さん、すぎやまこういちさんも大好きです。あとは悪魔城ドラキュラシリーズや、カプコンだと『天地を喰らう』とか『エリア88』が最高ですね。どちらも戦闘の曲などで、アップテンポながらも悲壮感がある曲が多く、メタルと通じる所があると思ってます。

 

 

---さて、先日「Chaos to Infinity」のMVが公開されました。アルバムのオープニングを飾るスピード・チューンですね。


Hal:アルバム全体のオープニングを意識して、大きいイントロでドカーンと始まる感じが欲しかったんで、この位置(曲順)にしたのですが、元々このイントロのメロディーはずーっと前から僕の中にあって。バンド活動するより全然前で、2002〜03年ぐらいにはこのメロディーがあったんですよ。スペインのRED WINEというバンドを聴いて「クサいメロパワって良いなあ」と思ってた時に、この大仰な感じが欲しいなと思って、作ってみたら「できた!」ってのがこれなんです。それをやっと使う時が来た、と(笑)。
スパニッシュ・メタル特有の、日本の歌謡曲や演歌にも似た、そういうクサいメロディーのバンドが結構好きで。OPERA MAGNA、SARATOGA、AVALANCHもそうだし、Mägo de Ozとか、メロディーに芯の通った感じ。それがメロパワの一番の良さだと思うので。でもスパニッシュ・メタルほどお祭りテイストにはならないようにしつつ。そのバランスはうまくとれたかなと思っています。


---映像についてはいかがでしょうか?


Michal:MVに関しては、これまで同様に私がストーリーや衣装を決めていまして、今回も曲のイメージから考えて、宇宙っぽかったので(笑)。混沌(Chaos)から始まって、宇宙ってどこまで伸びているか分からない(Infinity)というのを題材としていて。演奏シーン以外の所でどう見せられるか頭を悩ませたんですけど。今回は「神話の主(あるじ)、変わるだろう」という歌詞があって、宇宙のスケール感の中で、黒い衣装の人物から次世代である白い衣装の人物に、力の象徴である杖を継承するシーンがあったりする内容になってますね。


---今回のアルバムは全体的に宇宙に想いを巡らせるような感じですか?


Hal:歌詞は、やっぱり聞き手が共感できることが大事だと思いますが、隣の三丁目だの五丁目だのの話はしたくないんですよね。もっと普遍性がある方がいいかな、と。他の人がいつの時代に歌っても、その曲に入り込めるようなのが大事かなと思うので。


Michal:宇宙と神話は非常に密接だと思うんですよ。多くの星座の名前がギリシャ神話由来だったりしますし。我々、ANCIENT MYTH(古代の神話)と名乗っている以上、神話やら伝承を題材にすることは多いのですけど。古来より人は、空のものは操れない、自分たちには手出しのしようがないところだからこそ、なおさら神聖だった訳ですよね。そういった意味で、先ほどHalが言っていたように、俗っぽさから離れたかったのも含めて、そういう方にテーマが向いてますね。


Hal:歌詞は全曲自分も一緒に考えたんですけど、今言ったようなテーマがあった上で、歌っている人やMichalの事も想像できる歌詞が良いなあと思っていて。架空のドラゴンや王様の話も大好きだけれども、登場人物の心情が掴めるような、もしくは老若男女問わず誰が歌ってもおかしくないような作り方を意識しました。


---4曲目「Song of Siren」は歌詞がほぼ平仮名ですが、これはどういう理由でしょうか?


Michal:セイレーンが人間に恋をしてしまい、その気持ちを歌った曲なんですよ。難しい言葉や文字を知らない種族が書いたことをイメージしています。


---なるほど。これを歌っているMichalさんは、セイレーンの物語を想う悪魔のイメージなのですかね?


Michal:この曲に関しては私がセイレーンになりきってます。


---そうなんですね。


Michal:どちらかというと私は色々な物語の主人公の憑代(よりしろ)とか代弁者的な部分があるんですよ。色々な魂が私の肉体に乗り移ってくれている。ヴォーカリストとして発信している部分もあるけれど、この曲の物語の主人公に体を貸してあげているみたいな。


---アンテナに過ぎないと?


Michal:そういう部分も含めて人間よりも悪魔的な存在としていますね。


---それでいうと宗教とか民俗学的なイメージが強いですね。シャーマニズム的な話とか。


Michal:本題とズレるんですけど、そもそも音楽って起源として儀式とかだったりがあると思うんですけど。ビートを生み出して、皆で踊って熱狂していくうちに、自我を手放すわけじゃないですか。その時にご神託がパッと入ってくるわけですね。無意識の中にリンクできるというか。集合意識の中に入っていけるというか。


---宇宙との対話というか。


Michal:自分ではない意識を入れるためには、高揚しなければならないというか。その部分も蔑ろにできないというか。あまりにもボーカリストの自我があると、会場でお客さんとぶつかり合ってしまうというか、会場で一体となりたいというか。


---鳴らしている音と自己との間に、宇宙との対話みたいなものが生じていて、それを多くのリスナーと共有したいとかそういうことですかね?自分の想いを届けるという方向性ではないような。


Michal:演奏してその意識を共有したいというか。その中でアンテナ役をしているというかね。それでいえばシャーマンの立ち位置が近いのかもしれませんね。


---3曲目「River of Oblivion」はShibukiさん(Dr)の作曲ですね。聴くとブラスト・ビートとかもすごく叩ける方っぽいと思うんですよ。これまでとは違ったアプロ―チになるのでしょうか?


Hal:彼はメロデス系も大好きなので、ブラストもやれますね。それでANCIENT MYTHとしてもドンドンやってもらおうと。速いテンポは大歓迎です(笑)


---作曲の割合としてはそれぞれ何%ぐらい担当しているのですか?


Michal:今作に関しては、私とHalでほぼほぼ出来上がったのでね。Koheiくんも次作で作曲をしてみたいとは言っているんですけど。


---ではお二人で50:50ですか?


Michal:その割合はパッと答えづらいですね。作詞も、下書きをデータで共有してお互いに書き換えたりしていて、作曲もデータで投げ合って、「これどう?」とか「ここにこの音が欲しい」とか「やっぱこうしてほしい」みたいにしているので。作曲に私一人がクレジットされている曲も、編曲の大部分をHalがやっていたりもするので。


---それではこれまでの作品と比較すると、Halさん独自のメロパワ愛がふんだんに盛り込まれているといっても過言ではないと。


Hal:盛り込んじゃいましたね。「Chaos to Infinity」「Zenith」とかは完全に。


---元々はXがメタルの入り口だったんですよね?そこに通じるプログレッシヴな展開も今作は聴きどころとなっているように思います。


Hal:やっぱりXの風味は出てしまいますね。ロックやバンドサウンドで初めて好きになったのがXなんですけど、Xを知る前からクラシックピアノをやっていたのもあって「ピアノもロック・バンドに居ていいんだ」といった面でも好きになりましたからね。ついピアノを入れたくなります。プログレッシヴ感は僕の中ではないと思っていたんですが、感じますかね?


---やっぱり展開の多さとか繋ぎの部分に感じますよ。
しかしながら魅力的なギターソロが多いですね。それにそれを聴かせるための展開の巧さはやはり特筆すべき点に思います。


Hal:ありがとうございます。ギターソロは、どの曲も作曲者がフレーズまで作り込みました。僕が一番好きなギタリストは、VOLCANOのギタリスト屍忌蛇さんなので、同じような「歌えるギターソロ」、「泣けるギターソロ」を目指しました。
Koheiくんが加入した時にはすでにギターソロもできあがっていたので、それを覚えてもらい、彼なりのニュアンスを付け加えてもらいながらも、忠実に弾いてもらいました。ゲストのHIZAKIさんの部分は、仮のアイデアは作って渡しましたが、結局は本人の好きなように弾いてもらいました。今後は、ギタリストなりの発想とか、僕らの知らない究極の速弾きとかあるかもしれないので(笑)、次の作品ではKoheiくんに弾きたいように弾いてもらうかもしれないですし、Koheiくん自身の曲も次作にはきっと収録されると思います。


---HalさんはVOLCANO/哀旋士/Versailles/KAMIJO等の音源制作も手掛けていますが、表立っては言っていないですよね。あくまでも裏方という意識ゆえにでしょうか。


Hal:ANCIENT MYTHに入ってHalと名乗る前だったので、本名での表記だったり、携わった内容がそもそもクレジットされてないこともあるので、わざわざ表立って言ってなかったわけです。大きいバンドの名前に寄りかかってる印象もよくない気がしたのもあって…。最近ようやく個人のホームページにDiscographyを載せました。思い返せばたくさんアレンジしてたくさんレコーディングしましたね。いろいろ経験させてもらいました。MVも何本か出てるし(笑)

Halさんのサイトはこちら
HAL MUSIC


---ちなみに「ANCIENT MYTHはヴィジュアル系とされることもある」とWikipediaにはあるのですが、Xの影響だったりお化粧をなさっている点も、そう言われる理由なんですかね。


Hal:化粧は全く抵抗なくやってるけど、別に「ヴィジュアル系をやりましょう」と言ってやってる訳ではなくて。ただメタルをカッコよくやりたいというのがあって。世界観というか雰囲気がゴシック寄りやシンフォニック寄りだったりすると、自然と服装も髪型も作り込む形になって、そうなるとメイクもしたほうが良いなってだけであって。


Michal:私の考えとしては、メタルと聞くとDMC(漫画:デトロイト・メタル・シティー)みたいなのを連想する人がいるぐらいに、本来はアイコン的存在であるべきだと思いますね。


---聖飢魔IIなど


Hal:大好きです(笑)


Michal:あれぐらいキャラが立っているべきだし、パッと見て分かりやすいじゃないですか。それと戦闘準備でもあって、衣装に着替えて、顔を作ったりというのは。人様より一段高い所に立たせてもらうのだから。とりあえず長髪だったら良いとか、そういう話ではないと私は思うんですよね。オリジナリティというか。よそのバンドのTシャツを着たままステージに上がることに違和感を覚えていて。


Hal:今の炎上しそうだけど(笑) まあ、他のバンドのTシャツを着たりするのは、リスペクトや応援の意味だったりするみたいだけどね。で、そんなわけで、音だけでなく見た目やステージ自体も作り込んでいけたら良いよね。バックの映像とか含めてやっていきたくて。そういやこの前のライヴもそういう映像と合わせて、というものにチャレンジしました。作ってくれたのはMichalですが(笑)


---配信ライヴとは相性が良さそうですね。


Hal:コロナ禍で遠くに行かれない分、海外に向けてもそういう配信をやっていきたいですね。


---Michalさんはデザイナーとしても活動していますよね。今作のフィジカルとしてのこだわりがあればお聞かせいただきたいです。


Michal:ブックレットなどのアートワークは今回も私がデザインしていますが、私はCDやゲームを買って「ブックレットも良いなあ、メッチャ綺麗やん」って育ってきた世代で、まだまだそれが好きだし、その良さや感動は次の世代にも感じてもらいたいです。それに、デザイナーが自分だと、作り込める部分は自分の限界までこだわって手を加えられるんで、細部までこだわって作りました。早く手にとってじっくり見て欲しいです。


Hal:曲/歌詞ごとに世界があるわけだから、ブックの方でもその世界を感じられるように、ページ数を増やしてカラーにして、絵本のような仕上がりにしてもらいました。帯もレーベルに相談して、デザインをゼロから作らせてもらいました。これもやってくれたのはMichalですが(笑)


---アルバム全編を通じて様々な表情/作風ではありますが、やることとやらない事の取捨選択がしっかりしている印象です。その辺はセルフ・プロデュースの上手さを感じます。メロウでも激し過ぎでもなく、プログレッシヴながら技巧的過ぎない塩梅が素晴らしいですね。


Michal:やってみたいことは、これまでもたくさんあったのですが、それをやってANCIENT MYTHに似合うのかどうか?というのを第一に考えるようにしています。なので、実はアルバム収録以前の、ボツ案も数多く存在します。バンドのカラーに合うかどうかの判断は1人ではなく複数人でするようにしています。


---メロディック/シンフォメタル界隈のバンドはどういう背景や精神性が、クオリティの高さに結び付いていると考えますか?


Michal:幼少期からクラシックを学んでいる人がいるかどうかで、差が出ると思います。何百年も続いている一つの学問は、ここ数十年の文化や成長途中の文化に勝ることはなかなか難しいのかなと。ヨーロッパの著名なバンド、特にオーケストラを絡めたサウンドをやっているバンドは、誰かしらがしっかりしたクラシックの基礎を持っていたり、親や親戚含めてクラシック一家だったりする印象です。


Hal:クラシックとメタルの融合とか、シンフォニックなメタル、というのはたくさんのバンドがやっているとは思いますが、まず第一にクラシックの楽器の音が入ってるから、クラシカルな音になるわけではなく、付け焼き刃ではクオリティはなかなか高くならないと思います。クラシックの作曲の理論をある程度でも学んだ方が、しっかりしたものができると思います。


---デラックス・エディションのディスク2はオーケストラ・ヴァージョンですね。これはHalさんの希望ですか?


Hal:これまでEDENBRIDGE、EPICA、NIGHTWISH、THERION、TWILIGHT FORCE、日本だとLACROIX DESPHERESなどシンフォニック要素の強いバンドが、オーケストラ・ヴァージョンを作っていて、それが好きでよく聴いていて。前回は特典としてそれを一部付けましたが、今回は生ストリングスも入ってるし、商品として出しても良いのではないかなーと。そしたらレーベルからもOKが出まして(笑)


---しかしながらこういうシンフォニック要素のみのディスクって、メタル・ファンも楽しんでいるんですかね?


Hal:ツイッターやツイキャスでは「オケ版楽しみ」とか言ってくれてるので、好きな人はまあまあいると思います(笑)


---2枚あると2倍楽しめると。


Michal:盤面も頑張って2種類デザインしましたよ。


---なるほど、バンドマンとデザイナーの双方からこだわり抜いた作品ですね。


Michal:はい。

 

---ディスクユニオンでは購入特典としてDVD-Rをご用意いただきました。


Hal:ディスクユニオンの特典は、さっき話にあったMusic Video「Chaos to Infinity」のメイキング映像です。撮影のシーンごとに、手の空いているメンバーがカメラを回して、みんなでお互いを撮りあったんですよね。沢山の素材の中から面白い所を厳選しましたが、32分という、特典としては結構なボリュームになっています(笑)


Michal:ステージ上ではシリアスなバンドですが、オフショットでは和気あいあいとしたところを見てください!きっと爆笑しますよ!

 


※特典DVD-R 予告編


---最近のメロディック・メタル・シーンについてもお聞きしたいのですが、最近のバンドは聴かれてますか。


Michal:つい最近ですと、ウクライナのSUNRISEと出会って感激しました。女性ヴォーカル、メロパワ/メロスピ、シンフォニック系で良さそうなものを見つけたら、まずYouTubeでMV見たりしています。いいバンドがあったら教えてください!


Hal:良いアルバム聴きたいとは思うのですが、なかなか巡り合わないというか、そもそもメロスピ/メロパワのバンド自体が減ってきてるような気がして寂しいですね。


---おうち時間は増えましたか?どんなことをしていますか?


Michal:作品を出すにあたり、デザインをしたり絵を描く必要性も増えるものなので、デザインやイラストについてももっと磨きをかけるよう、制作環境を整えたり新しい手法にチャレンジしたりしています。作業用BGMとして色々なジャンルの曲を聴いてみたりなど、インプットもしています!


Hal:元々おうち時間は長いのですが、アルバムのための作業をミックスまで自宅でやりました。まだコロナ禍は続きそうですし、早めに次作に取り掛かるつもりでいます。


---最後に今後の予定、展望等あればお聞かせいただきたいです。


Hal:2021年7月11日に、Rakshasaとシェーンベルクと3バンドで行うレコ発、2021年8月1日にILLUSION FORCEと行うツーマンの後は現状ライヴは決まってません。次の制作に入ると思いますが、もしコロナの状況が好転したら、たくさんライヴもしたいです。


本日はありがとうございました。

 

改めてメタルへの愛情や、シーンへの貢献度は凄まじいと思わされるインタビューとなりました。これまでの彼らの経験が活かしつつ、新たなメンバーや豪華ゲストによってその世界観が強化された最新作。まさにシンフォニック・メタルの理想郷のような作品となっているのでは。次の制作やライヴにも期待です!
 

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