その豊かな声の響きにもディランのようなある種のよどみが加わり、いよいよ独自の世界を体現し始めたと言えるだろうデヴェンドラ・バンハートの新作。深いエコーの中を泳ぐ苦悩の、あるいは幸福の溜息が声帯をくすぐるような唄声、相変わらずシンプルかついびつなようでありながら調和へと向かう美しいアコースティック・ギターやピアノの旋律は、前作までのそれと比べても一歩抜きん出ている。ボサノヴァ、フォーク、民族音楽を冗談か何かのように反芻する、何処にも属さない22の桃源郷の、ともすればバラバラになってしまいそうな楽曲の個性をまとめているのは、幻想の糸を手繰るようなこの現代のヒッピーの唄声にほかならない。 ‘Santa Maria Da Feira’ に顕著な、我がもの顔の狂気がいい。アートワークから漂う強烈な妄想世界の香気に触れたくて、思わずジャケを目いっぱい嗅いでしまった!
