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出自の異なる二人のギタリスト、山崎昭典とdrowsinessによるユニットAD(エーディー)、サウンドアーティストの鈴木昭男、シンガーの安田敦美が融合。たゆたい、流れ出すゆるやかな音世界。
アートワーク:中山晃子
マスタリング:宇都宮泰
解説:デヴィッド・トゥープ 畠中実 伊東篤宏 内橋和久 山田唯雄
「声、笛、弦、木、金属、それぞれの音が物質から放たれたときに生まれる温度を耳に感じる。音同士の混ざりはまるで、口の中で氷が溶けてゆくような、瞼に感じる太陽の温もりのような。特別で自然な現象が聴こえる。」
中山晃子
石は大声で息をつき、鳥は冷たい池の表面すれすれに飛び、沈黙の中に舞い上がる。
そして夜。孤独な旅人が声を上げる。風がその声を拾い、松葉をなぞって運び、言葉は風となる。流されて詠唱となり、魔力が澄んだ空間に集結する。旋回する呪文、日向で干された服のように乾いた、円、感動を呼び起こす感覚、葉の間を縫って降ってくる雨の懐かしさ、記憶に戻っていく。発芽する種子。
歓喜が昂まるのが聞こえる。泣き悲しむ音、闇で光る猫の目、毛皮に光があたり、徐に深い静寂へと歩み寄る。洞窟の笛は空中で留まり、ゆっくりした鶴の足取りはかろうじて地面に触れ、翼を持ち上げて踊る。 つららが落ち、魔法が集まる、太陽の空間。
デヴィッド・トゥープ(音楽家/著述家/サウンド・キュレーター)
この音楽はどこからやってきたのだろうか、そして、どこへ帰っていくのだろうか、という思いが去来する。なんという時間の流れだろう。もちろん、これはある時間と空間を共有した演奏家たちによる音楽であり、このいま、聞こえている音楽でもある。そして、それは空間に発されれば、どこかへ消え去ってしまう。しかし、この音楽がいつかどこかの時空を超えてやってきて、現在と交差し、そして未来に去っていくものだと考えることはできるだろうか。この音楽が流れ始めると、たしかに、時空は一変する。時間は進んでいくというよりも、垂直に立ち上り、渦を巻きはじめる。音楽というには組織化されていない。か
といって、無秩序なノイズなのでもない。なにかの起源を見るような体験だ。そして、それはまたどこかへと去っていった。
畠中実(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC] 主任学芸員)
ここで鳴っている異様なまでに音の粒立ちと分離の良い音楽に私は、巷に溢れている いわゆる「ambient」という括りのものとは全く異質な[音触り]を感じた。安易なBGM としての「癒し」やら「安らぎ」とは無縁であり、むしろそういった聴かれかたをさりげなく拒み、ファンタジーではなくもっと本能的な怖さと厳しさを私に感じさせた。それは、これからの私達が耳を傾けるべき音だと思う。
伊東篤宏(美術家/オプトロン奏者)
4人の奏でるこの音楽が、ニューエイジやアンビエントとカテゴライズされるものと一線を画する、ということは間違いない。それは冒頭の鈴木昭男氏による、能楽を想起させる笛の音色の推進力によってまず明示される。まるで、音自身が逞しい意志を宿らせたかのように、傾聴する我々の耳と意識を叩き起こし、楽曲へと誘導する。もしも、聞く者がうかうかと"聴いてなかった"ら、心地良いキレイな音でしかない音、それは実は、毒にも薬にもならない、どころか、毒のある音。毒は徐々に委ねられた耳と意識を刺激し、眠ったまま覚醒するように、あるいは自覚的に催眠術に晒されるように、聴く者を音楽の奥深くまで誘い込む。そして僕は最後まで深く聴き入った。まんまと彼らの術中にハマったわけだが、とても良い時間を過ごさせてもらったことに感謝したい。耳を洗う音楽。
内橋和久(ギタリスト/ダクソフォン奏者/作曲家)
「海の京都」と呼ばれる京都府北部は、祖父母を訪ねてよく訪れた思い出深い地。石笛の音に、はっとその地を想起させられた。まだ古い神話なんかを今よりリアルに感じた子供の頃の景色が巡る。インスピレーションとは、人が過ごしてきた全ての時間という岩盤から滴る点滴の事を言うのだと勝手に思っている。ここには多分「丹後」という地層で濾過された水が流れている。非数学的な音が重なり、水の潺となる。この地の日常的な自然の音が、能動的な「聴く」という姿勢によって作品として切り取られたものに感じられる。ギターは恰もそこに「人」の存在を示すかのようである。人工物としての存在感を放ちつつも他の音像と呼応する様は、付かず離れず自然と共生する人の営みの象徴にも思えた。ふと作庭における「見立て」という言葉が過った。「庭」とは実際の自然の模写ではなく、風景を咀嚼し、作者自らの心象を投影したものであるべきらしい。録音された作者の「聴く」は、受け手の「聴く」により更に無限に変化するだろう。その意味で、我々もまた音の紡ぎ手となるのだ。
山田唯雄(クラシック・ギタリスト)
AD (山崎昭典 x drowsiness)feat. 鈴木昭男、安田敦美